ウルトラマンA全話解説

第4話 3億年超獣出現!

監督:山際永三
脚本:市川森一
怪魚超獣ガラン登場
 冒頭の舞台はTAC基地本部。魚市川上流の石灰岩の中から古生代後期の鎧生物(←化石ではなくナマモノ)が発見され、それを生物科学センターまで搬送することで今回のTACの任務が始まった。
 深い昏睡状態とはいえ、3億年前の生物が生命を保っているのは驚くべきことで、しかも場合によっては蘇生が見込めると来た。確かに現実に存在すれば、竜隊長が言うように生物進化への大なる解明が為されるだろうし、医学に転用出来れば人工冬眠や延命治療も大きく躍進することの期待出来る貴重な存在である。
 任務には山中、北斗、夕子が任ぜられた。

 場面は替わってある大邸宅前。そこにいたのはその日休暇だった美川。大邸宅は彼女の中学時代の同窓生で、高名な劇画作家となっていた九里虫太郎(清水紘治)の自宅だった。しかし「虫太郎」なんて名前の日本人、存在するのか?「馬太郎」や「魚太郎」と言った脊椎動物でも居そうにないのだが…………?
 2日前に招待を受けてのことだったが、少し派手めな水色のツーピースを着こなす美川はなかなかにお洒落さん。というのも、美川を演じる西恵子さんの父上は服飾関係の仕事をされていて、『ウルトラマンA』にて美川が披露した私服はすべて西氏の父上が制作したものだと云う。
 まだ芸能の仕事に理解が薄かった時代(←チョット言い過ぎかな?)に、娘の仕事の為にここまで力を尽くされた父上は大変に父性愛の強い方である。

 ただ、功を遂げ、名を成した同窓生並びにその思い出話は些か陰鬱なものだった。今でこそ数々のドラマで渋い初老や、狡知に長けた悪役をこなし、『ウルトラマンメビウス』でもヤプールの人間体を見事に演じた清水紘治氏がこの時演じた九里虫太郎は少し経体格のいい、眼鏡を外した宅八●で、僻みっぽい性格の暗い青年で、中学時代は劣等生だったという。
 可哀想なことに中学校の卒業式で当時から優等生と名高かった美川に意を決して渡したラブレターはその場で封も切らずに突き返されており、しかも当の美川は「あら?私、そんな失礼なことをしたのかしら?」と覚えちゃいなかった。
 くじけるな、虫太郎。うちの道場主なんかラブレターを渡した同級生にそれを教卓の上に張り出されるという仕打ちを受け………ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ(←道場主の悪魔忍法蜘蛛糸縛りを食らっている)。

 ゲホッゲホツ……ただ、その時の手紙を後生大事に持っていて、それを美川に突き出す虫太郎は恐れ入るほど暗い……。まあ今度は美川も10年の時を経て礼儀正しく受け取り、その場で封を切ってくれたので、彼が言うところの「執念深い性格」も無駄でなかったかも知れないが……。
 ともあれ、封筒の中には簡単なメッセージと怪獣のイラストが入っていた。当時劣等生として自分に自信を持っていなかった虫太郎は行為をアピールするにしても得意の漫画を駆使するしか思い浮かばなかったと云う。ある意味、10年後に受け取って貰えて良かったものだ。女子中学生が受け取っていたら間違いなくキモオタを見る目で見られるところだったが、大人となっていた美川はその筆致に感心していたのだから。
 ただ、虫太郎は虫太郎なりに真剣に考案し、3日間も学校を休んで描いたもの(←やっぱり暗い……)で、ガランと名付けたその怪獣(←10年前には「超獣」と云う概念は存在しなかった訳ね)は古生代デボン紀に生きた古代魚をヒントにしたものだという。

 その頃、北斗達は生物科学センターに運ぶ対象である、発見された生物を囲み、観察していた。その形態から夕子は爬虫類と推測したが、山中は魚類と言い切った。その根拠が、「3億年前、日本はまだ海の底に沈んでいたんだ。」だから恐れ入る。山中隊員、あんた海亀アーケロンや魚竜イクチオザウルスと言った海に生息する爬虫類の存在を知らないのか?(笑)
 ともあれ、山中隊員の号令で3人は生物の護送に掛かった。頑丈そうなトラックに生物を水槽ごと積み、TACパンサーで護衛するのは良いが、3人ともTACパンサーに乗ってどうする?3人もいるなら2人がバイクで前衛を、1人がTACパンサーで後衛を固めるのが定石と思うのだが………。
 まあ揚げ足取りをしていてもきりがないが、案の定トラックは危機に曝された。それも丸で九里虫太郎の描く漫画と同調するように………。

 TACパンサーに先導され、山道を進んでいたトラックは、土砂に覆われたかと思うと次の瞬間には突風に空中を舞っていた。先行のTACパンサーが全くの平気だったのだから、かなりピンポイントで強烈な突風である。トラック運転手は哀れにも、虫太郎の漫画同様社外に放り出されてしまった……(はっきり描かれていないが恐らく死亡)。
 そして漫画以上に陰鬱な虫太郎はその頃、美川をドリンクに仕込んだ睡眠薬で眠らせてしまっていた。そもそも同窓会の招待自体が美川を誘い出す為の偽りだった。それにしても女性を誘き寄せて眠らせるなんて、ガキの頃は何とも思わなかったが、大人になった今ではその後の展開を想像してにやけてしまう(苦笑)。

 場面替わって、TAC基地本部。そこでは生物護送に失敗した山中・北斗・夕子が竜隊長に詫びていた。竜隊長は謝罪や処罰よりも善後策に移り、トラックが上空に舞う様な異例の事態から異次元人の仕業で、古代生物は異次元人の手に渡ったと推測。それが超獣化して襲ってくるのに備える非常体制を指示し、休暇中の美川も呼び出されることとなった。
 所謂非常呼集という奴で、何とも公的な特別組織の悲しさだが、当然美川は呼び出しに出ない。一応、高名な怪奇漫画家の家で同窓会と知っていたので、竜隊長は山中と吉村に美川の消息を確かめ呼び戻すよう指示(←一隊員を呼び出すだけで2人掛かり?!)し、今野と北斗には自分と共に王子山上空のパトロールを、夕子には普段美川が務めている通信業務の代理を命じた。

 各自、自分に課せられた任務の為に出動したのだが、美川呼び出し組の山中と吉村は殆ど久里邸を捜索せんとの姿勢でいた。ところがその2人が乗るTACパンサーに落下物が近づいているのを作戦室に待機していた夕子がレーダーにて気付いた。
 落下物の正体は何と拉致された大型トラック。幸い、直前で気付いてかわした山中・吉村だったが、両者には次の魔の手が迫っていた。
 魔の手の主は勿論異次元空間に潜むヤプールで、「人間を滅ぼすのは人間だ……人間を滅ぼす為には人間を利用することだ!戦え!久里虫太郎!破壊しつくすのだガラン!」との下知が飛ばされると空間が割れて怪魚超獣ガランが出現した。
 山中・吉村は即座にTACパンサーを降りて重火器で応戦。TACファルコンに搭乗していた北斗は同乗の竜隊長に超獣が搬送していた古代生物にそっくりであることを告げた…………どこがやねん?!(笑)
 更に北斗はTACアローにて分乗発進したが、残念ながら機銃掃射や銃火器掃射で超獣が倒れれば苦労は要らない(苦笑)。そうこうする内にガランが角からテレパシー光波を発するや、TACファルコン、TACアローは遠隔操作され、操縦不能に陥った。止む無く両機は竜隊長の下知で不時着した。
 山中・吉村達の銃火器も発射不能となり、撤収。抵抗相手がいなくなったガランは口からデボンエアガス(触れたものを分解吸収する力を持つ)を吐いて傍若無人に一頻り暴れると、その姿を消した。

 場面は替わって久里邸。そこでは虫太郎が現実同様暴れるガランを原稿上に描いていた。囚われ美川は意識を取り戻したものの、両手両足を縛られていた。仮面ライダーシリーズではそうでもないが、ウルトラシリーズではヒロインが縛られるのは珍しい……裸ならずとも一張羅のファッションで拘束され、戒めに抗って軽く呻き声を出す妙齢の女性の声は何とも色っ………ゴホ!ゴホ!ゴホ!……だが、奮闘空しく、久里邸は電波を遮断する構造となっていた。
 美川に抵抗を諦めるよう告げた虫太郎は、美川への好意とともに、自分がヤプールから念じたことが現実になる力を授かっていることも告げた。だが、彼が念じることとは欲しいものが手に入り、邪魔な奴が死ぬために発揮される身勝手なもの(←さすがヤプールに魅入られるだけのことはある)。
 虫太郎の目的の一つは美川を我が物にすることでもあったので、彼女を傷つけることはしないかに思われたが、「あんまり意地を張り過ぎて前の人みたいにならないようにねぇ。」と呟きながら彼が懐中電灯で照らした先には半ば腐乱した女性の遺体があった…………ヤプールに魅入られたのとどちらが先かは分からないが、もはや虫太郎は矯正不能な完全なる犯罪者に陥っていた。

 Bパートに映り、所はTAC基地本部。そこでは隊員達が竜隊長に対ガラン戦で機能しなかった装備に異常はなかったとの報告がなされていた。竜隊長は戦闘時に戦闘機の計器類に狂いが無かったことから、電波ではなく、精神感応、つまりはテレパシーによる遠隔操作を疑った。
 その頃、吉村はようやくにして久里邸に辿り着いていた。そこでは虫太郎が人形相手にアーチェリーでの射撃を行うという暗い遊びに興じていた………。勿論虫太郎は吉村相手に美川のことは惚け倒しに出た。だがその頃、何とか五体の自由を取り戻していた美川がブローチに仕込んでいた爆薬で監禁されていた部屋の扉を破壊したため、吉村がその爆発音に気付いた。
 勿論吉村より先に虫太郎の方が駆け付け、弓矢で美川を脅して大人しくさせようとしたが、アーチェリー経験者として言おう……接近戦のタイマンにて弓矢を用いるのは阿呆である。弓矢での脅しはある程度距離を持った上で、最低でも3名以上いてこそ効果がある。1対1の近距離では相手が強行に出たら射殺以外に出来る手段はないし、最悪、最初の一矢かわされたり、軽い怪我で終わったり、先制攻撃を食らったりしたらその後は弓矢での為す術はない。
 案の定、虫太郎は美川の先制攻撃で矢を放つ機会を逸し、その後辛うじて放った矢は少し脅しただけで終わると、弓は役に立たなかった。そこへ吉村が駆け付け、虫太郎は矢を得物にそこそこ善戦したが、やはり漫画家では超獣と戦い続ける現役軍人には抗し得なかった(苦笑)。
 階段から突き落とされた虫太郎は気絶。その隙に吉村・美川はTAC基地に帰還した。

 報告を受けた竜隊長は、虫太郎の異常とも取れる主張を真剣に受け止め、人間の妄想こそ異次元人がつけ込み、超獣を暴れさせる要因であると分析し、美川に基地から出ないよう命じた(さすがに美川も顔面を蒼白にしながら了承した)。
 そして竜隊長が懸念した様に、妄想を更に増幅させた虫太郎(←何故、逮捕監禁罪で警察に突き出していない?)は怨念を込める様に更に詳細でリアリティあるガランを描き、それに呼応するようにガランは再度大暴れを始めた。
 事態を受け、ガラン=虫太郎の暴走に自責を感じる美川は北斗達の制止を振り切り、隊長命令に背いて出撃。夕子は即座にTACパンサーで出動しようとしていた竜隊長にこのことを報告した。
 既に北斗はTACアローで美川を追っており、彼女の責任感を知る一行は出撃を急いだ。

 2機のTACアロー、そして遅れて来たTACパンサーから降り立った面々が様々な火器を用いてガランを銃撃。その波状攻撃における連携は決して悪いものではなかったが、やはり決定力に欠け、そうこうする内に北斗機が捉えられ、美川機も被弾。これを見た夕子が突出、ウルトラリングが光るのを見るや北斗は機外に飛び出して地面に飛び降り、夕子はその北斗目掛けてジャンプし、フライングタッチでウルトラマンAへの変身が為された。
 格闘戦では明らかにAに分があったが、ガランはデボンエアガスを吐いて応戦。だがAは両掌を合わせてのエースバキュームでこれを吸収してしまい、タイマーショットが放たれるとその右腕がすっ飛ばされてしまった。
 すると久里邸では虫太郎が右腕を抑えて苦しみ出した。「虫太郎とガラン」は『ジョジョの奇妙な冒険』におけるスタンド使いとスタンドと似た関係にあるらしい。ともあれ、漫画家にとって利き腕を負傷したのは致命的で、その後のガランはすっかり精彩を欠き、ガランの体が炎を上げるのに呼応して虫太郎の描いた原稿まで燃え出した。
 既に勝敗は見え、Aはパンチレーザーメタリウム光線を浴びせてこれに勝利。ガランの体と共に久里邸もまた爆破・炎上したのだった。

 ラストシーン。TAC基地にて今回の事件を総括する竜隊長は、改めて超獣の素は異次元人よりも人間の心の中にあることを断言し、妄想が主で、ヤプールによる召喚は従であるとした。それを虫太郎がラブレターに同封していたガランの絵を広げながら聞いていた美川だったが、やがて彼女の意を汲んだように吉村がライターを渡すと、絵は悪しき思い出とともに灰燼に帰し、美川は晴れ晴れとした笑顔を取り戻したのだった。


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平成三〇(2018)年七月一〇日 最終更新