その3.経営力

 ショッカーを初めとする悪の組織との戦いが始まる以前、立花藤兵衛の職業は自営業だった。経営していたのは超有名喫茶店・スナックAmigoで、『仮面ライダー』のパロディーである『仮面ノリダー』で、故小林昭二氏は元ネタと同じ立花藤兵衛を演じただけでなく、元ネタ同様にスナックAmigoマスターをも作中にて務めていた。

 「おやっさん」と呼ばれることに次いで、「マスター」をと呼ばれることの多かった立花藤兵衛。戦いさえ無ければ藤兵衛は「オートレーサー優勝者を生み出す。」という夢に取り組む一般市民で、命こそなくさなかったものの、夢に邁進出来なかったと云う意味においては藤兵衛もまた悪の組織から筆舌に尽くし難い被害を被った人間の一人である(多くの仲間の死を見て来たことも併せて)。

 だが、それに負けず藤兵衛は戦い続けた。ライダーやその仲間達の師として、父として、リーダーとして、参謀として。だが前述したように戦いさえ無ければ彼にも一市民としての生活があったのである(当たり前だが)。藤兵衛は日々の糧を得る為、前頁で紹介した経済力の基盤をする為、悪の組織と戦う人々が集う場とする為に様々な店舗を経営した。

 そこでこの頁では生業を持つ一市民であり、多くの人々が集う場を提供した経営者としての立花藤兵衛とその手腕に注目したい。
◆スナックAmigo
 第一作である『仮面ライダー』にて経営。従業員である史郎(本田じょう)、アルバイターである緑川ルリ子(真樹千恵子)、野原ひろみ(島田陽子)からは「マスター」と呼ばれていた。
 同作品第13話まで経営し、第14話で同店舗が立花レーシングクラブとなったことで廃業するまでスナックAmigo (←スペイン語で「友達」を意味する)は立花藤兵衛が本郷猛やルリ子・ひろみ達と情報交換する場となり、滝和也も訪れたことがある。
 ちなみに立花レーシングクラブ設立を最後に史郎が去っているので、史郎もアルバイトであった可能性が高い。

 そのスナックAmigoの経営状態はどうだったのだろう?
 設定上の立花藤兵衛の年齢がはっきりしないので、故小林氏の生年を参考に『仮面ライダー』放映時に41歳ならばこれを本職として、自営業ゆえに時間の融通性を利したオートレーサー育成を考えていたのだろう。
 であるなら、バイクの改造・メンテナンス・トレーニング・遠征を含め、諸々の費用をスナックAmigoでの収益に依存していた訳だから、店内が多くのお客様で賑わうシーンは見られずとも、それなりに繁盛していたのだろう。

 世の中に多額の費用が掛る趣味・夢は多々あるが、悪の組織との戦い以前から藤兵衛が多額の費用を必要としたのは想像に難くない。そしてそれをある程度の取り組みが出来ていたのだから少なくともスナックAmigoの経営状況は赤字経営や自転車操業ではなかっただろう。僅か一週間で立花レーシングクラブへの事業転換(?)が為せたことも含めて。


 ここで論じる経営力とは面が少し異なるのだが、スナックAmigoに関しては、「仮面ライダーとその仲間が集まる場は喫茶店」という定義付け(←決して絶対的なものではないが)を為した、というのが大きい。
 立花藤兵衛が喫茶店のマスターを務めたのは『仮面ライダー』の第1話〜第13話と『仮面ライダーX』の全35話を合わせても通算48話で、1年にも満たない期間だが、後作品を見ても喫茶店が舞台となったケースはとても多い。
 それだけスナックAmigoが為した影響は大きく、同時に立花藤兵衛の存在もまた大きいと云えよう。


 影響を受けた後作品と喫茶店(厳密には飲食店も含まれている)
作品喫茶店(一部他の飲食店) 経営者
『仮面ライダー(スカイライダー)』ブランカ谷源次郎(塚本信夫)
『仮面ライダーBLACK』キャピトラ東堂勝(セント)
『仮面ライダークウガ』ポレポレ飾玉三郎(きたろう)
『仮面ライダー剣』ハカランダ栗原遥香(山口香緒里)
『仮面ライダーカブト』Bistro la Salle日下部ひより(里中唯)
『仮面ライダー電王』ミルクディッパー野上愛理(松本若菜)
『仮面ライダーキバ』カフェ・マル・ダムール木戸明(木下ほうか)
『仮面ライダーOOO』クスクシエ白石知世子(甲斐まり恵)
『仮面ライダー鎧武』ドルーパーズ阪東清治郎(弓削智久)



◆立花レーシングクラブ
 ショッカーの別計画を追って本郷猛が欧州に旅立ったと時を同じくして、『仮面ライダー』第14話にて立花藤兵衛スナックAmigo立花レーシングクラブに改装し、「会長」と呼ばれることになった。
 もっとも、クラブ立ち上げ時点において藤兵衛は本郷の渡欧も、仮面ライダー2号・一文字隼人の誕生も知らなかったのだが。

 転業の理由は作中明らかにされていないが、殆どバイクの経験・免許がないどころか、全く関係ない技能の持ち主が集まっては軽音楽を鳴らしてダンシングに耽る若い女性達を、咥えパイプのジト目で白眼視する藤兵衛の表情からすると、これはショッカーとの戦いによるオートレーサーとしての訓練に集中出来なくなった本郷猛に夢を諦めさせまいとした立花藤兵衛の親心だったのではなかろうか?
 実際、第53話で本郷猛が復帰すると、レーシングの特訓シーンが再度見られるようになり、本郷もまた欧州にて現地の一流レーサーと競って腕を磨いていたことを口にしていた。

 これらの経緯もあってか、立花レーシングクラブは消えこそしなかったものの、第74話にて少年仮面ライダー隊が正式発足するとクラブとしてのカラーはすっかり失せてしまった。
 だが少し考えるとこれは無理もない話かも知れない。
 第15話では立花レーシングクラブは早くもショッカーの襲撃を受けており、決して安全な場ではなかった。
 集まったメンバー達が野原ひろみの友人達で、後々加わったメンバーも既存メンバーの縁故とも云えるメンバーで、有る程度悪の組織と対抗する意志無しに入会を希望することも、入会を受け入れることも無かったと思われる。

 いずれにしても立花レーシングクラブは重要な存在であり、正義を愛する者達のベースキャンプでありながら、経営という意味でのカラーはすっかり色を潜めていたのであった。


◆セントラルスポーツ
 『仮面ライダーV3』の第3話にて新規オープン。第1話でハサミジャガーの襲撃を受けたことで少年仮面ライダー隊本部は地下に埋没したが、藤兵衛はこれを逆手に取り、デストロンの眼を逃れて地下に本部を築き直し、それを隠蔽する為、地上にはスポーツ用品店・セントラルスポーツを設置したのだが、早くものその話で開店祝いの花輪がデストロンから届いていたから、「ダメだ、こりゃ」(byいかりや長介)の一言で在った(苦笑)。

 元々がカモフラージュを前提とした開店の為か、セントラルスポーツは頻繁に登場しながら、商売をしているシーンは皆無に近かった。
 第46話でヨロイ元帥(中村文弥)から釈放され、手紙を届けるよう命じられた老人が店頭に現れた際に、「私が主人立花藤兵衛です。」と名乗っていたのが店長としての数少ない姿で、結局は少年仮面ライダー隊の「会長」という立場に終始していたと云える。

 以上から、生業でもあるセントラルスポーツ経営からは藤兵衛経営力を窺うことは出来ないが、利潤率はともかくとして、それなりの客数は獲得していたのではないか?とシルバータイタンは見ている。その理由は、『仮面ライダーV3』における少年仮面ライダー隊の隊員が数・範囲ともに『仮面ライダー』における少年仮面ライダー隊のそれらを凌駕していた、という点に見られる。

 『仮面ライダーV3』の第32話では少年仮面ライダー隊の夏合宿が展開されたが、一同にあれだけの人数が集まった例は『仮面ライダー』にはなかった。また四国・中国・近畿・東海地方に隊員がいたことも『仮面ライダー』では見られなかった。
 滝和也がアメリカに帰国し、FBIとの繋がりはなくなるも、国際警察やインターポールとは多少の繋がりは持っていた藤兵衛率いる少年仮面ライダー隊だったが、国内では警察機構と協力し合っていた様子は微塵もなく (笑)、そうなると、国内に広い人脈を広げる為には喫茶店よりはスポーツ用品店として大量のユニフォームを受注する商売の方が適していたことだろう。

 何か、経営という本来の目的からは逸れた気がするが、立花藤兵衛の手腕を推測する一端にはなった気はする(←自己満足)。


◆喫茶COL
 ある意味、『仮面ライダーX』における第1話〜第4話までが立花藤兵衛が一市民として最も心安らぐ日を送っていたのではないだろうか?
 同番組の第5話にて約1ヶ月振りにブラウン管上に登頂した藤兵衛喫茶COLの「マスター」となっていた(←なし崩し的にアルバイトを務めたチコ(小板チサ子)・マコ(早田みゆき)にそう呼ばれていた)。

 同話にて藤兵衛はCOLにやって来た神敬介に「俺の名は立花藤兵衛。かつて少年仮面ライダー隊の会長をしていた男だ。」と名乗ったが、「かつて」ということはデストロン壊滅をもって少年仮面ライダー隊は解散したと見られる。
 まあ『仮面ライダーV3』の最終回で少年ライダー隊の面々は(僅かな人数とはいえ)デストロンの襲撃を受け、海岸に逆さ吊りにされ、満潮を利した溺死を強いられ掛けたのだから、デストロン壊滅後まで隊を維持する必要はなかっただろう。

 またスクーターに乗る藤兵衛に対し、通園バスから大勢の園児達が藤兵衛に手を振り、藤兵衛もそれににこやかに手を振り返していたシーンから、子供好きな藤兵衛さんが地域住民として溶け込んでいたことも類推される。
 これまた推測でしかないが、ようやく訪れた平和を満喫したい気持ちから藤兵衛はショッカーとの戦い以前の日々に回帰したい気持ちから再度喫茶店のマスターになったのではなかろうか?『仮面ライダーSPIRITS』にてデルザー軍団との戦いを終えた世界で、城茂とともにバイク屋(看板は「立花レーシングクラブ」)を営んでいた藤兵衛はICPOの専任捜査官・三影英介に、表情こそにこやかながらも「ワシはもう懲りたんだ。」といっていたことから、藤兵衛に取って悪の組織と戦い続けた日々は決して本意な物ではなく、多大な苦痛と悲しみが伴うものであったことは想像に難くない。
 恐らく喫茶COLの開店には立花レーシングクラブセントラルスポーツの時の様な意図はなかったのだろう。またこれ以降も多くの子供達に慕われながら少年仮面ライダー隊を再結成することがなかったのも注目したい。

 さて、本来の観察点である経営に注目したいが、ある意味、藤兵衛が最もマスターらしかったのがこの『仮面ライダーX』における喫茶COLマスターとしての藤兵衛だったと云える。その証拠となるのが、藤兵衛が店舗そのものに見せた愛着が挙げられる。
 店に現れたアポロガイスト(打田康比古)をその人と気付かず、敬介の知人と思って特製のコーヒーを振る舞い、第21話では再生GOD怪人に店内をめくちゃくちゃにされたことに憤りを見せ、直後、店内の整理をしながら「GODめ…請求書でも送ってやりたいところだ…。」と独り言を零してもいた。
 また第34話でGODに捕われた敬介とRS装置の設計図の引き換えを要求されたときはカウンターの棚に置いた壺という秘匿場所としては意外な所から設計図を出していた(意外だからこそ秘匿場所とも云えるのだが)。
 とにかくマスター然としての立花藤兵衛が最も見られるのがこの『仮面ライダーX』なのだ。

 では肝心の経営力なのだが、どうもマスターとしてのこだわりはありながら、利潤追求には然程力を入れていたようには見えない。これはGOD機関という新たな悪の組織の戦いが始まったからとも見える。
 巨大な悪の組織を敵に回したとき、自分の身が危険にさらされるのは勿論だが、家族・友人知人・御近所の方々も危険に晒されると云う厄介な傾向がある。
 少し話が逸れるが、シルバータイタンは数ある犯罪の中でも無関係な人間を巻き込んで悪びれず、時として悦にすら入る無差別テロが最も許せないと思っている。そして歴代悪の組織はそんな無差別テロを喜んでやるのである。特に喫茶COL起業直前に戦っていたデストロンは人類皆殺しを企んでいた風すらあったので、悪と戦うにおいてはある程度の人脈を必要としながらも、無関係な人間とは極力付き合わない方が良かったりする。
 実際に、第14話では狂い虫を放たれたことで珍しく満員だった喫茶COLにて数名の、という悲劇に見舞われた。
 一度前述しているが、悪の組織と戦う藤兵衛にとって、客商売が繁盛し過ぎるのは手放しに喜べない物があるから複雑である。
 だがそれでもRS装置の設計図を巡る争奪戦では南原博士(伊藤久哉)と縁のある科学者達とコンタクトを取ったり、 Xライダーにマーキュリー回路を内蔵する手術を施す設備(血液循環装置と覚醒装置付き)を整えたりする経済力を喫茶COLの利潤だけで支えていたとすれば、やはりその経営力にはかなりのものがあったことだろう。


◆立花藤兵衛経営力総論
 何と云っても立花藤兵衛には老若男女問わず人望があり、その気になれば手早く幅広い人脈を構築し、コーヒーとバイクに対するこだわりは余人の追随を許さない程だ。
 恐らく、経営そのものに全力を注げばかなり繁盛させることが出来たのではないだろうか。だが悪の組織との戦いの日々が全力を注げないようにしたと云えるだろう。

 また前述した『仮面ライダーX』第14話で惨劇の様に、経営する店舗が悪の組織の襲撃を受ける可能性が充分にあることを考慮すると、繁盛し過ぎれば多くの無辜の人々が巻き添えを食う恐れもある。そこを考えると経営の鬼となって集客に力を入れ過ぎるには躊躇する一面もあっただろう。

 逆を云えば、セーブした経営力で前頁の如き経済力を持ち得た立花藤兵衛は「稼ぎ上手」であり、それ以上に「やりくり上手」だったのではなかろうか?消費税率を挙げては、時間が経てば「足りない!」と云い出してばかりの日本の政治家には大いに見習って欲しい


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令和三(2021)年六月一〇日 最終更新