4.咬ませ犬としてのゾフィー

4−1.不覚を取った強敵達
 何か、「咬ませ犬」とキーを打った瞬間、日本全国のゾフィーファンからの殺気を感じるなあ……(驚躯)。しかしこれは決して悪意あってのことではない。
 1〜3頁において、「隊長」、「長兄」、「最強戦士」としてのゾフィーについて触れてきた訳だし、そもそも彼を特別に取り上げたこの作品の存在からして、ゾフィーファンの方々も、シルバータイタンゾフィーに好意こそ持てど、悪意は微塵もないことは御理解頂けると思う(チョットだけ自信無いけど…)。
 つまりは、ゾフィーは強気故に、数多く存在する怪獣・超獣・宇宙人・円盤生物・ロボットの中でも、とてつもなく強い敵の存在を際立たせる「咬ませ犬」としての役を振られた、と云いたい訳で、ゾフィーが弱ければこんな役は巡ってこない、と云いたい。

 それはゾフィーに勝利した顔ぶれを見ただけでも明らかだろう。地獄星人ヒッポリト星人火山怪鳥バードン暴君怪獣タイラント………決して「マニアでなければ知らない」というレベルではなく、複数のウルトラマンを破り、劇場版や後番組でも際立った存在として注目されている奴等である。

 一例目のヒッポリト星人は姦計交じりとはいえ、ウルトラ5兄弟をブロンズ像にすることに成功し、長旅でグロッキー状態とはいえ、ウルトラの父を絶命に追い込んだ。そして姦計や疲労を抜きにしても、ウルトラセブンとの一騎打ちは堂々と戦ってセブンをグロッキーに追い込んでいる。その強敵振りは長く後作品や劇場版にも出て来なかったが、『大決戦!超ウルトラ8兄弟』にてスーパーヒッポリト星人としてウルトラマンメビウスをブロンズ像にしたり、最終決戦でギガキマイラに融合体となった際の中核を為したり、してウルトラ兄弟を苦戦させる難敵としての残滓を甦らせてくれた。

 二例目のバードンは特撮マニアの間では「最強の地球出身怪獣」という栄誉に浴している。殊にゾフィーはカラータイマーが赤になる前に死に追い遣られている。
 吐炎・飛翔以外にこれといった特殊能力はなく、純粋に戦闘能力でウルトラ兄弟二人を絶命させた凄さは『ウルトラマンメビウス』での再登場時にも語られ、『ウルトラ大怪獣バトル NEVER ENDING ODEYSSEY』では光波宇宙人リフレクト星人(RB)の操る存在として、ゴモラを苦戦させた。

 最後のタイラントゾフィーに始まり、ウルトラマンセブン帰ってきたウルトラマンウルトラマンAに連勝している。海王星での戦いにてゾフィーは完敗しただけでなく、ウルトラサインを出そうとした右腕を折られ、他の兄弟達も天王星・土星・木星・火星にてタイラントに敗れ去った。辛うじてセブンAがサインの放出に成功し、地球でこれを迎え撃ったウルトラマンタロウは比較的あっさりと勝利したが、タイラントがウルトラ兄弟と連戦しながら飛んできた距離(道場主の計算で、海王星が最も太陽に接近していて、その直線距離上に地球があると想定した数値は44億5966万2123km437m77pで、光速で3時間59分36秒82掛ります)を考えれば、これはタイラントが弱いことにはならないだろう。
 そしてタイラントは後年、『ウルトラ大怪獣バトル NEVER ENDING ODEYSSEY』にてレギュラー・レイオニクスバトラーの一人であるキール星人グランデ(唐橋充)の手先としてゴモラエレキングを圧倒していた。

 これらの戦歴からもゾフィーを破った宇宙人・怪獣達はウルトラシリーズ史の中に燦然とその強さを足跡として残しており、当然、ゾフィーを破ったこともそれを際立たせている。
 怪獣・宇宙人・超獣・円盤生物の多くは一度限りの登場で、下手したらウルトラ兄弟と戦うことさえ出来ず、歴史の中にその名を埋没させるものも少なくない。必然、例え一度でも、例え一人でも「ウルトラマンを倒した!」という戦歴はウルトラ史上に光り輝くものとなる(ゼットン然り、ガッツ星人然り、ブラックキング然り…)。否、ウルトラ兄弟が単独で倒せなかった場合もカウントされるだろう(アントラー然り、キングジョー然り)。
 確かに「咬ませ犬」という名の引き立て役はカッコいい存在ではない。しかしゾフィーの強さがあってこそ、バードン達の強さが際立ち、その後の再登場時に作品の面白さを際立たせ、後番組を見る人々、制作する人々、怪獣ゴッコに興じる子供達の意欲に火を点けた、とシルバータイタンは信じるのである。


4−2.主役の座を待たざる不運
 前項にゾフィーが強敵に敗れた例を挙げたが、それではそれらの強敵を倒したのは誰だろうか?ヒッポリト星人Aに、バードンタイラントタロウに討たれている。そう、難敵を最後に倒したのは「主人公」なのである。
 最強戦士をも破る戦歴を獲得出来たのは「主役の特権」と断言しても、余り大きな反論は来ないものと思われる。実際、戦歴だけを差して、Aタロウを「ゾフィーより強い!」と云い切る人は何人いるだろう?

 「最強のウルトラ戦士は誰だ?」なんてこと云い出せば、「地球上で最も強い国は何処?」、「歴代横綱で最も強いのは?」と云い出すのと同じで、結論は永遠に出ないから深くは語らないが、ウルトラの父・ウルトラの母の実子であることを根拠に潜在能力的にウルトラマンタロウを「最強」とする説もあるが、少なくとも絶対的強者と決め付けるのは早計だろうし、明確にゾフィーを上回った描写がある訳ではない。
 つまり、必ずしも「強さ=勝利」という図式が成り立つわけではない、ということで、圧倒的に自分より強い相手に対して勝利を掴むには本来の実力に「+α」(例として、運・ファミリーの加勢・正義のチームの加勢・宇宙的奇跡現象・etc)が必要となる。それを得られることこそが主人公の特権と云える。

 対ヒッポリト星人戦ではウルトラの父の猛攻・連戦の疲労・TACの援護射撃がAに味方し、対バードン戦ではキングブレスレットがタロウに与えられており、対タイラント戦ではウルトラ兄弟に与えられたダメージの蓄積と海王星から地球までの距離がタロウに味方した(遠距離の前にはウルトラの父とて勝負に致命的な影響を及ぼしている)。いわば、主役にして、長く地球に常駐するゆえに真っ先に救いや援護の手が飛んで来たとも云え、それこそ主人公の特権だろう。

 周知のように、ゾフィーは自らが主人公となる番組と持たない(特番はあったが)。番組上はともかく、『ウルトラマンメビウス』によれば、時間軸的には『ウルトラマン』の時代には既に地球の為に働いてくれていたし、現在では『ウルトラマン』の第7話にて像であらわれていた「ノアの神」と云うウルトラマンに似たものが(宇宙警備隊隊長就任前の) ゾフィーであることが有名であることからも、我々の想像を絶する以上にゾフィーは長く地球の為に、太陽系の為に、銀河系の為に戦ってくれたことから、いずれ(若き日の)ゾフィーが主人公となる特番があっても、と思うのはシルバータイタンだけだろうか?


4−3. 不当なる過小評価
 「咬ませ犬」とは本来は闘犬用語である。経験の少ない若犬に自信を付けさせる為に、咬まれ役の犬と組ませ、ひたすら咬ませて自信を付けさせるもの、あるいはその役の闘犬を云う。
 実際に、戦歴も輝かしい闘犬が、年老いて引退後に若犬の咬ませ犬とされることは多いらしく、格闘技の世界でもジムの方針ではデビュー前後の若手に自信を付けさせる為にロートルが殴られ役・やられ役を振られるケースもあるという(←実際に調べた訳ではないので事の真偽に責任は持てませんが)。

 ここで注意すべきは、単に弱いが故のやられ役では、若者を鍛えたる「咬ませ犬」や、強さを際立たせる為の引き立て役にはなれない、ということである。
 実際、ゾフィーが弱気存在であれば、ヒッポリト星人も、バードンも、タイラントもここまでのビッグネームは成せなかっただろう。偏に宇宙警備隊隊長として、ウルトラ兄弟の長兄として、最強戦士としてのゾフィーの強さがあればこそだろう。

 勿論、「咬ませ犬」は褒め言葉ではない。「咬ませ犬」または「咬ませ犬にされている」と陰口を叩かれて喜ぶ人間などいないだろうし、それは宇宙人でも同様だろう。理由ははっきりしており、「咬ませ犬」と呼ぶ時、呼ぶ相手はほぼ間違いなく対象者を舐めている。
 実際、シルバータイタン自身、この項を作る際に、「「咬ませ犬」よりは「引き立て役」にした方がいいのでは?」と考えたが、上記の戦いに敗れたことによって


 ゾフィーは弱い!」


 と効いた風な口を叩くエセ特撮ファンの存在に眼を逸らさず、一喝を入れる為にも敢えて「咬ませ犬」とした。
 ジャンルは全然別の話になるが、道場主は少年の頃、大相撲と云う格闘技において、全盛期の内に横綱になれず、大関・関脇で終わった力士を差して、「○○は弱い!」という評論家に対して、「お前、一回○○関の張り手を受けて来い!」と思ったことが幾度かあった。
 まこと、結果だけを見て、強弱を断ずることが如何に安直で、無責任であり、同時にそう考える人が少ないことを、自分自身を含めて世の多くの人々は反省しなくてはならないだろう(実際、道場主自身、幼少の頃、浅薄な知識で「ゾフィーは弱い。」と思ったことがある)。

 確かにヒッポリト星人バードンタイラントに敗れたシーンだけを見れば、ゾフィーが呆気なく敗れた感は拭えないものもある。だが、その戦いの果てにゾフィーを破った者達がどれほどのビッグネームを為したか、ということと、『ウルトラマンA』第14話におけるM87光線の威力と、『ウルトラマンメビウス』最終回におけるゾフィーの活躍を注目した上で、彼の強弱を判断して欲しい。
 それでも尚、彼を弱いと思う人は今後説サイトをご覧にならないことをお勧めする。恐らくそのような方々を喜ばせる記述が為されることは無いだろうから。

 最後に推測による余談を。
 嵐吹き荒ぶ地球を舞台に、ウルトラ兄弟とレオ兄弟が悪夢の戦いを繰り広げた『ウルトラマンレオ』第38話において、ウルトラマンレオには主にウルトラマン帰ってきたウルトラマンが、(ババルウ星人が化けた)アストラにはウルトラマンAが相対したが、ゾフィーは殆ど戦闘に加わっていない。
 もし、ゾフィーウルトラマンA同様にレオ兄弟を頭から裏切り者として抹殺に掛っていたら………………それこそウルトラ6番目・7番目の弟が生まれることは無かったのではあるまいか?(或いは顔触れが変わっていた筈)。


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令和三(2021)年六月一一日 最終更新