第7頁 佐原唄子……我が子が一番大事なのは分かるけどね その2

作品『仮面ライダーBLACKRX』第26話「ボスガンの反撃」
被害者佐原唄子の子供達
真の加害者怪魔獣人大隊隊長ボスガン・怪魔獣人ガイナギンガム
矛先を向けられた者南光太郎
解決自然解決
事件 事の起こりはクライシス帝国地球攻略兵団の幹部で、怪魔獣人大隊隊長にして海兵隊長であるボスガン(演:藤木義勝、声:飯塚昭三)が野心を抱いたことにあった。
 『仮面ライダーBLACKRX』における悪の組織・クライシス帝国は故郷である怪魔界が滅びの運命を迎えようとしており、移住先を地球に求め、先住民である地球人を屈服させんとしていた。
 勿論その侵略行為は仮面ライダーBLACKRX・南光太郎(倉田てつを)に悉く阻止された訳で、業を煮やしたクライシス皇帝は第25話にて地球攻略兵団の総司令官であるジャーク将軍(演:高橋利道、声:加藤精三)に怪魔通信を送り、半年以内に然るべき成果を挙げないと処刑だと告げた。

 これを傍受したボスガンは上司の危機を、自分が取って代わる好機と捉え、ジャーク将軍に命じられた蠍座の花嫁5人を皇帝への生贄として集める任に従事しつつ、一方で任務にない仮面ライダーBLACKRX暗殺を画策した。
 このときジャーク将軍は機甲隊長ガテゾーン(北村隆幸)と牙隊長ゲドリアン(渡辺実)にRX打倒を命じており、自分がその任に当りたいとしていたボスガンの申し出を却下していた。つまりボスガンがこの第25話にてRX打倒を画策するのは越権行為であり、独断専行だった。しかも他の任務(生贄収集)を従事するよう命じされている最中に、事前に却下されたことを勝手にやるのだから、命令不服従でもあり、軍隊の常識で云えば軍法会議に掛けられて厳罰を下されてもおかしくない行為だった。

 勿論ボスガンもその危険性は充分に承知していた。
 何せ政治的気に危うい立場にあるジャーク将軍に取って代わろうとしている訳だから、周囲に有無を言わさぬ手柄を立てなければならないし、目論見がバレればジャーク将軍本人のみならず、他の三大隊長を敵に回す可能性が高く、特にジャーク将軍に大恩を感じている諜報参謀マリバロン(高畑淳子)辺りならボスガン暗殺を考えてもおかしくない。
 それゆえボスガンは作中にあって最高レベルなほどRX打倒に熱中した。ただ、ストーリーの答えを先に書いてしまうと第25話・第26話に渡ったRX打倒策は必然と云おうか、当然と云おうか失敗に終わり、ジャーク将軍もボスガンが頼りとした得物(怪魔稲妻剣)を破壊することでボスガンの野望を挫いたことで大笑いしてそれ以上彼を咎めなかった(第27話でボスガンが大口を叩いた時には皮肉の材料に派していたが(笑))。
 以後、ボスガンは完全にジャーク将軍の懐刀に徹する様になったが、結果はともあれ、第25話・第26話のボスガンは尽くせる限りの手を尽くした。

 ともあれ、第25話で本来の任務であった蠍座の花嫁5人誘拐の一人に南光太郎のガールフレンドである白鳥玲子(高野槇じゅん)を選び、それを追って来たRXを怪魔獣人ガイナカマキルと共に迎え撃ったが、自慢のサーベルは堅牢な肉体を誇るRXロボライダーの体を切り裂くどころか折れてしまい、ガイナカマキルも敗れ、撤収せざるを得なかった。
 続く第26話では前話の失敗を振り返ったボスガンは、ロボライダーの体をも切り裂ける怪魔稲妻剣を準備し、部下の怪魔獣人ガイナギンガムを派し、光太郎を孤立させ、精神的に追い込んで、これを討ち果たさんとした。

 人の体を攻める戦術より、人の心を攻める戦略の方が陰湿になる傾向が強いのは世の常である。このときボスガンガイナギンガムに従事させた光太郎孤立策は周囲への脅しである。
 つまり、「光太郎に関われば我が身に危険が及ぶ。」と思わせ、彼等及び彼女等に「光太郎と関わるまい。」と思わしめることで光太郎を孤立させ、そこを新兵器・怪魔稲妻剣で討ち取らんとしたものだった。



生じた被害と怨み 実のところ、ボスガンの目論見が通じたのは佐原唄子(鶴間エリ)だけだった。突然戸口に現れたガイナギンガムに恐怖した唄子は、南光太郎に近付くなとする脅しに恐怖しながら承諾し、直後に訪ねてきた光太郎を邪険に応じて追い返し、帰宅した我が子である茂(井上豪)とひとみ(井村翔子)に今後光太郎と会わないように命じた。

 だが、茂もひとみも母の命令に従わず、光太郎を追って飛び出してしまった。
 シルバータイタンが思うに、ボスガンガイナギンガムによるこの卑劣な脅しは戦略の一端で、脅し自体は然程本腰を入れたものでは無かったのではないかだろうか?確実に光太郎を孤立させるなら、光太郎が親しくしている関係者を皆殺しにすればいい。勿論、玲子・ジョー・佐原一家を害すれば光太郎の戦意は凄まじく燃え上がるだろうし、時に怪魔界に誘拐されたこともあり、クライシス帝国に怒り心頭の茂・ひとみが光太郎への絶大な信頼を失うとは考え難いし、端から光太郎と行動を共にしてきた白鳥玲子や、記憶まで奪われた霞のジョーは云うに及ばずである。
 それゆえ、ボスガン達は唄子を脅したのみで、玲子やジョーは脅しを行わず、玲子に対しては自動車事故を装った負傷で脅しに替えていた(言葉による脅しは効果が見込めなかったことだろう)。

 ただ、唄子の狼狽振りに光太郎の方が佐原一家を案じて身を引かんとしたから、全くの無効果でもなかったのだろう。失意の光太郎ボスガンガイナギンガムの二人掛かりで光太郎を一時貞な失明状態に陥れることに成功もした。
 実際に光太郎の周囲に人がいなくならなくても、光太郎自身に「誰かと関わっちゃいけない。」と思わせ、そこから精神的な不安定を呼び込めれば、副次的な脅しとして、「儲け!」的な効果はあったかもしれない。

 勿論、最終的に策謀の効果は一時的なものでしかなかった。
 唄子への脅しに成功しても茂とひとみが従わなくては効果としては弱かった。寧ろ孤立する光太郎を案じて追っていた二人を人質にした方が光太郎を追い込んでいた。
 玲子の怪我はすぐに治り(二週間後に復帰)、失明状態の光太郎を庇って身代わり的にボスガンに対峙したジョーは怪な稲妻剣で腹部を斬られ、入院して約三ヶ月の戦線離脱を余儀なくされたものの、致命傷と云う程でもなかった(第26話内では死んでもおかしくない描写だったが)。

 光太郎自身は、自分に関わった多くの人々が負傷したり、恐怖に曝されたりしたことを案じて周囲と距離を取ったが、それも一時的なものだった。



恨みの理不尽性 まあ、答えはほぼ書いているに等しいが、佐原唄子ガイナギンガムの脅しに屈して、南光太郎孤立に加担してしまったことで、理屈的には、「唄子光太郎ではなく、ボスガンガイナギンガムを恨むべき。」という話である。

 ただ、この一件で唄子を悪く思う人はそんなにいないだろう。

 母として、唄子が我が子である茂・ひとみの安全を第一に考えるのは当然のことで、「子供を殺す!」と脅されて「どうぞ。」なんてほざく親などいないだろう。まして相手は怪物である(関係ないが、その前話で霞のジョーは脛毛だらけの脚を指してガイナカマキルに「怪物!」と云われていた(苦笑))。下手に逆らえば自身の命すら危ぶまれた。
 心情としては、第3頁の小林ゆき・第5頁の岡村りつ子に近いだろう。

 唄子に酷な云い方をすれば、ガイナギンガムの前で応じた振りだけして、光太郎に冷たくしなければよかった、という意見もあるかも知れないが、唄子と彼女の夫・俊吉(赤塚真人)は最後まで光太郎が仮面ライダーBLACKRXであることを知らず(薄々感づいていた感も少しはあったが)、眼前の怪物に恐れを為しても、一般ピープルとしては無理ない話だったと云える。
 とはいえ、脅し直後の唄子光太郎に対する拒絶反応はまだやんわりとしたもので、立ち去った光太郎に対して涙ぐみながら詫びていたから、脅しに屈したことへの罪悪感もあっただろう。

 上述した様に、一時光太郎が身を引いた形にはなったが、すぐに光太郎と佐原一家の交流は復活した(勿論光太郎が恨む筈もなかった)。そして最終回の手前である第47話にて、唄子は茂とひとみを人質にせんとして捕らえようとした最強怪人ジャークミドラから二人を守らんとして俊吉共々その命を落とした………。
 夫と供にジャークミドラの脚にしがみつき、子供達に「逃げてぇ〜!!」と絶叫していた彼女の母としての想いを誰が疑おうか(否、疑いやしない)。
 唄子の人間性を思えば、本作で採り上げたのは適切ではなかった気がしないでもないが、そんな母親としての想いを利用したボスガンの卑劣さを訴えたくて本作にエントリーしたことを蛇足ながら付け加えておきたい。


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令和五(2023)年一二月二五日 最終更新