仮面ライダーW全話解説

第49話(最終回) Eにさよなら / この街に正義の花束を

監督:石田秀範
脚本:三条陸
 冒頭はペットショップから始まった。若い店員(末高斗夢)と翔太郎が軽い口論になっていたのだが、そこに割って入った店長が何とサンタちゃん。何とか宥めた後に、翔太郎を知らない店員に尋ねられたサンタちゃんは「左翔太郎。どんな危機でも救ってくれる、この街の顔さ」と紹介した。ちなみにこの回ミックは現れないのだが、キャットフードを買っていた以上、ミックは今も鳴海探偵事務所にいるのだろう。

 時間は前回から1年が経過していた。(劇場版で破壊された)風都タワーもようやく再建され、翔太郎は以前と同じ1人探偵の日々を送っていた。だが相棒を失った心細さに耐えながら、風都の平和を守る日々はまだ辛さがついてまとっていた。
 そんな翔太郎の唯一の心残りは、フィリップが命を賭して救った若菜のこと。いまだ入院中の若菜は心を開かず、「命の恩人のつもり?恩着せがましいわね。それとも来人の差金かしら?」と云うどぎつい台詞を返すだけだった。
 だが翔太郎もまたフィリップから姉を助ける為に自分が犠牲になったことを伏せるよう遺言されていたので、拒絶する若菜を説得も出来ず、すごすご病室を出るしかなかった。

 場面は替わって鳴海探偵事務所。そこには「いなくなった姉さんを取り戻して下さい。」という、つい最近聞いたような依頼を持って、1人の少年・青山晶(嘉数一星)がやって来た。
 「僕、姉さんがいないと何も出来ないんです。」という情けない台詞を胸張っていう晶に翔太郎はハードボイルドを説くが、相手は小理屈と子供の立場を持ち出して「半人前なんだから人に頼るのは当然だと思いますけど。」と返す。
 「生意気だが、ガキはガキ。」という看板を背負っているような奴だが、カチンと来た翔太郎は依頼人にもかかわらず、嫌がる晶を無理矢理捜査に同行させた。

 ウォッチャマンやクイーン&エリザベスの情報から、すぐに犯人がEXE(エグゼ)というガイアメモリを売買している、「エナジー」と呼ばれる若者のグループ、それもメンバーの大半が嵐が丘高校の連中と判明。
 晶の姉・唯(小池唯)はその不良達が組織したガイアメモリ密売グループに拉致されているらしく、早速翔太郎はそのアジトに直行した。
 アジトに屯していたのは本物のアホガキで、何がそんな面白いのか終始へらへらと虫唾の走る奴等。曲りなりも最終回に登場するんだから、少しはマシな奴等出せよ、と(苦笑)。
 「ガキのクセにガイアメモリなんぞに手を出しやがって。お仕置きが必要だな。」と呟く翔太郎に、「お仕置きなら俺達より先にまずコイツにするべきじゃね〜のぉ?俺達のガイアメモリ販売は、この唯が一番最初に始めたんだよ!なァ唯?」と不良どもは唯を前面に突き出した。唯曰く、「偶然拾ったモノを売ったら凄い値段で売れたから…。」とのこと。
 確かに唯もアホガキだが、未熟な少女が偶然大金を手にしたら感覚が多少狂うのは分からないでもない。まあ反省しているだけマシか。
 ガキどもは自分達を「ミュージアムを継ぐ者」と自称し、「偉大なカリスマ」もいて、そいつを迎え入れる為、メモリをかき集めている、と問われもしない自分達の小ささを大暴露。アホのアホたる所以である。勿論、だからと言って放置していい問題ではない。つい癖で「行くぜフィリップ!」と言ってしまったが、気を取り直して仮面ライダージョーカーに変身する翔太郎だった。
 驚愕する晶に見守られながら、アノマロカリス・ドーパントに変身したEXEメンバーの1人(伊藤竜翼)をライダーパンチで秒殺。さすがは2年近く戦ってきただけのことはある。
 その間に逃げた連中を追おうとしたが、すっかりEXEに脅えた晶は同行を拒否。翔太郎の説教にも自分は強くないから、と耳を貸そうとしないが、翔太郎は、自分は強くなんかなく、晶と一緒で、本当は1人じゃ何も出来ねえけど、無理矢理踏ん張っている、と告げた。
 納得したのか、していないのか、「それが…ハードボイルド?」と尋ねる晶を事務所に戻し、翔太郎は1人で捜査を続行した。

 場面は替わって風都署。突如留置所から脱走した若菜は、「私は再起動し、この汚れた街を浄化する!」と叫びながら、周囲を手当たり次第に破壊し始めた。若菜姫の破壊者振りを嘆く刃野刑事と真倉刑事のもとに照井と翔太郎が駆け付け、彼女を止めようとした。
 照井は、「この街は汚れてなどいない!そう思うのはお前の心が歪んでいるからだ!風都を危機に晒す者はこの俺が許さん!変身!」とアクセルに変身して攻撃しようとした。当初風都嫌いだった照井のこの台詞は嬉しいものがある。
 その照井の攻撃だが、そこに翔太郎が立ちはだかった。「待ってくれ照井!今彼女を傷つけたら、フィリップは何の為にその命を投げ出したんだ!?」と思わず叫んで、次の瞬間「しまった!」という表情をしたが、1年間隠していたことはあっさり漏れてしまった(苦笑)。
 さすがに自分の為に来人が命を失ったと聞いて、若菜は驚かずにはいられなかった。そしてその場を逃れた彼女が向かったのはシュラウドのもと。
 何を望むのか?とシュラウドに問われ、「再起動。そして私なりのガイアインパクトを。」と求める若菜にシュラウドは「あなたの望む答えは地球の本棚にあるわ。」と答えた。
 意外に協力的なシュラウドに戸惑う若菜だったが、彼女から優しく手を持ち、「家族ですもの。若菜…あなたは思うようにするといい。あなた…今…逝くわ…。」というや唐突にその生涯を終えた。驚いた若菜は(画面上では)初めて「お母様ぁ!」と叫び、突然の死を嘆いた。そして若菜は深い悲しみの中、地球の本棚にアクセスした。

 場面は替わって鳴海探偵事務所。事務所に戻ってきた翔太郎は、ドアの向こうから聞こえてきた聞き覚えのある声に狂喜して部屋へと飛び込んだ。だがそこにフィリップの姿はなく、声の発信源はフロッグポッドだった。晶にフィリップのことを話していたことからこれを出したという。
 余りの翔太郎の落ち込み振りに謝罪の言葉を並べる亜樹子。それを怒ることすらせずにトボトボと自室に引き籠る翔太郎。それを見て、晶は鼻で笑う。まあ翔太郎がどんな思いでいるのか詳しい背景も知らないから止むを得んが。ただ、フィリップがいなくなった理由が留学ではなく死亡で、フィリップが翔太郎にとって、晶にとっての唯と同じくらい大切な相棒だったと聞かされるとさすがに晶もバツが悪そうだった。
 先の翔太郎が言った「強くないけど無理矢理踏ん張ってるだけ。」という言葉の意味を、ここでようやく理解した晶。そしてそのタイミングでEXEからの呼び出しメールを受けると、黙って事務所を出た。


 EXE達の要求は唯と引き換えにしてのオーシャンメモリ強奪だった。ヒロイックに下衆野郎は必要だが、それを承知の上でも胸糞悪くなるアホ笑いを続けるEXEの連中。本当に何がそんなに嬉しいのか理解に苦しむし、理解したくもない。
 アホどもがレアなメモリを入手して喜び群がる隙を突いて、唯が晶を連れてその場から逃げるが、逃がすものかと追い回すアホガキども。なんだ、やっぱり約束守る気ないじゃん。だが青山姉弟を追ったコックローチ・ドーパント (金子直史)は翔太郎のハードボイルダーに跳ね飛ばされた。
 1人で頑張った晶を褒めた翔太郎に、「翔太郎さんも1人で踏ん張ってるから!」と答えた晶の靴にはこっそり小型発信器が取り付けられていたのだった。亜樹子も一緒で、更に照井も駆け付け、不良お決まりの「何だテメーは?」には照井の「俺に質問をするな。」が返された(笑)。
 かくしてアホガキどもは翔太郎と照井の2人にことごとくぽて繰り回され、コックローチ・ドーパントはライダーキックに倒れ、オーシャンメモリの出番もなく、リーダー格はデコピンKO。やはりアホガキはアホガキに過ぎなかった。「ミュージアムを継ぐ者」などと片腹痛い。ディガル・コーポレーションでは3日と持たなかったことだろう(嘲笑)。
 ようやく姉弟が安堵した再会を果たし、事件解決と思いきや、最後の1人、ペットショップでもめた店員がいた。その男こそ、EXEのボス・エナジーメモリの男だった。
 翔太郎は亜樹子と晶、唯を素早く逃したが、次の瞬間、妙な攻撃に背中を打たれ、呆気なく昏倒してしまった………まさかこんなアホみたいなやつに瞬殺されるとは、登場人物も、視聴者も誰1人信じられない光景だった。
 だが、亜樹子が声をかけると、ピクリと動いた翔太郎があっさり復活。エナジー・ドーパントの攻撃はエクストリームメモリが割って入って防がれていたのだった。
 前回壊れて消えた筈のエクストリームメモリ………そしてその中から登場したのは………勿論フィリップ!何事も無かったように「やあ、翔太郎。」と笑顔を浮かべるフィリップと、驚愕・歓喜が綯交ぜになって声も出ない翔太郎。だが、今度はガジェットの記録ではなく、本物のフィリップだった。
 「お前…どうして…?」と誰もが聞きたいであろう質問にフィリップが返した答えは、「1年前…若菜姉さんが僕に身体をくれたんだ。」だった。以下、回想シーン。

 今回登場した若菜のパートはすべて1年前=前回直後の彼女だった。確かによく見直してみると、冒頭で再建済みだった筈の風都タワーが、若菜が登場するシーンではまだ再建中。上手く出来ている………。でも映画や細かいところまで見ないと分からない演出は控えた方がいいと思う、制作陣の皆様方(苦笑)。
 1年前、データとなって、地球の記憶の一部になろうとしていたフィリップのもとにシュラウドの助言を受けた若菜が現れ、「これが私なりのガイアインパクトよ。来人、あなたに私の身体をあげる。だってあなたの相棒の泣き顔ときたら、とても見てられなかったんですもの…。人類の未来の為に地球を変えるのは園咲の使命。でもそれに相応しいのは私じゃない。誰よりも優しいあなたよ。」と告げた。
 つまり、「再起動」、「自分なりのガイアインパクト」の正体とはフィリップの蘇生だったのである!肉体を貰い受けたということは、自分はデータの塊ではなく再び人間としての生命を与えられた訳だが、提供主は当然肉体を失う。戸惑いながら自分はどうすればいいか?と問うフィリップに答えたのはいつの間にかそばに来ていた冴子だった。琉兵衛と文音もいた。
 冴子が言ったのは、「答えはそのうち見つかるわ。取り敢えずこれからも風都を守る風でいなさい。」で、そこに琉兵衛が「私達は地球に選ばれた家族だからね。この星の中でお前を見守っているよ。」と続けた。
 地球のデータの海の中で、今はもうこの世にいない家族と再会を果たしたフィリップは駆け寄ろうとしたが、琉兵衛に押し留められた。丸でここから先は生者の来る世界ではない、と無言で伝えているようだった。
 ようやくにして帰って来た、園咲の家族が本当に心を通わせていた日々。泣き崩れる若菜を優しく抱きしめる冴子。そこには認められることを巡って憎み合った頃の姿はなかった。感謝の言葉に詰まって声が出ないフィリップにニッコリと微笑む琉兵衛。さすがは超ベテラン俳優・寺田農である。
 「ありがとう…みんな…。」と絞り出すように述べるフィリップに家族は次々に別れの言葉を告げ、データの海に消えた(回想シーン終了)。

 一部始終を語り、更にフィリップはこの1年間、まだ完全ではなかった肉体を復元させながら翔太郎のことをずっと見守っていたとも告げた。

 「うおおおおおおおおおおおおフィリップー!!」(翔太郎)、

 「やれやれ。相変わらず君はハードボイルドじゃないねぇ。」(フィリップ)、

 「そりゃそうよ!翔太郎君は完成されたハーフボイルドだもの!」(亜樹子)、

 「うっせ!んなモン完成したくねえよ!あはははは…うおおおおお〜っ!」と抱きつこうとする翔太郎に、それを微笑みながらヒラリとかわすフィリップ。

 そんな2人の様子を見て優しく微笑む照井竜と、それに抱き着く亜樹子。ようやく理想としていたころの日々が帰って来た………。

 と、そこへ完全黙殺されていたエナジー・ドーパントが(笑)、地団駄踏みながら「俺を無視するな〜っ!」と猛抗議(笑)。
 「そう言えば、居たんだ?」みたいな表情で翔太郎とフィリップがメモリを持って構えるとOP曲「W-B-X〜W Boiled Extreme〜」が流れ、普段はオープニングで流れるキャスト・俳優がここで流れ出した。
 1年振りに変身した2人で1人の仮面ライダーはルナトリガーヒートメタルを駆使しながらエナジー・ドーパントをボコボコに。本来ならここまでするほどの相手ではないと思うが、翔太郎もフィリップもついつい力が入るほど嬉しいのだろう(笑)。
 最後はジョーカーエクストリームでエナジー・ドーパントを楽勝で撃破すると、定番台詞の準備に入った。

 「あの決め台詞は忘れてないだろうね翔太郎?」 (フィリップ)、

 「当たり前さ。街を泣かせる悪党どもに俺達が永遠に投げかけるあの言葉…。」 (翔太郎)、

 「さあ、お前の罪を数えろ!」 (翔太郎&フィリップ)、

 そして画面には1年間の応援を感謝する字幕が出てこの作品は完結したのだった。


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平成三〇(2018)年七月九日 最終更新