3.食人・殺人・誘拐・テロの恐怖
個人による殺害であれ、テロや戦争に巻き込まれた者であれ、それが為に命を落とされた側に残るのは「殺害された」という不可逆的且つ痛ましい事実のみである。
如何にヘボい組織であれ、組織的行動により殺人・破壊が起これば被害者にとっては恐ろしい組織であり、恨めしい組織である(例えそれが逆恨みであっても、事の是非以前に感情としてそうなる)。
そこでシルバータイタンは『仮面ライダーアマゾン』の第1話〜第14話までで画面上ゲドンによる直接確認出来る被害、推測される被害を観察してみた。
確かに世界的なテロや、一村の支配を敢行したデストロンやネオショッカーに比してゲドンが為した害は大きくはないのだが、行動範囲や組織規模を考えると、ゲドンが為した害は決して小さくなく、「直接的恐怖」という意味では正体を隠す下手な秘密結社より大きいと見ることも出来る………。
日常の恐怖・「人肉常食」
ゲドンを含め、歴代悪の組織は「世界征服を狙う悪の秘密結社」であるが故に、「世界征服の手段となる科学力・軍事力確保」の為に世界的権威である科学者の拉致を頻繁に行い、組織の存在を世に伏せる為に「目撃者並びに目撃した可能性のある人々の抹殺」を行い、その過程で数多くの破壊と殺戮をもたらした。
ゲドンも(最終的には)世界征服を目指していることや、ガランダー帝国の全能の支配者(またはデルザー軍団大首領)に裏で糸引かれていたこともあってか、歴代悪の組織と悪行の傾向が似ているが、一つだけ、他の悪の組織には見られない悪行がある。
それは「人肉を常食していた。」ということである。首領である十面鬼ゴルゴスだけでなく、ワニ獣人も用務員を喰らうシーンがあり、赤ジューシャも子供の蒸し焼きを喰らうことを楽しみにしているシーンがあった。
また第12話で捕われの赤ジューシャの前で火を焚くアマゾンを見たモグラ獣人が、「さては、このジューシャを焼いて食うつもりだな。どれ、俺も手伝って、少しご馳走になるとするか…。」といって薪拾いを手伝っていた台詞から、ゲドンにおいて食人は日常的なことだと云うことが伺える。
だが、考えてみればこのゲドンの食人習慣は、単に不気味なだけでなく、かなり怖いことである。
つまりゲドンが人肉を常食としていると云うことは、彼奴等は組織状態がどうあろうと、定期的にある程度の人数の人間を殺す必要に駆られると云うことである。
前述した様に秘密結社には「自分達の存在を世に秘す。」という必要性から、目撃者を無慈悲に殺しはしても、世の要らざる注目を集めかねない殺しは行わない。だがゲドンは「飢えれば必ず殺しに来る。」のである。つまりゲドンが自分達の生活圏内に潜んでいれば、それは無条件に直接的な生命の危機に曝されることになるのである。
ジャンルが異なるが、ファンタジー風に云えば、通常の(?)悪の組織がマンティコアなら、ゲドンはヴァンパイアである。マンティコアにとっては自分の領域や秘密が侵害されない限りは人を殺す必要もなく、迷宮に閉じこもってくれるが、ヴァンパイアは自らが生存する為に一般市民に秘かに、しかし積極的に牙を剥くのである。
研究開発や労働力として拉致されたのであれば目的を達成するか、行動不能に陥らない限り命は保たれる。場合によっては金銭や情報による取引も可能だ。そして然るべき時間さえあれば命を落とす前に仮面ライダーや官憲による救助も一応は見込める。
しかし、「食う」と「口封じ」が目的であれば、殺害は「待ったなし」である。そういう意味でもゲドンに食人の習慣があることは、日常的且つ即自的な恐怖を孕むのである。
例えついでに想像してみて下さい。
「ヤクザ100人に囲まれる」というのと、「飢えたヒグマ10頭に囲まれる」というのと、どっちがより恐怖であるか?を。
ゲドンによる犠牲者数
まずは下表を参照頂きたい。
各話ごとのゲドンによる悪行の犠牲
話 悪行 犠牲者 推定犠牲者数 第1話 古代インカ一族族滅、食料用人間の拉致・殺害、高坂教授師弟の口封じ 長老バゴー、古代インカ一族、東京都民、高坂太郎教授、松山助手 522名(※1) 第2話 アマゾン襲撃による民間人巻き添え、食料用貯蔵人間殺害 民間人 6名(※2) 第3話 オートレーサー襲撃(食材用人員確保?)、釣り人殺害(目的不明) オートレーサー、釣り人 16名(※3) 第4話 考古博士暗殺父娘拉致・抹殺(組織機密保持の為の口封じ) 山村創造博士 1名 第5話 目立つ悪行無し 無 0名 第6話 城北大学不法侵入・古物強奪 無 0名 第7話 誘拐教唆・生物学者助手殺害 井崎助手 1名 第8話 城南小学校襲撃(食材用人員とする為の拉致) 用務員 1名(※4) 第9話 捕虜殺害(食用の為に血を抜いての殺害と能力誇示による殺害)・若い女性略取(食材用人員とする為の拉致) 食料用囚人 7名(※5) 第10話 捕虜殺害、聖マリア保育園襲撃(いずれも食糧確保の為) 食料用囚人 7名(※6) 第11話 岡村マサヒコ襲撃(目的は救出に来るアマゾン抹殺と子供の生き血獲得) 無 0名 第12話 パトカー襲撃、凶悪犯強奪・拉致(組織の改造人間とする為) 無 0名(※7) 第13話 百合丘駅前市民襲撃(アマゾン誘き出しが目的?)、名古屋美里襲撃(但し、自作自演。巻き添えで岡村マサヒコ重傷) 百合丘駅前にいた一般市民 50名(※8) 第14話 無 無 0名 推定総犠牲者数 611名(日本人の犠牲111名) ※1…一族である以上、種の存続からも500名はいたと思われる。クモ獣人と赤ジューシャに拉致された都民は画面上の確認で4人だが、食糧確保とするとその数倍は見込まれる。よって推定犠牲者は500+(4×5)+2=522名。
※2…第1話で捕えられた人々とは別人が捕えられていたのと、赤ジューシャが手作業で貯蔵用人間にしていたので、画面で確認出来た犠牲者数のみで計上。
※3…レース参加者が誰一人ゴールインせず、画面上16名の参加が確認されたので、救出された立花藤兵衛を引き、16−1=15で15名。そこに釣り人を+1名した。
※4…拉致された女性教諭・児童・立花藤兵衛は燻製肉にされる前に救出されたが、その直前に構内に潜入したワニ獣人によって用務員が食い殺されている。
※5…冒頭で食料として獄に監禁されていた女性6名と、カニ獣人の能力誇示で殺された男性囚人1名を合わせ、6+1=7で、7名。
※6…食料用囚人を画面上で7名確認。彼等の生死は描かれていないが、救出された様子が無かったので犠牲者としてカウント。
※7…凶悪犯・村田源次拉致の際、毒ガスを吸った警察官数名のその後が描かれていないが、同じくガスを吸った村田が死んでいないので、犠牲者になっていないとしました。
※8…岡村りつ子の「百合丘の住人が大勢溶けた。」証言から、数十名が殺されたと推測(画面上で直に確認出来る犠牲者は3名だが、それで済んだとは思えない)。
現実の世界と比較すると、オウム真理教という組織の首領・松本智津夫死刑囚の命令で平成元(1989)年二月三日〜平成七(1995)年三月二〇日の間に殺された人数は後半によると27名とされているが、ゲドンの十面鬼は日本国内だけに限っても、2ヶ月半の間に推定で108人を殺している(←しかも組織構成員である「元人間」は含んでいない!)から、犠牲者数の単純計算でゲドンはオウムの4倍恐ろしい組織 ということになる。
十面鬼の間抜け振りが目立つ組織だが、犠牲者に着目すると充分過ぎるほど恐ろしい組織であることが御理解頂けたと思う。
行動範囲と犠牲
何度か触れた様に、十面鬼ゴルゴスの最終目標は「世界征服」である。だが十面鬼はその為の力を古代インカ科学の秘法であるギギの腕輪とガガの腕輪が結合した際に発する超エネルギーに求めた為、「ギギの腕輪を持つアマゾン抹殺」が組織の第一目標となり、それは組織壊滅まで変わらなかった。
ゆえにゲドンは「手段が目的と化した組織」とも評されている。十面鬼は、バゴーの暗示を受けたアマゾンが日本に異動した為、これを追って来日し、そこに居を構えた。
アマゾンには酷な云い方だが、バゴーの暗示とアマゾンの来日により、日本人、取り分け東京都民はゲドンの脅威に曝されることになった(実際、この展開に対して、初期の岡村りつ子(松岡まり子)は、自分達の平和が脅かされた責任をアマゾンに帰して彼を疎んじていた)。
だが、グローバル視点に立つと、ゲドンの「手段が目的と化した」ことにより、同組織による悪行の惨禍はかなり軽減された、との見方が出来る。
それは歴代悪の組織の様に世界征服に取り組まなかった(正確には後回しにした)ため、ゲドンが悪事を為した行動範囲はアマゾンライダー周辺に限られたからである。
当然アマゾン周辺の人間は岡村りつ子・マサヒコ(松田洋治)姉弟、立花藤兵衛(小林昭二)等が、範囲を拡大するとアマゾンがゲドンの手掛かりを求めて接触した古代インカの研究者、りつ子・マサヒコの友人・知人が危険にさらされる率が高まった訳だが、東京都以外の道府県民は殆ど危険にさらされなかった(採石場や撮影地を考えると埼玉や神奈川の一部は危険だったかも(笑))。
つまりはゲドンがアマゾンに執着してくれたおかげで、彼の組織はアマゾンの人脈範囲外には殆ど牙を剥けなかった、ということで、続いて現れたガランダー帝国がアマゾンライダー抹殺と並行して世界征服の為のテロを敢行しようとしたため、東京都を中心に関東地方各所が住民全滅の危機に曝されたことも度々あったことで、ゲドンよりも暗躍期間が少なかった(ゲドンは14週、ガランダー帝国は11週)のにゲドン以上の脅威を感じさせたことからも明らかと云えるだろう。
現実の『悪の組織』で日本から遠く離れた外国の、日本では殆ど信仰されていな宗教の過激派も、グローバルな視点を持っている様であれば世界の国々と協力して警戒する必要があるだろう。
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令和三(2021)年六月一〇日 最終更新