9.アブンガー 魔神提督の印象を180度転換させた慎重派

怪人Profile
登場作品『仮面ライダー(スカイライダー)』第45話「階段シリーズ 蛇女が筑波洋を呪う」〜第47話「スカイライダー最大の弱点!0.5秒の死角をつけ」
怪人所属 ネオショッカー(スエズ運河支部所属)
任務スカイライダー抹殺
性格・特徴 勝算が確立するまでどれだけ罵られても動かない慎重主義
ストーリー概要 『仮面ライダー(スカイライダー)』第45話にて、筑波洋は自分が藁人形で呪われていることを知った。調べたところ、洋を呪っていたのは白河妙子(日高久美子)という女性で、彼女は1年前にアブンガーに殺されていた。

 その時、スカイライダーはアブンガーと対峙していたが、戦闘は小手調べ程度で終わった。
 直後、妙子の死体が西湖から上がっていた訳だが、勿論洋が殺したものでは無い。ただ、魔神提督はこの事件を利用し、怪人ヘビンガーを、妙子の可愛がっていた白蛇に扮させ、洋を主人である妙子を殺した下手人として恨んでいる風に装い、洋の心を弱め、そこに突け込まんとした。

 幸い、谷源次郎の調査もあって、白蛇が洋を妙子の仇と目していたのはネオショッカーの(一部事実に基づいた)狂言であることは程なく発覚し、スカイライダーは特に危なげなく勝利したが、その戦闘はアブンガーの放ったアブカメラにモニタリングされていた。
 ヘビンガーに勝利した直後、アブンガーは崖上に姿を現し、スカイライダーの手の内をすべて読んだ旨を宣し、スカイライダー抹殺を宣言したが、戦闘には至らず、第46話に続いた。

 続く第46話ではアブンガーはネオショッカーの作戦に殆ど絡まなかった。
 ネオショッカーは怪人カガミトカゲに人間を次々拉致させ、その被害者のある種のドッペルゲンガーを作り出して世に送り、悪事をさせては世間を大混乱に陥れていた(拉致された人間は1000人に及んでいた)。
 勿論この悪事はスカイライダー・筑波洋とその仲間達によって解明され、阻止され、事件を主導していたカガミトカゲもスカイライダーに敗れて戦死した訳だが、このときもアブンガーは前話同様スカイライダーとカガミトカゲの戦闘(におけるピンチの切り抜け振り)をモニタリングしていた。

 そして2話の間、スカイライダーを観察したことでアブンガーは勝算を確立した。
 それはスカイライダーが必殺のスカイキックを放った際に全エネルギー・10万カロリー中、2万カロリーを消費し、エネルギーが0になると次のチャージ迄0.5秒間全くの無力になるという死角・弱点を突くもので、実際にそれをシミュレートした映像を見せることでそれまで自分を白眼視していた魔神提督の認識を180度改めさせた。
 そのシミュレーション映像では、特訓に次ぐ特訓を積んでスカイキックをマスターしたアリコマンド(←滅茶苦茶貴重な人材じゃないか?)の放ったスカイキックを紙一重で躱し、相手がエネルギーを消費し切った0.5秒間にアブンガースカイキックを決めてこれを倒していた(←優秀なアリコマンド、勿体ない………(苦笑))。

 同時にアブンガーは、スカイキックを放つスカイライダーのエネルギーを確実に0にする為に、溺れる三平少年(早川勝也)の救出や、爆破攻撃で2万カロリー、3万カロリー、1万カロリー、1万カロリーと段階的に消費させ、スカイキックを放たんとした際の残存エネルギーが必要分の2万カロリーになるよう仕向ける徹底ぶりだった。

 数々の作戦・攻撃は狙い過たずスカイライダーのエネルギーを消費させ、エネルギーギリギリでスカイライダーにスカイキックを放たせるのに成功し、これを上手く躱したアブンガーは掟破りのアブンガースカイキックを決めることにも成功した!
 全エネルギーを失い、スカイキックまで食らったスカイライダーは、死こそ免れたもののアリコマンドにすら対抗出来ない木偶の坊になり果てた。だが、とどめとばかりに放たれた二発目のアブンガースカイキックがアリコマンドに誤爆し、それによって起きた爆風がライダーの変身ベルト・トルネードを回したことでスカイライダーは力を取り戻し、スカイダブルキックを決められたことでアブンガーはダムの下に叩き落される形で戦場の露と消えたのだった。



注目点 際立っているのがアブンガーの慎重さであるのは殆どの視聴者にとって異論のないところだろう。
 魔神提督に「臆病者」と罵られても、「敵を知り己を知る事こそ必勝法!筑波洋の力をすべて知るまでは俺は動かん!」と云い放って、勝算が見えるまでは頑として腰を上げないことを明言し、実際にその勝算が立った折の計画説明に対して魔神提督は「恐ろしき男よ。」と云って、それまで罵っていたのを改めた。

 第47話の冒頭で魔神提督もまた過去フィルムからスカイライダーの弱点を見出そうとしてそれが上手くいかずやきもきしていたのだから、第45話で督戦に従わず、様子見に徹するアブンガーに対して、「観察ぐらい前々から儂もやっておるわ!」と云う気持ちだったことだろうし、恐らくはスエズ運河から来たアブンガーよりも自分の方が長く観察していることを思えば、勝算が見えるまで動かないとした彼の様子見を「戦いに挑まない為の言い訳」と見ても不思議はなかった。
 だが、そうなるとアブンガーの敵を観察する能力は相当優れている。単純計算で魔神提督が前線で7週間掛けて観察した成果よりもアブンガーが3週間掛けて観察した成果の方が上だったのだから。
 勿論、回想シーンからアブンガーがスカイライダーと邂逅したのは1年前なので、放映期間で計算するのは不適切との指摘もあると思われるが、邂逅時に既にスカイライダーは強化スカイライダーとなっていたので、やはり観察期間は(強化前からスカイライダーと対峙していた)魔神提督のそれより短いと考えられる。

 別の視点で興味深いのはアブンガーの地位である。
「スエズ運河の使者」と呼ばれていたアブンガーがネオショッカーにあってどれ程の地位にあるのかは不詳だが、海外から呼び寄せた数多くの強豪怪人より明らかに高位にあり、絶対的な命令権を持っていた魔神提督が腰の重さを罵りながらも出撃を強要しなかったことからアブンガーのネオショッカーにおける席次は決して低くないか、そうでないなら魔神提督以上の権力を持つ直属上司を擁しているかが考えられるが、作中魔神提督より偉い奴は大首領以外に確認出来ない。
 もっとも、ネオショッカーにおける肩書と地位の関係は今一つ分かりにくい。海外から呼び寄せた強豪怪人達の中には将軍(黄金ジャガー)もいれば、単純に戦闘能力を買われた地位不明の者(ドラゴンキング等)もいる。ただ、魔神提督はその全員に対して上から目線で(好意的に接した者も少なくはないが)、サイダンプやマントコングやトリカブトロンの様に折檻を受けた者もいる中、グランバザーミーだけがタメ口を聞いていた(一応「提督」という肩書で呼んではいたが)。
 そんな中、アブンガーは魔神提督に絶対服従はせず、魔神提督も苦々しく思いつつ強要は出来なかったが、アブンガー自身は魔神提督に丁寧語で接していた(←登場直後はため口だったが)。
 まあ現実の社会にてシルバータイタンはどんなに高い地位にあってもすべての人に腰を低く接する方も、上司や年長者に対しても尊大な態度を取る者も見ているので、実力主義傾向の強い悪の組織では単純に語れはしないが、アブンガーが稀有且つ興味深い存在であることに間違いはない。

 また時間を掛けて練っただけあってアブンガーの戦略は緻密且つユニークであった。
 10万カロリーのエネルギーを消費させる為に事故・攻撃を織り交ぜてスカイライダーに謀略を仕掛け、エネルギー0状態を作り出した作戦展開は、成否はどうあれ理に適ったものだった。
 またそのシミュレーションの為に「特訓に次ぐ特訓を重ねてスカイキックをマスターしたアリコマンド」を生み出していた発想もユニークなら、スカイライダーにとどめを刺すの技として多くの同胞を死に追いやった掟破りのアブンガースカイキックを選んでいたのも面白かった(スカイキックをマスターするような優秀なアリコマンドを実験で殺したことへの批判もあるが(苦笑))。
 もしシルバータイタンが魔神提督の立場だったとしてもその発想を称賛し、成功の暁には大いに溜飲を下げていたことだろう。

 最後に注目したいのは、アブンガーにダークイメージが薄いことである。
 勿論悪の組織の一員だし、毒は使うし、白河妙子を初め、何の罪もない西湖付近の住人を何人も殺しているから憎むべき悪に違いは無いのだが、通常ここまで策を練る者には概して誰かを貶めることを嬉々として行う心の拗けた奴が多い。
 ただ、アブンガーは策を練りはしても、それは誰かを騙すものでは無く、純粋にスカイライダー打倒を目指したものである。確かに事故を偽装してスカイライダーのカロリーを消費させはしたが、この程度の作戦は悪計の内に入らないだろう。程度に対する捉え方は人それぞれだとは思うが、細かい攻撃を繰り返して相手の消耗を図ることなど、卑怯でも何でもないとシルバータイタンは考える。
 何より、消耗後とはいえアブンガーは自ら出撃してスカイライダー打倒に邁進した。トリカブトロンが黄金ジャガーと一騎討中のスカイライダーを狙撃したことに比べれば何百倍も堂々としている。そして作戦自体は完全に成功しつつも、爆風がスカイライダーのエネルギーをチャージするという、彼にしてみれば「そんなんありか〜!!!」と叫びたくなる不運で戦死したのである。
 別の云い方をすれば、充分に練りに練った筈の計算外的不運で華々しい戦死を遂げたと云う同情的な見方も可能で、このこともアブンガーのダークイメージを軽減していると思われる。

 それ以前もアブンガーは慎重さを含めて恐ろしい程マイペースで、魔神提督から「臆病者めが!」と罵られても、アブンガーは意に介さず、反論も云い訳もせず、罵られたことへの怨み事もなかった(一応、自身の方針は主張していたが)。
 謂わば、自らの使命に徹底して邁進しており、謀略家・策謀家と云うより任務に徹するプロフェッショナルのイメージが、策を好み、毒針を駆使する虻の持つ悪いイメージを軽減させているのではないか、と思われる。

 誠、ネオショッカーは勿論、全仮面ライダー史を通じても稀有な存在と云えよう。



アブンガー八代駿  マッハアキレスの頁でも触れたが、シルバータイタンが八代駿氏の声を当てられた怪人の中で一押しなのが、アキレスとアブンガーである。
 何度か(誤解を恐れず)触れたように、八代氏の声質はコミカルさが強く、時としてお道化やおバカな役を振られていたが、そんな従来の八代氏のイメージとは180度異なる役所を演じたものとしてアブンガーの存在は際立っている。

 勿論、現実の世にあっても声質と性格は一致する訳ではない。
 可愛らしい声色・声質でも腹の中は真っ黒で慈悲の欠片もない人物もいれば、阿呆っぽい喋り方をしていても知性溢れる人物もいれば、どすの効いた強面声質でも優しい人物もいれば、明朗快活に喋りながらも小心者もいよう。
 ただ、それでもフィクションの世界においてはストーリーの分かり易さもかねて、一回限りの登場人物やチョイ役は容姿・声色と人格が一致させられていることが多い。
 それゆえ八代氏が声を当てた怪人で云うなら、アブンガー登場の三週前に登場したゾンビーダの方がよっぽど「らしい」存在なのだが、そんな八代氏が信念に忠実で、任務に実直に邁進するアブンガーの声を担当したのは、ギャップの相違を上手く利用した好例と思われる。

 別の視点で見れば、八代氏が声を当てたからこそ、アブンガーが持つ信念の強さがクローズアップされたと云える。
 もし沢りつ夫氏や山下啓介氏が声を当てれば、アブンガーは頑固者として映ったかもしれない。市川治氏や池水洋通氏が声を当てれば、魔神提督の指揮下に属さない独立独歩性が目立ったかも知れない。辻村真人氏や西崎章治氏が声を当てれば残忍性や策謀家振りの前にアブンガーの信念の強さが薄れたかも知れない。

 そんなアブンガーも味はあったかもしれないが、やはりシルバータイタン的にはネオショッカー怪人としても、八代氏が声を当てた怪人としても、良い意味でイメージギャップと独自性が確立されたことで、八代氏がアブンガーの声に選ばれたのはベストチョイスだったと考える。


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令和三(2021)年一一月三日 最終更新