菜根版戦闘員VOW

ウルトラマン(マン〜レオ)・矮小なる者達の集団壊滅


1.宇宙忍者・バルタン星人(ウルトラマン)
 「ウルトラマン」の第二話で初登場し、その後も代を重ね、数多くの星人・怪獣間にあって最も有名なバルタン星人。
 大半の人間とって説明の必要すらなく、一瞬にしてその風貌の思い浮かぶし、こいつ等とじゃんけんで負ける奴もまずいないだろう(笑)
 その知名度からウルトラマン達を苦しめてきた経緯がすぐに連想されがちだが、そんな彼等にも雑魚としての不幸な経歴がある。

 そもそもバルタン星人達が執拗に地球を侵略するのは彼等が帰るべき星を持たない悲運の星人だからである。故郷・バルタン星の滅亡の詳細は不明だが、宇宙の放浪集団として現れたバルタン星人達はたった一台の宇宙船に全員を乗せていた。
 一つの星の人間を全員乗せるのだから勿論普通に乗せるわけが無い。長い放浪に耐えられるように多くの星人を仮死状態に眠らせ、細胞単位に縮めて搭乗させていたのだ。その数なんと二十億!この設定は確かにバルタンが何度でもウルトラマンに挑めるという長所がある一方で、集団で出て、雑魚化するという短所も持つのだ。それが二度目の登場である。

 一度目の登場においてバルタン星人は宇宙船もろとも全滅したと見られていた。しかし生き延びたバルタン星人はR星に陽動部隊を派遣してウルトラマンと科学特捜隊を誘き寄せ、地球に一斉攻撃を仕掛けようとした。陽動作戦は成功したが、一人の男がそれを迎え撃った。科学特捜隊隊員にして、武器開発のスペシャリスト・イデ隊員(二瓶正也)である。

 巨大ヒーロー物の正義のチームは一般に弱いイメージがあるが、このシリーズがウルトラQから始まったように元々は強く、脇役の隊員でも今尚健在で様々な番組に出演している面々が多い。
 ギガス、再生ドラコ、ジェロニモン、マグラ、等々、イデの開発した武器に葬られた怪獣は決して少なくない。そして、そのイデが最もたくさん倒した敵がこのバルタン星人なのである!

 イデはバルタン星人の大軍を科特隊戦闘機・ビートルに登場して迎撃し、機内において開発したてのマルス133をスタンバイした。ライフル型の光線銃で、この武器は同じく彼が開発したスパーク8と並んで有名である。
 イデはこの武器でもってバルタン星人を次々と撃ち落とした。二度目の登場に雑魚としての超有名宇宙人が無数にいたのである。

 考え様によっては凄いことである。バルタン星人はウルトラマンのスペシウム光線に敗れたのを反省し、胸に反射鏡を設置し、少なくともスペシウム光線に対しては万全を期していた。そのバルタン達を次々と射殺したマルス133はスペシウム光線より強力な可能性があるのである。
 ウルトラマンシリーズは巨大ヒーロー番組である。故に大勢の怪獣・宇宙人を巨大生物として登場させると町が壊滅しかねない。一対一の戦闘においてさえ、「またビル壊しやがった…。」という思いを持った経験のある人も多いことと思う(笑)。  それゆえ、多くの着ぐるみを揃えても巨大化での集団戦闘は不可能なので(舞台を宇宙に移すしかない)、等身大か、ミクロレベルか、宇宙船同士の戦闘になる。

 ミクロレベルは人間がミクロ化できないことを考えるとイマイチ迫力に欠ける。宇宙船同士は派手なのだが、人間や生き物が目立たない。必然等身大の宇宙人が最も多く登場することになる。
 ウルトラマンの長い歴史を見てみると、どうも宇宙人達も普段は我々地球人ぐらいのサイズの生き物のようである。戦闘を有利にするため、地球人には無い巨大化能力を駆使する、また巨大化できない生物は怪獣を操るかするようである。

 この観点から見て、イデの迎撃したバルタン星人の集団は等身大のようである。後にマルス133がゼットンに放たれた時の弾道のサイズとバルタンに命中した時のサイズから見てそう推測されるし、バルタンが等身大で登場することは実に多い。
 せめて巨大化して集団攻撃すればイデごときに全滅させられることもなく、地球を征服できたかもしれなかったのに、巨大ヒーロー番組の集団=等身大化→雑魚の図式にいの一番に泣いた様である。

 巨大生物がメインである宿命上、数が多いということは雑魚化するという欠点を持つ反面、同一生物で能力やカッコ良さに差を付け、個性を持たせやすいという長所もある。
 実際等身大の奴ほど良く喋るし、その分細かい描写も多く、見応えもある。バルタン星人も数が多いために一人間抜けな奴がいた。「帰ってきたウルトラマン」に登場したバルタン星人四代目ことバルタン星人Jr.である。
 怪獣ビルガモを操り、新マンを苦戦させ、グロッキー状態にした所で登場し、善戦するのかと思わせておきながら、「今回はほんの挨拶代わりだ。」といって本当に挨拶だけで去って行き、背後からスぺシウム光線を受け、爆死した間抜けな奴だった。

 バルタン星人は今後もウルトラシリーズで新たに登場する可能性は充分にある。それゆえ、二代目の時ような雑魚軍団やJr.の様な間抜けな奴が現れることも有り得る。雑魚にも強敵にもなり得る宇宙人−バルタン星人。メジャー度の前に雑魚の悲哀感が強く感じられることは少ないが、虫けらの如く散らされた多くの命がその長き歴史にあり、今後も有り得ることを忘れてはならないと思う。


2.ザンパ星人と地球人(ウルトラセブン)
 「地球は狙われている。」のナレーション(浦野光)でスタートした「ウルトラセブン」。「ウルトラマン」に比べて、登場した敵キャラにおける宇宙人の占める割合が大きい。
 また怪獣の中にも、エレキング、ギラドラス、アロン、パンドン、ナース、ガブラ、ガンダー等々、宇宙人の手先が多い。断言しても良かろう、「ウルトラセブン」は地球内部の怪獣退治より、侵略する宇宙人との戦いがメインになっていると。
 第一話のクール星人から最終話のゴ−ス星人まで、実に様々な宇宙人が登場したわけだが、その知能度もピンキリなら、単独登場の宇宙人もいれば、集団でやってきた宇宙人もいた。
 まぁ、元々侵略が目的なのだから、ベル星人や初代メトロン星人、シャプレー星人、ゴーロン星人の様に単独で来る方がおかしく、ピット星人、ゴドラ星人、シャドー星人、ガッツ星人、フック星人、ゴ−ス星人の様に何人かで来る方が妥当というものである。『戦闘員VOW』としてはこの複数対複数の戦いに主眼を置きたい。

 侵略者達に対して、「ウルトラセブン」の世界では地球防衛軍は宇宙と地球の二段構えで備えていた。即ち、軍の傘下に、地球上で敵と戦う地球防衛軍の各支部にウルトラ警備隊、そして地球に到達する前に宇宙空間で迎え撃つ宇宙ステーションV3である。
 ウルトラ警備隊の隊長・キリヤマ(中山昭二)とV3隊長クラタ(南廣)は士官学校時代の同期にして大親友であり、悪態をつつき合いながらも共闘する二人の姿は番組を秀逸なものにしている。
 戦歴も豊富で、個性溢れる隊員を率いる二人の隊長は実に様々な戦いを展開する。そんな二人と最も大きな戦いを繰り広げたのがザンパ星人とゴ−ス星人である。双方との戦いで敵味方実に多くの死者が出たのである。

 戦争である以上、死者が出ないということは考えられない。怪獣や巨大化した宇宙人の大半をウルトラセブンが倒したとは云え、等身大の星人や宇宙船に搭乗していた星人の多くがウルトラ警備隊のために討ち果たされ、逆に地球人も軍人・民間人共に多くの死者を出した。

 具体的に、ザンパ星人は全滅し、ゴ−ス星人の地底ミサイルの前にはニューヨーク、ロンドン、パリ等々の主要都市が焦土と化した。ザンパ星人の人口も不明なら、地底ミサイルの破壊範囲も不明なので、死者数も不明だが、夥しい犠牲が出たことに間違いはない。何と云っても方や全滅だ。ゴ−ス星人と戦った最終二話は「史上最大の侵略」というサブタイトルが付けられたのも伊達ではない。
 凡その犠牲の規模が明らかになったところで、集団でありながら如何に無力であったかを検証する。

 まず前者のザンパ星人だが、(放映当時の)3年前にキリヤマとクラタのタッグの前に全滅(正確には壊滅的敗北)した詳細は不明だが、はっきりしているのはホームレンジで敗れたということである
 これは情けない。通常如何なる戦争も同条件なら守備側が圧倒的に有利なのである。守備側が敗れるとすれば、戦闘技術、戦力、兵数、物資等が格段に劣るときである。
 戦術面に限ってさえ、防戦一方の相手を打ち負かすのは容易ではなく、概して時間がかかる。まして遠征軍は補給・地の利も不利である。
 地球も他の星からの侵略に備えるため、ザンパ星に全力投入したわけではなく、精鋭のニ隊長を派遣したと考えられる。それに対するザンパ星人はホームレンジで迎え撃つため、兵も物資も総力戦で当たることが可能で、地の利も心得ているのである。それなのに全滅したのである。しかも番組が始まったとき既に。

 勿論その時点でのウルトラセブンは戦力外である。結局ストーリーとしては生き残っていたザンパ星人が報復に出たわけだが、ただでさえ地球に敗れたザンパ星人、怪獣を率いたとはいえ、ウルトラセブンまで味方につけた地球に敵う術はなかった。
 仮に番組内の戦いに勝利していたとしてもキリヤマとクラタを倒して一時の自己満足を得られたに過ぎない。
 それが如何に小さい事か、例えて云うなら、太平洋戦争終戦直後に生き残った日本軍人がマッカーサーやトルーマンを暗殺できたと仮定してみるといいだろう。果たしてそれで広島や長崎、沖縄などで虫けらのごとく無残に余りにも簡単に奪われた命が浮かばれるであろうか?否である。

 続いてゴ−ス星人との戦いを検証して見よう。まず注目すべきはこの史上最大の侵略が余りにも少数の人間及び宇宙人によって左右されたということである。

 ゴ−ス星人が何人で侵略に来たのかは定かではない。しかし、地球人が降伏した場合には地球30億の人口を火星の地底都市に移住することを許可すると告げていた。
 また、地球人との交渉に捕虜としていたアマギ(古谷敏)の口を介して行なっていたが、これは地球の言葉を理解できるが、発声できないのでそうしたと見るべきだろう。
 その他にも、アマギを捕えた透明ボールや、一度セブンに斬殺された双頭怪獣パンドンを蘇生させたりしていたことや、地球のあらゆる主要都市を壊滅させた地底ミサイルなどからもその科学力は地球のそれを大きく凌駕しているようである。

 しかしながら、最終的には滞陣していた地底基地に爆弾を搭載したマグマライザーを突入され,撃滅させられたことから、さほど多数で侵略に来たとも思えない。
 結論、科学力で劣る地球人は少数のゴ−ス星人に翻弄され壊滅的打撃を受けたわけであり、勝利したとはいえ、その要因となったのも少数の精鋭によるもので数としての地球人が如何に無力だったかがここにも現れている。

 ではまとめに入ろう。何と云っても侵入を許した段階で、された側は雑魚として扱われるということだろう。侵略した側は例え全滅しても母星に本隊が控えているのが通常である。余裕がなければ侵略はしないのだ(バルタン星人のような進退窮まった例外もあるが…)。
 侵略された側は僅かな被害でも本部の主要性を考えるとその害は軽微でも影響は深刻だ。ホームレンジを攻撃されるというのは非戦闘員にも被害が出るということである。
 もう一つ例えていうなら、過去の日本の海外との戦争を見てみるといい。本土に一兵も入れなかった日清・日露の戦いは増税等で国民生活を苦しめたが、戦後の立ち直りは容易だった。
 反対に太平洋戦争時に戦場となった沖縄、空襲の惨状は今更云うに及ばずである。更に時代を遡って、元寇時には日本は勝ったにもかかわらず、敵地を得られなかったのが響いて鎌倉幕府が滅亡した。侵入を許すというのはそれほど致命的なのだ。
教訓:雑魚になりたくなければ侵入を許すまじ(そりゃもう許しませんけどね)。


3.暗殺宇宙人ナックル星人(帰ってきたウルトラマン)
 こいつを雑魚とは普通思わないだろう。「帰ってきたウルトラマン」において一、二を争う知名度を誇り、用心棒怪獣ブラックキングを操り、一度はウルトラマンを倒し、MATも危うく全員が操られるところだったし、宇宙ステーションV1は壊滅させられた。
 決して暴力一辺倒ではなく、知略にも優れ、心理作戦まで展開した宇宙人は他の知的星人にも例は少ない。「ナックル」の名が示す通り、パンチ力は黒部ダムを貫くほどの威力がある(設定)。
 これのどこが雑魚なのか?確かに帰ってきたウルトラマンと直接拳を交えた星人は口が避けても雑魚とは云えない。しかしナックル星人は一人ではなかったのである。
 ナックル星人の一部の雑魚っぷりを検証するためにここでナックル星人の動向を見てみる。

 地球侵略を目論むナックル星人は最大の障害となる、帰ってきたウルトラマンとMATの始末を謀り、ブラックキングを操り、MATからは新兵器・サターンZを奪い、帰ってきたウルトラマンを倒すために、竜巻怪獣シーモンスと宇宙大怪獣ベムスターを生き返らせて、ウルトラマンの能力を探ると同時に、ウルトラマン=郷秀樹(団次郎)の冷静さを奪うために家族同然の坂田兄妹(岸田森・榊原るみ)を惨殺した(ウルトラ史上1、2を争う悲痛さを持つシーンである)。狡猾かつ用心深い奴等である。

 次に研究を重ね、冷静さを奪ったウルトラマンと夕陽の中で戦ったブラックキング&ナックル星人はウルトラマンをグロッキーとし、死刑台に拘束し、ナックル星へと移送を開始した。
 ここで、ナックル星人は、「帰ってきたウルトラマン」に大きな足跡を残した「一体」と、雑魚と化した「その他大勢」に別れるのである。
 地球に残った一人のナックル星人はブラックキングと数人の部下を率い、根城である電波研究所を探索に来た伊吹竜隊長(根上淳)・南猛隊員(池田駿介)岸田文夫隊員(西田健)・上野一平隊員(三井亘)を次々に捕えては洗脳し、MATを支配下に置く寸前まで事を運んだ。

 最終的には帰還したウルトラマンに敗北したが、東京滅亡を予言して息絶えた。郷秀樹が電波研究所に残されたサターンZを発見して処分したことにより、目的は達成されなったが最後まで良く戦ったといえるだろう。

 一方、ウルトラマンをナックル星に移送して処刑しようとした宇宙船団は、MAT隊員達がモニターで見守る前で、これ見よがしに宇宙ステーションV1を破壊し、戦力差を見せ付けた。ここまではいい
 V1を滅ぼし、地球侵攻を目前に控え、活き上がる宇宙船団から、ウルトラマンを繋いだ二機の宇宙船がナックル星に向かった。
 その二機の宇宙船を出迎えたのは初代ウルトラマンと、ウルトラセブンである。勿論宇宙船に勝ち目はなく、二人のウルトラマンはウルトラの星作戦で新マンを蘇生させると、彼を拘束していた二機の宇宙船をスペシウム光線とエメリウム光線でそれぞれ撃墜し、ここに3人のウルトラマンがはじめて共闘した。
 と、思いきや、新マンは二人の兄貴分に敬礼して礼を示すと単身地球に向かった。そして地球付近でナックル星人の宇宙船団を発見するとスペシウム光線で全滅させたのである。そう、余りにもあっさりと
 ブラックキングを生み出した化学力、V1を撃破した戦力、全部無視なのである。つまり雑魚扱いである。

 ナックル星人は「帰ってきたウルトラマン」で最も有名で強い宇宙人の一人であるところは間違いないが、名もなく、顔も出ず,宇宙の藻屑と消えた同じナックル星人が無数に存在したことも事実である。
 何を持って雑魚となるか?個々の強弱がその要因でないことは明らかだが、ことウルトラマンの世界においては、白兵戦は巨大化した怪獣がメインのため、同じ星人であっても巨大化して戦う場があるかどうかにかかっていると云えるだろう。


4.地球で一番強いTAC(ウルトラマンA)
 この番組における雑魚は広義においては地球人、狭義においてはTACと断言できる。兎に角、番組の背景が悉く地球人に背を向けているのである。
 まずは敵である。地球侵略を狙う異次元人ヤプールが放つ「超獣」がそれであるが、超獣とは「怪獣より強い」存在で、怪獣を超えることにより、そう呼ばれる。そして超獣が怪獣より遥かに手強い存在であることを証明するために、とんでもない恥辱が地球人を襲った。

 「ウルトラマンA」の第1話において、異次元より突如広島県福山市に出現したミサイル超獣ベロクロン、迎え撃つは玄海老師空軍パイロット(幸田宗丸)に率いられた地球防衛軍(「MATは?」という質問は受け付けない)。
 戦闘機がベロクロンに挑んだが、これが僅か十数秒で撃滅される。しかもこの一戦で地球防衛軍は全滅したと説明され、その後を受けて超獣攻撃隊=TAC(Terrible Monster Attacking Crew)が発足したのである。ウルトラ史上、地球人の最も情けない一面であろう。
 後に「ウルトラマンレオ」のMACも全滅しているが、全滅の最初はこの地球防衛軍である。

 そしてその後を受けたTACであるがこの時点で置かれた状況が悪いと云わざるを得ない。それは戦績面において、技術面にも損害面にもそしてチームワーク面にも見られる。
 宝島社の「さらば!怪獣VOW」によるとTACが超獣退治に出撃して、戦闘機が被弾せずに帰還できた確率は47%に過ぎない。同書の単純計算によると7503億円の損害を撒き散らしたのである、しかも戦闘機の代金だけで。

 また技術面では兵器開発員梶洋一隊員(中山克巳)の開発した兵器は超獣達にかすり傷一つ負わせることはなかった(例外として、秘密兵器シルバーシャークがファイヤーモンスを一撃で倒している)。
 梶が技術者として無能だったか、と云うと決してそんなことはない(無能と判断する書籍も多いが、猛省を促したい)。異次元からの侵略と戦うのに、梶の技術は大きくTAC(及びA)に貢献している。
 本部の開発した有人特攻ミサイルが脱出装置の作動しない欠陥品だったことに比較すると梶の技術は超獣を倒せないことを除けば(それが一番の問題といわれれば返す言葉はない)決して悪いものではない。
 続いて、チームワーク面だが、それを語るにあたってTACのメンバーに付いて触れたい。
 隊長の竜五郎(瑳川哲郎)は勇敢であり、温厚であり、信賞必罰に公正で、決断力に優れ、作戦も緻密、部下への労わりも人命優先の為には上司を殴って追い返すほどである。
 隊内で誤解され、孤立しやすい北斗星司(高峰圭二)も他の隊員たちの体面を保ちつつ巧く庇っている。隊長として申し分ないどころか理想的とさえ云える。
 副隊長格の山中一郎隊員(沖田駿介)は射撃に優れ、正義感・責任感が強いが、それが高じて他の隊員の失敗や判断ミスに容赦のない叱責を浴びせ、その性格は一言で云ってすこぶる短気である。
 北斗へのいじめっ子と見られること多々有りである。しかし柄は悪くとも決して悪い奴ではない。
 中堅格の今野勉隊員(山本正明)は寺の息子という設定の気のいい怪力自慢のデブである。ピンチになると「南無阿弥陀仏」を唱えるのが口癖で、よくその念仏のために山中に怒られてもいた。
 続くはTACのレギュラー隊員の中で最も影の薄い吉村公三隊員(佐野光洋)である。隊員の中で最も温厚で、個性が弱い。暴走しそうな山中や北斗を止める役回りで、同時に損な役回りでもある。と云うのも彼の乗っている戦闘機が最も撃墜された回数が多いのである。
 そして、姐さん的存在の美川のり子隊員(西恵子)。彼女は弱者に優しい性格で、誤解を受けやすい北斗に温かく接し、時には謹慎中の南夕子隊員(星光子)を非常事態であることをかんがみて、「私の責任で、あなたの謹慎を解きます。あなたは空から攻撃してください。」と云ったりするなど、石頭の多いTAC隊員の中にあってかなり融通の効く性格をしている上に度胸も座っている。

 後は前述の梶と主役の北斗と南である。決して悪い奴やとんでもない奴がいるわけでもなく、メンバー的には八人八色で良い意味で恵まれているとも云える。にもかかわらず、TAC内は意見の相違や非常事の対応の是非などについて口論が絶えず、北斗は何度も濡れ衣をかぶせられ,主役を疑った隊員達の視聴者からの評判は良くない。
 以上、技術と損害とチームワークとから見てみたが、優れた人間が集まっているのにもかかわらず、どこか歯車が合わない展開がなされているのである。それもこれも全ての原因は設定にある。

 シリーズを通じての宿敵である異次元人やプールはかなり陰湿な作戦を展開する。人間の心の弱さにつけこむこともしばしばで、しかも率いるは怪獣より強い超獣、しかもウルトラマンAは当初、北斗と南の二人での変身だったため、他の隊員は否応なく主役との絡みが減らされた。
 これだけの材料が揃えばTACが噛ませ犬になるのも無理はない。ともあれ、宿敵の存在、より強い超の付く怪獣の設定、隊内にいる二人の宇宙人、そして続々とやってくるウルトラ兄弟は地球人の活躍の場を奪い、地球人=雑魚の図式を確かなものとしたのである。
 地球人そのものがそんな立場の中、、「地球で一番強い」とされたTACはいわば雑魚の代表にされてしまった哀れな存在と云えるだろう。


5.長い歴史と薄い存在(ウルトラマンタロウ)
 このシリーズには戦闘員としての雑魚はこれといって存在しない。ウルトラマンAでの超獣は定着せず、第1話に登場した超獣オイルドリンカーは「超獣より強い怪獣」のアストロモンスにあっさり飲みこまれ、宿敵も存在しない。
 ウルトラ兄弟は客演するものの、案外地球上に降り立った回数は少なく、通常雑魚扱いの正義のチームも、この番組に登場するZAT(Zariba of All Territory)はチームワークも良く、少ないながらも怪獣退治に成功を収めてもいる。
 特に、帰ってきたウルトラマンに敗れ、異次元人ヤプールの力で甦った宇宙大怪獣ベムスターはウルトラブレスレットに弱いと云う弱点を克服し、タロウをも破ったのを、幾度かの苦戦の後に見事に撃破した。
 しかもその際、ヤプールが助太刀に派遣したミサイル超獣改造ベロクロンを一方的に叩きのめしてもいる。
 これは前述のウルトラマンAの第一話において、地球防衛軍が全滅させられたことを考えると非常に意義のある勝利である。人類は侵略者に対して、間違いなく強くなっていることを証明したのである。
 従って、怪獣退治の功が少ないとはいえ、ここではZATを雑魚とはしない。

 では、この番組で戦闘員として悲惨な役回りを演じているものはいないのか?答えは「これといっていない。」である。そこでここでは少し視点を変えて、集団の中に飲みこまれた存在と云うものを見てみる。

 ウルトラマンタロウはウルトラシリーズでも6作目である。この長期シリーズになると何が損かというと後番組の出演者及び登場キャラクターである。
 ウルトラマンも仮面ライダーもゴレンジャーも宇宙刑事ギャバンもヒットしたからこそ、後番組が続くのであって、必然、後番組はそれに負けない番組にしなければならないという使命が課されるのである。
 勿論これは大変なことである。人気のあった前番組の余勢を借りる(客演、2世キャラなど)ことも出来るが、人気はあって当たり前、しかし、下手な作風の踏襲はマンネリとの指摘を受ける。かと云って、踏襲しなさ過ぎると作風を無視したとして、前番組の視聴者が離れることになる。

 それでも半年の時間を置いた「ウルトラセブン」や3年半のブランクを置いた「帰ってきたウルトラマン」はまだ良い。1週間の猶予も与えられなかった「ウルトラマンA」、「ウルトラマンタロウ」、「ウルトラマンレオ」は悲惨である。前番組との間が短いと、少しでも調子が悪いとすぐに比較され、後番組ほど、比較対象が多いのである。

 単純な例として、「ウルトラマン」の第1話と最終話に登場した敵の名前と「ウルトラマンタロウの」の第1話と最終話に登場した敵の名前を問うてみよう。
 後者を「アストロモンス・オイルドリンカーとサメクジラ・バルキー星人」と答えられる人で、前者を「ベムラ―とゼットン」と答えられない人はまずいないと思うが、逆はいっぱいいると思う。
 獣人ヘビトンボ(仮面ライダーアマゾン)を知っていて、クモ男(仮面ライダー)を知らない人間はまずいないだろうが、ゲバコンドル(仮面ライダー)を知っていてジンギスカンコンドル(仮面ライダーX)を知らない人間はそれよりは多いと思う。
 他の例え方をすると、徳川幕府十五人の将軍の名前を全員暗記していない人でも、家康、家光、吉宗、慶喜の名は知っているだろうし、知らないとすれば、家重、家慶、家定当たりになるだろう(個人的には有名な家光より、マイナーな家宣のほうが余程名君だと思うのだが…)。

 つまり、後番組から出てきたキャラクターや怪獣・宇宙人達は既存の有名キャラクターや怪獣・宇宙人の影に隠れ、余程の名作に出たキャラでないと有象無象の中に埋もれ、「マイナーキャラ」という名の雑魚になるということが云いたいのである。
 カタン星人、エンマーゴ、ピッコロ、ムルロア、テロリスト星人、ミラクル星人、ベロン、ヘルツ、リンドン、etc…、あなたは彼等のことをバルタン星人やゼットン、エレキングに比べてどれぐらい知っているだろうか?相変わらず回りくどいことを云っているが、「後続は辛い。」ということである。


6.二人の宇宙人と多数の地球人(ウルトラマンレオ)
 科学特捜隊、ウルトラ警備隊、MAT、TAC、ZATときて悲惨な戦闘員の真打ちとも云えるのがこのMonster Attacking Crew=MACである。
 巨大怪獣を相手にして多数で叶わない正義のチームの悲劇は散々前述しているが、このMACの比ではない。何故?これから回りくどく(苦笑)説明しよう。

 「ウルトラマンレオ」には等身大の宇宙人がよく登場する。また、それを反映してか、MAC隊員はナイフを所持している(実際によく使うのだ)。しかし全く宇宙人たちに敵わず、等身大の宇宙人との戦闘で殉職した隊員は二人いる。戦闘機に乗っていて死亡した奴ははっきりしているだけで六人いる。驚異的な殉職率である。
 前番組と比較すると、いくらひどい目にあっても死ぬ奴は皆無に近かった。何故にこうも簡単に死なせることが出来るのか?ストーリー上死者が出ることに反対するわけではない。しかし簡単にコロコロ死ぬのはいただけない。

 前番組の正義のチームの隊員達は等身大の星人相手には善戦していたし、射殺することも珍しくはなかった。
 なのにどうしてMACは?それだけではない。冒頭にも書いたが、MACは次から次へと隊員たちが流動した挙句、円盤生物シルバーブルーメの襲撃の前に基地ごと飲み込まれ、主役のオオトリゲン(真夏竜)をのぞいて為す術もなく全滅した。どうしてここまでMACは悲惨なのか?MACの悲惨さがはっきりしたところでその原因を検証しよう。

 ありていに云えば一人の俳優の我が侭から始まった。その俳優の名は森次晃嗣である(森次さん、許して…)。
 当時ウルトラシリーズの視聴率低下に頭を痛めていた製作スタッフ陣は一人の俳優の起用を決めた。それが森次氏である。
 周知の通り、ウルトラセブン=モロボシ・ダンを演じた彼をレギュラーとして起用することで、旧ウルトラシリーズのファン層を呼び戻そうと云う狙いである。問題はそれに対する森次氏の承諾条件にある。

 当初、森次氏は隊長役は隊長役でもモロボシ・ダンとは別人として登場する予定だったが、彼は「モロボシ・ダン」以外での登場を拒否した。
 当時、モロボシ・ダンのイメージを引きずることが俳優としての足枷になっていると悩んでいた彼は(よくある話です)、ウルトラシリーズにおける自分の配役はモロボシ・ダンのみ、との意思を持っていたからである。

 これを「我が侭」と表記したのは語弊があるが、番組に与えた影響は甚大である。森次晃嗣氏がモロボシ・ダンとして出演する以上、ウルトラセブンにそう簡単に登場されてはレオの立場はない。
 それゆえ、第1話でセブンはサーベル暴君マグマ星人、双子怪獣ブラックギラス・レッドギラスとの戦いで負傷し、右足とセブンへの変身能力を失った。
 セブンに変身できなくなったダンはもっぱらMACの隊長として、また地球を守らんとするたった二人の宇宙人の一人として、レオを厳しく鍛える鬼隊長と化した。
 こうなるとダンとゲン以外の隊員の影は極端に薄くなった。また、ゲンはM78星雲人ではなく、L77星人である。そしてそのL77星はマグマ星人のために全滅し、星も破壊されている。地球に帰化したと自称する二人の宇宙人がドラマを繰り広げるのである。

 人間体としてのゲンとダンが目立つ以上他の隊員は引き立て役にならざるを得ないのである。勿論普段は地球人として生きんとしている以上、他の隊員達と対立するわけではなく、仲間として接している。
 しかし、宇宙人として、となるとこの番組には二人しかいないのである。それを端的に表しているのが、「レオ」の第22話である。少し紹介したい。
 東京に出現した兄怪獣ガロンのためにMACはそれまでにない被害を被っていた。ダンはゲンに「御前なら必ず勝てる相手だ。」と云って、レオへの変身を命じた。
 勇んで変身せんとしたゲンは怪獣に壊された建物の瓦礫の下敷きになった弟を助けようと悪戦苦闘している少年を見かけた。かつて故郷でマグマ星人の襲撃の最中、弟アストラを救えなかった経験を持つゲンは怪獣そっちのけで救出に向かった。

 レオが現れないことを訝しがったダンは病院にいたゲンを見つけるとゲンを叱責した。勿論子供の救出を叱ったのではない。連絡をしなかったことである。勿論子供の命は大切だが、より大きな被害を防ぐためにも子供はMACに任せてレオに変身して(レオにしか倒せない)ガロンを倒すべきだったと云うのである(正論である)。

 そしてダンはゲンに云った。。「私はMACの隊長としてはウルトラマンレオなどに頼りたくはない。しかし同じ宇宙人としては御前だけを信頼しているのだ。」 と。
 個人的に「ウルトラマンレオ」における屈指の名台詞だと思っている。この台詞を非難する気持ちはかけらもないが、同時にこの台詞はゲンとダンがこのシリーズの中核であると語ってもいるところが「戦闘員VOW」としては聞き捨てに出来ない。

 後年、森次氏は自伝『ダンーモロボシダンの名を借りて』において「僕のために弱いレオが生まれたのかもしれない。」と述懐しているが、これは何も彼だけのせいではない。
 オイルショックの影響から火薬類の使用を制限され、特撮アクションより、等身大アクションや人間ドラマに主眼を置かざるを得なくなった作風にもその原因がある。そして同時に森次氏の意志と作風の両方があって弱いMACが生まれたのである。


 ウルトラマンシリーズで描かれているのはいわば戦争である。地球侵略を目論む宇宙人だったり、太古からの眠りより覚醒して暴れまわる怪獣だったり、と戦う対象は様々だが、戦いである以上人(或いはそれ以外の生物)の死は避けられない。
 戦争である以上勝つこともあれば負けることもあるだろうがいずれにしろ死は避けられない。それが戦争なのである。そしてその戦争で一番の被害を被るのが名もなき民衆である。
 誤解のない様に云っておくが私は何もウルトラマンシリーズの作風を批判しているのではない。いかなるストーリーにあっても失われる命が有るのを見過ごして欲しくないのである。それが架空の世界の作り話であってもである。番組を製作している人達は多くの人々に見てもらうことを望んでいる。
 望む以上はそこに作品を通じて訴えたい何かがあるのだ。それが何であるか、そして訴えたいことがそのまま通じているかの問題は別の話に譲るとして、死が書かれている以上、その死にも必ず意義がある(と私は信じる)。「ああ、死んじゃった。」で終わって欲しくないのである。
 死、そのものに対する哀悼でもいい、何故死ななければならなかったのかという疑問でもいい、その死が残された事物にどう影響するのだろうかという推論でも良い、何かを感じて欲しいのである。
 命や死に対する考察が大切だと思うのである。人が死ぬと云うのはそれほど重い、ということが理解できれば殺人は勿論、意味もなく生物の命を奪うことは出来ないと思うが、どうだろうか?
平成13年9月10日 道場主

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令和三(2021)年六月一一日 最終更新