4.吾郎………美味しいところをつまみ食い

吾郎
俳優小野寺丈
出演作品『仮面ライダーBLACK RX』
出演期間第6話〜最終話(但し、終盤までは登場しない回も多い)
職業佐原航空食堂コック
能力料理、洞察力
短所基本、荒事は苦手
名場面『仮面ライダーBLACK RX』第37話、第45話
概略 主人公・南光太郎(倉田てつを)の叔父・佐原俊吉(赤塚真人)が社長を務める佐原航空の食堂のコックである。姓は不明で、「吾郎君」(by南光太郎)、「吾郎ちゃん」(by佐原俊吉、白鳥礼玲子(高野槇じゅん))、「吾郎さん」(by的場響子(上野めぐみ))と細かい相違はあれど、呼び捨てで呼ばれることは皆無だった。
 主人公が定職に就くことが稀な仮面ライダーシリーズに置いて、光太郎はパイロット免許を所持して叔父の下で働いていたため、佐原航空が舞台となるのに伴って、吾郎もウェイトレスの七七子(優希亜裕子)とともに画面に登場した。

 番組序盤では、光太郎のガールフレンド・白鳥礼玲子がカメラマンをしていることもあり、撮影のため、光太郎のヘリを利用する関係から「日常の一コマ」として背景的に登場することが多かったが、クライシス帝国との戦いが本格化するに連れて光太郎達の行動に追随するようになった。ちなみに光太郎達から呼び掛けたことはなく、吾郎の方で勝手について行ったものである(笑)。

 クライシスの怪人は怖いらしく(←別に恥じることではない)、積極的に戦うことは稀だったが、玲子や響子が戦う中、自分が戦わないのは男がすたる様で(苦笑)、本当に必要なときにはフライパンを武器に戦ったが、戦いに勝利するより、クライシスの攻撃で避難する身となった人達に料理を振る舞うことの方が彼には大きな喜びとなっていた。

 最終決戦時には、直接戦わずとも、光太郎達の戦いに協力する意志は充分で、大まかな流れの中で光太郎、霞のジョー(小山力也)、玲子、響子、10人ライダーと行動を共にした。
 クライシス帝国壊滅後、皆で佐原俊吉、唄子(鶴間エリ)夫妻の墓に詣で、墓前で今後の進路を話し合った際に、光太郎とジョーが新たな旅に出、共に親を失った響子、佐原茂(井上豪)、佐原ひとみ(井村翔子)が三人で新たな生活を始める中、吾郎は玲子同様に本職の腕を磨くことを告げて互いに別れを告げたのだった。


ドジっ子属性 基本的に吾郎は戦う人間ではない。南光太郎とは同じ会社(または敷地内)に勤める同僚で、仕事上、光太郎達と顔を合わせていたのが縁の始まりだったであろうことは想像に難くない。

 従来の仮面ライダーシリーズ同様、光太郎も当初は多くの仲間にその正体を隠していた。霞のジョーや的場響子は仲間になってすぐに仮面ライダーBLACK RXの正体を知ったが、佐原茂は第17話で、白鳥玲子は第29話で、その正体を知るシーンが描かれた。
 一方で、佐原ひとみは第35話で両親も気付いていないRXの正体に気付いていて、その佐原夫妻も終盤には(口には出していないが)気付いていたようで、吾郎光太郎がクライシス帝国と戦う時の流れの中で自然と気付いていたようであった。

 それゆえ、初期から中盤に掛けては、佐原航空がストーリー上に登場することは多くても、戦いの舞台=仮面ライダーBLACK RXの登場する舞台になることがなく、吾郎は「戦い」とは関連しない人物だった。
 第37話で霞のジョーが第26話以来に戦線復帰する頃には、母星崩壊が間近に迫ったクライシス帝国の侵攻が本格化し、佐原航空が登場しなくなる一方で、吾郎が積極的に光太郎達に追随するようになったが、光太郎の仲間達は、霞流拳法を使う改造人間である霞のジョー、カメラマンとして危険な地に赴くことも厭わない空手の有段者・玲子、父母の仇討ちに燃える水の超能力者にしてアーチャーでもある的場響子、と戦う人材には事を欠かない為か、吾郎は特に戦うことを求められず、遠回しに前線に出ない様に諭されていた。

 暗に戦いを止められていたのは、決して吾郎を馬鹿にした訳ではなかっただろう。本来クライシス帝国との戦いは危険なもので、実際に第46話で佐原夫妻はジャークミドラジャーク将軍(声:加藤精三)に殺されている。
 そのことを踏まえれば、本来クライシス帝国と敵対した光太郎、ジョー、親を殺された響子以外は必ずしも危険な戦いに身を投じなければならない理由はない(終盤では防衛隊が戦っていたから、尚更である)。逆を云えば、強硬に止められていた訳でもなかった。

 ただ吾郎自身、頭から戦うことを考えていた訳ではない様で、彼の本分はあくまでコックだった(詳細後述)。恐らくは玲子や響子が女の身(しかも響子は中学生!)で格闘に身を投じているのに、自分が引っ込んでいることを恥としたのだろう。
 悪く云えば見栄っ張り、違う云い方をすれば云えばフェミニストなのだろう、吾郎は。第40話ではモンスターのマスクを被って玲子を脅かしたが、次の瞬間、自分が七七子の被ったモンスターマスクに脅かされ、「口ほどにも無いのね、吾郎さん。」と云われていたから、然程肝が太い訳でもない。もっとも、次の瞬間玲子の顔を見て、「また出たー!(笑)」と云ってからかっていたから、七七子の悪戯に対しても、滅茶苦茶驚いた訳でもなかった様である。

 そう考えると吾郎がへぼいというよりは、戦える人間が大半の中で、女性が戦う中で勇気を振るわなくてはならない義務感に駆られたがための行動と、能力が空回りした感が強い。
 コックである吾郎の周辺環境や、所持品には、出刃包丁、アイスピック、麺棒、肉叩きハンマー等々、使い様によってはそのまま武器となる者が少なくない。だが吾郎が戦いに用いたのはフライパンで、なし崩し的な戦闘に入った際に手にしていたのがフライパンだったゆえにそれを用いただけで、頭から戦うことを考えていたのなら得物はもっと選んでいたことだろう。早い話、彼は好戦的ではない。


愛される点 つまるところ、吾郎を「戦士」として見ず、「職分に尽くすコック」とみるべきである。
 決して好戦的な性格ではなく、南光太郎達と行動を共にする際も、戦意は口にせず、「お腹を空かせた子供達」の存在を口にする。そして実際その通りに行動し、子供達に喜ばれていたのが吾郎という人間である。

 実際、そのことを認めているのか、光太郎達も吾郎が加わるのを一応は賛成していない様に伝えるが、強硬に反対はしない。
 第37話では、風神村に向かう道中、こっそり後をつけてくる吾郎に気付いた光太郎と玲子は山中に身を隠して、「見失った!」と思わせて吾郎をうろたえさせたが、すぐに姿を現し、ついて来ない方がいい旨を告げていたが、本気で足手まといや役立たずと思っていたのなら尾行を撒いた後に吾郎の前に姿を現す必要はなかった訳で、少なくとも吾郎が「仲間」と認識されていたことが伺える。

 当の風神村では、海兵隊長ボスガン(声:飯塚昭三)率いるチャップ悪魔分隊によって大人達が殆ど全員拉致され、それでもその大人達の尽力で子供達は村の神社に隠れることに成功していたが、子供達はその後どうしていいか途方に暮れ、お腹もすかせていたので、吾郎の存在も立派に、「地獄に仏」だった。
 子供達に振る舞われた吾郎のカレーは、空腹だったからだけでなく、子供達の経験上からも「初めて食べた美味さ」とされ、さすがにそこはプロで、吾郎自身、コック冥利に尽き、自分の行為が喜ばれていることを子供達以上に喜んでいた。

 一押しは第45話だろう。
 前話となる第44話から暴れていた最強怪人グランザイラスは、クライシス帝国において「皇帝陛下の最終破壊兵器」と称さ、10人ライダーが束になって掛っても倒せない程の剛の者だった。
 光太郎バイオライダーとなってグランザイラスを体内から破壊したが、その爆発とともにバイオライダーは消息を絶った(勿論生きている)。「最終破壊兵器」との二つ名を持つグランザイラスは死に際しても大爆発を起こして、都市を広範囲に置いて破壊した(近くで戦いを見ていた10人ライダーはおろか、ジョー、玲子、響子も大した怪我を追わなかったが)。

 その惨状下で救護所を作り、被災者の為に食料の炊き出しに従事していた吾郎は、クライシス帝国の再襲撃よりも、食料が残り少ないことの方を憂いていたのだから、やはりこの男、プロである(笑)
 それと並行してグランザイラスによる破壊の被災状況を調べ、地図にまとめていたのだから、大したものであった
 そしてこの直後、吾郎は鋭い「洞察力」を発揮した。

 作戦会議に入る10人ライダー、ジョー、玲子、響子に渡す13人分の地図を渡しながら、ライダーの一人一人に「いい作戦立てて下さいね。」、「ライダーの皆さんが頼りなんですから。」と声を掛けながら地図を渡す吾郎はなかなか気づかいのある人物だが、最後にジョーに地図を渡そうとして、1枚足りないのに気付いた。
 間違いなく人数分の被災地図を作ったのに、と訝しがる吾郎はライダーの数が一人多いことに気付き、こっそりジョーに相談した。
 確認すると仮面ライダー1号が一人多いことが判明した。
 偽ライダーは諜報参謀マリバロン(高畑淳子)の怪魔霊術で甦った霊界怪人ガイナニンポーが化けていたもので、「当の1号ライダーを含め、誰も気づかんかったんかい!?」というツッコミを入れたくなるが、マスカーワールドの人達はマフラーやブーツの色が違う偽物も見抜けない人達ばかりだから(苦笑)、外観上、完璧に変身する力を持つガイナニンポーの変身を見抜けなかったのは無理もないことで(苦笑)、ここはライダー達の鈍感さにツッコミを入れるよりも吾郎の洞察力を素直に褒めよう(笑)

 吾郎の洞察力はその直後にも見られた。
 偽物であることがばれたガイナニンポーと、それに追随して現れた7体の霊界怪人達は従来の弱過ぎる再生怪人とは完全に異なっていた。
 霊界怪人達は、改造人間でなくても何とか戦える程で、格闘能力自体は決して強くなく、吾郎もこの戦いに参加していた。勿論得物はフライパンだ(笑)。
 しかし、霊界怪人達は既に死んでいる身なので、どれほど攻撃を受けても死ななかった(正確には活動停止に至らなかった)。霊界怪人の動きを停止するにはマリバロンの金の羽を張り付けるしかなかったのだが、最初にこれに気付いたのが吾郎だった。
 吾郎は最初のガイナニンポーが正体を露わしたとき、何故か無警戒にこれに絡み(苦笑)、額に張られていた金の羽を剥ぎ取り、それをそのまま手にしていた。

 キュルキュルテンに襲われ、玲子、響子供に倒れ込んで万事休すとなった吾郎は苦し紛れに金の羽をキュルキュルテンに張り付けたところ、その動きが止まった。
 しかし次の瞬間、背後からメタヘビーが迫って来て、玲子と響子の悲鳴を聞き付けた吾郎は慌てて、キュルキュルテンから金の羽を剥がし、メタヘビーに張り付けてその動きを止めた。
 勿論、その直後にキュルキュルテンが活動を再開することになり(苦笑)、この後しばらく吾郎は玲子と響子の悲鳴に応じてキュルキュルテンメタヘビーの間を金の羽を剥がしては貼り、貼っては剥がしながら往復で走り続けた(笑)。

 万事休すと思われたが、姿を隠していたバイオライダーが突如現れ、マリバロンから金の羽を奪い、キュルキュルテンズノー陣スカル魔スターエレギトンメタヘビーガイナカマキルアントロントの動きが止められた。
 ただ一人、ガイナニンポーが暴れ続けていたが、吾郎が手にしていた金の羽を1号ライダーに託し、1号ライダーによって、ガイナニンポーの動きも止められるや、霊界怪人達はバイオライダーのバイオブレードで一網打尽にされた。

 結局霊界怪人を倒したのはバイオライダーの力によるところが大きかったが、吾郎が金の羽の効果に気付き、それをからかうようにマリバロンが(金の羽を持って)出て来たシーンを振り返ると、偶然の賜物とはいえ、吾郎が果たした功績は決して小さくない

 『仮面ライダーBLACK RX』という作品は、前番組となる『仮面ライダーBLACK』に比して、作風が明るいので埋もれがちだが、地球の環境破壊のあおりを受けて滅びようとしていたクライシス帝国の置かれた状況も結構悲惨で、クライシス皇帝(声:納谷悟朗)や地球攻略兵団は許せなくても、多くの罪なき怪魔界住民は頭ごなしに憎めない存在だった。
 佐原夫妻の殺害を始め、地球人、怪魔人の双方にかなりの犠牲が出た悲惨さも結構内包している作品だった。それゆえ戦いの専門家ならざる、コミカルな三枚目である吾郎の様なキャラクターは、一つの癒しをもたらすファイターとなっていることが教えられる。
 戦い人ばかりではどうしても殺伐となるものである、現実もフィクションも。

 ちなみに吾郎を演じた小野寺丈氏は、原作者・故石ノ森章太郎先生の長男で、『仮面ライダーBLACK』第1話の前週に放映された作品紹介番組の司会を務め、第42話にも出演し、再生怪人を前に(本当は怖がっていたが)逃げない江戸っ子の八百屋を演じていた。再生怪人に縁のある人だ(笑)。
 小野寺氏はマスカーワールドでは『仮面ライダーSD』で主役・仮面ライダーBLACK RXの声をあて、『新・仮面ライダー 序章』の脚本を務める等して、貢献しており、『ウルトラマンダイナ』では正義のチーム・スーパーGUTS隊員、ナカジマ・ツトムを演じ、数々のドラマにも客演している。
 勝手な推測だが、『仮面ライダーBLACK RX』で三枚目キャラを演じたのも、父親が原作者である作品で余りカッコいい役所を演じることを遠慮したのではなかろうか?
 それならそれで、三枚目とて充分ストーリーに貢献出来ることを小野寺氏は見事に演じきっていることになり、素晴らしいことだとは思うのだが。


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令和三(2021)年一一月一〇日 最終更新