第6頁 白土純……悲哀と自然和解

作品『ウルトラマンレオ』第6話「男だ!燃えろ!」
被害者白土純の恋人・洋子
真の加害者暗闇宇宙人カーリー星人
矛先を向けられた者おゝとりゲン
解決星人打倒による和解
事件 事の起こりは突如現れた暗闇宇宙人カーリー星人の通り魔的犯行である。
 『ウルトラマンレオ』の初期にはカーリー星人同様の通り魔的宇宙人が数多く現れた。奇怪宇宙人ツルク星人、怪異宇宙人ケットル星人、透明宇宙人バイブ星人、分身宇宙人フリップ星人等々で、そいつらの多くは神出鬼没的に等身大で街中に現れては出会う人々を殺傷するという、地球人にして見れば迷惑極まりないどころか、危険極まりない存在だった。しかも目的が分からないから、誰が狙われるか分からず、用心のしようがなかった。

 通り魔的に突然現れては命を奪っていく点はほぼ共通していたが、カーリー星人の場合、何故か若い女性を対象としていた。同時にこいつの特徴として、妙に粘着質なところがあった。
 というのも、通り魔宇宙人の多くはおゝとりゲン(真夏竜)を初めとするMAC隊員達が駆け付け、(主に人数による殺陣的に)不利を悟ると撤収する者が少なくなかったのが、カーリー星人は妨害を受けて尚、標的を害することにかなり執着していた。
 第6話序盤で白土純隊員(松坂雅治)の彼女・洋子(菅沼恵美子)を襲った際、ゲンの運転する車で移動する彼女をわざわざ追跡して襲撃し、ゲンの妨害を受けると巨大化して彼女を踏み殺してしまった………。
 その後も若い女性を襲い、その襲撃に被害女性は悲鳴を上げて逃げ惑っており、殺害という目的もその過程も楽しんでいるように見えた(この時の襲撃は白土によって阻止された)。
 MACによる獲殺作戦が行われた際にも、最初に相対した黒田明夫(黒田宗)隊員を負傷させ、それに加勢せんと青島一郎(柳沢優一)隊員が駆け付けると、逃げると見せかけて不意打ちで青島も負傷させた。
 その後、詳細は不明だが、桃井晴子隊員(新玉恭子)も負傷せしめており、MACに対して逃げるどころか強く抵抗しており、その横暴振りは例によってウルトラマンレオに倒されるまで続いた。



生じた被害と怨み 何せカーリー星人のやっていることは通り魔である。一応設定によると地球人皆殺しが最終目的だったようだが、単体で遭遇する女性を一人一人襲うやり方では最終目的達成は果てしなく遠いと云わざるを得ない(苦笑)。
 MACのパトロール網の中にいたことから、行動範囲は決して広くないと思われる。またMACが総掛かりで作戦に出る直前に女性を襲っていた際に白土の妨害を受けたのだが、この時は急所である眉間に攻撃を受けた為か、即座に撤収している。同様に、ゲンに眉間を殴られた際も即座に巨大化しており、カーリー星人は不利な勝負はしないタイプであることが伺える。
 しかし、それでありながら同じ地域で女性襲撃を続けようとしていたのだから、作戦行動であれ、愉快犯であれ、このカーリー星人は殺されるまで通り魔を辞めなかったと思われる。

 結局、作中で確認出来た被害は。
・洋子殺害
・MAC隊員3名負傷
・巨大化後の大暴れにおける破壊家屋多数
 となる。



恨みの理不尽性 おゝとりゲンが護衛していたにもかかわらず、洋子が殺されたことで当然白土純は激昂した。ゲンを殴り飛ばし、口を極めて罵り、洋子を守れなかったことを力なく謝罪するゲンに、「貴様なんかに謝って欲しくない!」、「貴様の顔など二度と見たくない!」等と云って、完全に冷静さを失っていた。

 これは現実世界に置き換えてみれば、警察関係者が同僚に恋人を守らせていたにもかかわらず恋人を通り魔に殺され、犯人を取り逃がしたに等しい。ゲンが一般人だったのならまだしも、作中にて「地球最強」とされている筈のMAC隊員が守っていながら彼女を守れなかったとあっては、白土の激昂振りに一定の理解が示せないでもない。

 ただ、白土には悪いが、やはりゲンのことを責め過ぎだった。

 ゲンは決して等身大での戦いにおいてカーリー星人に劣っておらず、急所である眉間に拳骨を入れることでダウンさせることに成功している。そこでカーリー星人は即座に巨大化したのだから、ゲン=ウルトラマンレオであることを知らない者からすれば、洋子の死は不可抗力である(しかも洋子はゲンの指示とは異なる方向に逃げてカーリー星人に踏み潰された)。
 その後、カーリー星人への(地球人の手による)攻撃は眉間以外には効き目がないことを自身がその経験で掴んでおり、黒田・青島・桃井の三隊員が抗し得ず負傷に追いやられている。残念ながらカーリー星人の戦闘能力は地球人のそれを大きく宇和待っていると云わざるを得ないし、等身大での戦いにあっても、ゲン、モロボシ・ダン(森次晃司)を除くMAC隊員が宇宙人に抗し得た例は数える程しかない(決着前に星人が逃げたり、巨大化したりした例も多いが)。
 地球人に在って最高の戦闘能力と武装を持ちながら眼前で彼女が宇宙人に殺されるのを守れなかったゲンに対して白土が激昂する気持ちは痛い程分かるが、謝罪を受け入れず、顔も見たくないと云うのは態度や台詞として出すべきではなかったと思われる。

 一応、白土純という人物の為に弁護しておくと、このときの白土の理不尽振りは怒りと悲しみによる一時的なものであると断言出来る。白土ゲンだけではなく、洋子殺害の直後に現れたウルトラマンレオがカーリー星人を倒せなかったことにも怒りを露わにしていた
。  そして彼女の仇を取るべく地上任務に志願した訳だが、女性を助けた際もカーリー星人を深追いせず、その時の様子を元に他の隊員達にカーリー星人打倒の助言を行っていたから、仇討ちに眼が眩んでいた訳ではなかった。
 そしてウルトラマンレオがカーリー星人を倒すと、(ゲンへの嫌味の為ではあったが)「ウルトラマンレオのお陰」として、洋子惨死後に星人を倒せなかったことへの恨み言は捨てた様だった。
 何よりレギュラー入りを果たした3ヶ月後の第18話では、パトロールでゲンと共に山口百子(丘野かおり)のマンション近くを通った際には、白土ゲンに「(百子の)様子を見て来てやれよ。心細いだろうから。」と呼び掛けてほほ笑んでいた。
 元々宇宙勤務にて地球で過ごす貴重な休暇をゲンと共に過ごしていたぐらいだから、ゲン白土は仲が良く、レギュラー入り時には完全に元の仲に復していたのだろう。自らが宇宙人の為に彼女を失った経験を持ちながら、ゲンに彼女を気遣うよう助言していたのだから、白土は極めて気の良い奴であることが伺える。

 逆を云えば、そんな気の良い奴でも突然酷い形で彼女を失えば当事者すべてを恨みたくなるのである。交渉不可能な宇宙人や野生動物が加害者なら「討ち取る」しか考えられないが、同じ人間の手に掛かったのであれば、加害者への恨み骨髄となることは想像に難くない。
 白土純の変貌には、人命が理不尽に失われることが周囲にて関わるすべての人間にとって不幸であることが教えられる。


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令和五(2023)年一二月五日 最終更新