第3頁 小林ゆき……我が子が一番大事なのは分かるけどね その1

作品『ウルトラマンタロウ』第17話「2大怪獣タロウに迫る!」・第18話「ゾフィが死んだ!タロウも死んだ!」・第19話「ウルトラの母 愛の奇跡!」
被害者小林一家
真の加害者食葉怪獣ケムジラ&火山怪鳥バードン
矛先を向けられた者 ZAT(主に東光太郎)
解決バードン抹殺
事件 事の起こりは大熊山の異常噴火である。これにより食葉怪獣ケムジラが周囲のスイカ畑に飛散し、その果実に潜り込み、火山怪鳥バードンの卵が孵化した。
 ケムジラは当初は3cm程の虫けらに過ぎなかったが、スイカを食らうことで1m程に成長し、その大きさでも大熊山地震研究所の研究員を3名殺害する危険な存在だった。
 そしてそのケムジラを食らわんとしてバードンまでもが襲来。バードンは云うなれば巨大な肉食鳥で、極めて貪欲な食欲を持ち、ケムジラのみならず、研究所員達をも捕食した。

 一方、東光太郎(篠田三郎)が購入したスイカに潜んでいたケムジラの1体が、小林タケシ(西脇政敏)宅でタケシを襲ったことでZATに攻撃され、ZATガンのエネルギーを吸収したことで47mの大きさにまで成長した(傍迷惑な………)。
 このケムジラを迎撃したウルトラマンタロウだったが、ケムジラは餌役・やられ役を振られた割には強敵で、酸性の糸やイエローガス(←早い話放屁)を駆使して激しく抵抗。そこにバードンまで襲来し、タロウは忽ちピンチに陥った。
 殊にバードンの嘴攻撃は強烈で、グロッキーとなったタロウは劣勢を挽回出来ないままカラータイマーが停止し、死亡した(勿論後に生き返るのだが)。タロウを倒したバードンケムジラを捕食し、これにより残る怪獣はバードンのみとなったが、これは極めて厄介で驚異的な存在だった。

 肉食のバードンは肉であれば何でも貪欲に食らい、食肉倉庫・養魚場・動物園、果てはマンモス団地に住む住人まで食害し、タロウをウルトラの国に送るべく地球にやって来たゾフィーまでもその鋭い嘴で倒してしまった。
 最終的にはウルトラの国でウルトラの母による蘇生処置を受けて甦ったタロウが地球に舞い戻り、母から渡された新兵器キングブレスレットを駆使してバードンは倒されたが、その貪欲な食欲・行動範囲と素早さ・ウルトラ兄弟に連勝した戦闘能力は日本中を恐怖に陥れ、「地球出身の怪獣」としては最強に近い存在として令和の世にもその存在感を強く放っているのだった(余談だが、後にゾフィー別個隊に勝利することでリベンジ(笑))。



生じた被害と怨み 二体の怪獣は個々に深刻な被害をもたらした。
 ケムジラは大熊山付近のスイカを広範囲に食うことで農業的な被害も大きかったが、スイカ一個食らい尽くした後には1m程の大きさとなり、そのサイズでも人間に致命傷を与える戦闘能力を持ち、口から吐く強酸性の糸は小林タケシを失明状態に陥らせた。
 加えて巨大化後はウルトラマンタロウをも苦戦させ、その戦闘及び、その後のバードン襲来によって拡大した被害も深刻だった。

 そしてバードンによる被害は更に深刻だった。一生物であるバードンの行動自体は正に鳥で、鳥としての本能に基づく行為に過ぎなかったが、その「肉」を選り好みしない獰猛性と驚異的に戦闘能力に行動範囲の広さから上述した様に肉という肉が襲われ、それは人間も例外ではなかった。
 加えて行動範囲の広さと、神出鬼没な襲撃故、直接襲われた場所だけではなく、その存在に怯えた日本中がバードンに恐怖したと云っても過言ではなかった。

 まんの悪いことにZATの打たんとした手は次々と裏目に出た。
 ZATとしては「打倒バードン」・「バードンによる被害を防ぐ。」等の為に取った行動とは云え、バードンの動きを封じる鳥餅作戦を行えば、そこから逃れんと暴れたバードンが病院を押しつぶしそうになるし(←幸い、ゾフィーが阻止したが)、食肉・家畜を隠匿する通達を出せば流通が停止し、それが為にバードンが標的を人間に切り替えてしまうという最悪の事態が起きた。

 そして多くの人々が犠牲になる中、命は助かっても、怪獣の活動とそれを迎え撃つZATの狭間で様々な不幸に見舞われたのが小林一家だった。
 小林一家の家族構成は両親と長男の三人家族である。長男のタケシは、番組レギュラーで東光太郎の弟分である白鳥健一(斎藤信也)と友人関係にあった。そして父親である彰(二瓶秀雄)は大熊山地震研究所の所長で、彼を尋ねて光太郎が車でタケシと健一を研究所まで送ったことで事件に巻き込まれることとなった。

 光太郎が土産に持参したスイカ4個の内2個にケムジラが潜んでいた。
 上述した様に一体はスイカを食らって成長した後にタケシを襲い、糸で彼を失明状態に陥れた。反撃を受けてその場を逃れるも近辺に潜み、後にZATの攻撃を受けて巨大化したため、小林家一帯は戦場となってしまい、それによってタケシは更に負傷し、入院を余儀なくされた。
 もう一体は大熊山地震研究所内で成長し、所員達を襲う中、それを求めてバードンが襲来し、研究所は崩壊し、それに巻き込まれたことで所長である彰も重傷を負った(全身包帯だらけ以外に具体的な症状は述べられていなかったが、バードン襲来時に避難が不可能な体だった)。
 そんな夫と我が子の不幸に激しい怒りと悲しみを抱き、ZAT、特に光太郎に対して攻撃的になっていたのが、彰の妻で、タケシの母であった小林ゆき(金井由美)だった。



恨みの理不尽性 要は、小林ゆきが「夫と息子が酷い目に遭ったのも、すべてはZAT東光太郎さんのせい!」と思い込んだことにあった。
 たしかにタイミングの悪さもあったが、小林家の不幸は光太郎の行動とリンクしていた。

 根本的には、光太郎が大熊山地震研究所付近の農家でスイカを購入し、そこにケムジラが潜んでいたのが小林家の不幸の始まりだった。そのケムジラがタケシを失明状態に陥れ、研究所を襲い、そこにバードンまでもが襲来したことで彰も重傷を負った。
 「さんさえ来なければこんなことにならなかったのに………。」とゆきが思いたくなるのは分からないでもない。そして夫と息子がほぼ同時に重傷を負ったとあっては、ゆきに冷静さを求めるのは酷だったかも知れない。

 ただ、ゆきの怒りを「理不尽」に映らせ、彼女のイメージを悪くしたのは、彼女が唯一人光太郎を疫病神扱いしたことにあった。
 確かに光太郎が持参したスイカからケムジラが現れたのは(不可抗力ながら)動かし難い事実なので、ゆき光太郎を悪く思うのは無理もなかった。ただ、それが昂じたとはいえ、彼女がその後の光太郎の一挙手一投足を悪意的に捉えていたのが頂けなかった。怪我した当の本人である彰・タケシが寛容だったから、尚更だった。

 光太郎が謝罪の為に果物盛り合わせを手土産に謝罪に訪れた際も、そんなもので誤魔化すなと詰っただけでなく、その果物にも何か潜んでいるのじゃないか?と訝しがる始末だった(まあ、その盛り合わせにケムジラが誘き寄せられていたから、全くの的外れでもなかったが)。
 その後、タロウがバードンに敗れたことで光太郎が行方を絶つ形になると、彰の見舞いに来た健一を笑顔で歓迎しつつも、彼に同伴したZAT隊員達には「お引き取り下さい。」とし、謝罪を申し出る荒垣修平副隊長(東野孝彦)に対し、謝罪に来るなら光太郎が来るべきと云い放った(行方不明の光太郎に対しては「逃げ出したのでは?」と悪意的に捉えていた)。
 その言は正論なのだが、ウルトラの母の手で復活した光太郎が来たなら来たで、「顔も見たくない。」と云い放った。姿を見せないなら見せないで文句を云い、顔を出したら「顔も見たくない。」って、どっちやねん!?!

 まだ救いがあったのは、彼女の怒り・怨みが「母性」に裏打ちされていたことだった。
 「ZATが元凶」と思い込む故に、光太郎を初めとするZATの面々に攻撃的になっていたが、そんな状況下でも常に夫と息子を思い、息子の友人である健一に対しては常に歓迎の意を示し、ZATへの対応から、「おばさんの馬鹿!」と健一に怒鳴られた際も、気まずそうにするだけで健一には一切の悪意を抱いていなかった。
 一方で、ゆきの夫と息子が分からず屋ではなかったのもまだ救いだった。大怪我を負った筈の彰とタケシだったが、ZAT光太郎を責めることは一切なく、行方不明だった光太郎が戻って来た時には心底そのことを喜んでいた。
 一応、彰の立場に立つと、研究所がケムジラバードンに襲われ、所員に多くの犠牲者が出て、その後もバードンによって多くの人々が食い殺される中、「命の助かった自分達はまだ幸運な方。」と捉えていた節があった。恐らく小林彰という人物、何より生命を重んじるのだろう。それゆえ病院を守る為に犠牲になったゾフィーを悼んでもいた。

 詰まる所、二大怪獣の出現と、それに伴って小林一家を初めとする多くの人々が襲われたのも、根本的な原因は大熊山の火山活動活発化によるもので、はっきり云って自然災害である。
 謂わば、怪獣出現は不可抗力で、まだこれに抗し得ず、食肉流通停止という無茶振りにクレームを入れる一般ピープルの方が理解出来た。
 ゆきにしたところで、賠償を求めていた訳でもないから、純粋に夫と息子の不幸を怒り、哀しんでいただけなのはよく分かるし、感情そのものは無理ないものだった。
 バードン討滅後、いまだ失明から立ち直らないタケシにキスし(←この瞬間、西脇氏と入れ替わりたかった………)、失明からタケシが立ち直ったときには満面の笑みを浮かべていたから、この時点ではZAT光太郎に対する怒りや恨みは雲散霧消していたと信じたいところである。まあ、比較対象としてどうかと思うが、昨今のモンスター・ペアレンツが開いてだったら、もっととんでもないことを突き付けられていたのでは?と思えなくもない。


余談 ゆきが頑なに心を閉ざす間も、タケシは失明を恨むこともなく、逆に母親の攻撃的な言をたしなめていたが、そのタケシを演じた西脇政敏氏は、前頁でヒッポリト星人の為に命を落とした父の不幸を悲しむあまり、TAウルトラマンAを理不尽に攻めていた坂本ヒロシを演じた人物である。前作の分からず屋が、後作で理解ある人物になっていたのはチョット嬉しい(笑)。
 また、ゆきを演じた金井由美さんは、「我が子を思う余り理不尽な言動に出る。」という母親役の演技に長けた方で、その姿は『キカイダー01』第4話でも見ることが出来る(『キカイダー01全話解説』も参照して頂けると嬉しい)。
 小林ゆきの理不尽振りは眉を顰めたくなるが、母としての感情からある程度理解は出来るし、その理不尽さを裏打ちしている母性を演じる金井さんの好演は見事なものが在る。それゆえ、かかる人物もストーリーに時として必要なことを実感させられるのであった。


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令和六(2024)年一月二日 最終更新