ウルトラマンA全話解説

第12話 サボテン地獄の赤い花

監督:平野一夫
脚本:上原正三
さぼてん超獣サボテンダー登場
 第1話を彷彿とさせるような冒頭だった。さぼてん超獣サボテンダーの姿が下から上にアップで移され、体の各所が移された様子は正に第1話冒頭におけるベロクロンそのものだった。そしてベロクロンがミサイルを飛ばすのに対し、サボテンダーは腹部の巨大な棘を飛ばしてビルを破壊し始めた。
 しかもこのサボテンダー迎撃に向かったのはTACではなく地球防衛軍(笑)。次々に機銃掃射するも勿論打倒に至る筈もなく、次々とサボテンダーから放たれた棘の餌食となった。
 そしてそこへTACの出動も、ウルトラタッチもなく、タッチ時の光だけを伴ってウルトラマンAが登場し、一騎討ちに移った。

 殴り合いは若干Aの方が優勢だったが、サボテンダーは全身の棘を利して勝負を互角に展開した。Aを援護するTACに矛先を転じたサボテンダーだったが、逆にAは背を向けたサボテンダーを投げ技でグロッキーに追い込んだ。だがとどめのメタリウム光線を放とうとした直前、サボテンダーは青い煙を発して煙幕を成すとその体を通常のサボテンと化して戦線離脱することでAの目から逃れた。
 直後、夕子がサボテンダーの棘飛ばし攻撃で左腕を負傷した北斗の手当てをしていた。第7話・第8話でAが体内エネルギーの半分を消耗するエースバリアを発動した際は、夕子がその影響を受けていたが、外傷面の影響は北斗が受けるということだろうか?
 ともあれ、サボテンに化けたサボテンダーは鈍いながらも移動能力を持ち、その場をトンズラ。北斗の推測ではサボテンダーはサボテンとハリネズミが合成されたゲルショッカー怪人超獣とのことでそれゆえに移動能力を持つのだろう。そして負傷した北斗の身を案じるTAC隊員達もさすがにサボテンダーが絶命したとは見ていなかった。

 そのサボテンダーだが、異次元空間のヤプールはエネルギー不足が原因でAに勝てなかったと見ていた。そこでサボテンダーにもっとエネルギーを吸収=他生物を捕食するよう命じた故に、この超獣は単純に巨体で暴れるよりも恐ろしい存在となった。
 エネルギー=捕食対象を求めるサボテンダーは荒谷三郎(佐藤一臣)とその父親(高品格)が営む露店(←商品はパチモン)のサボテンの中に潜り込んだ。そしてサボテンダーが赤い花に寄って来た蝶を食べるのを目撃した三郎はそれがいたく気に入り、父親にねだってこれを自分のものとした。
 翌日、三郎は食虫植物と化したサボテンを周囲に見せびらかした。エネルギーを求めるサボテンダーは人目も気にせず虫を食い、驚く人々を前に三郎はどや顔でサボテンに関する知識を披露した(←露店で撃っているサボテンは「南米直輸入」と言う意味ではパチモンだが、一応はちゃんとしたサボテンを売っていた)。
 もっとも、花で虫を食う食虫植物は実在しないのだが、実際に目の前で起こることと周囲の驚きに気をよくした三郎はサボテンダーの化けたサボテンを「サブロテン」と命名して重宝した。
 だが夜になるとサボテンダーは花弁から溶解液を放出して飼育小屋の金網を溶かすと中にいたニワトリを捕食しにかかり、夜警の校務員・大山(大村千吉)もその犠牲となった。

 一夜明けた事件現場には警察から特命捜査課の滝刑事………じゃなかった、佐田刑事(桜木健一)が捜査に来ていた(笑)。溶かされた金網、点灯したまま放置された懐中電灯、行方不明の大山という現状に対し、初め佐田刑事は酔っぱらって職務を放棄して帰っただけではないか?という恐ろしくいい加減な推理を展開したが、大山が酒も飲まず、帰宅もしていないという校長(天草四郎)の証言で否定された。
 その様子を遠巻きに見ていた三郎達。三郎の級友はサブロテンの仕業じゃないか?との疑問を呈していた。自分の可愛がるサブロテンがそんなことをしたと思いたくない三郎だったが、とにかく状況は素人目にも常態を逸していた。
 それゆえか、そこにTACから北斗と夕子が来たのだが、それに対して佐田刑事が事件は超獣によるものではなく、TACの出る幕ではないとばかりに介入を拒んだ。そこへ女性職員が大山のスリッパにサボテンの棘が残されていること、そのサボテンが虫を食うという通常とは異なる習性を持っていることを証言したことで北斗はサボテンが超獣かも知れない、と述べた。
 だが佐田刑事はサイズからも超獣の仕業との見方を認めず、TACの出る幕ではないとの態度も崩さなかった。それに対し北斗は見方を変えず、超獣を甘く見ていると大変なことになると告げて基地本部に戻った。立ち去る北斗を見送りながら、刑事である自分の立場と見解の正しさを主張したげな佐田刑事…………完全に『特捜最前線』の滝だな(笑)。もっとも、桜木氏がそれを演じたのは6年も後の話だが。

 場面は替わってTAC基地本部。佐田刑事の頑迷さを愚痴る北斗に、警察のセクト主義を苦笑いしながら聞いていた竜隊長だったが、北斗と夕子が警察だけに任せるのは不安とするのに対し、岸田植物研究所を訪ねるよう勧めた。
 サボテン研究の権威である岸田博士(近藤正臣)の意見を参考にせんとして、研究所を訪れた北斗。するとそこへ佐田刑事もやって来た。最前のやり取りもあって顔を合わすなり憎まれ口を叩く2人を宥める様に岸田博士は「サボテンが人を食うか否か?」に対する説明をするとした。
 岸田博士の回答は、「無い、とは言えませんね。」というものだった。博士に言わせると純粋な植物でありながら他の生物を捕食する食虫植物が存在する以上、サボテンの中にその様な食性を持つ突然変異種が現れてもおかしくないというもので、ブラジルの奥地にはトカゲを食うサボテンを見たとの説もあると述べた。
 ちなみに現実の世界ではネズミを食うウツボカズラが2007年に確認された。カエルを食うモウセンゴケもいるぐらいだから寸次第では哺乳類を食う植物がいてもおかしくないだろう。
 ともあれ専門家の証言を得た佐田刑事と北斗は各々、現場のサボテンの持ち主を洗い直すことで同意した。

 ここで少し余談を。

 佐田刑事役に桜木健一氏、岸田博士役に近藤正臣氏という高名な俳優を客演させた何とも贅沢なこの第12話。これには主演の高峰圭二氏の存在が大きく影響していた。
 早い話、高峰、桜木、近藤の三氏は同じ事務所の所属する同僚にして、友人同士でもあり、桜木・近藤両氏の特別出演は、事実上の友情出演だった(当時、『柔道一直線』の好演で名高かった両氏に正規のギャラを払うとかなりの赤字になったらしい)。

 ちなみに三氏は関西出身(高峰、桜木氏が大阪、近藤氏が京都)で、その辺りでも親しかったと思われる。また桜木氏はウルトラセブン=モロボシ・ダンを演じた森次晃嗣氏とも夫婦で親交がある。
 かつてある偶然で桜木夫婦と会話する機会を得たシルバータイタンは、桜木氏の卒業高校とすぐ近くの高校卒業であることを述べたところ、「ほう?僕と同い年ですか?」と言われた。
 いくら桜木氏が年齢より若く見え勝ち(←奥さんも若く見える)で、シルバータイタンが老け顔だからといって、25歳も年上の方に「同い年ですか?」と言われたのには少なからぬショックを受けたものだった(苦笑)。

 場面は替わって荒谷邸。北斗は三郎を訪ねたが、サブロテンを可愛がる三郎はその行方を誤魔化した。サボテンが超獣かも知れないと告げる北斗に、「俺もさ、そう思うから捨てちまったよ。」とした三郎は、何も聞かれていないのに間髪入れず「疑っているのか!?」と凄んだ。そのリアクションは「嘘を吐いています。」と言っているも同然だぞ、三郎(苦笑)
 ともあれ北斗は次見つけたときはTACに通報するよう告げて荒谷邸を辞した。三郎には嘘を吐くことに多少の罪悪感はあったようだが、「男同士の約束」としてサブロテンを隠し通す決意を呟いていた。「約束」って、サブロテンは何も言っていないが(苦笑)。

 場面は替わってTAC基地本部。三郎の(嘘の)証言に従って、サボテンが捨てられた(と偽られた)場所を捜索し、(当然)何も得られずに帰って来た北斗。そこに佐田刑事から連絡が入った。大山のスリッパに残された棘を(恐らくは科警研辺りで)分析した結果、サボテンではなく、ハリネズミのものだったとのことで、北斗はやはり超獣の仕業だったと断定した……………「ハリネズミ=超獣」って、余りにも短絡的すぎないか?北斗よ(苦笑)。案の定、電話の向こうの佐田刑事も「ハリネズミが超獣?TACのやることはさっぱり分からんなぁ…。」とぼやかれていた(苦笑)。

 佐田刑事の充分な理解は得られなかったが、サボテンダー本体と交戦済みのTACではサボテンとハリネズミの特徴を併せ持つことで、北斗の仮説は間違いない、とされ、小さい内に見つけて叩き潰そうということで一決した。

 TACは大捜査網を繰り広げるも、三郎宅に匿われているサボテンダーが引っかかる筈もなかった。そしてそのサボテンダーは相変わらずエネルギーを求めて飢えていた。三郎の父が酒の肴にしていた焼き鳥串を盗み食いしたものだから、サブロテンが食虫植物以上に貪欲な肉食であることが判明。さすがに三郎もサブロテンの異常な生態を思い知った。
 そして三郎宅を飛び出したそのサボテンダーは、オープンカーで夜間ドライブに興じる馬鹿ップル(赤塚真人&宮野リエ)を襲撃・捕食した。
 しかし、この馬鹿ップルを演じた、数々のドラマに客演し、『仮面ライダーBLACK RX』のレギュラーとなった赤塚氏と、後に本作のレギュラーとなった宮野氏がこの第12話ではノンクレジットだったことからも、桜木氏と近藤氏のネームバリューの大きさが分かるというものである。

 ほどなく、北斗と夕子は犠牲者が残したオープンカーを発見。直後、サボテンダーは夕子をも捕食しようとその腕を捕らえた。幸い、北斗と三郎が引っぺがしたことで事なきを得、駆け付けて来たTAC一同も即座に処刑せんとしたが、これを他ならぬ北斗が止めた。
 北斗が言うには、過去にも宇宙昆虫がレーザー光線を浴びて帰って巨大化した例(←どうやら前作『帰ってきたウルトラマン』第26話のノコギリンを差しているらしい)があることを提示し、この場での処刑は危険だから、宇宙に送って処分すべし、と主張した。
 竜隊長もこれを取り上げ、特殊カプセルに封じたサボテンダーを宇宙空間に送り、スペースミサイルで撃滅するよう命じた。だがこれは裏目に出た。ヤプールに言わせると、ミサイルの力はサボテンダーのエネルギーを満タンにする物になってしまっていた。まあ少し北斗を弁護すると、ノコギリン二の舞にしても、地上に即座の被害が出なかっただけでも目の付け所は間違えてなかったと言える。

 再びその巨体を表し、地上の建造物を次々と破壊するサボテンダー。それに対し、梶主任は水蒸気蒸発ミサイルの使用を提言した。サボテンの体の95%が水分であることに着目した武器選択だった。
 竜隊長はサボテンダーの棘がミサイルになっていることから戦闘機での接近を危険と見たが、北斗は(サボテンダーを処分出来なかった責任を感じてか)自分にやらせて欲しいと申し出て出撃した。
 北斗はTACアローから水蒸気蒸発ミサイルを焼夷弾の如く大量に投下。赤い煙を吐くこのミサイルはサボテンダーをそこそこ苦しめ、TACは地上からも総攻撃を仕掛けた。だがサボテンダーは苦しみながらも棘ミサイルを発して応戦。竜隊長が懸念した様に棘ミサイルはTACアローに命中。例によってここでウルトラリングが光り(笑)、北斗と夕子はウルトラタッチを敢行した。

 A対サボテンダー2度目の対決。次々放たれる棘ミサイルを側転でかわすAが白兵戦の主導権を握るかと思われたが、サボテンダーは巨体を上下にホッピングさせる体当たり攻撃に出た。Aはグロッキーに追い込まれ、竜隊長もこのままではAに勝ち目がないと見たが、サボテンダーの次なる攻撃が自らの墓穴を掘った。
 長い舌を伸ばし、Aの首を絞めたのが仇になったのである。カメレオンやカエルの様に舌を武器とする生物は現実にも存在するが、その対象は舌の接着面でほぼ全身を抑え込めるほど小さい相手ばかりである。自分とほぼ同じ大きさの相手に放つ舌は容易に攻撃される上に、撃たれ弱い部位を晒す危険な攻撃方法でもある
 案の定、Aはダブルビームで舌を焼き切り、サボテンダーは七転八倒(笑)。Aは体を丸めたサボテンダーを上空高く投げ飛ばすと、サーキュラー・ギロチン(これもウルトラギロチンの変形技)を放ってその体を四分割した。
 斬り裂かれたサボテンダーは紫色の体液を放出して絶命したのだった。

 ラストシーン。サブロテンを失った三郎は河川敷でサボテンを売っていた。
 大人顔負けの啖呵売でサボテンを全部売った、とどや顔の三郎。しかしそれは原価を無視した大安売りによるもので、売り上げを受け取った父親とは忽ちドタバタ親子喜劇を展開し、その様子を笑って見る北斗と夕子だったが、三郎の拾ったサボテンが結果として数々の犠牲者を出したことに対する気まずさは存在しないのだろうか、コイツ等?


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平成三〇(2018)年七月一〇日 最終更新