ウルトラマンA全話解説

第14話 銀河に散った5つの星

監督:吉野安雄
脚本:市川森一
殺し屋超獣バラバ、異次元超人エースキラー、超人ロボットエースロボット登場
 前編となる前話でウルトラ兄弟を人質とし、Aに対しても絶対的な優位を宣言したヤプールは本話の冒頭で地球人に対しても降伏を要求した。
 しかし、いつも思うのだが、地球人に降伏を要求する特撮番組の敵役は多いが、コイツ等は誰を相手に交渉しているのだろうか?地球防衛軍が全権を担ったとしても、全人類がそれに従うことなんて絶対ないと思うけど(苦笑)。
 一方、前話のラストで瓦礫の中に倒れ伏していた北斗と夕子は気絶状態のまま回収され、TAC基地本部内で人工太陽光線の照射を受けて意識を取り戻していた。

 そしてTACではこの緊急事態打開の為、南太平洋のTAC国際本部から高倉長官(山形勲)が来訪していた。本部にて立案された作戦はゴルゴダ星を爆破するというもの。
 そのゴルゴダ星がマイナス宇宙に存在する為、攻撃は不可能とする梶主任に対し、高倉は超光速ミサイルならそれが可能として設計図を広げた。設計図を広げたということはそれはまだ作られておらず、高倉は5日後の7月7日までにこれを製造し、打ち上げるとした。
 単純な破壊を目的としたマリア2号でさえ6日間での製造が難題だったのを、マイナス宇宙にまで飛び込んで星を破壊するような代物を5日間で作れとは随分ハードな指令である。
 だが北斗にとっては、技術や期限以前の問題があった。勿論ヤプールによってゴルゴダ星に拘束されているウルトラ兄弟のことで、高倉の台詞を聞いた瞬間、ゴルゴダ星で命を落とす4人の兄を連想した北斗は、ゴルゴダ星爆破はウルトラ4兄弟を救い出してからだ、との異議を唱えた。
 その異議を高倉は「今は何よりも地球の危機を救うことが先決だ。」として一蹴。続けて本部の作戦に異議を挟む気か?と嫌味たらしく高圧的に出て来た。
 さすがは『水戸黄門』第1部〜第18部まで20年の長きに渡って佞臣の親玉・柳沢吉保を怪演した山形勲氏である(第4部〜第12部は抜けているけどね)。この短時間で既に正義のチームの長官とは思えない程の嫌悪感を視聴者に植え付けているのは見事である。
 ともあれ兄の命が掛かっている北斗も簡単には引き下がらない。作戦を実行すればウルトラ4兄弟を初めとする犠牲者が出ることや、ウルトラ兄弟がこれまで幾多の宇宙侵略者達から地球を守ってくれた恩人であることを述べて高倉の翻意を求めるも、高倉は「多少の犠牲はやむを得ない。」として、ウルトラ兄弟の恩義に対しても、「異議申し立ては認めない。」との官僚的・高圧的拒絶で聞く耳を持たなかった。


 ここで少し話が逸れるが、この第14話で、北斗を初め登場人物達の台詞におかしなところが散見される。ウルトラ4兄弟はそれぞれ、「ゾフィー」、「マン」、「セブン」、「ウルトラマン2世」と呼ばれていたが、この内、「ウルトラマン2世」はこの時限りで定着しなかった(帰ってきたウルトラマンの呼称問題は本当にややこしい……)。
 だがもっと変だったのは、登場人物達が軒並み、ウルトラ兄弟の故郷を「 M87星雲」としていたことである。勿論「M78星雲」が正しい。
 この「 M87星雲」呼称は『ウルトラマン』第19話でアボラス・バニラが封印された時代を「3億5000年前」とされていたのと双璧を為すヘンテコ呼称だが、これは恐らく脚本に誤記されたものを、俳優諸氏が記載に忠実に従って口頭上に出したことによるものだろう。

 まだまだヒーロー番組のあるべき姿が確立され切っていない中、『ウルトラマンA』が放映された年は特撮番組が雨後の筍の如く乱立した年でもあった。
 そんな時世にあって、しっかりとした番組作りをするにあたって、それこそ長官命令ではないが、脚本と異なるアドリブで台詞を為すなど出来ない時代だったのだろう。それが良いか悪いかは一概には言えないが。



 ともあれ、高倉は聞く耳を持たず、去り際に竜隊長に、「部下の教育がなっていないぞ。」とでも言いたい気な一瞥をくれた。軍隊組織にあっては竜隊長も長官に逆らえず、執り成しを懇願して欲しそうにする北斗にも「本部の命令には逆らえない。」とし、超光速ミサイルの建造を指令した。
 かくして超光速ミサイルNo.7の建造が始まった。光速を超えるというとんでもない性能を持つこのミサイルは二段式ロケット構造で、2段目の第1ロケットにパイロットが搭乗して操縦を行う有人兵器であり、目標直前で操縦ロケットを分離させ、1段目のミサイルのみが光速を越えてマイナス宇宙に突入し、目標に命中させるというものだった。

 場面は替わってゴルゴダ星。TACが超光速ミサイルを作っている最中、ヤプール側でも忌まわしい製造が行われていた。異次元超人エースキラーの開発・製造である。
 名前の通り、Aを殺すことを目的として作られたサイボーグ超人である。そのエースキラーをパワーアップさせるため、ヤプールは拘束しているウルトラ兄弟からゾフィーのM87光線、ウルトラマンのスぺシウムエネルギー、セブンのエメリウムエネルギー、新マンのウルトラブレスレットを奪い、これらをエースキラーに移し与えた(ただでさえAにエネルギーを分け与え、瀕死に等しいウルトラ兄弟は更なる脱力状態に陥った)。
 エースキラーへの武装移植が整ったヤプールは、エースキラーの能力を誇示せんが為に、またウルトラ兄弟を精神的に苦しめんが為に、超人ロボットエースロボットを召喚し、模擬決闘を行わせた。
 ヤプール曰く、「我々ヤプールの科学力をもってすれば、Aの1人や2人を作り出すなどへもないこと。」とのことで、その言葉通りに作られたウルトラマンAの代理ロボットたるエースロボットが登場した訳だが、このヤプールの台詞は多少はったりが入っていると思われる。多少の金環を付けた外観上の相違は大した問題ではないだろうけれど、エースロボットの動きは明らかに本物より鈍重だった。1人や2人を作り出すのが大した労力でもないなら、とっくに大量生産して人海戦術を取るか、物凄く優れた1体を作るかしていただろう。
 それ等のことを鑑みると、この模擬決闘はエースキラー(と、コイツに移植されたウルトラ兄弟の技)の性能テストと、その過程でAそっくりの存在が嬲り殺しにされる様をウルトラ兄弟に見せつけるという嫌がらせが目的であることが分かる。
 エースキラーエースロボットが放ったメタリウム光線を涼しい顔で受け止めると、ヤプールの指示に従い、スペシウム光線、エメリウム光線、ウルトラブレスレットの波状攻撃をエースロボットに浴びせた。自分達の必殺技が、パチモンとはいえ弟そっくりの存在に浴びせられ、苦しめている様にウルトラ4兄弟は身悶えし、ヤプールの嫌がらせは見事に功を奏していた。
 そしてゾフィーから奪ったM87光線が炸裂すると、それまで数々の光線に辛うじて耐えていたエースロボットの肉体も木っ端微塵に粉砕され、このインパクトにはウルトラ4兄弟も、再放送を見たときの道場主も目を見張らずにはいられなかった。
 かくして性能テスト(兼嫌がらせ)は終了した。

 そして時と場面は替わって、5日経過後の7月7日のTAC基地本部。そこでは遂に超光速ミサイルNo.7が完成していた。高倉は射程距離までのミサイル誘導パイロットに北斗を任命した。
 だがこの任命にTAC隊員達は次々と異を唱えた。竜隊長は北斗の若さと、宇宙飛行経験時間の短さから他の者の方が適任とし、山中も急ごしらえのNo.7には未知の危険も考えられるゆえ、もっと経験豊富なパイロットが行くべきで、自分に行かせて欲しい、と申し出た。
 だが高倉は「今更搭乗員の人選で君達と議論する気はない。」とここでも高圧的且つ官僚的な態度に終始した。一応、高倉は人選が、TAC全隊員の体力・耐久力を詳細に調べ上げたデータを基にコンピューターが選んだもの、とし、それが事実なら全うな人選ではある。
 だが、今度は今野が、北斗が対バラバ戦での負傷から戦列復帰したばかりの身で、危険が伴うと訴えたが、高倉は「TACの任務に危険を伴わない任務などない!」とこれも一蹴した。
 更にねちっこいことに、高倉は北斗にこの任命が嫌なら辞職するか?とまで迫った。それに対して北斗は受諾する旨を回答した。驚いた夕子だったが、高倉は北斗の回答に満足し、5時間後の13時にミサイルを発射することと、その間のヤプール襲撃に備えることを他の隊員達の任務とし、会議(?)を終えた。

 かくしてゴルゴダ星へのミサイル誘導を受諾した北斗だったが、他の隊員達はまだ納得しなかった。山中は、パイロット人選は、ゴルゴダ星爆破に反対した北斗への報復人事ならぬ報復人選に違いない、として、北斗にミサイル発射直前に入れ替わって自分が行っても良い、責任は俺が持つ、とまで言ってくれた。普段怪現象への見解や、報告を巡っては何かと北斗意見を異にし、その都度声を荒げる山中だがこういう時は本当に良い兄貴分である
 この好意には素直に礼を言った北斗だったが、自分は大丈夫だと返した。それ受けて山中は、北斗と夕子の誕生日である七夕に合わせて竜隊長がバースデーケーキを注文していたことを告げ、「ケーキを無駄にするなよ。」という物言いで無事の帰還を求め、激励した。

 そして5時間後、やはり万一が充分考えらえる任務故か、出撃に当たって北斗と竜隊長は固い握手を交わした。そしてミサイルに向かう北斗だったが、それを夕子が追い、Aの兄弟を自分の手に掛けるのか?と詰問した。それに対する北斗の答えは、自分がやらなくても他の誰かがやることになる。他の者にはやらせない、というものだった。
 かくして北斗はミサイルに乗り込み、特殊なヘルメットを装備して発射準備の完了を告げた。そして美川のカウントダウンでNo.7は飛び立った。

 大気圏を越え、北斗がゴルゴダ星を視認したことを伝えると、高倉は第1ロケットの切り離しスタンバイを命じた。美川からその指令を受けた北斗は切り離しレバーを引いたが、切り離しは為されなかった。
 「切り離し不能。」の通信を受け、いの一番に山中が北斗の名を絶叫した。そして通信マイクに歩み寄った竜隊長は北斗に落ち着いてもう一度レバーを引くよう丁寧に伝えたが、結果は変わらなかった。北斗の推測では大気圏突破時の衝撃で接続回路が切れた模様とのことだった。さすがは急造の粗悪品である(嘲笑)。
 一連の流れを見て、一瞬気まずそうな表情を見せた高倉だったが、通信マイクを取ると、「北斗隊員、残念ながら思わぬ事故が起きた。しかしながら予定は変更出来ない。そのままスピードを超光速に切り替え、ゴルゴダ星に突入してくれ。」と非情極まりない命令を出した。つまりは「お前は死んでもいいから、任務を完遂しろ。」と言ったも同然である。
 勿論これには全TAC隊員の顔色が変わった(普段冷静で感情の起伏が少ない吉村や梶主任も例外ではなかった)。竜隊長は高倉の指令を遮るように、「北斗、その必要はない。ミサイルの方向を変えて直ちに地球に帰還せよ。」と指示し、傍らにいた美川も頷いた。
 この横合いからの、自分の命令とは真っ向から反する指示を出した竜隊長に対し、今度は高倉が色めき立った。「何を勝手なことを言うか!?」と激昂する高倉に竜隊長は、「計画の指揮官は貴方だが、TAC隊員の命を預かっているのはこの私です。これから先は私が指揮を執る!」と言い切った。
 この一言にTAC隊員達の表情が和らいだが、勿論高倉の表情は逆に強張りまくった。本部に逆らう者は隊長でも容赦しないと凄む高倉だったが、竜隊長は「本部の計画は既に失敗した。責任を取るべきは貴方だ。あの欠陥ミサイルの設計図を持って早く本部にお帰りなさい。」と返した。

 論理的に、問答的にぼろくそに叩かれ、面目丸潰れ状態の高倉は竜隊長に掴みかかろうとする姿勢を見せかけたが、その背後に肩を怒らせた今野が立ち、指の関節を鳴らした。立場を傘に着てこれ以上の非道命令を強要するなら暴力的抵抗も辞さないという意思表示だろう。
 恥ずかしながら、幼少の頃から喧嘩に弱く、いじめられっ子経験も持ち、人一倍臆病なシルバータイタンは暴力を仄めかす示威行動に激しい嫌悪感を持つ人間だが、怪力を誇りながら純情で無駄な暴力を慎む好漢・今野勉だからこそ、この時の関節鳴らしだけは快哉を叫びたくなった。
 だが、こうなると最早退くに退けないのだろう。高倉は意固地になって、作戦変更があり得ないことを宣し、マイクに向かって、「北斗隊員!司令官命令だ!そのままゴルゴダ星に突入せよ!」と叫んだが、次の瞬間、怒れる竜隊長の右フックが炸裂した。成程、彼自身が前言したように、「TACの任務に危険を伴わない任務などない!」ということが多いに納得出来た。高倉が身をもって(笑)、証明してくれたのだから(笑)。

 この暴力沙汰を止めたのは、意外にも特攻と云う「死」を強要された北斗だった。自分は特攻するという北斗に止めろと言わんばかりに竜隊長がその名を絶叫したが、北斗は最初から生きて帰る意志が無かったことを述べ、ゴルゴダ星のウルトラ兄弟と共に死なせて欲しいと懇願した。
 こう言われては竜隊長も力なく北斗の名を呟くしかなかった。そしてこのような事態を生んだ張本人を詰るように夕子は高倉に「帰って下さい!」と詰め寄り、最後には山中が「さあ、帰ってくれ!」(←命令形)と怒鳴って首根っこを掴んでつまみ出した。
 終始無言だった美川、吉村、梶主任もその表情には明らかな怒りが現れており、気持ちは竜隊長、山中、今野、夕子と同じことだっただろう。
 かくしてウルトラシリーズ史上一、二を争う最悪長官の高倉はたった一回の出演で退場し、以後登場することはなかった(長官を殴った竜隊長が何の処分も食らわなかったので、高倉の方が処分された、とマニアの間ではみられている)。

 高倉が追い出された次の瞬間、超獣出現の報が寄せられ、竜隊長は通信係を命じた夕子以外の全隊員に出動を命じた。だがバラバの前にTACの攻撃力は通じず、TACファルコンも、TACアローも次々炎上し、搭乗者達は恒例行事(苦笑)を余儀なくされた。
 その頃、1人本部に残った夕子は北斗に話しかけていた。北斗の方から夕子は見えなかったが、夕子からは北斗が見えており、彼女が北斗を見守っていたその時、2人のウルトラリングが光った。夕子は北斗に手をつき出すよう求め、画面上に手を重ねるようにするとそれだけでウルトラタッチが成立した
 通信が繋がっていれば、生身が離れていてもウルトラタッチは可能と言うことだろうか?ともあれ変身したAは欠陥ミサイルから飛び出し、もはや用無しとなったミサイルをパンチレーザーで破壊した。

 かくしてゴルゴダ星破壊を中止せしめたAはゴルゴダ星に降り立ち、自分も兄達に一緒に死ぬと告げた。だがそんなAの心根を知ってから知らずか、エースキラーが襲い掛かって来た。A自身が死ぬ気でも、自分の手で命を奪わないと気が済まないということだろうか?ともあれ、模擬戦ではなはい真剣勝負としての両者の一騎打ちが始まった訳だが、戦いはヤプールがシミュレートした様に展開した。
 メタリウム光線が効かず、スペシウム光線、エメリウム光線、武器での打撃を次々と浴びせられるA。最後はM87光線で為す術なく木っ端微塵にされるのかと思われたその刹那、ウルトラ4兄弟のカラータイマーから一斉に光線がAのウルトラホールに降り注いだ。兄弟達が最後の力を振り絞って分け与えられたエネルギーを受け、Aはエースキラーが放ったウルトラブレスレットを弾くと、返す刀でウルトラ5兄弟の力を結集した大技・スペースQを放ち、エースキラーを木っ端微塵に粉砕した。

 エースキラーまさかの敗北を受けて、ヤプールはゴルゴダ星を爆破(←結局はこうなる運命にあった可哀想な星だったのね)。だがA達ウルトラ5兄弟は直前にゴルゴダ星脱出を果たしていた。そしてAはその足でバラバ退治の為に地球へ急行した。
 もはや兄達を人質とされたという心配もなく、放射能の雨による妨害もないA。バラバは緒戦よりは明らかに恵まれていない環境下で武器や尻尾を用いて善戦したが、今回も頭部の剣が仇になった。
 満を持して放った剣だったが、今度もAに捕まれ、逆にそれを胸に刺されたバラバは吐血して悶絶した。グロッキーになったバラバをAが後頭部に蹴りを入れると眼球が飛び出し、バラバは倒れこそしないものの、直立のままのたうち回った。Aはバラバの左腕の鎌も奪い取ると、それを得物としてバラバを首ちょんぱ。爆発こそしなかったものの、残る胴体も地に倒れ、超獣バラバは絶命したのだった。

 ラストシーン。TAC基地本部では大きなバースデーケーキが置かれ、北斗と夕子の誕生日が祝われようとしていた。またこの日は七夕でもあり、昭二少年は兄の仇が打たれたことを感謝し、ウルトラ兄弟の人形を飾った笹を持ってきていた。
 だが主役である北斗と夕子は屋上で天の川を見上げていた。1年に1度しか会えない牽牛と織姫が恋人同士であることに対し、「私達は何なのかしら?」と夕子に意味ありげに問われた北斗。答えられなかったというよりは聞いていなかったようだった。
 最後は次々と流れる流れ星を笑いながら見上げて終わったのだが、後に夕子が北斗の元を去った時の状況を思えば、こんなときに北斗が答えなかったことが悔やまれるのだった。結局偶然同じ誕生日を持つ2人のその点には余り触れられず、前後編の後編である第15話は終結した。


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平成三〇(2018)年七月一五日 最終更新