仮面ライダーW全話解説

第48話 残されたU / 永遠の相棒

監督:石田秀範
脚本:三条陸
 照井が大重傷を負い、翔太郎も生身で抗うもユートピア・ドーパントを前に手も足も出ず、若菜も加頭が言うところの72%という数値を示し、かつてない危機に1つの砲弾がユートピア・ドーパントに炸裂した。
 ユートピア・ドーパントを攻撃したのはタブー・ドーパントに変身した冴子だった!今の内に若菜と逃げろ、と促す冴子。驚きつつ、フィリップは「まさか僕達を助けて…!?」と問うたが、冴子から返って来たのは「バカ言わないでちょうだい。あなた達よりもこの男の方が嫌いなだけよ。」というひねた台詞(笑)。
 不意打ちで人間体に戻ったところに更なる追撃を受け、加頭順を討ち取ったかと思われたが、なんと加頭は起き上がって来た。その絡繰りは彼がNEVER………つまり死人であったことにあった(←この時点ではまだ劇場版を見ていなかったので意味が分からなかった……苦笑)。
 再びユートピア・ドーパントに変身した加頭は謎の引力を発し、冴子を取り押さえ、翔太郎達が連れて行こうとした若菜もあっさり奪い返した。
 後ろ髪引かれる思いで何度も後ろを振り向きながらその場を逃がれたフィリップを、加頭は「若菜さんを目覚めさせる為…来人君には思う存分味わってもらいましょう。ユートピアの力をね。」と呟きながら見送った。

 敗走後、散々炎攻撃を食らって瀕死だった照井は病院に担ぎ込まれ、何とか一命を取り留めた(例の特異体質に助けられたらしい)。その後とある海岸で翔太郎とフィリップが対峙していた。翔太郎が変身を躊躇ったことで照井が重傷を負い、若菜も救えなかったことを抗議するフィリップ。勿論変身すれば自分が消えることを知るがゆえに翔太郎が躊躇ったことは百も承知だから余計に辛い。
 そんな2人の険悪さを緩和するように海岸に落ちていたボールを渡して、男同士の話し合いを勧めて、場を外すべく先に事務所に戻った。
 グローブもなしにキャッチボールしながら話し合う翔太郎とフィリップ。自分が消えることに対して変身を躊躇った翔太郎にフィリップは、優しさが翔太郎の1番の魅力と認めた上で、このままでは安心して逝けない、と告げ、自分がいなくなった後の風都の守りを求めた。だが翔太郎はフィリップを失った跡が想像出来ないのか、風都を守る自信が持てない故に約束を拒む。そんな静かな平行線を辿る2人の会話だったが、1本の電話がそれを中断した。
 着信表示から刃野刑事からの電話と思ったが、出てみると通話の相手は加頭だった!つまり電話は加頭が刃野刑事を襲って奪ったもので、狼狽する2人に加頭は、若菜が財団所有の天文研究所にいて、数値は78%を示していることを告げた。
 更に加頭はユートピア・ドーパントととして為したこの間の行為の映像を電話に出たフィリップの頭に送り込んだ。その映像の中では最初にクイーンとエリザベスが、ついでサンタちゃんが、ウォッチャマンが、更には刃野・真倉の両刑事が、次々に襲われ、翔太郎達に助けを求める悲鳴を上げながらのっぺらぼうにされていった。
 のっぺらぼうに何の意味があるのかは意味不明だったが、襲われた大切な人々が顔を失う前に見せた恐怖の表情で怒りは充分だった。あまつさえ、加頭は現在位置を「屋根の上でカモメがクルクル回ってます。」と表現した。そこは言うまでもなく鳴海探偵事務所で、加頭が次に襲うと宣言した人物は亜樹子しか考えられなかった。さすがに亜樹子がピンチとあっては、翔太郎もフィリップも即座に走り出した。

 慌てて鳴海探偵事務所に戻ってきた2人。だが、亜樹子もまた顔を奪われて床に倒れ伏していた。加頭が狙った様に、亜樹子を抱き抱えて絶叫するフィリップに若菜のパワーは更に上昇した。そんな相棒を見て、翔太郎は脳裏に昨日のシュラウドに言われた言葉を思い出していた。
 「笑顔で」という台詞と、表情を亡くした仲間と、号泣するフィリップを見て「ゴメンなフィリップ…全部…俺のせいだ…。」と力なく詫びる翔太郎。そして壁にかけてあったおやっさんの帽子をかぶると1人静かに事務所を出た。

 場面は替わってチャーミング・グレイブ。そこでは加頭が冴子を約束通りにミュージアムのトップにすると、告げていた。その理由が「あなたが好きだから。」であったことともに。それを聞いて冴子は加頭の「告白」が本気だったことに気付き、驚いた。確かに加頭が死人と知った今なら感情が籠っていなかった理由も分かるし、加頭自身「よく言われるんです。」としていた。同時に冴子が好きだから、冴子が工場の場所を仮面ライダーに教え、自分を裏切ったことも許す、と告げた。
 だが冴子は顔を背けた。何故そこまで自分を拒むのか?と尋ねる加頭。それに対して冴子は「あなたが園咲を舐めてるからよ。こんな事をして若菜に勝ってもお父様は認めてくれない。」というや、若菜に逃げるよう告げ、自身はタブー・ドーパントと化して加頭に攻撃を仕掛けた。だが完全に恋に破れたことで可愛さ余って憎さ100倍になったか、今回はユートピア・ドーパントタブー・ドーパントに容赦のない攻撃を加え、KOするとユートピア=理想郷が1人切りであることを痛感してその場を去った。

 瀕死の住所を追い、工場外の草原に倒れ伏した冴子は、薄れ行く意識の中で自嘲気味に、「ふふ…私…若菜を助けようとして死ぬなんて…あんなに憎んでいた妹を……最低…。」と呟いたが、その顔はどこか満足気だった。そしてそれに呼応する様に、「安心しな。若菜姫は俺が必ず助け出してやる。」とそこに現れた翔太郎が告げ、彼女の瞼をそっと閉じさせた………。

 場面は移って工場内。姉の奮闘空しく再び捕らえられた若菜は妙な機械に掛けられ、発動係数も98%に達し、苦悶の度合いをますます深めた。がそこに1人の男が現れた。
 「君か。一体何の用です?」ととう加頭に「邪魔をしに来た。」と答えたのは勿論左翔太郎。たった1人、しかもWに変身出来ない翔太郎を鼻で笑う加頭だったが、翔太郎は「だったら仕留めてみな!」と吼えるや生身の突撃を敢行。
 BGMにオープニング曲『W-B-X〜W Boiled Extreme〜』が流れる中、ユートピア・ドーパントの破壊弾を右左のステップでかわす翔太郎。ユートピア・ドーパントが「チィッ!ちょこまかと…これで終わりだ!」と業を煮やすと、「終わりなのはそっちの野望だ。」と言って、突き出した相手の腕に帽子を被せ、背後に回りこんで華麗な蹴りを見舞う。
 先の生身での惨敗からあまりに無謀な戦いと思われたが、破れかぶれとは覚悟が違うということだろうか?更には相手が怯んだ一瞬隙を逃さず、ガジェット総動員でユートピア・ドーパントをワイヤーで縛り上げた!そして身動きできない敵を尻目に拘束されていた若菜を助け出すと工場外に逃れた。

 程なく加頭が連発した破壊弾の誘爆か、工場は大爆発し、ガジェットに動きを封じられていたユートピア・ドーパントはその大爆発に呑まれた。
 そこに事態を察し、エクストリームバードでフィリップもやってきて、死闘に薄汚れた顔を揶揄しつつも、「君の友であることは僕の誇りだ。」と告げ、翔太郎は「はっ、お前との約束を守っただけさ。」と返した。
 そんな大団円を打ち壊すかの様に、瓦礫の中からユートピア・ドーパントが現れ、「この程度で私の計画が止められるとでも思ったのか?」と強弁したが、フィリップは「止めるさ。何度でも。この左翔太郎が街にいる限り。」と返した。
 翔太郎も「例えお前らがどんなに強大な悪だろうと・・・風都を泣かせる奴は許さねえ。体1つになっても食らいついて倒す。その心そのものが仮面ライダーなんだ。忘れるな。この風都には仮面ライダーがいるってことを!」と宣して、ローカル特化ライダーの真骨頂を130%発揮した。
 例えもう2度とWに変身出来ないとしても、この思いがある限り左翔太郎は永遠に仮面ライダーであり続ける………そう宣した2人に迷いはなかった。
 「行くよ翔太郎!最後の!」(フィリップ)、「ああ!最後の……」(翔太郎)、「サイクロン」(電子音)、「ジョーカー」(電子音)、「変身!!」(翔太郎&フィリップ)
 かくして最後の変身を遂げたWエクストリームは、突っ込んできたユートピアに素晴らしいタイミングでのカウンターパンチを一閃!堪らずもんどりうって吹き飛んだユートピアを見下ろし、最後の決め台詞を放った。「財団X加頭順!さあ、お前の罪を数えろ!」
 狼狽しつつも、最後の力を振り絞ってユートピアの相手のエネルギーを吸い取る能力で抗しようとしたユートピア・ドーパントだったが、それは自らの体に収まらない膨大なものだった。翔太郎曰く、「このWにはな…フィリップの最後の思いがこもってんだ…。テメーなんかに吸い切れるワケがねえんだよ!」とのことだった。さながら、キン肉マンの火事場のクソ力を吸収し切れなかったバッファローマンと言ったところか(笑)。
 追い詰められたユートピア・ドーパントは雄叫びをあげながら空中へジャンプし、急降下キックを繰り出したが、これを受けてWも空中へジャンプし、最後はキックのクロスカウンターとなった!
 先のカウンターパンチに劣らぬカウンターキックを見事ユートピア・ドーパントのどてっ腹に打ち込んだW。更にキックのラッシュを叩き込んだ。ついにメモリブレイクし、爆発四散後、ヨロヨロと起き上がるも、元々死人=NEVERだった加頭順に生存する力はなく、消滅した。それを離れた場所から見ていた局長は財団Xが正式にガイアメモリから手を引くと呟いて姿を消した。

 そして、ついに別れの時が来た。自分の存在が希薄になった事を察したフィリップが「じゃあ行くよ。」と言ってベルトを閉じようとすると、それを翔太郎が止めた。「俺に…俺の手でやらせてくれ。」とのことで、フィリップも「ああ…任せるよ。」と快く応じた。
 レバーに手をかけた翔太郎は隣に立つフィリップと目が合わせられず、何度もレバーに力を入れようとするも、なかなか踏切れない。そんな翔太郎にフィリップは「大丈夫。これを閉じても僕達は永遠に相棒だ。地球が消滅でもしない限りね。」と告げた。
 直後に「泣いてるのかい?翔太郎?」と問われ、「バカ言うな…。」と否定して、「閉じるぜ…。」と答えた翔太郎だが、声は途切れ途切れで泣いているのはモロバレだが、これは純粋に泣けるシーンだった………。
 最後まで翔太郎の痩せ我慢のハーフボイルドだった翔太郎はその魅力を崩すことなく、嗚咽を漏らしながらレバーを閉じ、フィリップは母・文音がそう望んだように笑顔で、しかし最後の瞬間に彼も泣いてその姿を消した………。変身が解除されるとエクストリームバードも消滅し、残ったのは一人涙を流す翔太郎だけだった……。

 そしてラストシーン。場所は鳴海探偵事務所。助け出された若菜は病院へ収容され、ミュージアム、そして財団Xという巨悪との戦いはここに一先ずの幕を下ろした(財団Xは滅びていないが)。
 事務所では翔太郎、亜樹子、まだまだ入院が必要としか思えない包帯だらけの照井とミックが佇んでいた。居なくなってからようやくフィリップが残された相棒の形見となったプレゼントの箱を翔太郎は開いた。
 その中には劇場版で登場したロストドライバーと、1冊の本。つまり自分がいなくなっても翔太郎が仮面ライダー(ジョーカー)としてこの街を守れるように用意されたもので、本は全頁が白紙かと思われたが、たった1ページだけ文章が記されていた。
 「僕の好きだった街をよろしく。仮面ライダー左翔太郎 君の相棒より」……それを見た翔太郎は生きる屍が息を吹き返したように驚き、感激し、少し遅れて、滂沱に暮れた。
 「ありがとよ…大事にするぜ。俺はこれからもずっと街を守る。仮面ライダーとして。見ててくれよ…なぁ、フィリップ…」………かくして左翔太郎が風都を守る仮面ライダーとしての決意を新たにしつつ、次週、『仮面ライダーW』感動の最終回へ!


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平成三〇(2018)年七月九日 最終更新