第4頁 白鳥健一……逆恨みと和解 その1

作品『ウルトラマンタロウ』第53話「さらばタロウよ!ウルトラの母よ!」
被害者白鳥船長・さおり・健一
真の加害者海獣サメクジラ&宇宙海人バルキー星人
矛先を向けられた者ウルトラマンタロウ・ZAT
解決東光太郎のカミングアウトとバルキー星人抹殺
事件 事の起こりは海獣サメクジラによる連続船舶襲撃である。
 宇宙海人バルキー星人の手先であるサメクジラは日本近海のタンカーを次々と襲い、沈没させた。勿論乗組員は全員死亡である。そして襲われた船舶の中には東光太郎にとって、彼が居候する白鳥家の家長である白鳥潔(中村竹弥)が船長を務める日日丸も含まれていた。

 まず父親が共に船長と云うことで白鳥健一と友達になっていた中西一郎(松葉寛祐)の父が乗る船が襲われ、ZATが戦闘機で駆け付けた際には船は完全にその姿を消していた。勿論一人の生存者も確認することは能わなかった。
 事前の救助を求める通信から、遭難が怪獣による襲撃であることだけが分かっていたので、ZATは海上パトロールを敢行したが、上空からの哨戒では海中に身を隠すサメクジラの存在は察知出来ても先制攻撃はならず、日日丸がサメクジラの襲撃を受けたことが判明した時には日日丸は船内の原油が引火して完全に炎上していた。

 即座にウルトラマンタロウに変身して救出に出たい光太郎だったが、隣席に北島隊員(津村秀祐)がいた為に変身出来ず、手を拱いている内に日日丸は海の藻屑と消えたのだった(これがモロボシ・ダンなら隣席の仲間を殴って気絶させて変身したかもしれんが(苦笑))。

 結局、その後サメクジラは東京に上陸し、それを光太郎がタロウに変身して迎え撃った。ウルトラマンタロウVSサメクジラの戦いは、はっきり云ってワンサイド・ゲームだった。タロウは終始戦いを優勢に進め、サメクジラは頃合いを見て踊り込んで来たバルキー星人の加勢を受けて優勢に転じ掛けた瞬間もあったにはあったが、そのバルキー星人の行動もZATの攻撃によって完全に阻止される体たらくで、最後にはストリウム光線一発で多くの船員達を死に追いやったサメクジラは討ち取られ、バルキー星人は遁走した。
 だが、甚大な被害とそれによって生じた遺族の心の傷は怪獣が倒されて終わるほど単純ではなかった。



生じた被害と怨み 積載量にもよるが、一隻のタンカーには大勢の乗組員が搭乗していると思われる。シルバータイタンはタンカーに関しては無知に等しいが、それでも産油国から原油を日本に運送するタンカーの任務を考えると、膨大な原油を積んで半年の航海をすることからも少なくとも数十人、多ければ数百人の船員がいると思われる。

 そしてその人数と航路故に、航空機や船舶の遭難事故は乗員全員が死亡する大惨事となり易い。何せ、機体の破壊による衝撃に運良く巻き込まれなかったとしても、それを取り巻く世界は空中にせよ、海中にせよ、何の装備もなく何日も生きられる環境ではない。
 結局、中西一郎の父が乗った船も、白鳥船長が率いた日日丸もサメクジラの前に為す術もなく沈没せしめられ、一人の生存者もいない有様だった。
 ただでさえ海難事故は脱出も救出も難しい上に、サメクジラの行動は殺戮だったから、船外に飛び出したところを襲われていてもおかしくなかった。

 しかも襲撃は日本近海で起きていた。
 白鳥健一一郎も、職業柄長く家を空けがちな父親の帰国を心待ちにし、「明日には帰って来る。」との想いで待っていたところに訃報を受けたのだから、その悲しみは一入だったことだろう(父の会社から訃報を受けた健一の姉・さおり(小野恵子)は受話器を持ったまま泣き崩れた)。
 よりによって、後一日を無事に過ごせば久方振りの一家団欒が待っているタイミングでの不幸だった故に、「何とかならなかったのか?」という気持ちも分からないでもない。本土が近い分、救助が間に合う可能性に期待したい面もあったことだろう。
 私事だが、過去作で触れたことあるのだが、うちの道場主も飛行機事故で身内を失っているので、死に目にも会えず、遺体との対面も出来ず、ある日突然に「死んだ」という事実を受け入れざるを得ない悲しみを、多少人よりは分かるつもりである。



恨みの理不尽性 だが、やはり白鳥健一も、中西一郎も、責めるべき相手を間違えているとしか云い様がなかった。
 勿論、年端の行かない二人の少年の悲しみはよく分かるし、帰国直前だっただけに、「ZATウルトラマンタロウの救助が間に合ってくれれば………。」との念も分からないではない。

 事の是非は一先ずおいておくとして、まず一郎ZATを、「何もしてくれなかった!」と責めた。その一郎の逆恨み的な怒りを何とか宥めようとした健一だったが、悲しみに理性を失っていた一郎は聞く耳を持たず、健一ZATの肩を持つのも、普段から東光太郎と親しくし、父親が生きているからだして、白鳥船長の写真を床にたたきつける始末だった
 だが、哀しいことにこの一郎健一に対する洞察は概ね当たっていた。

 翌日には日日丸が襲われ、白鳥船長も帰らぬ人となると、訃報に接した健一は前日の一郎と全く同じ言動に出た。健一もまた、タロウもZATも自分の父親を助けてくれなかったとも罵り、ウルトラ兄弟の人形を地面に叩きつけて破壊し、それを宥める光太郎にも(訃報を伏せていたこともあるのだが)睨みつける有様だった。

 ここで事件そのものを少し振り返るが、ZAT及びタロウが日日丸を救出出来なかったのは不可抗力である。ただでさえ神出鬼没で、何時現れるか分からない怪獣の襲撃を完全に阻止するのは不可能である(現実の世界にもSPに守られている筈の要人暗殺事件は後を絶たない)。
 実際、目の前で襲われる日日丸の船員を誰一人助けられなかったことに責任を感じて意気消沈する二谷一美副隊長(三谷昇)に対して、朝比奈雄太郎隊長(名古屋章)は二谷の行動は間違っておらず、日日丸の順は不可抗力として、責任を感じない様に諭していた。
 一方のタロウにしたところで、地球上では3分間しか活動出来ない事を考えれば光太郎の身で接近してから変身するしかなく、サメクジラの襲撃開始からタンカー沈没までの時間を考えれば防ぎ様は殆んどなかった。
 だが、父親の突然の訃報に理性を失った健一はタロウを責めた。健一もまたウルトラ兄弟の人形を地面に叩きつけ、踏み躙っていた。

 ただ、この理不尽な逆恨みにまだ救いがあるのは、健一が逆恨みしていた時間が然程長く根深いものでは無かったことと、この第53話が最終回ゆえに話の整合性がちゃんとつけられていたことにある。
 健一が父の死を知った直後にサメクジラが陸上に現れ、タロウによって討ち取られたことで健一は怒りの持って行き場を失って救出が間に合わなかったZAT・タロウに矛先を向けたと云えなくもない。だが、健一は自分の怒りが父を失った悲しみ、父やタロウに依存していた甘えにあるとした光太郎の説諭に耳を貸すだけの分別はあった。
 加えて光太郎が、自分がウルトラマンタロウであり、健一だけに独力で生きる苦労を強いない証としてウルトラバッヂをウルトラの母に返したことで、完全に光太郎の説得に納得し、直後に光太郎が人間としての戦闘能力でバルキー星人を倒したことで完全に和解は成立していた。
 まあ、最終回でもなければ掛る理不尽逆恨みをレギュラーに振ったり、急速な和解を為したり、なんて為せなかったと思うが(苦笑)。


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令和五(2023)年一二月五日