2.長兄としてのゾフィー

2−1.ウルトラ兄弟の長兄と呼ばれて
 前頁でも記載したが、「ウルトラ兄弟」という言葉が最初にブラウン管上で発せられたのは、『帰ってきたウルトラマン』の最終回で、触角宇宙人バット星人が発した台詞によるものである。この時、ゾフィーの名は最初に挙げられており、名前が挙げられた3名と、帰ってきたウルトラマンを含め、4名の中でも長兄の立場にあることが分かる。

 そして戦闘の初披露となった『ウルトラマンA』第5話で、TV画面上では初めて「兄さん」と呼ばれ、「頼れる兄貴」としての行動(何をおいても「救出」を第一としている。Aに対しても、TACビルに対しても)と貫禄と戦闘力(地底エージェントギロン人大蟻超獣アリブンタとのタッグはゾフィーが加勢するなり、劣勢に転じた)を見せつけた。
 第13話では異次元人ヤプールの姦計に落ちてゴルゴダ星にて冷気で行動不能に陥った際に、Aにエネルギーを分け与えて脱出させようとするのを、Aが拒んだ際に、Aウルトラマンが殴ったのに対して、ゾフィーは「ウルトラマンの云うことが分かるか?」と云って、としての気持ちと彼の任務の重さを諭して、最年少であるAが犠牲になることが忍びないウルトラマンの気持ちを補足した。
 A脱出後に他の3兄弟とともに十字架に磔にされてしまった。そこで交わされたのは兄弟間の会話以外の何ものでもなかった。
 続く第14話では、兄弟達のエネルギーが異次元超人エースキラーに奪われ、ダミーとはいえ、弟瓜二つのロボットエースエースキラーの放つ兄弟達の技が浴びせられ、苦しむ姿に他の兄弟達とともに筆舌に尽くし難い苦しみを味わい悶絶した。殊にロボットエースにとどめを刺したのはゾフィーから奪ったM87光線で、それまでスペシウム光線・エメリウム光線・ウルトラブレスレットの連打に耐えたロボットエースを一撃で文字通り木っ端微塵に粉砕しており、その猛威と衝撃はゾフィー達ウルトラ兄弟と視聴者の双方を襲った(再放送とはいえ、その映像を初めて観た時のインパクトは道場主の昨日のことのように覚えている)。
 それでもAがゴルゴダ星に戻って来た時の為に僅かながらもエネルギーを保存しておき、それをAに与えて逆転のスペースQでエースキラー打倒を可能とした。一連の流れは兄弟としての重き絆なしには有り得なかったことで、北斗星司(高峰圭二)に至っては、生きて帰ることを考えていなかった。

 第26話では地獄星人ヒッポリト星人の罠に落ちて、行動らしい行動を見せられないまま、カプセルに閉じ込められ、無力されて4兄弟共々ブロンズ像にされてしまい、ウルトラの父と、蘇生したAヒッポリト星人を倒し、その後蘇生されたことで一命を取り留めたが、残念ながらここでゾフィーが果たせた役割は「弟」というものを確立させる為に雁首を並べたに過ぎなかった。

 しかしながら第35話では少年の言葉を信じなかった北斗Aを叱責する一方で、水中で苦戦するAに対してウルトラマジックレイを駆使して湖水を蒸発させてAを救出した行動などは長兄ならではのものだった(単に兄貴として救出に来ただけならセブンもやっている)。

『ウルトラマンタロウ』第1話では例によって長兄として東光太郎(篠田三郎)をウルトラの国へ連れて行き、ウルトラマンタロウとして復活させるのをウルトラの母・他の4兄弟とともに見守った。
 そして第18話では火山怪鳥バードンに敗れたタロウをウルトラの国に運んだ後、バードンと戦って戦死してしまった。この時、ゾフィーはカラータイマーが青の内に倒されており、そのことを指して「ゾフィー咬ませ犬論」を唱えるマニアもいるが、昨今ではバードンの強さを讃え、「最強の地球出身怪獣」とする意見の方が強いように思われる。
 最終的にバードンは蘇生後にキングブレスレットを渡されて地球に帰還したタロウによって倒され、直後に地球にやって来たウルトラの母が悲しそうに息子の遺体を抱き、タロウとともにウルトラの星へ移送するべく抱えあげられ、親子・弟の絆が感情一杯に描かれたのだが、ウルトラの母よ、ウルトラマンタロウよ、そこまで息子・長兄に対する深い愛情があるにしてはかなり長時間ゾフィーの遺体を野晒しにし過ぎてはいなかったか!?特にタロウ!!

 ともあれ、ゾフィーがこの後ウルトラの国で蘇生されたことは想像に難くなく、第25話では宇宙大怪獣ムルロアによって闇に閉ざされた地球を救う為、タロウにウルトラの星への帰還促し、7週間振りの(互いに意識がある状態では半年振りの)再会を果たし、いの一番にタロウとハグを交わして再会を喜んでいた。
 しかし、このハグは少し変である。弟仲が良いのは結構なことだが、2万5千歳のゾフィーを1万2千歳のタロウを地球人の年齢に置き換えるなら、前者を37歳、後者を18歳として置き換えることが計算上可能なのだが、となると、ゾフィータロウが顔を合わさなかった半年は、ウルトラ兄弟の時間感覚から人間の時間間隔に置き換えると、半年の0.15%=約6時間半振りの再会に兄弟達は熱き抱擁を交わしたことになる、何て熱く麗しい兄弟愛なんだ(笑)

 茶々入れはここまでにして、第33話では、ZATに協力する大谷博士(竜崎勝)に憑依して極悪宇宙人テンペラー星人と戦うとともに、タロウの兄達への依存と、続く第34話では独力でテンペラー星人を倒したことからくるタロウの思い上がりと戦い続けた。
 この時、帰ってきたウルトラマンAは単身テンペラー星人と戦っては二度に渡って惨敗したタロウを何度も助けに走ろうとして、その都度、ゾフィーウルトラマンセブンに止められ、大谷博士に憑依していたゾフィーは獅子が我が子を千尋の谷に突き落とす伝承を用いて、「今こそ俺達はライオンの気持ちでタロウの成長を見守るのだ。」と長兄らしいことを云っていた。

 余談だが、獅子(leo)とライオン(lion)は異なる生き物です。獅子は伝説上の生物で、我が子を千尋の谷に突き落として、這い上がって来たものだけを育てますが、ライオンは子供を非常に可愛がります。文字通り「猫可愛がり」で、幼獣のライオンは、文字通り、自力では「小便も出来ない」存在です。だから、「ライオンの気持ち」ではなく、「獅子の気持ち」で云うべきですよ、ゾフィー君(笑)。

 ともあれ、ゾフィーは自立心と謙虚さの両方とを長兄としてタロウに残し、地球を去った。唯一人、地球で常駐した姿を現さなかった為に、バーベキュー大会にも参加していないが(笑)、それ故に長兄として、他の4人の弟とはまた違った視点でタロウを諭し続けた2週間でもあった。

 そして『ウルトラマンレオ』の第38話では、ウルトラキー強奪・ウルトラの星と地球衝突の危機、という前代未聞の重大事に対する責任を双肩に背負い、アストラ(←くどいが、暗黒宇宙人ババルウ星人が化けた偽物)を追って弟達と供に地球に降り立ったゾフィーは宇宙警備隊長としては、裏切り者アストラへの追跡者だが、長兄としては、激昂する弟達(特に偽アストラにしたたかに殴られたウルトラマンと一番若いA)の宥め役でもあった。
 この時の兄弟−特にウルトラマンの激昂振りは前頁を参照して頂きたいが(苦笑)、アストラへの敵意を通り越して、殺意すら抱いている弟達の中にあって、ゾフィーだけはレオに邪魔しないように諭したり、合体光線を放つ前に警告を発したりしていたし、実際にウルトラマン帰ってきたウルトラマンウルトラマンAの合体光線浴びて瀕死の重傷を負ったレオに復活を呼び掛けている。
 ゾフィーが「宇宙警備隊長」と「ウルトラ兄弟の長兄」という二つの立場があるから、一見矛盾したゾフィーの言動も容易に理解出来るから不思議である。
 続く第39話はでは、実の兄であるレオにも見抜けなかった偽アストラの正体を看破したウルトラマンキングがウルトラキーを破壊したことに対し、即座にキングに駆け寄ると、まずは握手を交わし、即座にキー破壊に対する釈明を求めた姿等は隊長であり、長兄でもあった。
 その後のゾフィーキングの説得に応じて、ウルトラの星に帰還し、星と地球の衝突回避に努めたであろうこと以外に行動の詳細は分からないが、事後にレオアストラのウルトラ兄弟入りが認められた背景には、ウルトラの父ウルトラの母へのゾフィーの口添えもあったのではないか?とシルバータイタンは見ている。

 そしてそれから30年以上の時を経て、『ウルトラマンメビウス』に登場したゾフィーは、数奇な流転を重ねたウルトラマンヒカリや、ルーキーであるウルトラマンメビウスとの絡みから、長兄よりは隊長としてのカラーを強く見せた。実際、メビウスヒビノ・ミライ(五十嵐隼士)がゾフィーを「兄さん」と呼ぶシーンは少なく、劇場版でハヤタ(黒部進)や郷秀樹(団時朗)の方が「ゾフィー兄さん」という呼び方を本人に対してではなく、会話の中の話題として発していた。
 そんな中、第24話では、異次元超人ヤプールの復活を察知してメビウスの救援に向かおうとしていたタロウを制止してメビウスの成長を促そうとしたり、劇場版でタロウとともに駆け付けたりした姿は、紛れもなく、隊長であり、長兄でもあった。

 最終回ではサコミズ隊長(田中実)と一体化してメビウスに加勢して共に宇宙大皇帝エンペラ星人と戦ってこれを倒しているが、他の兄弟が太陽の黒点除去に邁進していたのと比べても、明らかに隊長として、長兄として、別格の存在となっていた。
 宇宙警備隊長としてのゾフィーにも云えることだが、長兄としてもゾフィーは明らかに『ウルトラマンメビウス』以前と、『ウルトラマンメビウス』作中とでは、格の違う待遇を受けていた。

 時を経て、ゾフィーは単なる「兄弟中の最年長」から、あたかも「戦国大名家の嫡男」のような存在になった、とみるのはシルバータイタンだけだろうか?


2−2.弟達への想い
 すっかり言葉として定着している「ウルトラ兄弟」だが、周知のように、彼等は本当の意味での兄弟ではない。
 一般に、ウルトラの父ウルトラの母を「両親」として、ゾフィーが「長兄」、ウルトラマンが「次男」、セブンが「三男」、帰ってきたウルトラマンが「四男」、Aが「五男」、タロウが「末っ子」と見られる訳だが、血の繋がりで云えば、ウルトラの父ウルトラの母の実子はタロウのみで、セブンは実母がウルトラの母と姉妹である為、タロウとは従兄弟同士になる。そしてウルトラマンAは実の両親を幼くして亡くし、ウルトラの父ウルトラの母が育ての親となった為、Aタロウは育ちからして兄弟同然である。
 そしてゾフィーは実父がウルトラの父とは親友だったので、殉職に前後して、自らの死後、息子・ゾフィーの養育をウルトラの父に託したであろうことは容易に推測出来る。

 上記の背景と推測を受けてか、長兄としてのゾフィーには、個々のウルトラ兄弟に対してとしての接し方が微妙に異なる。
 実際、ウルトラマンウルトラセブン帰ってきたウルトラマンは呼び方こそ「ゾフィー兄さん」だが、「兄貴分」よりは「リーダー」としての交流が目立つ。ま、実際にウルトラマンセブンハヤタモロボシ・ダン(森次晃嗣)を見ても、人間(?)的にも成熟した存在だったが、郷秀樹北斗星司東光太郎には人間的に未熟な面も数々見られた。

 それでも、帰ってきたウルトラマンの場合は、に二人の隊長、兄貴分たる坂田健(岸田森)がいて、セブンが特に目を掛けていた故か、ゾフィーは彼の地球在任中に助勢することはなかった。穿ったものの見方をすれば、ウルトラマンセブン帰ってきたウルトラマンの地球防衛を見守る兄貴分としての成長を促し、自らはバット星連合艦隊の襲撃に備えていたのかも知れない。

 そしてAに対する接し方は長兄としてのカラーが一番顕著である。
 第5話でウルトラサインを受けてAを助けに来たのはゾフィーだったが、ウルトラ戦士が兄弟に救いを求めたのもこれが最初なら、それを受けて駆けつけたのもこれが最初で、ゾフィーがブラウン管上で実践披露したのもこれが最初である。
 これは、帰還や時期こそ違えど、ゾフィーAがともにウルトラの父を育ての父とした上記のシルバータイタンの推測への裏付けにはならないだろうか?

 また、興味深いのは、ゾフィーは第13話、第14話、第23話では、ゴルゴダ星脱出や南夕子(星光子)の異次元送還を手伝いつつも、肝心の殺し屋超獣バラバヤプールとの戦闘には助力していない。否、エースキラーとの戦闘には手を貸したが、あれは誰がどう見ても手を貸すべきで、これを例外とするなら、基本、ゾフィーAと超獣の、一対一での戦いに手は貸していない。
 これは第35話の対夢幻超獣ドリームギラス戦も同様で、苦戦するAの戦闘環境を変える助力はしたが、ゾフィー自身はドリームギラスには一太刀も浴びせていない。つまりゾフィーは二対二で戦った対ギロン人アリブンタ戦を除けば、サポート役をメインとしている。それもこれも、長兄として、Aの成長を願えばこそだろう。

 殊に、第35話のゾフィーは正しくAの「」である。
 少年の言葉を信じなかったことの罪深さと、その償いの大切さを説く、というような、何かを諭す言動はタロウを除けば、他の兄弟に対しては行っていない。厳密にはウルトラマンヒカリに対して行っているが、これはヒカリがその時点で置かれていた状況を思えば、例外的だろう。

 ウルトラマンタロウに対しての接し方も概ねAに対するそれと似ている。タロウを助ける為に何度となく地球に来ているが、第1話も第18話も、タロウの蘇生の為に動き、第18話(対バードン)・第33話(対テンペラー星人)・第40話(対暴君怪獣タイラント)では戦闘にも加わっているが、基本的にタロウに加勢したものではない。
 第25話でもウルトラベル取得と地球の暗闇払拭には命懸けで力を貸したが、ムルロア退治は手伝っていない。

 なかなかに「長兄」とはいっても、インパクトの強さとは裏腹に、ゾフィーの様々な面を占める割合としては感じるほどには多くないことに驚かされる。
 そしてそれはタロウ以降に増加したウルトラ兄弟との接し方からも窺えるのだが、その詳細は後述に譲りたい。


2−3.増え続けるウルトラ兄弟
 狭義には、「ウルトラ兄弟」と云えば、「ゾフィーウルトラマンウルトラセブン帰ってきたウルトラマンウルトラマンAウルトラマンタロウ」の六兄弟を指す。
 そして広義には「宇宙警備隊隊員100万人の内、太陽系や地球の防衛を担当していた歴代隊員」を差し、具体的には「ゾフィーウルトラマンウルトラセブン帰ってきたウルトラマンウルトラマンAウルトラマンタロウ・ウルトラマンレオ・アストラウルトラマン80ウルトラマンメビウスウルトラマンヒカリ」が含まれる。

 つまりは一般的には歌にまでなった六兄弟の後から、レオアストラ80メビウスヒカリが加わった訳で、ゾフィーは彼等に対して、レオは盟友、80メビウスには部下・教え子、ヒカリには特殊な関係、で接しており、アストラに至っては直接の接点が見られない。
 まあ、単にストーリー上、ともにいる所が見られないだけで、『ウルトラマンメビウス』の第34話で、レオタロウの事を普通に「タロウ兄さんは許したらしいが…。」と述懐していた点を見ても、ゾフィーレオ以下のウルトラ兄弟達も兄弟に等しい付き合いは充分に持っているとは思われるのだが、やはりタロウまでの兄弟とはチョット接し方が異なる。
 それは劇場版でタロウとともにメビウスと4兄弟を助けに来た時の立ち居振る舞いからも感じられる。

 つまりは長兄よりは隊長としてのカラーの方をゾフィーは強めつつあるのだが、敢えて長兄としてのゾフィーに注目するなら、ゾフィーは「長兄」から「父」になる成長過程にあるのかも知れない。
 実際、ウルトラの父は宇宙警備隊長として、ゾフィーの前任に当たる。ウルトラシリーズが更に進めば、ゾフィーは警備隊長としてのカラーを益々強めれば、言葉の上では「兄さん」と呼ばれても、実際の接し方は言葉とは遠くなっていくかもしれない。
 もっとも、そうなったとしてもウルトラマンセブン帰ってきたウルトラマンAタロウに対しての「長兄」としての在り様は不変と信じられるのだが。



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令和三(2021)年六月一一日 最終更新