その4.メカニックエンジニア

 云うまでもないことだが、仮面ライダーは改造人間である。
 人間の頭脳と心を残しながらも、両親から受けたこの世に二つとない体を失った悲しき存在でもある。だが彼等はその悲しみを乗り越え、変わり果てた体を最大限利用して悪と戦った。

 生身の体でも、メカの体でも、耐久力以上の衝撃が加われば傷付き、機能を低下させる。そして後者の場合は万全を期すために科学的技術を必要とした。またそれを必要としたのはライダーの体だけではなく、彼等の足となり、代名詞となったバイクにも云えることである。
 そしてそこには「世界一のオートレーサーを育てる」という夢の為にバイクの製造・改造・メンテナンス技術を身に付けたメカニックエンジニア立花藤兵衛の能力が注ぎ込まれたのだった。


 では、メカニックエンジニア立花藤兵衛の腕の冴えは如何なるものだったのだろうか?

◆製造物関連
 立花藤兵衛の本職は喫茶店のマスターだった(本人的にはオートレーサー・トレーナーだったろうけれど)。ショッカーからデルザーまでの悪の組織との戦いを終えた藤兵衛が就いたのはバイク屋だった。世にエンジニアと呼ばれる職種は何を対象とするかによって多岐に渡っているが、藤兵衛の夢と経歴からはバイクの製造・改造・メンテナンスに関する技術を保有していたことは想像に難くなく、その技術は決して頻繁ではないながらもライダー達の貴重なサポートを為した。

 中でも立花藤兵衛の手によって製造された貴重な存在としては新サイクロン号ジャングラーが挙げられる。
 ベースとなったサイクロン号の正確な開発者は詳らかでないが、数々の書籍や仮面ライダー2号ショッカーライダーが所持していたマシーンから、元はショッカーの手による開発であると想像される。それを考えると新サイクロン号は全くのオリジナルではないが、元のサイクロン号をすべてにおいて凌駕するスペックを持つには少なくともサイクロン号の全性能を解析し、それを上回る力をバランス良く搭載する技術力が必要となる。
 残念ながらシルバータイタンにはメカニックエンジニアとしての知識はない(『仮面ライダーSPIRITS』に出て来た暴走族同様、発火プラグが被っているだけのバイク故障に対処出来なかった(苦笑))が、それでもバイクをばらして、組立てが出来る程度の技術ではサイクロン号を新サイクロン号にすることが出来ないのは分かる。


 そして並行して注目したいのがジャングラーの製造である。
 良く知られた話だが、仮面ライダーアマゾンの専用マシーンとなったジャングラーはインカの長老バゴー(明石潮)の設計で、高坂教授(北原義郎)がバゴーから設計図を譲り受けていたのを立花藤兵衛が実際に製造した、いわば、起こした訳である。
 勿論図面があるだけで誰でもバイクを作れる訳ではない。『仮面ライダーアマゾン』にて常識外れの科学力を発揮した古代インカ科学の超エネルギーはジャングラーにも反映されており、古代インカ帝国の秘石「太陽の石」を動力源としており、燃料補給の必要すら無かったと云うのは素晴らし過ぎるマシーンである!
 勿論この様なマシーンは『仮面ライダーアマゾン』放映から40年の時を経た現代でも開発されていない。つまり現実の科学を遥かに凌駕している訳だが、そんな未知の科学を持つ対象を設計図だけを頼りに造り上げた立花藤兵衛メカニックエンジニア振りは驚嘆する他ない。『仮面ライダー』ではイカデビルにトレーナーとして拉致された藤兵衛だったが、古代インカの超科学力を欲していたゲドン・ガランダー帝国はメカニックエンジニアとしての藤兵衛を拉致するべきだったのではあるまいか?(←悪に知恵を与えてどうする?by道場主)


 特撮番組に出てくる「博士」には生物化学や人工臓器学や細菌学の権威が目立ちがちだが、機械工学も重んじた筈である。もはや叶わぬことだがもっともっと立花藤兵衛メカニックエンジニア振りを見てみたかった、と今更ながらに惜しむばかりである。
 まあ『仮面ライダーV3』第28話で毒ガス・ギラードガンマの解毒剤を作った南原博士に化けてデストロンアジトに潜入した際は、助手に化けた珠純子(小野ひずる)が胡散臭がる化学式を書いていたので、そちらの分野はド素人だったようだ(笑)。



◆設備関連
 視点を変えて、「造った物」ではなく、「設備」で見てみたい。
 代表的なのは『仮面ライダーX』第27話で風見志郎が神敬介に施したマーキュリー回路移植手術が喫茶COLの建物内(恐らくは地下)で行われたことである。

 人体改造手術が可能な設備を藤兵衛が保有していたことも驚きだが、クモナポレオンを倒すのにはマーキュリー回路しかない、という志郎の台詞と、即座の手術に掛っていたことから推測するに、デストロンと戦っていた時期から藤兵衛と志郎は科学設備を保有していたとも取れる。
 いずれにせよ、志郎と敬介の全身の血液を総入れ替えする装置(←人工透析装置のアレンジか?)や、手術で眠る敬介を覚醒させる装置(←敬介の頭に特別なヘルメットをかぶせ、かなり大きめの機械を作動させていた)を備える設備が一朝一夕に備え付けられたとは思えないし、それらを保持するにはそれなりの技術も要した筈である。
 実際、前述の覚醒装置は2度程小爆発を起こしていたので、安全を図る意味でも技術は必要だっただろう。


 これらを総合して惜しまれるのは『仮面ライダーストロンガー』である。
 周知の通り、仮面ライダーストロンガーは改造電気人間で、城茂自身、改造手術を受けるに際して脳を守る為に自己催眠装置を自作する力を持っていた。その能力を利して磁石団長の動きを探知する為に磁力探知機を作ったりもしていたので、ここに藤兵衛メカニックエンジニアとしての力が加われば、かなり機械工学的に面白いストーリーがてんこ盛りになったのではなかっただろうか?まあ同作で藤兵衛と茂は定住せずに日本中を放浪していたので、設備利用を伴うことは出来なかっただろうけれど。


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令和三(2021)年六月一〇日 最終更新