第8頁 浅倉威………弁護のしよう無いって!

作品『仮面ライダー龍騎』第17〜20話、第32〜36話、第38〜第50話
被害者浅倉威?
真の加害者同上
矛先を向けられた者北岡秀一
解決無し
事件 事の起こりは浅倉威(萩野崇)その人自身である。
 凶悪事件を起こし、法の裁きを待つ身だったところを悪徳弁護士・北岡秀一(涼平)が弁護を引き受けたが、犯行動機が「イライラした。」だったことで、北岡の辣腕をもってしても懲役10年の実刑判決に減刑させるのが精一杯だった。

 刑に服すべく拘置所に収監されているところに、ライダーバトルの盛り上げ役として浅倉に着目した神崎士郎(菊地謙三郎)からカードデッキを渡されたことで仮面ライダー王蛇に変身する力を得て浅倉は脱獄した。
 脱獄後、まず目的としたのは自分の無罪判決を勝ち取れなかった北岡の殺害だった。

 だが、その目的は様々な形ではぐらかされ続けた。
 基本、北岡浅倉を相手にしていなかった。浅倉の憎悪や残虐性向は理屈的にぶっ飛んでおり、北岡にとって法論理や智謀で組するには最も不向きな相手だった。加えて北岡は不治の病に侵されており、永遠の命を得ることを目的として仮面ライダーゾルダとしてライダーバトルに邁進しており、最終的な勝者になる為には王蛇=浅倉も倒す必要があったが、優先順位としてはかなり下に置かれていた。
 また、ライダーバトルそのものを止めようとする城戸真司(須賀貴匡)や、過去の恩義から北岡に絶対の忠誠を尽くす秘書兼・ボディーガードである由良吾郎(弓削智久)の妨害もあって、まず両者はまともに相対しなかった。

 だが、浅倉の凶悪性・執念深さは群を抜いており、執拗に北岡を追い続けた。またその執念深さは一度悪意を抱いた相手はとことん狙い続けることとなり、そこにライダーバトルが絡んだこともあって、仮面ライダーライア・手塚海之(高野八誠)、仮面ライダーガイ・芝浦淳(一條俊)、仮面ライダーインペラー・佐野満(日向崇)と、三人のライダーをその手に掛けた。

 終盤、死期を悟った北岡が思うところあってか、「浅倉と決着を付けようと思う。」として対戦を決意。遂に行われた仮面ライダー王蛇VS仮面ライダーゾルダの対決は王蛇の勝利に終わったが、実際には北岡は大戦直前に息を引き取っており、ゾルダの下から出て来たのは北岡の遺志を継いで身代わり参戦した吾郎だった………。
 最終決戦時、現場は既に警官隊に包囲されており、目標が失われていたことに愕然とした浅倉は自棄糞気味に警官隊の中に飛び込み、一斉射撃を受けて落命。その長く多大な犯歴に終止符が打たれたのだった。



生じた被害と怨み 被害も何も、浅倉威が有罪判決を受けたのは完全な自業自得である。
 不幸な生い立ちがあり、常に誰かを殴っているか殴られているかしないと落ち着かないとする心境にまで追い込まれた経歴に一抹の同情を感じないでもないが、それはそれである。そんな苛立ちから暴力を振るわれたり、殺害されたりすることに納得の出来る被害者など皆無であろう。

 好戦的な性格や、元々は頭の回転が速いことに加えて数々の修羅場を潜り抜けて来たことで仮面ライダー王蛇になる前から銃を持った数人の刑事を相手に互角以上に戦える戦闘能力を身に着けていたし、ライダーバトルにおいても他のライダー達に直接戦闘で後れを取ることは無かった(策には嵌りまくっていたが)。

 何せ少年期に弟を殺害せんとして自宅に放火して両親を死に至らしめており、高校中退後に職を転々として暴力や殺人を重ねるというぶっ飛んだ経歴を持ち、野宿時に焚火で焼いたトカゲを食べていたことからもまともな人生を送って来たとは思ない。
 仮面ライダーファム・霧島美穂(加藤夏希)の姉も殺害していることが作中で明らかにされているが、恐らくは他にも数々の傷害・殺人を行っていたであろうことは想像に難くなく、少年院や刑務所にぶち込まれたことも一度や二度ではないと思われる。
 設定における浅倉の年齢は25歳だが、恐らく高校中退から成人までの間に重大事件を起こし、未成年故に死刑を免れ、25歳になる手前辺りまで服役していたか、逃げ回っていたと思われる。

 当然、浅倉にも逮捕される時が来た。詳細は不明だが、いくら戦闘能力に優れ、悪智恵に長けていても、短絡的な犯行を繰り返していていつまでも逃げられるものでは無い。そして法の裁きを受けることとなった訳だが、上述した様に弁護を担当したのが北岡秀一だった。

 北岡は、所謂、悪徳弁護士で、                                                                                                     目的とするところは社会正義ではなく金で、目的遂行の為なら卑劣な手も辞さず、多くの企業から顧問弁護士として頼りにされていた。
 作中でも大企業の御曹司で仮面ライダーガイでもある芝浦淳が逮捕された折にその父親から依頼されて警察に乗り込んでその身柄を釈放させており、芝浦から「さすが。」と云われていたが、恐らく後ろ暗いところを数多く持つ大企業の経営者から官憲から追い詰められるのを阻止する存在として重宝され、その見返りに莫大な報酬を得ていると思われる。
 城戸真司が務める新聞社の同僚桃井令子(久遠さやか)は北岡に弁護を求めることを「有罪を認める様なもの。」と評していた。

 だが、これまた上述済みだが、浅倉に下された判決は懲役10年だった。裁判が地裁・高裁・最高裁のいずれで行われたものかも、その経過も一切不明だが、浅倉が動機を「イライラした。」と法廷で述べたこともあってか、北岡に云わせると懲役10年でもかなり減刑させた方だった。
 浅倉の罪状に対する検察の求刑が分からないので、懲役10年に留めたのがどれほど凄いことなのかははっきりしない。ただ、浅倉の犯罪傾向は明白で、手に掛けた人数も一人とは思えず、動機も情状酌量を見出せるものとは思えないことから、求刑が死刑であったことは充分考えられる。もし求刑死刑を懲役10年に食い止めたのなら相当な手腕である。
 ただ、悪智恵の働く浅倉北岡のことなので、複数の犯行を証拠不十分で無罪(つまり浅倉以外の第三者の犯行)に持って行っていたとしたら、求刑段階で無期懲役だったことも考えられ、それなら数々の減刑材料を総動員すれば懲役10年が妥当と云えなくもない。何せ、現実の裁判でも求刑された量刑はまず判決において軽減されるのでな(嘆息)。

 だが、浅倉が求めたのは無罪判決一択だった。
 さすがに判決前の経過段階で無罪が見込めないと思っていたのか、浅倉は判決前から北岡を「役立たず」と罵っていた。浅倉の立場で物申すと、浅倉にとって北岡は、「無罪判決獲得の依頼を果たせず、自分に実刑を課させた」という内容の怨みを抱く存在となった。
 「有罪」とされたことを「被害」とするのも甚だ疑問ではあるのだが(苦笑)。



恨みの理不尽性 弁護士・北岡秀一にとってこれほど厄介な依頼人もいなかったことだろう。正直、シルバータイタンが弁護士だったら、依頼を断るだろうし現実世界なら浅倉威の様な被告人にはなり手がなく、国選弁護人が選任されることだろう。

 素人なりに法的な話をすると、弁護士はとにかく依頼人=被告の味方をしなくてはならない。そして被告人に不利な言動は一切行えないし、被告人との信頼関係から、被告が有罪である動かぬ証拠・証言を耳目にしても、守秘義務によりそれを口外することは許されない。
 それゆえ、腹の中で「こいつ絶対やってるよ。」と思っても、依頼人が「私はやってません!法廷では無罪を主張します!」と云われればそれに従って弁護しなければならない。

 また、起訴事実を争わない、つまりやったこと自体は認める場合でも、減刑に努めるのが弁護士の責務なので、情状酌量を訴える、反省や悔悛の情や贖罪意識を訴える、精神状態による責任能力の無さ・低さを訴える、といった法廷戦術が執られる。
 いずれにせよ、依頼人である被告と、依頼を受けた側である弁護士には信頼関係が必須となる。

 これを鑑みると、浅倉北岡の間に充分な意思疎通があったとは思えない。
 まず浅倉が望むとおりに「無罪」を勝ち取るには大きく分けて二つの手段が採られる。一つは「起訴内容の否認」で、もう一つは「心神喪失」である。前者を取るなら、起訴内容に対して「浅倉がやった。」ということを認めず、その為に浅倉の犯行とする証拠を徹底的に否定することになる。
 だが、浅倉が自身で「イライラしたから。」という「動機」を述べたことから、起訴事実を争わなかった可能性が高い。実際北岡浅倉に対して判決後に呆れながら詰っていたように、この「イライラしたから。」発言は北岡の法廷戦術を大きく綻ばせたと思われる。
 「動機」を明言すると云うことは、「やった。」と云っているのと同じで、加えて発言内容が重大な怨恨を初めとする情状酌量要因や、第三者からの拒絶不可能な命令であったことを示すものであれば減刑材料にも用いれ得るが、第三者ん同情や理解を求めるには「イライラした。」は極めて不利な材料である。
 本気で無罪判決を勝ち取ろうと思うなら、弁護士は被告人に対して犯行を徹底的に否認するよう促すだろうし、減刑の為にも裁判官や検察や被害者遺族を刺激するような挑発的な発言を戒める最低限の口裏合わせぐらい行う筈で、北岡がそれを行っていないとは思えない。
 事前に行った打ち合わせの詳細は不明だが、浅倉の発言に北岡が呆れ果てていたことから、浅倉の発言が北岡の想定外且つ、全くもって望んでいなかったものだったのは明らかである。北岡にしてみれば、「無罪を求めながら起訴内容を認め且つ裁判官の心障を悪化させる発言をしておきながら無罪にならなかったことを怨んでいる。」としか映り様が無い訳で、判決確定と共にとっとと縁を切りたかったことだろう。

 まあ、13人の仮面ライダー達が相争うのがストーリーの主軸である『仮面ライダー龍騎』の世界にあって、主人公の仮面ライダー龍騎・城戸真司がライダーバトルを止めるために奔走していた以上、どうしてもバトルを盛り上げる好戦的な存在が必要で、浅倉威にその役が振られた以上、無理矢理にでも、無用でも争いを起こす理不尽キャラとなったと云われればそれまでで、浅倉もよくよく見れば自分に力を与えた神崎士郎には幾ばくかの恩義を感じていた描写があり、自分の損にさえならなければ利用した少女の命を救ったり、と云った彼なりの「筋」は見受けられなくもない。
 勿論、だからといって現実に即して浅倉の言動は許せない者で、同様の罪を為した者は法の裁き、それも死刑を含む厳罰を課せられる必要がある。正義と悪が簡単に切り捨てられない昨今の世界ではあるが、浅倉の怨みが如何に理不尽であるかは重大な言及対象と云えよう。



余談 『仮面ライダー龍騎』の放映中、浅倉威北岡秀一の、「被告人と弁護人の在り様」は現実世界の裁判と即しても色々と考えさせられた。

 上述した様に弁護士は依頼人である被告人を裁判にて不当に裁かれることから救うために尽力する訳で、同時に被告の意志に沿い、事実がどうあれ被告に不利な言動は一切出来ない。
 それ故、無実の罪で裁かれ様としている者にとって大切な拠り所であるのは良いとして、確信犯的に悪事を重ねつつ法の裁きから上手く逃れたがっている極悪人にとって「都合の良い人材」となる。
 殆んどの弁護士は裁判所や検察を初めとする国家権力が被告を責めようとする余り暴走するのを守る為に尽力していると信じたいが、中には北岡の様に利益目的で悪に加担する弁護士(例:反社組織の顧問弁護士)もいることだろう。
 それ故、「有罪確実!」とか「巨悪組織!」等と云われる大企業や有力者の側に立って無罪や減刑を勝ち取る敏腕弁護士ほど、時として「悪の手先」と見られる傾向が生まれる(実際にそんな弁護士もいるだろうから厄介である)。

 一方で、弁護士にも仕事を選ぶ権利はあり、余りにも凶悪な事件に対する弁護を引き受けることで世間から痛烈なバッシングに曝されることを厭うケースもあれば、案件に対して「こんな奴庇えない!庇いたくない!」と思うこともあるだろう。
 それ故、とんでもない事件ほどなり手がなく、数々の凶悪事件を担った有名な弁護士が起用され、その弁護士は益々理不尽な悪名を背負わされる。

 加えて、被告は必ずしも弁護士の期待通りに動いてくれるとは限らない。
 法廷戦術・方針にもよるだろうけれど、起訴内容を認めないなら認めないで被告には有罪の言質を取られかねない余計な発言は控えて欲しい所だろう。また、起訴内容を認めるなら認めるで情状酌量による減刑を勝ち取る為にも被告には徹底的に謝罪・贖罪・悔悛の意を示して欲しいとことである。
 だが、被告の中には開き直って裁判や原告に対して挑発的な言を発する者もいれば、心神喪失・心身衰耗を訴えたいのに理路整然とした主義主張を展開する者もいれば、判決後の控訴・上告を取り下げる者までいる。

 そうまでして尽力しながら判決内容を被告に怨まれた日にゃ………つくづく思うが弁護士も因果な商売である。


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令和六(2024)年一月二日 最終更新