ウルトラマンA全話解説

第17話 夏の怪奇シリーズ 怪談 ほたるヶ原の鬼女

監督:真船禎
脚本:上原正三
鬼女、大蛍超獣ホタルンガ登場
 夏の怪奇シリーズもこれが最後で、それに相応しく冒頭でいきなりヤプールは丸であの世から声を掛ける幽霊の様にダイレクトボイスで、母を亡くした少女・民子(野島ちかえ)に「母に会いたくないか?」と呼び掛けていた。
 相手がどうあれ、もう会えない肉親に会えるとの提案を普通は拒絶しない(怪しむだろうけれど)。眠っていた民子は普通に「とても会いたいです。会わせて下さい。」と答え、ヤプール大蛍超獣ホタルンガ(←この時点では普通の蛍にしか見えない)について行けと囁き、ホタルンガには計画の実行を命じた。

 そして場面が屋外に移ると、蛍が舞う深夜のほたるヶ原バイパスで次々と通過する車が事故に遭うという怪事件が起きていた。車は般若面を付けた鬼女の様な者に遭遇し、ハンドルさばきを誤って崖下に転落した挙句、その遺体は白骨化するという異様なもので、同バイパスがTAC基地と兵器工場を結ぶ要路でもあることから調査に乗り出したのだった。

 しかし今野、北斗の調査時の会話が恐ろしいほど不可解だった。お寺の息子で、何度も葬儀などに立ち会っているであろう今野が白骨化した死体に脅えていたのも変だったが、まあこれは生来の苦手なもの、と考えればまだ分かる。葬式慣れしていても、火葬慣れしているとは限らない。
 だが事故の原因を「蛍に気を取られて。」とするのはさすがに変で、あまつさえ白骨化の原因を「蛍に食われた!」としていたのには北斗にまで呆れられていた。人喰瞑骸蛍(参考文献:集英社ジャンプ・コミックス・デラックス『暁!!男塾 青年よ、大死を抱け』第10巻 or 民明書房刊『世界の怪虫奇虫』)じゃあるまいし………。
 そして今野の意見を否定した北斗の見解が、「野犬かネズミの仕業。」だったのも恐れ入った。確かに野犬やネズミなら人体を骨になるまで食らい尽すことは可能で、その意味では今野の蛍犯行説よりはまだマシだが、相当な大群か、かなりの日数を掛けないと、事故の通報から現場到着までの間に骨以外をすべて食い尽くすのは不可能である。
 野犬やネズミの仕業なら「もっと周辺の草が荒れている筈」と云う山中のごく普通な反論が物凄い説得力を持って聞こえる(笑)。普段の反論が頭ごなしだから余計に(苦笑)。

 ともあれ、吉村が発見した遺留品から、事故発生時刻が午前2時であることが分かり、美川も同様にして起きた事故がすべて午前2時の発生であると証言した。勿論こうなると誰だって偶然の事故と思わず、ヤプールの仕業と疑うところだが、美川は「V7計画を狙ったものではないか?」という一歩具体的な疑念を呈した。
 竜隊長もそれを心配していたようで、計画の前にこの不可解な事故を解決したいとして、捜査の王道・聞き込みを命じた。

 その調査中、ほたるヶ原を散策する夕子は車椅子からずり落ちていた民子を見かけた。助け起こし、椅子に戻す夕子に「大丈夫です。」と答える民子だったが、夕子はすり傷だらけの足を拭い、歩行訓練中とする彼女に無理をしないよう諭した。
 そこへ偶然民子の父(林昭夫)が通りかかり、交通事故の後遺症による民子の車椅子生活は5年に及んでいたことが語られた。勿論これが一過性の出会いで終わる筈はなかった。

 場面は替わってTAC基地本部。そこでは珍しく竜隊長がお冠だった。隊員全員で聞き込みに当たっているにもかかわらず全く手掛かりが得られていないからで、普段一生懸命やって出た失敗や不成果には寛容な竜隊長だから、隊員達が一生懸命でないと疑っている様に見えた。
 とはいえ、目撃者0では隊員達も手掛かりを持って帰り様が無かった。この辺り、三流訪問販売員だった経験を持つシルバータイタンは同情してしまう(苦笑)。訪ねた全員が門前払いや、居留守ではいくら上司に怒鳴られ、ネチネチ嫌味を言われようとも、成果の挙げようはないと言い訳したくなる(それゆえの三流だったんだがね)。
 ともあれ嫌なムードが漂い、隊員一同無成果を詫びるしかなかったのだが、梶主任が新兵器・V7ミサイルの設計図と輸送計画書を持って、息せき切ってやって来ると空気は一変した(←TACの良い所であり、悪い所でもある)。
 V7ミサイルは相当期待されていた兵器の様で、梶主任はこれでもってTACの戦力は倍増する、と息巻いていたが、その瞬間脳裏に「0×2=0」という掛け算式が思い浮かんだシルバータイタンは性格が悪いのだろうか?(苦笑)
 ともあれ北斗も「まさに超獣粉砕兵器!」と絶賛していたが、山中は完成したV7ミサイルを基地に搬入する「V7計画」が完了するまで喜ぶのは早い、とした。確かに大切な新兵器の搬入ルートに怪事件の舞台となっているほたるヶ原が含まれているとなると、竜隊長や山中や美川が普段より神経質になるも、むべなるかなである。
 直後、V7ミサイルの無事を慮って計画延期を述べる梶主任と、対超獣兵器である以上、1日も早く計画を遂行するべしと述べる山中とで軽い口論になった。

 余談だが、この口論、梶主任と山中は互いにため口で会話していた。設定によると梶主任は24歳で、山中は25歳。年少の梶がタメ口を叩いているのも「主任」の肩書があればと言う気がするが、それならそれで「上司」にタメ口を叩く山中が生意気と取れなくもない(苦笑)。
 まあ、誕生日の差で両者が同い年であることも充分有り得るのだが(両者ともTAC入隊前の経歴は未設定)。

 結局、明後日の運搬予定に先駆けて、北斗が現場を走ってみると申し出て、それが容れられた。午前2時に合わせて現場に到着した2人だが、地名通りに蛍が舞う以外、これといって変わったこともない様子だった。だがそこへ夕子には歌声が聞こえた(北斗には聞こえなかった)。そして歌は民子の歌っていたもので、草むらに白い影を見た夕子はそれを追って行った。
 だが夕子は相手を見失い、北斗は2時になっても何も起きないので異常なしとして引き上げようとした。だがTACパンサーに乗ると、眼前に蛍の灯りとは思えない大きな光がともっており、それは鬼女に姿を変えた。
 当然2人はTACガンでこれを撃たんとしたが、鬼女は巧みな体術でこれをかわし、蛍の大群が北斗を襲った。襲撃に苦しみながら北斗は夕子に逃げる鬼女を追うよう促し、夕子がこれを追ったところ、昼間門前まで来た民子の家に辿り着いたのだった。

 鬼女がどこに去ったか訝しがる夕子は、午前2時だというのに足の不自由な民子が屋外にいるのに気付き、驚いた。民子は蛍に甘い水を給餌しているという。あの〜蛍って、実際に甘い水を好む訳じゃないんですけど………。
 ともあれ、夕子は民子に鬼女を見なかったかを尋ねたが、民子は誰も見ておらず、抑揚のない声で、無表情に「ここは誰も来ない。」というけったいな物言いまでする。昼間見た父親も、母親もいないと聞き、こんな場所に1人では危険と考え、今夜は一緒に寝ると告げると、民子は普通の少女に戻ったかの様に歓喜の声を上げた。

 だがひと眠りした夕子が気付くと、横で寝ていた筈の民子がいなかった。例の不気味な歌声が流れる中、夕子はTACガンを手に油断なく家の中を歩いて行くと、果たせるかな、歌い主は民子だった。だが夕子が背後から近づくと車椅子に座したまま飛び上がってその姿を消し、妙なことに夕子が寝床に戻ると民子は何事も無かったかのように眠っていた。
 夕子は民子を起こし、どこへ行っていたのかを尋ねたが、民子はどこへも行かず眠っていた、の一点張り。ただ来ている着物が異なっていたのでそれを尋ねたところ、それには「お母ちゃんのだわ。」という回答が返って来た。

 夜が明け、TAC基地本部では報告を受けた竜隊長が、姿が見えない母親が手掛かりを握っていそうだとの見解を示した。昼いて夜いない父親も充分怪しいのだが……。
 そして一連の展開から梶主任は輸送計画を延期すべし、と主張したが、竜隊長は予定通り計画を決行するとして、山中に準備を、今野と吉村に母親の調査を、夕子には引き続き民子の保護(=監視)を、北斗にその補佐を命じた。そしてただ1人指示を受けなかった美川は、夕子に護身用のガス噴霧機能付きブローチを貸与した。銃なら山中、兵器開発なら梶主任、怪力なら今野、知識なら吉村、護身用携行武器なら美川といったところだろうか?

 かくして夕子は車椅子に乗る民子の世話をしながら、状況の変化を見据えていた。夜に比べれば昼間は幾分普通に見えた民子だったが、交通事故のトラウマか、自動車に対して「無くなっちゃえばいいわ、車なんか……。」と暗い一言を発していた。
 それ以外は夕子の歩行訓練促しにも素直に従っていたが、歩行は順調ではなかった。夕子は「思い込みかも知れない。」と思って敢えて突き放すという荒療治を行ってみても変わらなかった。さすがにこれは民子の反発を買ったが、謝罪と弁明で2人はすぐに和解、とそれなりのコミュニケーションを重ねながら時間は流れた。

 そして夜。TACは予定通りV7輸送計画を実行した。勿論TAC隊員が警備に着いた訳だが、前夜同様夕子は民子の隣にて警戒しながら伏し、北斗は近場の屋外に待機し、「そんな役回り」とぼやいていた。まあ、年頃の女性2人(推定年齢10代前半と、確定年齢21歳)の部屋に男が入る訳にも行くまい(苦笑)。
 しかしそれほど大切なミサイルなら、「一般車両に偽装する」、「午前2時を外す」等の考えはなかったのだろうか?一応竜隊長はほたるヶ原に差し掛かる10分前に隊員達に警戒を呼び掛けてはいたが、警戒するならするで他に手の打ち様が有ったような気がする。

 その頃、民子の横で眠る夕子は大量の蛍に襲われ、うなされる様に北斗に助けを求め、意外にも怪しい言動の目立った民子が心配して夕子を起こそうとしていた…………と思っていたら次の瞬間鬼女に変じて夕子の首を絞めていた。
 あわやというところで声を聞き付けた北斗が乱入して来たので、何とか危機を脱した夕子。すぐに鬼女を追ったが、逃げられた上に民子の姿まで見えなかった。ここで北斗は山中達の調査した結果を夕子に伝えた。
 それは姿の見せない母は5年前に交通事故で亡くなっており、その現場も時刻もほたるヶ原での連続事故と全く同じというものだった。話が一本に繋がったのは良いのだが、こんな時間まで夕子に伝える術はなかったのだろうか?
 ともあれ北斗は夕子にこのことをほたるヶ原に急行して隊長に伝えるよう命じ、自分は民子を探すとしたが、その民子=鬼女が屋根の上に立っていることに気付いていなかった。

 その鬼女はほたるヶ原に先回りしており、これと遭遇した夕子がクロスカウンターで般若面を割ると中からは気絶した民子が転がり出て来た。目覚めた民子は自分が就寝していたと思ったらしく、なぜこんな場所にいるのかを訝しがりながら、無意識のまま自分の足で立ち上がっていた。そのことを夕子に指摘され、立って歩けるようになったことを歓喜する民子。
 そんな民子から、夕子は彼女が夢の中で冒頭の囁きを受けていたことを聞き出し、そこに彼女の忌まわしい記憶を利用して、操っている者の存在があることを感じ取っていた。

 ともあれ、利用していた民子が支配下から離れてしまったことに地団駄踏むヤプールホタルンガに実力行使でTACのV7計画を潰すよう指令した。巨大化したホタルンガは蛍の超獣らしく尻尾を点滅させると、そこに夕子と民子を吸い込んでしまった。
 丁度そこへ竜隊長達輸送チームがほたるヶ原に差し掛かったところで、竜隊長は眼前に立ちはだかるホタルンガへの攻撃を命じた。だがホタルンガはこの攻撃に頭部から溶解液を噴出して抵抗、忽ちトラックの1台が溶かされた。
 これを見た梶主任はV7ミサイルでもって超獣を攻撃することを進言し、竜隊長は山中にこれを命じた。山中は今野・吉村を伴ってミサイルに向かったが、夕子と民子の身を案じる北斗がこれを止めた。さすがに竜隊長も中止を命じた。だがこのままでは手持ちの武器で超獣を倒して夕子を救出しなければならないことになる。普段からTACガンで超獣が倒せた試しなどないのにどうすればいいのか?一同が思案に暮れるしかなかった………。

 だが、その頃、ホタルンガの尻尾内で民子を庇っていた夕子は美川から貸与されていたブローチの存在を思い出し、そこからガスを噴出し、ホタルンガを苦しめることで自力脱出に成功。その瞬間北斗と夕子のウルトラリングが光った。
 2人はウルトラタッチでAに変身し、ホタルンガに立ち向かったが、ホタルンガはなかなかに強かった。しばし互角の戦いが続いたが、ホタルンガは徐々に尻尾を巧みに使った攻撃をAにヒットさせ、遂には首を挟み込んだ上に発光攻撃を食らわせ、Aを気絶に追いやるという快挙を見せた。
 そのままとどめを刺そうとしたホタルンガだったが、TACがこれを必死に妨害した。どうやらホタルンガの体は前面が頑丈で、尻尾と言う強力な武器に守られた背面は脆い様だった。TACガンの一斉掃射を背中に浴びると怒り心頭となって、Aを捨て置いてTACに襲い掛かった。
 この間に辛うじて気絶から覚めたAは再度ホタルンガに挑んだが、絞め落とされたことが響いていたのか、尻尾を向けて牽制するホタルンガに近寄り難そうにし、戦いは膠着状態に陥った。だが今度はこの間にTACがV7発射準備を整える時間を得ることが出来た。
 発射されたV7はホタルンガの頭部に命中。この一撃でホタルンガは頭から炎を上げて行動不能に陥った。TACにとって些か残念なことに、この直後Aがメタリウム光線を発射し、これによってホタルンガは木っ端微塵に粉砕された。  つまりはとどめを刺しそこなった形になったのだが、これまでTACの兵器が超獣に多少の痛みを与えているぐらいの効果しか挙げていなかったことを見ると、 V7ミサイルの性能はかなり優れたものと見ていいだろう
 少なくとも攻めあぐねていたAの勝利に貢献した、立派な快挙だった。

 そしてラストシーン。TAC隊員達の会話から、母を失った民子の母に会いたい気持ちと、母を奪った車に対する憎しみをヤプールが利用した事件であったことが語られ、一行は走れるようになった民子と姉妹の様に戯れる「今回の殊勲者」=南夕子を微笑ましく見つめるのだった。


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平成三〇(2018)年七月一六日 最終更新