6.奇械人エレキイカ 最初から捨て石だった悲惨な存在
怪人Profile
登場作品 『仮面ライダーストロンガー』第13話「一ツ目タイタン!最後の逆襲!!」/td> 怪人所属 ブラックサタン 任務 岬守へのなりすましを含むストロンガー・タックル謀殺 性格・特徴 焦ると幹部にもタメ口をきく
ストーリー概要 ある夜、城茂(荒木しげる)はブラックサタンの襲撃を受けた。辛くもその襲撃をしのいだ茂だったが、現場に倒れ込んだ戦闘員の一人が「タックルのお兄さん」からの手紙を託された。
手紙によると電波人間タックル・岬ユリ子(岡田京子)の兄・岬守(倉石功)はユリ子を探してブラックサタンに潜入するも、身元がばれ、助けを求めていた。
茂は守からの手紙をユリ子のマシーン・テントローに残すと単身、自分とユリ子が改造手術を受けた悪魔山に向かった。
だが、悪魔山に着くと既にタックルが奇械人エレキイカ相手に苦戦を強いられていた。ただでさえ茂に先んぜんとする性格の強いユリ子が行方不明の兄からの手紙を見てじっとしている筈が無かった。
ともあれ、何とか奇械人エレキイカと戦闘員達を追っ払ったストロンガー&タックルはその後も襲撃を受けたりしたが、水中エレクトロファイアで奇械人エレキイカを撃退すると海岸沿いのある洞窟で負傷して倒れていた守を発見した。
だが、守とともにその場を脱出戦として飛び込もうとした海には毒液が流されており、そこに笑いながら一つ目タイタン(浜田晃)が現れた。
タイタンが現れたのは交渉の為(←勿論大嘘)で、大首領(声・納谷悟朗)から仮面ライダーストロンガー抹殺を命じられたが、「これがなかなか難しい。俺も命が惜しい。」として、茂とユリ子にブラックサタンへの攻撃を中止して欲しい、と持ち掛けた。
「仲間になれ。」と云うものではなく、あくまで不戦協定と持ち掛けているところが話にリアリティがあり、タイタンらしく、互いの利益になる話で「金はいくらでも出す。」とも提案したが、勿論茂が応じる筈なかった。
交渉は決裂し、ユリ子は守を連れて避難。途中で合流した立花藤兵衛に兄を託し、ブラックサタンと戦うべく茂の元に戻った。
唐突に兄を託される形になった藤兵衛は守を背負って移動しようとしたが、背負っていた守の正体は奇械人エレキイカ。「だるまさんが転んだ」的にその正体を現した奇械人エレキイカはユリ子が戻るころには再度守の姿に成りすましていた。
ようやく探し当てた兄が偽物と思いたくない故か、いくら藤兵衛が守を奇械人エレキイカだと云ってもユリ子は頑なにそれを否定した。だが、茂が最前の戦いにおいて槍でもって奇械人エレキイカに負傷させたのと同じ個所に傷があることから、守が奇械人エレキイカであると断定。
ついには奇械人エレキイカもその正体を現し、改造手術に耐えきれず命を落とした守を嘲りながらストロンガー達に襲い掛かった。
悪辣なやり方を詰りながら「出て来い!」と叫ぶストロンガーに応じる様に戦闘服をまとって現れたタイタンは「騙す方が利口で騙される方が馬鹿」と云う極悪人特有の嘲りと共に姿を現した。
一方、奇械人エレキイカもストロンガーと対峙し、海中に陸上に白兵戦を繰り広げたが、そこにタイタンに命じられた3人の戦闘員がバズーカでもって砲撃を加えた。
勿論砲撃は奇械人エレキイカを巻き込んだ。
驚き、困惑した奇械人エレキイカは「タイタン!撃つな!俺だ!味方だ!エレキイカだ!」と叫んで、砲撃中止を求めた。
恐らくは「何かの間違い。」と思いたかったのだろうけれど、タイタンから返ってきた台詞は「良いからそのままストロンガーを押さえていろ!」という非情命令。
事態が信じられず、「何だとぉ!?俺も一緒に撃つ気か!!??」と云う難詰混じりの声を挙げる奇械人エレキイカだったが、重ねてタイタンが投げ掛けた台詞は、「お前は最初からその役だ!」と云う理不尽極まりないものだった。
結局砲撃は当然の様に奇械人エレキイカ一人に致命傷を与え、奇械人エレキイカはタイタンへの呪詛の声を残して爆死したのだった。
注目点 何と云ってもその悲惨さだろう。
悪の組織が必要とあらば部下の命も顧みないのは珍しい話ではない。
しかも一つ目タイタンは後に「ブラックサタン大首領の至上命令とあれば部下の命の一つや二つ問題ではない。」と明言している。
現実の戦争でも犠牲はつきもので、「大の虫を生かす為に小の虫を殺す」的に味方を死に追いやる非常(非情?)命令は存在し得る。
ただ、その犠牲強要も作戦上覚悟の上のものだったり、自らの意思で加入した集団が掛かる集団であることを予め理解していたものだったりするならまだ報われる面が無くも無い。
しかし、作中のタイタンと奇械人エレキイカのやり取りを見れば、仮面ライダーストロンガー打倒の為に犠牲を強いられる話を、明らかに奇械人エレキイカは知らされていなかった。
少し話が逸れるが、仲間によって殺される悪の改造人間はイメージほど多くはない。
ショッカーからガランダー帝国までの悪の組織は実験や力の誇示の為に戦闘員を殺したことは多く、無能・裏切り者と見做した改造人間に処刑を仄めかした例は枚挙に暇がなく、実際に処刑の名の下に惨殺した例も有るが、「仲間殺し」のイメージが強いゲドンやガランダー帝国でさえ2、3人である。
ブラックサタン大首領も、一つ目タイタンも目的の為には部下の犠牲など一顧だにしない性格が強く、その仲間に対する非情振りは雇われ幹部だったジェネラル・シャドゥ(声・柴田秀勝)も呆れる始末だったが、それでも実際に殺されたのはこの奇械人エレキイカ一人だったりする(奇械人ケムンガは未遂)。
推測だが、改造手術には費用も手間も掛かると見られる。まして、ブラックサタンの改造手術は失敗の可能性も高く、分かっているだけでも岬守と沼田五郎が耐え切れずに命を落としている。
素体収集に苦労し、必ず成功する訳でもない改造を経て生まれた奇械人は、可能な限り使い倒したいのが組織の本音だろう。
故に結果的に犬死した奇械人エレキイカだったが、タイタンも無駄に殺したとは思えない。
部下に非情で、やり方も悪辣で、理想的な悪役であるとタイタン(笑)だが、大首領に対する忠誠と打倒仮面ライダーストロンガーへの執念は本物である。
恐らくこの第13話では確実にストロンガーを葬る決意でいたのだろう。アジトにあって燃え盛る炎を前に「仮面ライダーストロンガーを倒せ、仮面ライダーストロンガーを倒せ、仮面ライダーストロンガーを倒せ!」と念じていた様は、現在では放映から20年後に毒ガスを撒いた某宗教組織を連想させて笑えないのだが、このとき背後に侍っていた奇械人エレキイカもタイタンの本気は感じていたことだろう。
単体としての戦闘能力はそこそこで、味方に嵌められて知らない内に犠牲を強要されていた奇械人エレキイカはブラックサタンにあって随一とも云える悲惨な存在だったが、同時に「ブラックサタンらしさ」、「タイタンらしさ」を視聴者に植え付ける意味においても随一と云える貢献を為していると云えよう。
奇械人エレキイカと八代駿氏 バズーカ部隊に砲撃され、我が身に起きた事態が信じらない奇械人エレキイカの狼狽振りに対する八代駿氏の演技は秀逸である。
身も蓋も無い云い方をすれば、悪の組織の改造人間はほぼ全員が滅びの時を迎える訳だから、どんな猛者であっても周章狼狽する様を演じることは大いにあり得るし、八代氏以外の声優諸氏もそんな声を担ったケースは一度や二度ではないだろう。
ただ、この時の奇械人エレキイカの狼狽振りは単なる計算違いや命の危機に対するそれだけではない。悪の組織に身を置いてはいても、過失や裏切りなしに殺されるとは夢にも思っていなかったのだろう。
理不尽に殺されることへの怒りに正義も悪も無い。あるのは納得のいかないことへの憤懣やる方ない想いと激しい怒りで、これを演じるのは簡単に見えて難しいとシルバータイタンは考える。
そこを考えると、決して長いとは云えない時間の演技に「悪同士で裏切られた間抜けさ」と云うコミカル面と、「理不尽な仕打ちに対する怒り」と云うシリアス面を同時並行で演じた八代氏の技量に改めて感心させられる次第である(制作陣のナイスチョイスと共に)。
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令和三(2021)年九月二日 最終更新