Zwei. 『仮面ライダーX』に登場した「博士」達(後期編)
10.南原総一郎博士
名前 南原総一郎 演じた俳優 伊藤久哉 登場話 第23話 職業 科学者専門分野 分子学?末路 サソリジェロニモにより暗殺。 備考 没後に墓に記された名は「南原光一」
『仮面ライダーX』の第23話以降、XライダーとGOD=キングダーク(和田文夫)との戦いは極分子復元装置−通称・RS装置の設計図を巡る争奪戦となった。そのRS装置を発明したのが南原総一郎博士であった。
南原博士は「悪の組織に無理矢理研究協力を強いられる博士」の典型だった。
肩書こそ、GOD科学開発局局長という大層な地位を与えられ、助手(大半は戦闘工作員)も数多くいたが、一人娘・南原リエ(名川忍)が常時GODの監視下に置かれ、自身は世間に対しては「世界一周旅行」と云うことにされ、父娘で顔を合わせることも叶わず、RS装置の開発を命じられていた。
リエ自身、GODから何事も無い日常を送っているよう演じることを強要されていた。悪の組織のやることとはいえ、年端のいかない子供に演技を強要するのは珍しい。「飴と鞭」というのは少々違うが、GODは南原博士を服従させる為に相当神経を使いつつ、その周辺を厳重に注視していたのは間違いない。
そのRS装置とは、正式名称の「極分子復元」が示す様に、地上のあらゆる物質を分子レベルに分解することでエネルギーに変える装置で、当初はそのエネルギーで「大巨人キングダークの体を自由に動かす為の装置」とされたが、いつの間にか有耶無耶にされ(笑)、キングダークは自力で活動。作品終盤では原水爆を遥かに上回る大量破壊兵器としての悪用が恐れられていた。
仮面ライダーV3はその破壊力を「いくら我々でもひとたまりもない。」と評し、南原博士自身、「GODが使えば悪魔の兵器、しかし正しい人が使えば神の贈り物」と評し、南原博士は設計図が完成しているのに未完成を装っていた。
だが、信頼している玉井助手(池上明治)のボタンに盗聴マイクが仕掛けられていたことから、設計図の完成はGODに露見した。
部屋に仕掛けられた盗聴マイクは事前に取り外しつつも、自らの衣服に仕掛けられたマイクに気付かなかった理系人間の玉井君には「灯台もと暗し」と云う国語の復習をお勧めしたい(苦笑)。
設計図の完成を知ったキングダークは、ガマゴエモンを南原博士の下に派して設計図を強奪しようとしたが、南原博士は設計図と同時にミニモデルの、ハンドガンタイプのRS装置も作っており、それをもってガマゴエモンと対峙した。なかなか用意周到であった。
だが、ミニモデルを奪えばRS装置を作れると踏んだガマゴエモンは南原博士を殺害しようとしたため、玉井助手に庇われる形で南原博士はGODアジトを脱出した。
自分一人では設計図を守れない、と判断した南原博士は設計図を9枚に裂き、8枚を8人の友人・知人に郵送して託し、これを狙うGODと、守らんとするXライダーの争奪戦が『仮面ライダーX』後期の肝となった。
そういう意味において、南原博士はストーリーに筋道をつけたキーパーソンでもあった。その南原博士自身の専攻は不詳だが、「世界的に有名」とされており、第23話以降、科学者を初め、様々な肩書を持つ南原博士の友人・知人が登場し、人脈の広さが伺えた。
勿論、設計図を託されたことで後述の科学者(及びその周辺の人々)達はGODの魔手に曝された訳だが、誰一人それを理由に南原博士を恨むことはなかったのだから、かなり尊敬されてもいたのだろう。このことから、才覚・人望の双方に優れた博士だったと云える。
だが、南原博士自身はCOL(立花コーヒーショップ)で娘と再会した直後に、GOD悪人軍団サソリジェロニモのトマホークを背中に受けて、娘の眼前で殺害された。
自身が持っていた設計図の1枚は神敬介に託された訳だが、人類の平和を願い、広い人脈を持つ南原博士がその後生きて敬介達に協力する話を観たかったと思うのはシルバータイタンだけではあるまい。
南原博士が設計図を託した先
地図 対象者 南原博士との関係 備考 1枚目 南原総一郎 本人 サソリジェロニモによって殺害 2枚目 矢沢博士 親友 設計図が届く一週間前に交通事故で死亡のため、本人未登場。 3枚目 堂本博士 恩師 末期癌を患っていた 4枚目 江川博士 教え子 アメリカ在住 5枚目 野中博士 不詳 本人未登場 6枚目 ラビック博士 不詳 ドイツ人。設計図を西ドイツに来ていたバレリーナに渡し、本人未登場。 7枚目 不明 勿論不明 設計図を人形に隠しただけで、本人未登場。 8枚目 野田サチ子 教え子 科学者ではない模様。南原グループの一員を名乗る。 9枚目 雨宮博士 不詳 香港在住。但し、送られたのは南原博士の友人・楊博士で、雨宮博士は彼から受け取ったと云う説もある。
11.堂本博士
南原博士の恩師で、その関係と信頼からRS装置の設計図を託された人物の一人だった。
名前 堂本 演じた俳優 佐々木孝丸 登場話 第25話 職業 研究者専門分野 理論物理学 末路 癌により病没。
広大な自宅兼研究所を邸宅に住むところからして、経済的にかなり裕福になるほど学術的業績を挙げるか、高い社会的地位にあったと思われる。
野球をしていた子供のボールが屋敷の窓ガラスを割ったのをきっかけに画面上に登場。謝罪するノリオ(五島義秀)・タカシ(工藤智彰)少年をにこやかに招き入れ、お茶とお菓子でもてなしたが、これは南原博士の遺志を守るための芝居だった。
というのも、癌に冒され、余命幾ばくもない堂本博士は南原博士の遺志に自力では添えない、と考え、睡眠薬入り茶・菓子で眠らせた二人の少年の背中にα光線で設計図を焼き付け、原本は焼却したのだった。
勿論一連の行為は少年達が眠っている内に行われたもので、目覚めた少年達はそのことを知る由もなかった。
法倫房リトルボギーに云わせると、これは明らかに傷害罪に相当する。「傷害罪」は人間の体に出血を伴う傷を付けることや痣ができる殴打を加えるものに留まらず、相手の同意なく「容貌」を変化させることまで含まれる。
つまり、不良仲間の内輪揉めで仲間の髪の毛を切ったり、額にマジックで「肉」と書いたりするのも「傷害罪」となる。結構厳しい法律なのだ。
一応、転写された設計図は特殊フィルターをかざさないと見えず、紫外線を浴びないと現れず(照射量が低下すると消える様だった)、堂本博士自身も非を認めていたようではあり、明日をも知れぬ身では選択の余地が無かったであろうことは分からないでもない(「人類の平和には変えられない。」、「可哀想だが、非常手段を取る」との台詞を発していた)。
だが、設計図を転写されたためにノリオとタカシはGODに狙われ、拷問にかけられ、背中に紫外線を浴びせる為に熱い想いをさせられたのだから、無責任に故人となった堂本博士の罪は本来軽くない。
堂本博士には妻子が無かったとのことで、広い屋敷に一人で暮らし、世間離れした学問の世界に没頭していると、世間の常識とは外れて来るものなのだろうか?
いずれによせ堂本博士は邸内に妙な隠し部屋を持っていたことからして一筋縄ではいかない人物の様だが、一方で設計図原本を焼却しながら、南原博士から設計図が送られて来た時の封筒を処分していなかったという詰めの甘さのために、自分自身も、少年達もカブトムシルパンの訊問・拷問を受けることとなった。
そして堂本博士自身は自らが予想した様に、癌の悪化により、Xライダーに転写した設計図の行方を話す前に息を引き取り、その出番を終えた。
堂本博士の一連の行動を考えると、「発明に対する執着」というものが見えて興味深い。
堂本博士は教え子・南原博士の手紙から、設計図がGODの手に渡ることでRS装置が悪用され、人類の平和が脅かされることを憂慮して、設計図の隠し場所を二人の子供の背中に転写するという非常手段を取った訳だが、「人類の平和を守る」ことを目的とするなら、焼却し、そのデータを何処にも残さないのが、最も簡易で確実な方法である。
勿論、その様な手段を取った場合は、RS装置を高エネルギー抽出装置として平和利用する道も断たれる訳で、科学の発達は遠のくこととなる。
設計図を隠滅しなかったことに関しては、堂本博士だけではなく、皆が皆そうした訳だが、やはりこれ程の発明を葬ることは科学者として躊躇われたということだろうか?
二人の少年の背中に転写された設計図は、堂本博士からその事実を告げられるか、少年達が真夏の太陽光線を背中に直に浴びでもしない限り人目に触れることは無かった。
もしシルバータイタンが堂本博士の立場なら、そこまでして隠すぐらいなら、「科学の発展」よりも、「人類の平和」を重んじて、南原博士には悪いが、設計図をデータとしてどこにも残さず処分する道を取りそうなので、複雑なものを感じるが、考えてみればRS装置は「教え子の発明」なので、他人の、それも可愛い愛弟子の遺作を葬るのは科学者としては出来ない相談だったということだろう。
生憎、シルバータイタンの周囲には「博士」と呼ばれる人がいないので、そういう人物と巡り合った際には一度堂本博士の選択をどう思うかインタビューしたいものである。
12.江川孝夫博士
南原博士の教え子で、世界に誇る物理学者。アメリカのユナイテッド工科大学で教鞭を取る教授でもあり、帰国に際してプレスが大勢駆け付けるのが不思議じゃない程高名らしい。
名前 江川孝夫 演じた俳優 中井啓輔 登場話 第26話 職業 ユナイテッド工科大学教授 専門分野 物理学 末路
夫婦で帰国した江川博士とその妻・知子(真木沙織)を空港で出迎えることを神敬介から要請されたチコ(小板チサ子)・マコ(早田みゆき)は並みいるプレスに邪魔されて夫婦に近付けなかったが、実はマスコミの前に現れた夫婦は影武者で、本物の江川博士夫妻はヒッピーに変装してマスコミの目を避けて、チコ・マコの前に現れた。
ちなみにスーツ姿で影武者を引き受けた男女の方が本物のヒッピーだった。恐らくは敬介の提案に応じて変装したと思われるが、ノリがいいと云おうか、お茶目と云おうか…。
ちなみに偽の博士を記者会見に連れて行くとして、送迎の車に乗せたプレスを予想通りGODのヒトデヒトラーと戦闘工作員の変装で、敬介もそれを予測して隠しマイクをヒッピー達に持たせていたが、上手く拉致され、二人は拷問で瀕死の目に遭わされた。
拷問の際に、ヒッピーの2人組は、身代わりを引き受けたことを互いに相方のせいにしていたが、金で(少なくとも「目が眩む」ほどの金額だった様だ)引き受けたことを白状していた。う〜ん…………危険な任務を金で依頼するのは合理主義の国・アメリカらしい仕込みの考え方なのだろうか?(笑)
結局、江川博士夫婦は真鶴海岸のホテルに難を避けているのがばれ、ヒトデヒトラーの襲撃を受け、RS装置の設計図を隠した腕輪を奪われたが、すんでのところで神敬介・立花藤兵衛に助けられた。
南原博士との思い出が語られたり、科学者らしい言動が出たりはせず、普段とは変わった行動や、観光地のホテルでのんびり出来ることを半ば面白がっていた点では様々な博士とはチョット変わった存在だった。
やはり、世界的に高名で、マスコミに追われる程の博士とは多忙で、くつろぎとはなかなか無縁の存在だと云うことだろうか。
13.雨宮博士
RS装置設計図の最後の1枚を香港から持ってきて、タイガーネロに殺された、以上………………って、本当にこれだけの出番と役割だったんですよ!雨宮博士って!!
名前 雨宮 演じた俳優 城所守 登場話 第34話 職業 不詳 専門分野 不詳 末路 タイガーネロにより殺害。
これでは身も蓋のないので、もう少し詳しく話すと、香港にて雨宮博士はタイガーネロの襲撃を受け、憑依された。
雨宮博士の帰国を一文字隼人(佐々木剛)から立花藤兵衛経由で知らされた神敬介は空港に雨宮博士を迎え、安全な場所に連れて行こうとしたが、この時点で敬介は罠に落ちていた。
移動中、戦闘工作員の襲撃を受けた敬介は雨宮博士を庇いながら戦ったが、その体から出て来たタイガーネロは用済みとばかりにグラディウス(剣闘士用の小剣)で雨宮博士を刺殺した。
その直後、神敬介はアタッシュケースに仕込んだ罠にはまり、囚われの身となり、そのまま雨宮博士の存在はストーリーから消えた(正確にはタイガーネロからキングダークに設計図を渡された際に名前だけ出て来た)。
何とも呆気ない話で、雨宮博士は職業も、戦功も、南原博士との関係もすべてが不詳のまま退場した。
だが、仮面ライダー2号・一文字隼人、仮面ライダーV3・風見志郎(宮内洋)が客演し、RS装置が完成し、その脅威がライダー達を襲う展開が立った1話に盛り込まれ、翌週には最終話が控えていたのだから、そんな状況下で一博士にスポットが当たるのを期待するのは無理というものだったのかも知れない。
ま、これだけ様々な博士が出れば、中には影の薄い人もいると云うことで(苦笑)。
14.呪博士
『仮面ライダーX』最終回、最後の最後に登場。
名前 不詳 演じた俳優 声:和田文夫 登場話 第35話 職業 秘密結社大幹部 専門分野 不詳 末路 Xライダーにより、サソリジェロニモJr.ともども刺殺
神敬介の父・神啓太郎教授の親友で、敬介も「悪魔の天才」という異名とともにその存在を知っていた。そして巨大幹部キングダークの体内に座す、キングダークの正体とも云える人物(?)。
キングダークの体内に侵入したXライダーの前にその姿を現し、名乗った際に、「わしがGOD」とも述べていたが、多くのマニアがこの台詞には懐疑的である(詳細後述)。
また、神教授と生前どういう交流があったのか、博士としてどんな分野の研究をしていたのかは一切語られなかった。普通に考えるなら、「呪」なんて名字は考えられないから、本名であるかどうかも怪しい(※日本全国、「呪」の字を使った姓は存在しないようだが、「呪」の字を姓名に使うこと自体は可能)。
また、如何なる比喩にせよ、「悪魔の天才」などという物騒な呼ばれ方をした人物と、頑固な硬骨漢にして正義と誇りを重んじた神啓太郎が親友だったというのも不可解な話ではある(いつまで親友で、いつ「悪魔の天才」と呼ばれ出したかまでは分からないが)。
「呪」という姓も異様なら、その容姿も異様で、極端に肥大した頭部、青白い肌、表情の掴めぬ顔相で、頭からは何本ものコードが延び、壁に有る装置を通じてキングダークを操作していた。
少し話が逸れるが、ただでさえ正体がはっきりしない仮面ライダーシリーズの首領の中に在って、GODの首領はもっと分からない存在である。
第1話〜第20話までは阪脩氏が声を宛てたGOD総司令が首領的存在だったが、第21話ではアポロガイストの台詞にしかその名前しか出ず、第21話以降は名前すら出て来なくなった。
そして第22話から登場したキングダークは第34話で自分よりも上の存在がGODに存在することを仄めかしていた。前述の、「わしがGOD」という呪博士の台詞から、「呪博士=GOD総司令」説も囁かれるが、声の相違(前者が和田文夫、後者が阪脩)や、第1話で語られたGODの成立背景(東西両大国の首脳が日本転覆のために結成した)からも、多くのマニアがこれに異を唱えている(GOD=「Government Of Darkness」ではなく、文字通りGod(神)の如き存在と云いたかったのか?)。
おまけに『仮面ライダーストロンガー』の最終回では岩石大首領(声:納谷悟朗)の声に対して、「GOD!」と叫んでいたが、納谷悟朗氏は『仮面ライダーX』に一切タッチしていないから余計不可解だ(苦笑)。
結局GOD総司令の存在は有耶無耶にされ、キングダーク=呪博士の組織内地位も不明のまま、消化不良な形でGODは滅びた。まあどうせデルザーが背後から操っていたお約束なんだろうけれど。
いずれにせよ、呪博士は対面中にサソリジェロニモJrに背後から槍でXライダーを貫かせたが、Xライダーは背中から突き出た槍の穂先をサソリジェロニモJrに叩きつけ、折り重なったサソリジェロニモJr・呪博士の両名に「二人とも死ねぇ!」(←少々危ない台詞だ)と叫んでライドルホイップを突き立てた。
どうやら呪博士の本体に戦闘能力を殆どなかった様で、最期を悟ると、「お前も道連れだ!」と叫んで頭のコードを外しまくった。直後、キングダークの体は地に倒れ伏し、大爆発したので、コードを外すことはデススイッチの起動を意味していたのだろう。勿論この手の自爆がライダーを道連れに出来ないのはお約束通りなのだが(笑)。
結局、呪博士は神教授の親友であったこと、才能自体は悪魔的に高かったこと以外は一切が不詳である。最終回の殆ど終わり近くの登場ではやむを得なかったということかな(苦笑)。
番組に酷なことを云えば、『仮面ライダーX』が全35話という中途半端な話数で終わった(普通は1年持たない場合でも、第2クール=第26話か、第3クール=第39話で終わる)ことから、充分な吟味がなされた終わり方では無かったのだろう(しかも全35話は歴代シリーズの中でも三番目に短い)。
充分な話数を制作したものであれば、GOD総司令・キングダーク・呪博士のすべてにはっきりとした立場が描かれていただろうに、惜しまれる次第である。
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令和三(2021)年六月一〇日 最終更新