6.刃野幹夫………「騙され上手」な人情刑事

俳優なぎだ武
出演作品『仮面ライダーW』
出演期間全話
職業風都署刑事課警部補
能力騙され上手
短所極度の体の凝り
名場面『仮面ライダーW』第41話、第42話
概略 刃野幹夫は通称「刃さん」と呼ばれる風都署の刑事。秘密結社ミュージアムと財団Xの悪巧みにより、事件・事故の絶えない風都にて事件解決に向けて、粘り強くしかし柔軟に尽力する人物である。階級は警部補。

 左翔太郎(桐山漣)とは彼が幼少期の頃からの知り合いで、且つ、私立探偵である彼の良き理解者となっている。
 翔太郎が学生の頃、不良少年(というよりは悪童)だった翔太郎を交番勤務の巡査として追い回してもいた。
 風都で起きる数々の事件にドーパントが絡んでいる関係から、互いの職務上での関係も深く、ドーパント関連事件における翔太郎の手腕を信頼しており、翔太郎へ積極的に捜査情報を提供する代わりに、事件解決の手柄は貰う協力関係を結んでいる。

 翔太郎も彼を「刃さん」と呼んで慕い、べらんめえ口調ながらも丁寧語で接し、事件現場に翔太郎が来ることに目くじらを立てる真倉刑事(中川信吾)と翔太郎が揉めると決まって顔を出し、双方の顔を潰さぬよう割って入り、いつの間にか諍いを終わらせる。

 お気楽で調子がいいものの、知人が道を誤った際には根気よく接する人格者。また、翔太郎曰く、「騙され上手」とのこと(詳細後述)。
 かなり酷い肩凝りに悩まされているらしく、常にツボ押し器を携帯。大好物はこぶ茶とイナゴの佃煮。特に前者は在庫が切れていると仕事中でも真倉刑事に買いに行かせる。

 当然の様に第1話から登場。作品の舞台となっている架空都市・風都(←公共施設を初めとする各種施設の充実度から、港湾を持つ政令指定都市規模とみている)は10年前から秘密結社ミュージアム並びにその闇スポンサー・財団Xの暗躍から、ガイアメモリが密かに流通し、それを手にした者達がドーパントとなっていたともあって、繁栄の裏で治安は芳しくなく、刃野刑事達は数十人規模の死傷者が出ているであろう惨状の場にひっきりなしに駆り出されていた。
 第2話で、翔太郎が説得しようとした幼馴染の津村真里菜(山内明日)=ティーレックス・ドーパントを引き渡すために刃野刑事を呼んでいたことからもギブ・アンド・テイクの関係は見て取れた。

 その後も毎週ではなかったが、ドーパントの中でも公共の路上や、有名施設で一般人を巻き込むような暴れ方をするものが出た際には必ずと云っていいほど真倉刑事とともに駆け付けた。
 また『仮面ライダーW』の世界では、ドーパントとは基本人間で、ガイアメモリという名の一種の麻薬ともいえるアイテムの乱用者としての側面があったので、殆どのドーパントはWの必殺技を食らった後にメモリブレイクと呼ばれる現象(ガイアメモリが体外に排出され、砕け散ること)の果てに通常の人間に戻った。彼等の多くは法の裁きを受ける為に警察=刃野刑事に引き渡された(明らかに引き渡された場面もあれば、状況的にそうなったであろうと推測されるケースもあった)。

 その流れがあって、翔太郎達のお陰とはいえ、ドーパント関連事件について実績があったために、第19話にて風都署にドーパント関連事件を専門に担当する超常犯罪捜査課が新設されると、その課長として赴任してきた警視・照井竜(木ノ本嶺浩)の直属の部下として、真倉刑事ともども配属された。だがこれは押し付けられたと云った方がいいかも知れない。

 その後、照井の指揮下でドーパント事件に当たるのだが、照井は明らかに単独行動派で、刃野刑事・真倉刑事を伴わずに鳴海探偵事務所に入り浸っては、フィリップの「地球の本棚(ほしのほんだな)」の検索能力の方を重視していた。
 まあ、上司が部下を顧みないことが多いから、第46話で翔太郎が精神に、照井が肉体的に大ダメージを追った際に両刑事は翔太郎ばかり心配して側にいた上司・照井に気付きもしなかったからおあいこな気はするが(苦笑)。

 そんな調子だから決して毎週登場するわけではなく、銃を抜いての逮捕に掛かるようなときには刃野刑事よりも真倉刑事の方が出番は多かったが、鳴海探偵事務所からも、ミュージアムからも、財団Xからも「左翔太郎の仲間」とは見られていて、クリスマスや花火大会やフィリップの歓送会といった季節行事や特別行事には真倉刑事ともども顔を出し、ドーパントに襲われることもあった。

 何せ作品としての世界が風都という一都市に限られ、敵も味方もそこから出ることがないゆえ、刃野刑事の立ち位置は良くも悪くも作品を通じて終始変わらず、第41話・第42話で彼が裏の主役ともいえるストーリー(詳細後述)が展開された他は目立ち過ぎず、忘れられずで、作品終了後の劇場版からも、左翔太郎とフィリップが私立探偵として風都を私的に守る存在である一方で、刃野刑事は照井竜、真倉刑事とともに風都を公的に守り続ける存在であり続けた。

 必要以上に目立たず、それでも地域の守り手として活躍し続けたのは逆に凄いと云えよう。平成ライダー作品は『仮面ライダークウガ』『仮面ライダーアギト』『仮面ライダーOOO』『仮面ライダーウィザード』『仮面ライダードライブ』等、警察が(組織としてか、個人としてかは作品によって異なるが)積極的に仮面ライダーと関わるものが少なくない。
 そして基本的に事件は仮面ライダーが解決するため、警察官自身が仮面ライダーにならない限り、警察関係者は『仮面ライダークウガ』の一条薫警部補(葛山慎吾)以外は目立った活躍をするものはあまり見られない(研究者等の立場にいる者はかなり活躍するが)。
 中には『仮面ライダーアギト』の北条透(山崎潤)の様に仮面ライダーに好意的でない者もいたりする。だがそんな中においてあまり目立たず、目を見張る能力を見せるでもなく、何度となく「冴えない中年」と評されようと、それでも主人公の大切な仲間として気が付けば愛されている刃さんはやはり稀有な存在と云えよう。


ドジっ子属性 そもそも、仮面ライダーにおける警察の存在の軽重は各作品において大きく異なる。ミラーワールドという異世界が舞台の『仮面ライダー龍騎』、世界が多方面に渡りまくる『仮面ライダーディケイド』、一学園が舞台の『仮面ライダーフォーゼ』、沢芽市という架空の一都市におけるダンスチームの縄張り争いの色が濃い『仮面ライダー鎧武』等では警察の存在は極端に薄い。
 一部のオルフェノクが裏の主役ともいえる『仮面ライダー555』では長田結花を捕らえに来る警察のイメージは良くなく、『仮面ライダーOOO』『仮面ライダーウィザード』ではレギュラーメンバーに警察関係者が出てくるが、組織としての警察の影は薄い。
 そんな中、組織内に仮面ライダーを擁し、事件にもしょっちゅうかかわってくるのが『仮面ライダークウガ』『仮面ライダーアギト』『仮面ライダーW』だが、それらの作品における警察の待遇は決していいものとは云えない(苦笑)

 『仮面ライダークウガ』『仮面ライダーアギト』では最後の方こそ、敵の主要メンバーを打ち取ったり、主役を務める仮面ライダーに負けない活躍も為したりしたが、中盤までは完全に「噛ませ犬」で、殉職する者も珍しくなかった。特に『仮面ライダーアギト』では内部対立も深刻だった。
 そして『仮面ライダーW』だが、この作品世界における警察(というか風都署)の置かれた立場も恵まれた物でなく、同時に刃野刑事達への待遇もいいものとは云えなかった。

 背景で語ると、まず風都は政令指定都市に匹敵するほど様々な施設を持つ繁栄都市でありながら、ミュージアムや財団Xの暗躍もあって様々な犯罪が絶えない都市でもあった。特にミュージアムを裏で操る園咲家に対して、「捜査は直々に行うから。」の一言で介入を拒まれるほどその立場は弱かった。一部の刑事は園咲家と密かに癒着し、それを暴こうとした溝口刑事(白井圭太)を殺害し、彼に濡れ衣を着せたから、市民達の風都署への評判も良くなかった。
 そもそも私立探偵が行方不明者の捜索や要人警護をひっきりなしに依頼されるところからして如何に警察が頼られていないかが伺える

 一応、ドーパント絡みの事件を解決しようとの試みは有って、それが超常犯罪捜査課の新設、並びに照井竜の赴任となった訳だが、課内は殺風景で、照井の席にパソコンがあった以外はこれと云った特別な設備も見られず、ドーパントという異常な存在と相対する為の特別装備は一切支給されていない様子だった
 それゆえ、シルバータイタンは刃野刑事と真倉刑事の超常犯罪捜査課赴任を「実績を見た上でのことではあるが、押しつけに等しい」と見ているのである。照井が若くして警視の地位にあることを見れば、ある程度照井の性格や資質は精査している筈で、照井・刃野・真倉の三人体制は真面目な新設とは到底思えない。

 当初、復讐に燃え、風都を嫌っていた照井が「この街は腐っている!だから人も腐る!」としていたが、彼が見た「町の腐敗」とは、「風都署の腐敗」ではないだろうか?(苦笑)  かくして刃野幹夫は背景からして殉難の場に置かれたと云える。

 とにかく、御人好しで、良くも悪くも切れるところを見せないから、鳴海亜樹子(山本ひかる)にも、園咲冴子(生井亜実)にも「冴えない中年」と評されていた。
 第7話では、風谷高校にコックローチ・ドーパントが現れて星野校長(白石タダシ)が襲撃されたため、現場に駆け付けたが、同校の退学生で、在学する彼女を心配して駆け付けたストリートダンサーの稲本弾吾(森崎ウィン)に思い切りため口を叩かれていた(もっとも、この稲本は誰に対しても不遜な礼儀知らずだったが)。
 第9話では前述したように、風都署が園咲家に門前払いを食らうほど手も足も出ない状態については話し、みっともないぐらいに政治家でもない園咲家に対して狼狽していた(実際のところ、平成の世に平安時代の不輸・不入の権みたいな特権を持つ存在なんてあるのだろうか?)。

 第13話では、バイオレンス・ドーパントが扮したMr.クエスチョンによる若菜姫(飛鳥凛)脅迫事件に逆探知の為に駆け付けたが、ファンである若菜と直に会ったことに舞い上がり、気取って「お任せ下さい」と胸を叩いていたが、どこまで相手にされていたか疑わしい(苦笑)。ちなみに名刺を渡した翔太郎は個室に入った後で即行その名刺を破り捨てられていた。
 まあシルバータイタンも森次晃嗣さんに、ダンエモンが大黒摩季さんや椎名恵さんに初めて直に会った時はめちゃくちゃ舞い上がったから、その気持ちは分かるが(笑)。

 第15話ではこれまで散々風都の平和を守るのに尽力してきた仮面ライダーを讒言一発で疑い、第16話では掌を返す様に認識を元に戻した。

 第19話より、風都署超常犯罪捜査課新設によって真倉刑事とともに照井竜警視の指揮下に入ったが、前述したようにほとんど押し付けで、予算的にも待遇的にも対ドーパント事件を解決する部署としては全くなっていない状態に置かれた。
 しかも上司の照井は殆ど単独行動に走り、刃野刑事にしてみれば、下手すれば親子と云えるほど年若い上司に顎で使われることもない代わりに、経験や知識を頼られることもなかった(刃野刑事は警部補で、照井は警視なので、2階級上で、課長とあっては敬意をもって接しなくてはならない)。

 第21話では風都署にかつて不祥事があったことが語られた。しかもその不祥事で恋人でもあった溝口刑事を殺されていた九条綾(木下あゆ美)はあろうことか復讐の為にトライセラトップス・ドーパントとなっており、第22話では、綾に味方すると云われた園咲冴子が、忠誠の証明として、刃野刑事を殺害するよう唆したため、その襲撃を受け、KOされるという目に遭った。

 第25話ではパペティアー・ドーパントの起こした事件に関連して、亜樹子を異常者扱い。例によって照井が単独行動を取ったため、課内で昆布茶をすすっていたところをそのパペティアー・ドーパントに襲われ、気絶。

 第29話では、眠った人が目覚めなくなるという異常犯罪捜査の為、珍しく(苦笑)照井に同行し、捜査の為に眠りにつく照井から、「異常があったら起こせ。」との指示を受けたが、真倉刑事と将棋に熱中し、肝心な時に爆睡(苦笑)。
 しかもその照井の悪夢の中では刃野刑事と死んだ筈の照井の妹・春子(笠原美香)とが結婚するシーンに照井が本気でショックを受けていた。

 第38話では風都署に現れたミュージアムの暗殺者、イナゴ女=ホッパー・ドーパント(佃井皆美)を怪しみもせず、勧められたイナゴの佃煮を「あぁ俺イナゴの佃煮好物なんだよ。」といって食べようとしてKOされた。
 尚、一連のドーパントによる攻撃を受けてKOをした際には、直後に照井が仮面ライダーアクセルに変身して戦うことも多かったが、刃野刑事と真倉刑事は翔太郎や照井から仮面ライダーの正体を教えられることもなく、自ら気付くこともなく、肝心なところで蚊帳の外に置かれているのもまた「冴えない」とされるゆえんでもあった。

 そして第41話、第42話では宝石泥棒の容疑者として拘束され、ロクに取り調べも受けないまま真倉刑事にまでぞんざい対応されるという不幸に見舞われた。このとき、亜樹子にもジュエル・ドーパントの被害者が美女ばかりな中で「何で冴えない中年の刃野刑事が?」と云われるなど散々な目に遭っていたが、実際にはこの回はそれまで三枚目役を振られ続けた刃野刑事の面目躍如回でもあるので、この2話に関しては「愛される点」に詳細を譲りたい。

 大詰めの第46話では、テラー・ドーパントの恐怖攻撃を受け、事務所で頭からタオルを被りながら震え、些細なことにも恐慌をきたす翔太郎を真倉刑事とともに見舞うが、前述した様に、その後ろにいた重症の上司に気付かなかった(苦笑)。

 第47話では亜樹子が周囲を気遣って開催したフィリップの(偽りの)海外留学歓送パーティーに真倉刑事ともども参加していたが、本来、警察の仕事は急遽行われるパーティーに参加出来るほど暇なものではないと思う(苦笑)。
 第48話ではフィリップを激昂させる為に財団Xの加頭順(コン・テユ)=ユートピア・ドーパントが敢行した、フィリップ関係者へのテロ攻撃で真倉刑事ともどものっぺら坊にされた(その時、翔太郎への連絡の為に携帯電話を奪われた)。
 この襲撃ではクィーン(板野友美)、エリザベス(河西智美)、ウォッチャマン(なすび)、サンタちゃん(腹筋善之介)、更には鳴海亜樹子まで被害者となっており、直接の被害もそうだが、翔太郎とフィリップが仮面ライダーWと知りもしないのに「関係者」として襲われたこともまた悲惨と云えよう。

 そして最終回。覚醒し、暴れる若菜を前に、ファンだったことからも彼女の変貌ぶりにショックを受けていた。

 とかく、戦うことも、発砲することもなく、翔太郎によって引き渡された(メモリブレイク済みの)ドーパントをしょっ引く以外には特別かっこいいシーンを見せなかった刃野刑事だが、アクションや推理でカッコよさを見せる人物であれば、照井もフィリップもいた。
 主人公が探偵で、他にも情報通なキャラクターが幅を利かせる『仮面ライダーW』において、その辺りばかりに目をやっていては、一見影の薄い刃野幹夫の魅力に気付くことは難しい。
 彼の魅力を手っ取り早く知りたい方には第41話、第42話の視聴を勧める。


愛される点 彼を「カッコいい」という人物は少ないだろうけれど、彼を「嫌な奴」という者は皆無と信じる。その点は同じ三枚目役刑事でもマッキーの方が度々「嫌な奴」を演じてくれている(苦笑)。

 左翔太郎にこそ兄貴的に接するので余計に「冴えない中年」というイメージが先行し、実際その面が多々浮上するのだが、刃野幹夫という人物はそれ以上に「御人好し」で、彼の世話になった悪童達は彼を「騙され上手な人物」と見るのだった。
 そんな刃野刑事がクローズアップされるのが第41話、第42話なのだが、それ以前にもちゃんと刃野刑事は要所要所でストーリーにスパイスを与えてくれている。

 第15話では仮面ライダーが「風都の平和を乱す存在」と讒言された際、今まで協力関係にあった翔太郎に対しても、風都の平和を守る為とあっては、隠し立てを許さない旨を告げ、警察官としての職務への忠実さを見せた。第16話の最後ではあっさり認識を元に戻した、と前述したが、瓦礫の下敷きになりかけた女性を助けた仮面ライダーWを目撃した上でのことなので、決して故ないことではなかった。

 第25話ではパペティアー・ドーパントのために占い師に重傷を負わせた嫌疑をかけられた鳴海亜樹子が照井竜とともに奔走する中、亜樹子に自分よりも照井を重んじられて腐る翔太郎が超常犯罪捜査課内で「あんな軽い男だとは思わなかったぜ。」と愚痴るのに対し、「俺に云わせりゃな翔太郎、ここで俺と一緒に昆布茶すすってるお前の方がみっともねえぜ。本当は自分が所長に頼られてえんだろ?そういうの世間じゃジェラシーって云うんだ」と慧眼を発揮していた
 つまり翔太郎が本当に愚痴っている対象は照井ではなく、亜樹子及び亜樹子に頼られていない自分自身で、図星を突かれた翔太郎は激しく動揺。翔太郎の自分でも気付いていない本当の気持ちを見抜いた辺り、長い付き合いは伊達ではない。

 そして第41話、第42話である。
 冒頭で、宝石泥棒の容疑者として逮捕された刃野刑事 (←云うまでもなく濡れ衣である)は翔太郎に自分の無実証明を依頼した。
 部下である真倉刑事に完全に信用されずに、対犯罪者として上から目線で「俺はいつかこんな日が来るんじゃないかと思ってたんだよなぁ〜。」と高圧的に出られる中、勿論翔太郎は依頼を快諾。

 聞き込みから、最近若い女性ばかり7人が連続失踪しており、そのいずれもダイヤの指輪の女が関わっていることが分かり、亜樹子は被害者も加害者も若くて美しい女性ばかりの中、「冴えない中年男」である刃野刑事は1人浮いている、と指摘した。
 だが、ここで翔太郎が亜樹子の台詞に噛み付いた。翔太郎曰く、「亜樹子…刃さんは確かに冴えない中年だが実はスゲー男なんだぜ。」とのこと。
 どう凄いのかと問う亜樹子に翔太郎は続けて曰く、「あの人はな、騙され上手なんだ。何度同じ嘘をつかれようが、何度でも騙されちまう。あんまり騙されるもんで、終いにゃこっちが嘘に付き合うようになっちまうくらいにな。でも、不思議とそれが悪い気しなくてよ…」と。
 そう語る翔太郎の回想シーンでは、まだ高校生の頃の翔太郎が、交番勤務の制服警官だったと思しき若き日の刃野巡査に街の悪ガキとして追い回される日々が繰り返されていた。
 生来のお人好し故、毎回ガキどもに嘘をつかれてはまんまと逃げられるカッコ悪いお巡りさん。だが、いつしかそんな彼を街の悪童達は自然と好いていたというものだっだ。

 調査を進める内に、捜査線上に会員制クラブが浮上し、そこのオーナーは超人気モデルの上杉誠(河合龍之介)だったのだが、この人物は翔太郎同様、刃野巡査の世話になった元・悪童だった。
 その上杉の協力でクラブで聞き込みを行ったところ、1人の女性がジュエル・ドーパントに変身し、クラブ内にいた女達を次々宝石に変えていった。
 女性の正体は上杉の口から城島泪(奥村佳恵)というかつての仲間であることが告げられた。上杉・城島・更には智(小谷幸弘)という3人の男女は若い頃、「風都の平和は俺達が守る!」とか云って喧嘩に明け暮れていて、その折に刃野巡査の世話になったという過去があった。

 そんな3人の中で、三角関係が原因で泪は変わってしまい(←ドーパントになった)、智は行方不明となってしまったとのことで、上杉は泪を化け物にしてしまった自責の念に駆られ、留置所にいる刃野刑事に謝罪した。だが刃野刑事はかつて散々自分を手こずらせた泪がその様なモンスター的な心を持ってしまったことに「信じられない…。」と首を横に振り続けた。

 だが、結果を云えば、ジュエル・ドーパントだったのは上杉で、本当は泪と智の仲を嫉妬した上杉はその能力で智をダイヤに変え、その身柄をたてに泪を脅迫し、自分に容疑がかからないように泪を動かしていたのが真相だった。
 その上杉が偽りを並べている間(←ストーリー的にはまだ上杉がドーパントとは分からない状態)、上杉が刃野刑事の過去の恩義を想い、感謝や謝意を示していたのは実に自然なものになっていたところに、刃野刑事が如何に根気よく接してきた果てに慕われているかが伺えた。

 そして翔太郎がジュエル・ドーパントの硬さに苦戦する中、留置所の刃野刑事が泪と上杉の台詞から、やはり泪が犯人ではありえないことを導き出した。
 その根拠となったのは高校生だった頃の泪・上杉・智の3人組と、土手に沢山並べられた小学生達の手作り風車がすべて壊されるという酷い事件で対峙したときの記憶だった。
 泣いている小学生達を脇に控え、子供達の想い代弁し、それを壊すことが如何にひどい行為であるかを強く訴える刃野巡査には、上杉は犯行を否定しながらも、刃野巡査の怒りにぐうの音も出ない状態だった。
 この事件も本当は上杉がやったのを、泪がそれを庇って罪を被った。この事件を通じてつっぱりつつも心底で刃野刑事を慕っていた泪は留置場にやって来て、自分達の為に投獄の身になった彼を悼みに来た。

 この直後、刃野刑事をダイヤに変えに来たのか?と詰問するの翔太郎に泪は「…あんなマヌケで騙されやすい男…ダイヤにする価値もないわ!」と答えた。
 それに対して翔太郎は、刃さんは騙されやすいんじゃねえ。騙され上手なんだ!今まで散々刃さんに世話になってきて…そんな事も解らねえのか。好きなモノを壊す?させるかよ。俺が必ず守る!刃さんも上杉さんも!」と激しく応酬した。
 これに対して、泪は「黙れ…黙れ黙れ!お前だって刃野と一緒だ!私にコロッと騙されてるクセに!偉そうな事云うな!」と叫ぶ泪だったが、これこそが刃野刑事の「騙され上手」だった。

 その後紆余曲折を経て、仮面ライダーWがジュエル・ドーパントを撃破し、メモリブレイクした上杉は、恨めしそうな目で泪が刃野刑事を庇いさえしなければ……との負け惜しみを口にしたが、 それに対する泪の答えは、「あの人だけは傷つけたくなかった。いつもどんな嘘にも簡単に騙されて…バカな人。でもそんな簡単に騙されるアイツに付き合わなきゃならない気がして、二度と喧嘩しなくなった。だからあの人は…私の恩人!」という、翔太郎の刃野刑事に対する想いと全く同じものだった。
 翔太郎も追認するように、「刃さんは騙されやすいんじゃねえ。騙され上手なんだ。」と告げた。
 この事件は、翔太郎の推察力、フィリップの逆転発想、照井のスピードを利した裏方での活躍、上杉の命令を無視してまで刃野刑事を庇った泪、そのすべてによって解決した。
 勿論大いなる背景として、翔太郎と泪の脳裏には刃野幹夫という、他の誰にも出来ないお人好し過ぎる人柄で、知らず知らずのうちに相手を巻き込んでしまうという独特の隠れたカリスマを持つ大人物がいた。
 ラストシーンで、「俺はもう今回で懲りた。もう騙されねえぞ。」と豪語した刃野刑事だったが、翔太郎が放った「あっ!雪男!」という小学生レベルのウソにやはり「えっ!?どこどこ!?」と走り出していた。些かアホみたいなお約束展開だったが、やはりこの人には疑り深い人になって欲しくないと多くの視聴者が心から思ったことだろう。

 凶悪犯罪と戦う刑事は、誤解を恐れずに云えば「人を疑う」ということが仕事という側面を持つ。だが、疑うことと信じることは表裏一体で、いずれも行き過ぎれば真実を見抜く目を曇らせる。
 状況に応じて疑うことと信じることを使い分けなければならないのだが、これがめちゃくちゃ難しい。冤罪を防ぎ、疑わざるべき人物を疑惑から外し、真犯人を見出すために本当に大切なのは刃野刑事並みに人を信じることであることは現実の世界にも存在する話である。


次頁へ
前頁へ戻る
冒頭へ戻る
特撮房へ戻る

令和三(2021)年一一月一〇日 最終更新