File2.デストロン………少なくとも二人が信じた「ユートピア」

侵略者名 デストロン
登場作品 『仮面ライダーV3』
登場話 全話
侵略目的 科学によるユートピア建設
侵略手段 改造人間及びABC兵器を用いた世界征服
地球人への処置 皆殺しまたは奴隷化。但し、一部は優遇?
侵略者概要 『仮面ライダーV3』という作品だけを見れば、デストロンが侵略組織であるか、テロ組織であるか、革命組織であるかは判然としない。
 ただ、第1話で首領(声:納谷悟朗)が、自身をゲルショッカー首領と同一人物(?)であることを明言しており、『仮面ライダーストロンガー』の最終回にてデルザー軍団大首領が歴代悪の組織を裏で糸引いていたことを述べ、最後の最後に「宇宙に帰る」としていたことで、地球外から世界征服=地球制服にやって来た侵略者の作った侵略組織であることが分かる。

 勿論そうなると、デストロンのみならず、ショッカーからデルザー軍団までの総ての悪の組織は「侵略者」なのだが、中でもデストロンに注目したのは、既存地球人組織との結託が興味深いからである。そしてその在り様は意外な忠誠を生んでいる。

 前組織であるショッカーゲルショッカーが首領の下、ナチスの生体化学を悪用した改造人間を駆使して世界を征服せんとしたのと同様、デストロンもまた改造人間を駆使し、ABC兵器(A=Atomic例:プルトンロケット、B=Bio例:各種細菌兵器、C=Chemical例:毒ガスキラードガンマ)も併用していた。
 ただ、全組織と少し様相が異なるのは、前半では動植物の能力に加えて様々な凶器・工具等を移植する改造手術を施した改造人間を放ったのに対し、後半ではキバ一族・ツバサ一族・ヨロイ一族と云った、生物の持つ武器となり得る器官に特化した改造人間を駆使した。

 だが、仮面ライダーV3に、彼を生み育てた仮面ライダー1号、2号、そして大幹部ヨロイ元帥(中村文弥)との確執から組織を裏切ったライダーマンによって数々の作戦を妨害され、最後は仮面ライダーV3の手によって滅ぼされた。
 ただ、例によって首領の正体は不詳で、V3が最後に戦ったデストロン首領も、破壊された頭部からテープレコーダーの様なものが排出されたことを思うと、正体を隠すための工作物である可能性が高い。


人類への接触 デストロンに限らず、歴代悪の組織構成員の多くは人間である。
『仮面ライダーストロンガー』最終回まで、組織の首領が宇宙に由来する存在であることは全く触れられていなかったし、大幹部達も改造人間=元は人間だった訳で、世界征服には大幹部・科学者・戦闘員といった多くの人手を必要としていた。
 推測になるが、首領は可能なら自らの出自を明かすことなく、その正体を完全に秘したまま大幹部を前面に立てた統治を考えていたのだろう。

 それゆえ、首領の正体を知ってか知らずか、デストロンに自らの意志で忠誠を誓っていた者も少なからず存在した。大別すると二つに分けられるのだが、一つは結託部族で、一つはデストロンの理想に共鳴した者達である。
 先ず前者は土着宗教を信奉する部族や好戦的部族で、特に宗教を信奉する者であれば本来教祖や教主や主神以外に忠誠を誓うことは無い。それがデストロン首領に忠誠を誓ったのだから、強力な結び付きがあったのは間違いないだろう。
 風見史郎(宮内洋)はデストロンが世界を征服した際、「豊かになれるのは一部の幹部だけ」としていたが、結託部族は構成員が少ないこともあるので、好条件で迎えられことを見込んで、忠誠を誓ったと思われる。

 もっとも、悪と悪の結託故、互いが互いを利用し合うだけの、腹に一物持ったかりそめの共闘関係であった可能性も高い。ツバサ一族の長・ツバサ大僧正(富士乃幸夫)は背後に現れたヨロイ元帥に対して、「誰だ?貴様は?」と云っており、その存在を知らなかったと見える。
 そしてそのヨロイ元帥はプルトンロケットを利用した最後の作戦に出ることを首領が告げていた際に物凄い険悪な表情をしていた。
 故に首領と結託部族の間に真の絆が築かれていたかは疑わしい。

 その一方で後者だが、本気でデストロンに理想を抱き、忠誠を誓っていた者が少なくとも二人存在する。ガルマジロンの正体である高木裕介(三井恒)と、ライダーマンとなった結城丈二(山口暁)である。
 過去作「悲しきヒーローの旧友」で高木のことは詳しく紹介しているが、彼は風見の旧友で、恐らく脳改造手術を受けていなかったと思われる。
 彼はヨロイ元帥の了解も得ずに、風見を本気でデストロンに勧誘しようとし、それが風見の為になると思っていた。
 風見も風見で悪の組織に身を落として尚、自分に友情を抱く高木を「嬉しいよ。」としつつ、「しかし、お前のデストロンに対する認識は間違っている!」として、逆説得を試みていた。
 結局、この交渉はそもそも風見が応じる筈のないものだったが、ヨロイ元帥が説得自体を「裏切り」としたため、高木は裏切り者に対する制裁=死に半ば怯える様にガルマジロンに変身し、戦いの中に命を落とした。しかし、致命傷を負った今際の際にも風見に対する想いは見せていた。
 詳細は不明ながら、デストロンによる世界征服がユートピアを築くと(誤っていても)信じていたのだろう。

 もう一人の結城丈二に関しては説明不要だろう。
 幼くして父を亡くし、母一人子一人で苦学しながら京都大学に進学するもその研究論文は世に受け入れられず、絶望から死すら願った結城は首領に拾われ、デストロンの科学力で世にユートピアを築くことに(騙される形で)理想を抱き、忠誠を誓った。
 それ故、ヨロイ元帥の陰謀で右腕を溶かされ、殺されかけたことで復讐の鬼となってライダーマンになるも、当初はデストロン自体への未練が思い切り存在した。風見がデストロンを悪く云えば眦を上げて怒りを露わにし、首領ヨロイ元帥との和解を仲介するとした際には迷いを見せ、第48話ではV3必殺キックから身を挺して首領を庇った。
 この行為を詰る風見に、結城は「軽蔑されてもいい」と前置きした上で、首領を「あの人に育てられた」、「恩人」とし、その「恩人」が目の前で倒されるのを見過ごせなかったと述べた。
 恐らく、首領は結城に父の如く振舞い(京都大学進学はデストロンが支援したと云われている)、「恩人」としてのイメージを植え付けていたのだろう。


垣間見せた善意? 実のところ、本作で採り上げた「善意」を持つ者にデストロンをカウントするのにはかなり躊躇いがあった。と云うか、今もカウントして良かったのか疑問である(苦笑)。
 というのも、デストロン首領は人類皆殺しさえ目論んでいた感があるからである。

 第44話で、あるアパートの住民を皆殺しにしたカマクビガメに仮面ライダーV3が、「罪のない人間を何人犠牲にすれば気が済むんだ!?」と詰問した際に、カマクビガメは「地上の人間すべてだ!」と答えていた。
 また第51話で、デストロン首領は(立ち聞きされているのを承知の上で)結城丈二を利用するだけ利用して消す予定だったと述べ、プルトンロケット発射に対して結城に「人類を滅ぼすつもりか?」と問われた際に、「それがどうした?人類など虫けらほどの価値もない!」と開き直っていた。
 核兵器と云い、細菌兵器と云い、大量殺戮に用いる兵器が多く、こうなると風見史郎が高木裕介に云っていた、「裕福になるのは一部の幹部だけで、後は奴隷にされる」との推測すら悪い意味で外れているのではないか、と思われてならない。

 つまり、デストロンが人類皆殺しや人類滅亡を目論んでいたとすれば「善意」もへったくれもないのだが、逆に「本当に皆殺しを考えていたのか?」とするとこれも断言し切れない。
 というのも、デストロンもまたデルザー軍団大首領が仮の姿で率いていた組織で、GODからデルザー軍団までの在り様を見ると、人類を皆殺しにしてしまうと「被支配民」がいなくなる。もしシルバータイタンがデストロンの戦闘員なら、永久に最下層の立場であることを決定付ける人類皆殺しには断固として反対するだろう(笑)

 結局のところ、デストロン首領の世界征服に対する真意は分からない。
 ただ、元人間で、前組織時代に見捨てた筈の地獄大使(潮健児)を庇ったりしたことや、一族存続が何より大切である筈の結託部族が捨て石にされながらも忠誠を誓ったことや、ヨロイ元帥率いる最高幹部会議にかなりの裁量を委ねていたことや、(殆んど騙されているにしても)理想に共鳴した者達がいることを想えば、カースト制度並みの厳しい身分制を敷き、ヒエラルキーの下層に属する者には地獄でも、上層に属する者にはそれなりの優遇をしたのではないかと思われるのである。

 まあ、そのすべてが「世界を征服するまでの過程的・一時的優遇」だったならデストロンには一切の「善意」は無くなるのだが(苦笑)。


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令和五(2023)年二月二日 最終更新