第5頁 岡村りつ子………逆恨みと和解 その2
作品 『仮面ライダーアマゾン』 被害者 岡村姉弟 真の加害者 十面鬼ゴルゴス率いる暗黒結社ゲドン 矛先を向けられた者 アマゾン 解決 救出による和解
事件 事の起こりは十面鬼ゴルゴス率いる秘密結社ゲドンの日本上陸である。
十面鬼の野望は古代インカの超科学を我が物とし、その能力で世界を征服することにあった。その為には自らが既に入手していたガガの腕輪と、仮面ライダーアマゾンが持つギギの腕輪が必須アイテムだった。
というのも、ギギの腕輪はゴルゴスの師であり、一族の長老だったバゴー(明石潮)によって日本人青年・アマゾンこと山本大介(岡崎徹)に移植され、そのアマゾンはバゴーが今際の際に与えた暗示に従って日本に渡った。
十面鬼の最終目的は世界征服だが、その手段であるギギの腕輪に物凄く執着しており、必然、アマゾンを追って日本に襲来した。その後十面鬼の命令の下、ゲドンは数々の悪事を日本で働いた訳だが、基本となるのはアマゾンのギギの腕輪強奪だった。
手段が目的と化した感のあるゲドンだが、ギギの腕輪強奪が行動のメイン故、歴代悪の組織が極力仮面ライダーの視線を避けたのに対し、ゲドンはアマゾン襲撃を繰り返し、そこにゲドンの組織としての在り様が相まって、アマゾン周囲の人間が次々と害を被ることとなった。勿論、アマゾンに近い人間程身に危険が頻発した訳である。
生じた被害と怨み 単純にゲドンがアマゾンからギギの腕輪を奪って争うだけなら、もしかしたら周囲の被害は然程ではなかったかも知れない。ゲドンの後に現れたガランダー帝国はギギの腕輪を狙いつつも同時並行で世界征服に向けてのテロも優先していたが、ゲドンは何よりギギの腕輪強奪を第一としていた。
それゆえ、ゲドンは歴代悪の組織にあって、その行動範囲行動規模はかなり小さい方である。ただ、ゲドンの組織行動における二つの要因が世の中にとって極めて悪質なものだった。
一つは徹底した目撃者口封じである。
自分達の存在を世間から隠匿する悪の組織は決して珍しくない。ショッカーもデストロンも組織の行動を目撃した者を、その家族まで含めて口封じをするエピソードはかなり散見された。ただ、歴代悪の組織は世界征服や、自分達の科学力強化を重んじる故、有能な者を仲間に取り込もうと云う意志も強く、そこに交渉すべき余地があった。
だが、ゲドンにはそんな思考が殆んど見られなかった(苦笑)。第1話では高坂太郎教授(北原義郎)、その助手松山(北条清嗣)、高坂の友人・山村創造(二瓶秀雄)達が「ゲドンを知る者」としてその命を狙われ、殺された。
中でも山村はゲドンを恐れる余り、娘の為にも絶対にゲドンのことを喋らないと決心し、証言を求めるアマゾンや立花藤兵衛(小林昭二)に対しても非協力的な態度を取り続けた。しかしながらそれでもゲドンは山村の存在を許さず、決して喋らないからとして戦闘員である赤ジューシャに必死に命乞いをするも、彼女達は全く耳を貸さず、「我々の秘密を知った者はすべて消す!」としか云わず、山村は惨殺された。
これはもう組織の方針で、命令に従うだけの下っ端に何を云っても無駄だったことだろう。ただ、こうなるとアマゾンを抹殺し、その関係者をすべて消すまでゲドンは延々と人殺しを続けなければいけなくなってしまうことを意味した。
もう一つの要因はゲドンが人肉を常食、人血を常飲しているということである。
十面鬼が生き血を吸引するシーン以外には人肉食のシーンは無かったが(←さすがに子供番組ではまずいだろうし)、赤ジューシャやモグラ獣人の台詞から、ゲドンの構成員達に食人習慣があるのは明らかだった(モグラ獣人に至っては、アマゾンが赤ジューシャを縛り上げたのを見て、「焼いて食うつもりだな。」と取っていたから、食人に何の疑問も抱いていなかったことが分かる)。
こうなると、ゲドンは傍近くにいるだけで常に命の危機に曝される、極めて危険な組織ということになる。実際、ゲドンがテロ行為には然程熱心でなかったにもかかわらず人間社会に甚大な被害をもたらした様は過去作「本当は怖い『ゲドン』」で詳細に検証しているので、参照頂けると嬉しい。
必然、そんなゲドンを誘き寄せてしまうアマゾンを厭う声が生まれるのは止むを得ない話ではあった。
恨みの理不尽性 実の所、本作で採り上げている人物の中にあって、岡村りつ子(松岡まりこ)は然程理不尽な人物でも、分からず屋な人物でもなかった。
りつ子は厳密にはアマゾンを「怨んだ。」という訳ではなく、「疎んじた。」という方がしっくり来る。早い話、アマゾンが日本に来たことで、それを追ってゲドンが来日し、自分達の平和が脅かされたことで、りつ子は「アマゾンが日本に来なければ良かったのに。」と捉えていた訳で、それが態度に現れてしまった。
りつ子も想いは無理ないものではあった。
実際、アマゾンが日本に来て、そのアマゾンを追ってゲドンが日本に上陸したことでまず第1話にて実の伯父が目の前で殺され、第2話では友人・正子(荒牧啓子)が獣人吸血コウモリの攻撃を受けたことで現代医学では解明不能な重篤な病に陥り、危うく命を落とすところだった。
確かに悪いのはゲドンだが、「アマゾンの近くにいればとばっちりを受ける。」という見方は強ち間違いでもなかった。しかも年端の行かない弟・マサヒコ(松田洋二)は異様にアマゾンに懐き、巻き添えを食うことを案じるりつ子がアマゾンに会わない様に諭しても聞く耳を持たなかった。りつ子がやきもきし続けたのは云う迄もない。
極め付けは第9話である。
この話で十面鬼は貯蔵していた人血に若い娘の血が無いことに立腹し、カニ獣人にアマゾン抹殺と人血確保の命令を下した。カニ獣人はモグラ獣人を脅して、りつ子がアマゾンの弱点と見做してその拉致に臨んだ。
モグラ獣人→マサヒコ経由でその情報を得たアマゾンはりつ子の元に駆け付け、身辺警護を(拙い日本語で)申し出たが、りつ子は「ゲドン、ゲドンって、もううんざり! あんたがアマゾンへ帰ればゲドンもいなくなるんだから、日本から出てってよ!!」と云って痛罵した。
酷い台詞だが、全くの間違いでもないから厄介だった。実際この第9話でもりつ子は友人フサ代(古屋エリ)共々カニ獣人に拉致され、命の危険に曝されたし、アマゾンを慕うマサヒコが巻き添えを食い続けたのも事実だった。
ただ、りつ子にとって運が悪かったのは、りつ子以外の人々がかなり懐が深かったことにある。りつ子も理屈の上では「悪いのはゲドンであって、アマゾンではない。」という論を理解していない訳ではなかったが、伯父を殺され、マサヒコ可愛さから彼がアマゾンに関わらないことを訴えていただけだが、マサヒコはアマゾンを慕い、ゲドンと戦うことに全く迷いを見せず、重病に陥った正子がアマゾンの差し出した薬を全く疑わずに飲み(←りつ子は「毒かもしれない。」とまで云った)、りつ子と共に拉致されたフサ代にもアマゾンを恨む様子が無かったから、りつ子一人が「分からず屋」を振られた感があった。
もっとも、りつ子が嫌な役を振られたのは第9話までで、それも部分部分に過ぎなかったからまだマシである。
第9話でアマゾンに救出されたことで完全に和解し、その証に寒い日本の冬を過ごすアマゾンの為に手織りの上着をプレゼントし、以後りつ子がアマゾンを悪く云うことは無かった。それは恩と迷惑の棒引きではなく、完全に理解ある人物としてだった。
第15話ではガランダー帝国にマサヒコが攫われたことで自分を責めるアマゾンに、藤兵衛が「お前のせいじゃない。」としたのに追随して、「そうよ、元気出して。」と励ましていた。第20話では多くの人々の命を守る為に我が身を犠牲にしてキノコ獣人の殺人カビを入手してきたモグラ獣人を「立派よ。」と褒め称え、その死に涙していた。
そして最終回ではヘリウム爆弾の起爆装置解除が間に合わないと見た藤兵衛がりつ子・マサヒコに逃げるように促した際に、「おじさんが死ぬときは僕達も一緒だ!」というマサヒコに頷いていた。
正直、本作における筋違いな怨みを抱いた人物に岡村りつ子を採り上げたことには反論の声もあると思う。実際、シルバータイタンもりつ子のアマゾンに対する悪意は一時的なものだと思っているし、和解前からアマゾンの人格を疑う気配は微塵もなく、第3話の段階でマサヒコにアマゾンへの土産を持たせてすらいた。
ただ、現実世界でも悪い奴等(暴力団などの反社組織)からに目を付けられた人に対し、何の非もない一方的な被害者であっても交流を持つことに否定的になる例は珍しくないと思われる。そんな現実への戒めの為にも敢えてりつ子を採り上げたことを御理解頂ければ幸いである。
次頁へ
前頁へ戻る
冒頭へ戻る
特撮房へ戻る
令和五(2023)年一二月五日 最終更新