ウルトラマンA全話解説

第5話 大蟻超獣対ウルトラ兄弟

監督:真船禎
脚本:上原正三
地底エージェントギロン人、大蟻超獣アリブンタ登場
 冒頭いきなり空が割れ、その裂け目からは不気味な緑色の複眼が伺われた。渋谷駅前を舐め回す様に見ていたその眼は、幾人もの女性を物色していた。作り物の目を使わず、人間の目を使ったら完全に変態親父だな(苦笑)。
 もっとも、女性にとって重大な脅威であることに間違いはなかった。やがて遊園地でコーヒーカップに乗る女性に目が着けられると、突如その女性の足元に局地的な砂嵐が起こり、女性は見る見る内に蟻地獄に呑まれて行方を絶った。
 けったいなことに、後に砂一粒残されず、周囲の人々には突然現れた蟻地獄がコーヒーカップの女性を呑み込み、忽然と消えてしまった怪事件として映り、いきおい、TACの出番となった。

 だがTACの調査では何の異常も見つからなかった。現実主義思考の強い山中は勿論、普段その思考のために信用されずに悩んでいる北斗までが証言者達に懐疑的になっていた(←今野に至っては「このポカポカ陽気じゃあ。」とまで言っていた!)。
 だが嘘をつくならこんなバレバレの嘘を集団で吐くとは思えないし、吐くメリットもない。今野の云う白昼夢を真剣に考えたとしても、集団白昼夢などもっとあり得ない。しかし山中は「夢」で片付けてしまった……。

 しかしすぐに第2の蟻地獄による犠牲者が出た。被害者は今度も若い女性で、現場には何の痕跡も残されなかった。目撃証言に従ってTACが地面を掘っても何も出て来なかった。北斗は仮面ライダーシリーズで「風が吹いてもショッカーが疑われる。」と云う傾向の如く、「異次元人の仕業に違いない!」と色めき立ち、夕子もこれに賛同したが、竜隊長からは「若い女性の失踪事件として警察に引き継ぐ。」との合同捜査会議の決定が告げられた。
 犠牲者に見られる「若い女性」以外の共通点は血液型がO型ということだけだった。勿論偶然の一致が普通に考えられる。納得のいかない北斗だったが、異次元人の仕業とする根拠を問われると、「ただそう思うだけです……。」と気まずそうに、しかし正直に(苦笑)答えるのだった。

 場面は替わって銀座。休暇で第1話以来の私服を披露する北斗と夕子のデートシーンが展開されたが、荷物持ちをさせられている北斗が笑える(笑)。既に両手いっぱいの荷物を持たされ、辟易している北斗だったが、久方振りの休暇と好天に夕子はまだまだショッピングを満喫したがっていた。
 ところが上機嫌の夕子が北斗に先行して雑踏の中歩き出した次の瞬間、例の砂嵐&蟻地獄が夕子を襲った!その悲鳴を聞いた北斗がすかさず飛びついて2人してジャンプしたため、夕子は難を逃れたが、別の女性が呑み込まれていった。
 勿論後には何の痕跡も残されず、地形から北斗は地下鉄の入り口に飛び込み、女性が姿を消した位置の真下と思われる場に来たが、そこは何の変哲もない地下街だった。
 また1人の女性が為す術なく犠牲になった訳だが、北斗と夕子は蟻型の超獣の姿を視認しており、そのスケッチをTAC本部にて竜隊長に提出した。
 そのスケッチを囲んで超獣の生態を推察するTACの面々。超獣が女性を襲う理由を梶主任は「餌にしているんじゃないでしょうか?」と推測したが、それに対する今野の反論が、「蟻の好物は砂糖だ。」だったのがアホ過ぎる………。
 お前は軍隊蟻の存在を知らないのか?
 「ロケット工学のオーソリティ」になれるほどの理系人間なのに他の昆虫を襲う蟻の性質を知らないのか?
 人類が砂糖を生成する技術を持たなかった時代に蟻は何を食べていたと云うんだ?
 お前は「アメリカザリガニはスルメしか食べない。」と思っているアホ小学生と同等の知識レベルなのか?

 チョット今野ファンが見たら激怒しそうな酷評を並べてしまったが、シルバータイタンは決して今野の性格は嫌いではない(むしろ好きなぐらいだ)。だがこのような知識レベルで普段北斗の言を疑っているのかと思うと腹が立つし、子供番組と思って今野にこんな台詞を吐かせているのだとしたら脚本家が子供を舐めているとしか思えん……。

 ともあれ、蟻の生態に関してはすぐに梶主任が他の昆虫も食べる純肉食性であることを説明し、巨大な蟻になれば人間を襲ってもおかしくないことを説明し、今野もあっさり納得した(←感情的には面白くなさそうにしていたが)。
 尚、蟻に限らず肉食性の生物はサイズ的に食えるものはなんでも食べると見るべきで、カエルでも、ウシガエルやヒキガエルと云ったビッグサイズのカエルはネズミ、小型の鳥類、小型の蛇、サソリをも食べてしまう。
 いずれにせよ、TAC陣営は大いに苦悩した。北斗と夕子の主張もいつものように頭っから信用されていない訳ではなかったが、山中は(後に何も残らなかったことをもって)ホログラフィー説を崩さず、吉村は異次元人が空間移動装置でもって四次元世界に娘達を引きずり込んだのではないか、と推測した。
 だがそうこうしている内に大蟻超獣アリブンタは地中に掘った大穴に地下鉄車両を引きずり込み、蟻酸を吐いて大勢の乗客を溶かして殺したり、車両を地中の壁に叩きつけて炎上させたりするという暴挙に出た。
 勿論少なく見ても数十名、下手をすれば数百名単位と言う甚大な数の犠牲者が出てしまった訳で、竜隊長は今度こそ即座の出動を指令した。

 場面は替わって銀座。地下鉄の出入り口は避難する人々で大わらわになっていた。避難誘導を行っていた竜隊長は隊員達から被害は蟻酸によるものだと知らされるとダックビル(←「TACビル」ではない)の手配を命じた。
 隊長自ら地底に戻ることに驚いた山中だったが、竜隊長はアリブンタによる甚大な犠牲が生じた責任の一端を、超獣による襲撃という判断が遅れた自分にあることを感じており、今野・美川を伴ってダックビルに登場して地中に潜ると、山中に地上戦の指揮を命じた。

 今回一度切りの登場となった地底戦車ダックビルは、巨大ドリルを搭載した車両で、形状的にはウルトラ警備隊のマグマライザーに近い。ロケット弾とレーザー砲を備え、単独での無人飛行能力もあるという設定の優れ物だったが、残念ながら作中ではそこまで披露される機会に恵まれなかった(苦笑)。
 ロケット弾にてアリブンタを攻撃し、地上に追い出したところを山中達に迎撃させる作戦だったが、当然の如くミサイル弾は然したる痛手もアリブンタに負わせること能わず、逆に一撃を受けただけでダックビルのオイルタンクとミサイル弾発射口が損傷。瞬殺で攻撃・走行はおろか、車両内での生存すら困難な状況に追い込まれた (愕然)。
 竜隊長は山中にダックビルの損傷を伝え、安否を気遣う山中に「大丈夫だ。」としたが、空気を読まない今野が背後から「酸素がほとんど有りません。」と報告したものだから、地上の面々は気が気でなく、北斗も本当に大丈夫なのかを問うたが、竜隊長はその質問には答えず、北斗の言った通り、今度の事件には異次元人の野望が秘められていたことと、その陰謀を決して許してはいけないことだけ告げると、「これで通信を終わる。」と言って、通信を切ってしまった。
 北斗の質問に答えていないことも引っ掛かったが、竜隊長は何をもって、北斗のいう通り、「異次元人の野望が秘められていた。」と判断したのだろうか?この時点ではアリブンタを見ただけで、アリブンタが異次元人の手先であることを明確に示す事情は無かった筈だが(苦笑)。

 ともあれ地下80メートルの世界に閉じ込められたに等しい竜隊長以下3名はダックビルの修理を試みるも、減りゆく酸素に意識が朦朧とし出し、ままならなかった。地上の北斗はダックビル内の酸素は1時間しか持たないゆえ、その救出が急務であることを夕子に訴え、協力を求めた。
 協力と言うのは一言でいうなら「囮捜査」である。ウルトラマンAは地底に潜る術を持たない。北斗は最前、O型の血液を持つ夕子がアリブンタに狙われた例を持って、夕子が襲われた際に自分も飛び込んでAになることを提案した訳で、少なからぬ恐怖を覚える夕子に「勇気を持つんだ!」と励ましていたが、アリブンタの襲撃はいつ来るか全く分からないもので、もし、片方が便所で踏ん張っている際にでも襲われたらどうするつもりだったのだろうか?

 ともあれ、夕子は私服に着替え、人通りの絶えた銀座を散策し、その背後には北斗が追随した。私服に着替えたのは囮にする為で、隊員服なら警戒されるからと思われるが、着用した私服は色合いと言い、装いと言いどうにも色気が無い。薄着ゆえに比較的はっきり現れている星光子さんのプロポーションは結構いいものがあっただけに些か残念(苦笑)。
 そして国会議事堂近くの交差点で蟻地獄が夕子を襲い、夕子は悪代官に腰帯を解かれてくるくる回転する腰元アクションで(笑)北斗の名を叫びながら地中に引きずり込まれ、北斗もこれを追って砂地獄にダイブ。次の瞬間ウルトラリングが光り、2人は声も上げずウルトラタッチを果たすとウルトラマンAは地底に降り立つことに成功したのだった。

 即座にアリブンタとの格闘となり、どちらが優勢ともつかない殴り合いの後、アリブンタは蟻酸を吐くと姿を消した。そして次の瞬間地底に響き渡る不気味な笑い声(クレジットされていなかったが、特撮ファンにはすぐに沢りつお氏の声であることが分かる)。
 声の主は地底エージェントギロン人(作中では語られないが、設定によるとヤプールの手先となって全地底の支配を目論む地底超人)。自分がアリブンタを育てたことを自慢たらたらに語ると激昂するAに対してショートテレポートを繰り返してある一角に誘い出すと、頭上からつらら天井の様な物を落としてAをその中に監禁した。
 一方、アリブンタは地上に出ており、山中・吉村が迎撃し、地球防衛軍戦闘機部隊(←第1話で全滅した筈では……?)が追随したが、当然地球人サイドの攻撃にアリブンタはびくともせず、炎を帯びた蟻酸に、両手から放つ火炎まで加わって、戦闘機は次々と撃墜された。

 その間もつらら天井はAに圧力をかけ、監禁された中から放つメタリウム光線ギロン人には当たらず、逆に天井からの電撃に悶絶。このままではTACも東京も全滅すると見たAは宇宙空間にウルトラサインを放った。
 このSOSサインを受けて即座に宇宙からやってきて地底に降り立ったのはウルトラ兄弟の長兄・ゾフィー。Aがアリブンタによる攻撃を利用してまでようやくにしてやって来た地底に自力であっさり降り立つ辺りはさすがである。
 腕を一振りするやAを拘束していた釣り天井をあっさり破壊したゾフィーはダックビルは自分が助けると宣言すると、Aにはすぐに地上に向かうよう命じてウルトラコンバーターを投げ寄越した。
 ゾフィーに左腕からAの左腕に移されたウルトラコンバーターは瞬時にAのカラータイマーを青にしてエネルギーを充填させた。力を得たAはアリブンタ共に地上に降り立って破壊を尽くすギロン人を追って地上に現れた。
 体格に勝るアリブンタにパワーで劣っていなかったAだったが、さすがに1対2では分が悪かった。だがほどなくダックビルを救出して地上に現れたゾフィーが加勢すると形勢は逆転。Aはギロン人をヘッドロックに捕らえ、ゾフィーもアリブンタをヘッドロックに捕らえると兄弟はそのまま互いを目掛けて突進し、超獣と地底エージェントの頭を鉢合わせにするというダブル攻撃でこれらを絶命させた。

 『ウルトラマン』の最終回で初登場したゾフィーがその戦闘シーンを見せたのはこの『ウルトラマンA』の第5話が最初である。『ウルトラマン』最終回の準備稿ではゼットンはゾフィーが倒すことになっていたことや、『帰ってきたウルトラマン』最終回におけるバット星人の台詞から光の国にてバット星連合艦隊を迎え撃っていたであろうことを思えば、兄弟最強の戦士がその能力・戦い振りを見せた初めての回であることを思えば、随分貴重な回である。
 そして、国会議事堂前で命からがらダックビルから出て来た竜隊長達は山中達と再会。無事脱出を喜び合うと感謝の念を込めて帰りゆくゾフィーを見上げるのだった。


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平成三〇(2018)年七月一〇日 最終更新