ウルトラマンA全話解説

第16話 夏の怪奇シリーズ 会談・牛神男

監督:山際永三
脚本:石堂淑朗
牛神男、牛神超獣カウラ登場
 夏の怪奇シリーズ第2弾は、今度は吉村の休暇・帰省から始まった。帰省先は前話と同じ岡山。さすがに短期間で別の地方ロケを行うのは予算が許さなかったか?(笑)
 新幹線に乗る吉村はスーツにネクタイ。シルバータイタンの観察に間違いが無ければTAC隊員初のスーツ姿である(←TACのバッヂ付き)。休暇は「吉村隊員の亡くなった父親の法事の為」という名目で竜隊長が半ば強制的に取らせたもので、休暇を命じた竜隊長も、命じられた吉村も、見送る他の隊員達も全員がニコニコしていたのが得も言えぬものがあった(笑)。

 そんな嬉しい帰郷の車中、弁当を食う吉村の隣に断りもなく髭面の「怪しい」を絵に描いた様な男(蟹江敬三)が腰掛けた。ヒッピースタイルと言う奴かな?だとすれば時代を感じる。
 その怪しい男は手にした菓子を吉村に勧め、断られても「おかずにしなよ。」と弁当の中に入れ、逆に弁当の中のおかずを食べるというプチ傍若無人振り。人の良い吉村は特に抗議もしなかったが。
 ヒッピースタイルの男は色々話しかけ、吉村がTAC隊員と知ると、行き先の岡山に超獣か空飛ぶ円盤でも出現したのか?と尋ねた(←それなら戦闘機で駆け付けるって)。そして吉村の岡山行きがお盆での帰省と知ると小馬鹿にした態度を取った。エリートが休んでいることに嫌味を言うよりは、科学の最先端を行く組織であるTACが古い慣習を重んじている方が気に入らないようだった。この辺りは伝統や既成の価値観に縛られることを否定するヒッピーらしい。
 視聴者は吉村の盆休みが(恐らくは彼の生真面目を憂慮した)竜隊長の半押しつけ好意によるもので、TACが職務を軽く見ている訳ではないことは分かるのだが、敢えて弁明するような吉村ではなかった。

 岡山駅到着後、青年は半ば強引に吉村に同行と岡山観光の案内を求め、2人は牛窓町の鼻ぐり塚にやって来た。鼻ぐり塚は農耕や食肉に利用された家畜牛に感謝し、供養する所で、吉村によると600万個の鼻ぐりが祀られていた。
 説明を受けた青年は祀るぐらいなら最初から殺さなければいい、としてさも供養が偽善であるかのように述べていた。一見正論っぽく聞こえたが、直後にやっと名前の出た高井青年は、肉食が大好きで、人に食われる牛や豚を「人類に食われる為に存在している。」として、憐れみを感じていないと断言。心根が優しい訳ではなかった(苦笑)。利用するならするで下手な情を寄せるのは偽善だと言いたいのだとしたら、多少の筋が通っているのは認められないでもない。
 しかし、人を食う怪獣や超獣が毎週現れるこの世界で、アリブンタを操っていたギロン人辺りが、「人類はアリブンタの餌食になる為に存在する。」などと主張したら高井は納得するのだろうか?牛・豚に限らず、様々な動物・鳥類・爬虫類・魚類・昆虫の肉を好むシルバータイタンとしては、やはり食われる存在にも敬意と感謝は持ち合わせたい。

 ともあれ、高井は吉村に礼を述べ、立ち去った。去り際、鼻ぐりが落ちているのを見た高井は、「記念に。」として腕輪代わりにしてこれを持ち去った。見ていた吉村は一応は罰当たり行為として止めはしたが、スタイル通りに既成の迷信を嫌う高井は、「何を言っているのかね?TACの人が。牛どころか、散々超獣を殺して来たTACの人が!」と軽口を叩き、取り合わなかった。
 否、違うぞ、高井。第16話が始まった時点で、TACは「散々」どころか、まだ1体の超獣も倒してはいないのだから(苦笑)。(注:一応、変身宇宙人アンチラ星人のみ、TACの武器で倒されている)

 ともあれ、故郷すら持たないと自称する、流れ者の割には岡山ナンバーの車を所持していた高井(←まあレンタカーかも知れんが……)は車にて去って行った(話と全然関係ないが、この時高井が運転していた車のナンバーは前が「岡59 す99-29」で、後ろが「岡山5 せ56-92」という謎なものだった(苦笑))。
 だが発車直後、その鼻ぐりが高井の腕を絞めつけ、痛みと焦りから高井はハンドル裁きを誤り、木に激突してしまった。慌てて吉村が駆け寄ったが、幸い高いに対した怪我はなく、いくら外そうとしても取れない鼻ぐりの方を気にしていた。
 吉村は鼻ぐりを塚に返すべき、と諭したが、高井は祟りなど信じないとしてそれを拒否した。

 これら一連の流れを1人の雲水(土方弘)が見続けていた。雲水は牛の霊に、高井に取り憑いてTAC隊員である吉村を踏み殺せ、と呼び掛けた。そしてそのまま吉村の実家(オリーブマノン化粧品契約店舗)の前までやって来て、偵察する様子を見せた。ヤプールが敵対するTACの弱体化を狙って、単独で帰省する吉村の暗殺を目論んでいるのだとしたら目の付け所は悪くはない。
 ともあれ、店舗兼自宅では吉村が久方振りに母・吉村タツ(磯村千花子)の手料理を堪能した直後で、父の十三回忌ゆえ長目の休みを許された吉村と母は牛窓町にあるお墓に詣でようと話していた。吉村の設定年齢は20歳だから、彼が小学生の中学年の時に父は死んだことになり、それ以来女手1つで化粧品店を営みながら息子を宇宙生物の権威にして、TAC隊員というエリートに育てたタツさんは大した女傑である。
 そしてその吉村邸では、事故から介抱された高井が寝っ転がっていた。母は息子に高井とどういう知り合いかと尋ねたが、「電車の中で知り合っただけ。」とそのまんまを話した。それに対してさほどの文句も言わないのだから、吉村の人の良さ母は譲りだな(苦笑)。(←一応、鼻ぐりをネコババしたことに対する嫌悪は示していた)

 そしてその頃、高井の体には異変が起きていた。痛みに目を覚ました高井が右腕を見ると、鼻ぐりをはめた手首周辺が牛の毛に覆われ始めていた。ちなみに、「飯を食ってすぐに横になると牛になる。」という迷信があるが、それを地で行っているな(笑)。
 そして夜、雲水が鼻ぐり塚で牛の怨霊に目覚めるよう告げると、鼻ぐり塚からは吉村宅に聞こえるほどの、牛の鳴き声に似た唸り声が響き渡った。そして寝床の高井は益々苦しみ、牛毛に覆われていくのだった………。

 そして翌朝。墓参りに行こうとした吉村母子だったが、高井が起きて来ないので吉村が起こしに行った。しかしこのシーンにおける吉村の台詞はどうも通常では考えられないものの連発だった。母に「何だったら(高井に)留守番してもらおうか?」と、昨日知り合ったばかりの言動も風貌も怪しい人物に対する警戒心0な台詞もそうだが、高井を起こそうとしたときの台詞は、「僕等これから海岸の牛窓に行くんですよ。『万葉集』に詠われている古い港なんです。君のディスカバー・ジャパンには最適な場所ですよ。オリーブ園もあるし、魚も美味いし。と御当地案内丸出し(笑)。
 そしてうなされているかのような様子の高井を見て、「事故で体がどうかしたんですかぁ?」…………病院へ連れて行かんかい!吉村!!
 結局、そのまま休ませてくれと頼む高井に食事の準備が出来ていることを告げ、母と共に出かけた吉村だったが、寝返りを打った高井の右腕は完全に剛毛に覆われていた……。

 吉村母子が出掛けた後、屋内には例の雲水が入り込み、気合と共に錫杖を振るってその姿が消えると、目覚めた高井の頭には角まで生えていた。まだ精神は彼自身のものらしく、我が肉体の変貌に狼狽えまくる高井。だが徐々に精神も牛化した様で、用意された朝食を嫌なにおいだとして顔ではねのけ、庭に出ると立ち木の葉を食み出した。
 そして吉村宅を出ると、変貌を厭い、必死に自我を留めんし、牛に対しても「俺は人間なんだ。」と叫ぶ高井だったが、四つん這いになり、人語もあやふやになり、容貌も益々牛化した。

 すっかり牛男と化した高井は鼻ぐり塚に来ると、牛の像に縋りついてネコババを詫び、牛にしないでくれと泣いて懇願した。だがそこにいた雲水は牛男に対して「超獣カウラになれ!人々は獣の呪いの恐ろしさを知れ!」と一喝して錫杖を振るうや、牛男の体は巨大化し、牛神超獣カウラとなった。
 その頃、吉村は父の菩提寺前で出会った、母の仕事上の世話人でもあるオリーブマノン化粧品社長(守田比呂也)の案内で故郷を満喫していた(ということは、ある程度成長してからは余り故郷にいなかったんだな)。化粧品店の本店らしき場で案内の礼を丁寧に述べる吉村母子だったが、そこに超獣出現の騒ぎの声が聞こえて来た。
 吉村は逃げ惑う人の1人を捕まえ、超獣の出現場所と特徴を尋ねた。如何にも宇宙生物の権威である吉村らしい動きだったが、恐らくは生れて始めて見たであろう超獣(まあ、もしかしたら第1話で岡山県と隣接する広島県福山市に現れたベロクロンや、前話で登場したキングクラブを見ていたかも知れないが)に大慌ての割には、超獣が腕輪を填めているという特徴をしっかり把握していたおっさんがステキ(笑)。
 勿論、腕輪と、出現場所が鼻ぐり塚ということに嫌な予感が禁じ得ない吉村だった。

 鼻ぐり塚への想いが強い地のせいか、牛窓町の人々はウシ型の超獣が復讐に人間を食いに来たのかと恐れをなした。実際にカウラは鼻息を盛んに噴出して怒りを露わにし、ハリケーンミキサーでステーキハウスを襲った。
 吉村からの通報を受けた竜隊長は北斗、夕子、美川に自分と一緒にTACファルコンで、山中、今野にTACスペースでの出撃を命じ、梶主任には留守の守りを託した。そして吉村は隊員服でカウラが向かうオリーブ園を守りに走らんとしていた。新幹線内でやたらデカいスーツケースを持っているなと思っていたら、装備一式を持っていたからだったんだな(笑)。前週、休暇中の今野が超獣出現時に丸越しだったことを思えばなかなかに学習能力が有ったな(笑)。

 ステーキハウスを襲った後のカウラは、オリーブ園のオリーブを食してはいたものの、「復讐」と「食事」以外の無駄な暴力には関心が無かった様で、カウラの正体を高井と推測した吉村がその名を叫ぶと明らかな反応を見せた。それゆえ、そこへ駆け付けた竜隊長は山中に攻撃するかを問われてもまず吉村に連絡を取る、とした。
 隊長の連絡を受けた吉村は、超獣は人間が何者かによって変化させられたものである可能性があるとして、攻撃を見合わせて欲しいと答えた。だが詳細を説明する前にカウラは吉村に迫って来た。
 辛うじてカウラが入れない祠の様な所に避難した吉村だったが、その途中に土砂にまみれたせいか、通信機が故障。カウラは、それ以上暴れはしなかったものの、眼前に居座られ、吉村は身動き出来ない状態に陥った。
 上空で吉村が閉じ込められたことを確認した北斗に対し、竜隊長は攻撃の中止と着陸を命じた。

 その夜、竜隊長以下TACの面々は、TACの出張所のようなところで吉村が避難している古墳のある地域の地図を広げ、吉村の安否を案じていた。オリーブマノン化粧品社長の説明で、古墳群は地下で繋がっているので、差し当たっては吉村が致命的な危険に曝されている訳ではないことが分かった。
 そしてそこ吉村母が、カウラの正体が鼻ぐりをネコババして牛神の呪いに掛かった高井である可能性が高いということを申し出た。それを聞いて、今野が1人反射的に「まさか!」とは言ったものの、さすがに同僚の親御さんを前にしてか、それ以上の疑いの目は向けなかった(笑)。普段の北斗とはエライ違いだ(苦笑)。まあ、単純に年長者(しかも同僚の親)への敬意から頭ごなしの否定を慎んだと見るべきだとは思うが。
 とはいえ、その後の竜隊長の推測は迷信を鵜呑みにしたものではなかった。この世にはまだまだ科学で解明出来ないことが多くあり、人々の信仰にヤプールがつけ込んだ可能性も考えられるとしたものだった。

 そして夜が明けると、牛窓町の人々は牛への供養に努めていた。供養の念を受けてか、カウラは大人しくしていたが、雲水は牛達の怨念はもっと強い筈だとして、供養の祈りに騙されるな、とカウラに更なる大暴れを唆していた。
 これを受けてカウラは凶暴化。竜隊長は「本体の人間を傷つけない」ことを重視して、麻酔弾の使用を命じた。だが麻酔は効かず、竜隊長は「おかしい…。」と呟いていたが、TAC武器が超獣に通じないのは今に始まったことではないとシルバータイタンは思う(苦笑)。いずれにせよ、カウラは凶暴化し、息子の身を案じてTACについて来たタツと社長にまで角からの光線(←パープル光線と言うらしい)を放つ始末だった。
 幸い直撃は免れ、タツは隊員達が避難させたが、その直後、社長が懸念した様にオリーブオイルタンクが光線を浴びて破壊され、中のオイルは炎を伴って周囲に流出した……。

 そしてカウラが尚も破壊を続け、街中に向かった時、北斗と夕子のウルトラリングが光り、2人はウルトラタッチでAに変身した。見た目、体重の乗った肉弾戦と頑丈さが取り柄の様に見えるカウラだったが、見た目に似合わず光線だけではなく、催眠術までも駆使してAの感覚を鈍らせ、勝負を優勢に運んだ。
 その間、辛うじて救出された吉村は、母の証言でカウラの右腕の鼻ぐりこそがキーパーツと見ていた。そしてそれを察知してか、せずしてかAは前蹴りで鼻ぐりを蹴り飛ばすとカウラの動きは鈍化。そこへセット光線を浴びせると新たな鼻ぐりがその鼻面にセットされ、それによって手懐けられたカウラが投げ飛ばされると、その体は元の高井に戻った。

 事件解決後、それまでの行動反省した高井は放浪を辞め、オリーブ園で真面目に働くこととなった(恐らくは社長の口利きもあったのだろう)。吉村タツ、TAC隊員達のからかいともつかぬ励まし(+今野の握手)を受け、高井は作業に精を出し、北斗と夕子は少し離れたところでそれを微笑ましく見つめていたのだった。


次話へ進む
前話に戻る
『ウルトラマンA全話解説」冒頭へ戻る
特撮房『全話解説』の間へ戻る
特撮房へ戻る

平成三〇(2018)年七月一六日 最終更新