その7.カリスマ

 『論語』に曰く、

「徳弧ならず。必ず隣あり」

と。人望・人徳のある人間は孤独になることは無い、との意だが、それに照らし合わせるなら立花藤兵衛は正にカリスマの人と云えるだろう。
 仮面ライダー達の師父足り得たのは云うに及ばず、彼の周囲には常に多くの子供達の笑顔があった(『仮面ライダーストロンガー』では日本中を放浪していたので例外)。
 「カリスマ」という言葉は古代ギリシャ語に語源を持ち、神憑り的な能力によって人々を惹き付ける力のことを意味するのが本来の使い方で、そういう意味では(自称を含む)教祖・超能力者・魔法使い等に使われる言葉と云えるが、これにこだわるなら異能者ならぬ藤兵衛に「カリスマ」と云う言葉は似合わない。

 ただ、現代日本では多くの人々の尊敬を集める集団のトップや、凄まじい人気を得ている芸能・芸術者を「カリスマ」と評する傾向が強くなっている。某ゲーム会社が手掛けた、歴史シミュレーションゲームで、登場人物の能力地に「カリスマ」を登場させた影響が大きいと見ているのはシルバータイタンだけではあるまい。

 そこで本来の意味とは少しずれるのを承知の上で、この頁では分かり易さを重視して、立花藤兵衛を「カリスマの人」と表している。彼の人望の元、仮面ライダー達を初め、多くの人々が集い、助け合ったことが最終的に数々の悪の組織を壊滅に追いやった最大にして最高の見えざる原動力がそこにある、と見る故に
◆立花藤兵衛を師と仰いだ人達
 既に「その1」で触れた様に、名トレーナーとして優れていることや昭和中期の父親然とした立花藤兵衛を「師」または「父」と仰いだ者達は仮面ライダー達を初め、数多く存在した。そしてその事実は敵方にも認められており、『仮面ライダーストロンガー』の最終回では藤兵衛を人質に取ったデルザー軍団のヨロイ騎士は、その事実を告げる際に、藤兵衛の事を「うぬ等の育ての親だ!」と表していた。『仮面ライダーアマゾン』の挿入歌・『俺は立花藤兵ェだ』でも「仮面ライダーの先生だ」と歌われているのも周知の通りである。

 名前を連ねると、本郷猛、一文字隼人、風見志郎、結城丈二、神敬介、アマゾン、城茂という素顔のライダー達が挙げられ、もう少し視野を広げると滝和也、珠姉弟、岡村姉弟、岬ユリ子も含まれ得るだろう。
 珠姉弟を除けば、(作中の悲劇を含め)両親に死なれている者達にとっての心の拠り所になっているのも見逃せない。上記の人物の中には人を指導する立場にある者も多いのだが、それでも師父と仰げる人間がいることは、それだけで心強い。その立場に極自然とついている藤兵衛カリスマ極まれり、といったところか。


◆立花藤兵衛を頼りとした人達
 立花藤兵衛に関わったすべての人………と云えそうだが、ここでは「仮面ライダーに繋がる人」・「仮面ライダーの周囲に居る人々のまとめ役」として頼られた藤兵衛を見てみたい。
 滝和也を通じて間接的に交流したFBIに始まって、ICPO、アンチショッカー同盟、国際秘密警察、南原博士の親友・教え子、高坂教授、その他オートレース関係者や世界的に高名な科学者達が藤兵衛を介して仮面ライダー達と関連した。

 普通に考えたら仮面ライダーの容姿は一般人の中にあっては目立って仕方ない。また無用のトラブルを避けたり、人間体時の襲撃を避けたりする意味からも素顔のライダー達も不必要には人前に姿を現さない(無職で世間体が悪いと云うのもあると思う(苦笑))。ライダーに会う為にも、ライダーに会えない時の為にも、窓口や仲介役として誰からも認められていたのも藤兵衛の重要性の一つと云える。


◆立花藤兵衛に叱られた人達
 時に立花藤兵衛が挫ける仮面ライダー達に厳しく接したのは言を待たないところである。「その1.名トレーナー」で触れた様に、弱音を吐いた一文字と風見は藤兵衛に殴られている(平手だが)。
 直接しかられた例は見られないが、『仮面ライダーストロンガー』の第38話で6人ライダー全員の帰国を確認して感泣する藤兵衛に解放されながら意識を取り戻した城茂は「鬼の眼に涙か(笑)。」と笑いながら呟いていた。それに対して、「こいつ!…いつの間に気付いていたんだ!?」と云いながら荒々しく茂の頭をタオルでもみくちゃにした藤兵衛も何処か可愛かったりする(笑)。

 正直、藤兵衛が「鬼」としての面を見せるシーンがそれほど多い訳ではない。だが藤兵衛を「鬼」と表しても、「仏」と表しても多くの人々が納得する。
 少し話は逸れるが、東洋の「鬼」は西洋の「悪魔」と違って、一種の神や師父としての善なる面を持ったケースも多い。「鬼コーチ」という単語は有っても「悪魔コーチ」という単語が聞かれないところにもその相違が分かり易い。
 多くの(年齢的にも幅広い)「子供」達を率い仏にも鬼にもなった藤兵衛。そしてそれが自然に受け入れられていたことも特筆に値する。


◆立花藤兵衛を認めた人達
 今更云うまでもないな(笑)。簡単に、「敵にさえも認められていた。」と述べておこう。

 立花藤兵衛は悪の組織に何度となく捉えられ、人質とされることもお約束と化していた。何度も捕えられることで「足手まとい」と酷評されたヒロインも少なくないのに、藤兵衛が人質とされたことを酷評する人はほとんどいない
 つまり、悪の組織にも認められる藤兵衛が人質要員として執拗に狙われることを視聴者もまた当たり前の事として受け入れているのである

 この視聴者の認識もまた立花藤兵衛の大きさが認められている静かな好例とするのは過言だろうか?


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令和三(2021)年六月一〇日 最終更新