ウルトラマンA全話解説

第15話 夏の怪奇シリーズ 黒い蟹の呪い

監督:山際永三
脚本:田口成光
大蟹超獣キングクラブ登場
 この回から「夏の怪奇シリーズ」が始まった。第1クールの最後と第2クールの最初でウルトラ4兄弟を十字架に架けるなんてインパクトの強いことをやらかしたので、イメージチェンジ兼梃入れといったところか?(笑)
 冒頭、北斗は夜間パトロールの為、岡山県の上空2000mを飛行していた。東京から約700kmも離れたところまで警備しているとは職務熱心で結構なことだが、燃料代は大変なことにならないだろうか?(苦笑)
 ともあれ、岡山上空の北斗は今頃休暇中の今野が岡山の親戚宅に着く頃である筈ということを視聴者に説明してくれていた(笑)が、職務的には無駄なおしゃべりであることを美川に窘められる行為でしかなかった(苦笑)。

 そして北斗が飛ぶその下である岡山の海岸では悲しい儀式と悲惨な事件が同時並行で展開していた。前者は三ヶ月前に海で父を失った少年・夢二(及一元次郎)による灯篭流しで、夢二の父は漁船を残して海で消息を絶ち、地元の人々は「瀬戸内海に住む化け物」に食われたと噂していた(←前々回の警察官とは随分対照的な人々だ)。後者はまさに何者かによって人が襲われる事件だった(被害者はカブトガニの密漁者)。

 翌朝、警察による現場検証が行われたが、被害者は衣服だけが残されているというけったいな状況に、警察は目撃者(=密猟者仲間)の証言にも小首をかしげていた。昭和時代の警察官って、本当に空想の世界を否定する為にいるとしか思えん(苦笑)。
 だが、仲間を海に引きずり込まれた密漁者も容易には引き下がれない。野次馬の中に夢二がいるのを見つけて、自分の証言が正しいことを証言させようとしたのだが、密漁者は夢二を自分達の得物を横取りした泥棒と思い込んでいたから、荒々しく引っ立てた。
 だが夢二の方では、相手が密漁者であることを知っているから、激しくこれに抵抗し、逃げ出した。密漁者は尚も夢二を追い、ひっ捕まえたのを、子供に乱暴するなとばかりに休暇中の今野が止めに入った。

 今野に止められた密漁者は「泥棒小僧の味方をする気か?」と凄んだが、逆に夢二によって天然記念物であるカブトガニを密漁していたことを暴露された(笑)。結局密漁者は夢二の一言で巡査に引っ立てられることとなり、今野は夢二に詳しい話を聞き出さんとしたが、夢二は表情を曇らせるだけだった。
 密漁者を連行しようとしていた巡査は夢二が父親の行方不明以来平常心ではなくなっているから証言を求めても無駄だとした。だが手掛かりを求める今野の手慣れた様子を見て、彼がTAC隊員と知ると、「じゃあ、今野さんちの……。」と相好を崩した。どうやらTAC隊員を身内に持つと言うだけで近所では有名になる様だ。
 そして巡査が言ったように、夢二はその後も心を閉ざしたままで、足の出血を今野の姪・ユミコ(宇野三都子)が拭おうとしても邪険に振り払った。そんな少年を今野が無理に尋問する筈もなく、手当てを拒む少年を「強い強い。」と言って笑顔を向け、気長な待ちに入った。
 だが夢二の言動は、良い悪いは別にしてもどうにも不可解だった。父親が行方を絶ったショックで多少の情緒不安定はやむを得ないにしても、ユミコにどこから来た?と尋問したり、潮騒を聞くのに使う巻貝を「父ちゃんの貝」としたり、行方不明の父を「蟹になった。」としたり、「父ちゃんの貝」で蟹になった父と会話が出来るとまで言ったりした。都会の警察なら救急車を呼びかねない主張である(苦笑)。

 勿論ユミコは信じず、「お前にだけ証拠を見せてやる。」という夢二に「お前じゃないわ、ユミコよ。」と反論した。TAC隊員を輩出した今野家の血だろうか?(笑)
 2人は停泊船にもたれて居眠る今野を放置して浜を移動し、最前の巻貝を耳に当てるよう勧められたユミコだったが、彼女には波の音しか聞こえなかった。だが夢二には聞こえるようで、巻貝の向こうからは蟹の化け物が人間への恨みと共にその身をどんどん巨大化させているという情報が流れて来た。どうやら環境破壊に対する報復らしい。
 更に亡父からの情報では超獣蟹を操る存在がいて、その超獣蟹が浜辺の街を襲うと云う。それを夢二から聞いたユミコは疑いもせず、今野へ知らせに走り、夢二の台詞を追認するナレーションが流れた。
 勿論超獣蟹とは大蟹超獣キングクラブで、それを操る存在とはヤプールである。ナレーションはどこか進化の波に乗れず、環境破壊で個体数を減らすカブトガニに同情的で、今回のヤプールは前々週に放射能の雨を降らせた奴とは思えないエコの味方だった(笑)。

 ともあれ、キングクラブは沿岸に現れ、これを見た今野からTAC本部を経由し、TACアローでパトロール中の北斗に通報された。北斗は2、3分で岡山に着くとしていたが、TACアローの最高速度はマッハ7.7なので、2、3分で行ける距離は315〜470kmとなる。勿論パトロールという性質上最高速度では飛んでいなかっただろうから、加速の時間を考えても大体東京―岡山間の中間、長野か岐阜の上空を飛んでいたと思われる。
 こうして計算してみると、ごく当たり前の様に出てくるマッハと云う速度は凄いものである。燃料代も凄いんだろうけれど(苦笑)。
 だが北斗が到着するまでの間、キングクラブは火炎と溶解泡を吐いて海岸を暴れ回った。休暇中の今野は通信機を持ってはいても丸腰で、姪を守るので精一杯だった。そこへ到着した北斗はキングクラブを攻撃するより、その注意を引き付ける方に尽力した。今野とユミコの避難を優先する為で、これには今野も素直に感謝した。前回の長官騒動以来、友情が芽生えているな(笑)。
 だがキングクラブはTACアローに火炎を浴びせ、機体は炎を吹き上げた。北斗はいつもの脱出(笑)ではなく、不時着を敢行した。さすがに自分達を庇う為に攻撃を受けた北斗を目の当たりにして今野はその名を絶叫し、不時着した北斗の元へも駆け付けた。

 合流を果たした北斗と今野だったが、キングクラブは執拗に3人を追った。北斗は2人の前に出てTACガンで応戦。打つ手を持たない今野は初めて「南無阿弥陀仏」と唱え、これで終わりか、と呟いたが、その表情はどこか楽しげだった。コイツも何だかんだ言ってよく分からんキャラの1人だな(苦笑)。
 そんな今野を励ます北斗だったが、その励ましに続くようにTACファルコンとTACスペースも飛来した。ようやくTACの反撃が始まった訳だが、ここでユミコが、夢二が岬に置き去りになっていることを思い出した。冷たい女である(苦笑)。
 勿論気の良い北斗と今野がこれを気に掛けない訳が無い。北斗は竜隊長にこのことを報告し、竜隊長はTACスペースに搭乗する山中・吉村コンビに火炎爆弾による攻撃を命じた。
 いつもは情けない程超獣に痛手を与えられないTACの攻撃だが、この攻撃は有効だったらしく、キングクラブは体を揺らして7色に発光させると空間に解け込むようにしてその姿を消したのだった。

 超獣が姿を消したとはいえ、倒された訳ではなく、今野も北斗も気を抜かなかった。そこへユミコはキングクラブを操る存在がいて、情報源が夢二と、彼の傍にいるカブトガニであることを証言した。ユミコ曰く、夢二は(父の化身である)カブトガニの言葉が分かるとのことで、これがすんなり信用されたのだから、今野は変わったのか、それも姪に甘いだけなのか……(笑)。
 案の定、今野が合流した竜隊長達にそのことを報告した際に、山中は「あいつ、岡山に来てボケたな…。」と呆れていた。遊びならともかく、任務で他県にやって来たことでボケると思われているとしたら、山中の北斗不信は根深い(苦笑)。悪意が無いだけに(他の隊員達は疑っている様子はなかった)。
 そしてその間、北斗はユミコの案内で夢二と会っていた。ユミコは北斗が大蟹(カブトガニ)と話したがっているので仲介して欲しい、と依頼したが、いまだ閉鎖的な夢二は「いい加減なことを言うな!」と癇癪を起した。だが、北斗は本気で子供の言うことを信じる男である。これは掛け値なしに褒めていいことで、北斗は自分が真剣であると訴え、夢二の言う通りなら岡山も、漁村も、鷲羽山ハイランドも蹂躙されて多くの人命が失われることになるので、そうさせない為にも大蟹の話が聞きたい、と真摯に告げた。
 さすがにそう言われては夢二も無碍に断れず、巻貝を差し出した。但し、父と話が出来るのは自分だけだということを付け加えるのを忘れなかった。しかし北斗は会話が出来た。大蟹は北斗がAであることは見抜けなかったが、「人類で一番力がある。」と看破し、ヤプールの存在を知り、詳細は不明ながらも鷲羽山ハイランドにヤプールの気配があるのを掴んでいた。
 北斗は夢二にカブトガニと共に自分についてきて欲しいと告げた。少し戸惑った夢二だったが、どうやらカブトガニが了承したらしく、巻貝を耳に当てると満面の笑顔で北斗の要請に応じた。

 早速その証言を基に鷲羽山ハイランドを調べたが、吉村が駆使するレーダーには何の反応も無かった。だが北斗はカブトガニを連れた夢二に探らせ続けた。これに対して山中は「蟹の寝言を信じるのか?」と呆れ顔だったが、北斗は頑強に抗弁した。動物の本能を馬鹿にせず、不確かなものからも手掛かりを集めるのも大切な任務だと主張したのである(正論である)。
 やがて夢二は気配のする方角をカブトガニから聞き付け、その方角に走った。竜隊長は北斗と夕子に追随を命じ、美川と今野には上空からの偵察を命じた。そして程なく、夢二は、超獣はハイランドのタワー近くに姿を消して潜んでいると告げた。
 それを聞いた北斗は竜隊長に攻撃を要請したが、さすがに竜隊長はそれでそのまま攻撃に移るほど短絡的ではなかった(笑)。姿を消した相手を炙り出す為に、窒素爆弾でその姿を見えるようにしてから攻撃すると述べ、北斗もこれに納得した。

 窒素には酸素の働きを阻害する性質があり、これにより周辺の空気が変質したためか、竜隊長の狙い過たず、窒素爆弾の投下と共にキングクラブの姿が露わになった。しかも窒素爆弾は酸素不足でキングクラブが呼吸に苦しむという効果まで上げたおおっ!!効果的な攻撃を行っているじゃないか!TAC!!(笑)
 そして竜隊長の号令一下、総攻撃が為され、北斗と夕子も夢二に礼と、大蟹を大切にすることを述べて攻撃に加わった。だがキングクラブは火炎を放射して抵抗(この攻撃でカブトガニは焼死)。今野と美川のTACスペースも撃墜された。だがここで北斗と夕子のウルトラリングが光り、2人はウルトラタッチでAに変身した。

 しばらく殴り合いが続いたが、やがて不可解な展開が為された。Aが柏手を打つと、BGMが大相撲の太鼓の音に代わり、Aが四股を踏んだ。すると何故かキングクラブもこれに応じて四股を踏んだ。相撲的な展開はこの時だけだったのだが、何とも不可解な一コマだった。
 やがて通常の殴り合いが再開。Aはその巨体を寝かせてグランドで戦闘を有利に運んでいたが、ここでキングクラブは全ウルトラ怪獣の中でも有数とされるほどの長い尻尾をAの首に巻き付けて締め上げた。だがAは重ねた両手に装着するように渦を巻いた光線・ドリル光線でもってキングクラブの尻尾をバラバラにして危地を脱出。リフトアップしたキングクラブを投げ飛ばし、TACもここに機銃掃射を浴びせた。尚も火炎を吐いて抵抗したキングクラブだったが、Aは伸ばした両手から赤色熱光線であるアタックビームを放ってキングクラブを爆殺したのだった(その後、消火フォッグで周辺の火災を消すのも忘れなかった)。

 ラストシーン。夕暮れ時にユミコと共に佇む夢二は大蟹の死によってもう父の声が聞こえないとぼやいていたが、そこへ現れた北斗と夕子が夢二に「ウルトラマンAは君達の味方だ。決して裏切るようなことはしない。」と告げ、巻貝を耳に当てるよう勧めた。
 すると夢二(だけ)の耳に父の声は聞こえて来た。父は自分が元気であることと、夢二の背後にいる人物がAであることを告げた。
 全話解説の為にこの第15話を見直すまで気付かなかったが、これがAの正体が一般人に知られた最初と思うと、結構重大な回だったんだな、この第15話。ともあれ、こうして夏の怪奇シリーズ第1弾は終結したのだった。


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平成三〇(2018)年七月一六日 最終更新