ウルトラマンA全話解説

第18話 鳩を返せ!

監督:真船禎
脚本:田口成光
大鳩超獣ブラックピジョン登場
 冒頭は1人の少年・坂上三郎(藤原規晃)が母親(石井富子)からペットの鳩を捨てるよう叱られているところから始まった。まあ飼いたい動物を親に許されないというのは子供向けの漫画ではよくある話。捨てろと言うなら僕も出て行く、と三郎が言えば母親も、捨てるまで帰って来るなと言う始末。
 結局三郎は途方に暮れながら鳩を抱いてトボトボと歩き出すのだった。早い話、伏線やね。

 そしてその三郎をTACパンサーで移動中の北斗が轢きかけたことが邂逅となった。こう書くと北斗の不注意に見えるが、不注意は三郎の方で、空に飛ばしていた鳩=小次郎に気を取られてとのことで、北斗に叱られるや素直に謝罪した。
 小次郎は空に飛ばしても三郎の鳩笛ですぐ帰って来るほど三郎に懐いており、レースで3回も優勝したことがあるほどだという。だが母の反対により小次郎と別れて暮らさなければならないことをぼやく三郎。その理由は鳩の糞に含まれるサルモネラ菌が家族に感染するのを恐れたためと言うのが時代を感じる(笑)。
 今でこそ、動物を触った後にちゃんと石鹸で洗えばさほど怖い存在ではないことが知れ渡っているが、道場主が幼少の頃は鳩よりミドリガメ(ミシシッピアカミミガメ)の方がサルモネラ菌の宿主として恐れられ、捨てられたものである。まあ、戦前には殺人事件にも使われた例もあるから用心に越したことはないのだが。
 とはいえ、充分に慣れている小次郎を信頼する三郎は公園に作った巣箱に小次郎を住まわすことで学校帰りに会えるとしたのだった。

 場面は替わってTAC基地本部。北斗と夕子がパトロールから戻ると、終了報告にも上の空なぐらい竜隊長以下の隊員達は広げられた設計図に熱中していた。設計図は新型の無人探査機だった。人が立ち入るのが危険な場所にも送り込んで、石ぐらいなら持ち帰らせることが出来るもだが、梶主任はより様々な場所に行かせるには回収機能に改善の余地あり、と見ていた。
 これを聞いていた北斗は、装置に鳩の帰巣本能を組み込めないかと提案し、これがナイスアイディアとして受け入れられた。異常現象の目撃が信用されないことに比べれば恐ろしいほどすんなり受け入れられていた(笑)。
 勿論三郎と出会ったことによる思い付きであるが、決して安直なものではなく、子供に優しい北斗らしく、TACで小次郎を引き取れることを見据えての提案でもあった。案の定、三郎はこれに大喜び。北斗も三郎の期待と感謝に答えると約束し、固い握手を交わしたのだが、この実験に異次元空間にてヤプールが妨害せんとして手ぐすね引いていた。この時のヤプールの台詞はTACに対する敵意がにじみ出ていた。前回のTACの予想外の活躍が悔しかったのだろうか?(笑)

 翌日、鳩の帰巣本能を調べる実験が始まった。梶主任の手で大空に放たれた小次郎は方向を定めると各チェックポイントを順調に飛んで通過していたが、港で待つ北斗が2.0の視力で迫りくる小次郎を視認した次の瞬間、三郎はヤプールに捕らえられて忽然と姿を消した。
 そして例によって、この北斗の報告は信用されない(苦笑)。ここまで来ると「TAC内北斗不信パターン」は完全に作風だ。普通は毎度毎度その回が終わるまでに北斗の正しさが証明され、和解するのだから、リアリティを重視するなら周囲も少し北斗の証言を信用するようになるか、疑うにしても頭ごなしな怒鳴り付けは控え目になる筈だ。
 しかしそれが一向に為されず、疑われ続けて項垂れる北斗は完全に「作風の被害者」だ(ある意味山中にも同じことが言える)。直近の第15話で今野、第16話で吉村、第17話で夕子にスポットが当たる話になっていたから、この第17話では黄金パターンを重視したのだろうか?(苦笑)

 冗談ではなく、本気でそう言いたくなるほど北斗に不信の受難が続いた。
 まず鳩が忽然と姿を消したという証言を山中が頭から否定。美川はスモッグ警報が出ていたことからそのために見失ったのではないか?と考えたが、北斗は自分の視力に絶対の自信を置いてそれはないと言い張る(←まあ、コイツも頑固に違いはない)。
 今野、吉村は鳩が寄り道しているのではないか?と推測したが、北斗は小次郎の血統書付きの優秀さを述べてこれも否定(余談だが、かつて道場主の伯父上が飼っていた伝書鳩は松江から新潟に戻る鳩レースで行方不明になり、1ヶ月後に帰ってきたという実話があるから、今野・吉村の主張もあり得ない話とまでは言い切れない)。
 梶主任は科学者らしく、鳩の帰巣本能の強さを挙げて、巣箱に戻っているのではないか?と云う意見を出し、それを承認した竜隊長の指示で北斗はこれを確認に行くことにした。それはいいのだが、ここで山中が不自然な程の剣幕で「隊長!私も行かせて下さい!あいつ1人じゃどうも心配です!」と同行を願い出た。ただ巣箱を見に行くだけにこの山中の不信振りがリアリティに欠けるところなんだよなあ………。

 ともあれ、巣箱に向かった北斗と山中。だが当然ヤプールに囚われている小次郎がそこにいる筈もない。肝心の鳩がいないものだから北斗も自信を無くしかけたところに、タイミングの悪いことに三郎がやって来た。
 ここで更なる不信が北斗を襲った。実験の首尾を尋ねる三郎だが、勿論北斗は気まずい。山中は少年に事実を告げるべきだとして、尚も黙り込む北斗に代わって、「鳩が行方不明になっちまったんだ。」と恐ろしいまでにストレートな物言いで子供心を傷つけた
 勿論この山中の台詞に衝撃を受けた三郎は、北斗以上に小次郎の優秀さを訴え、「お兄さん達、何かしたんだ!!」と激昂した。否、三郎よ……鳩だって生き物だから、急病に罹ることや大型鳥類に襲われることもあるとは考えないのか?………まあ、実験に動物が犠牲になることがあるという考えが頭を過ったのかも知れないが……。
 ともあれ、子供に露骨な不信を向けられることは北斗にとって同僚に信用されない以上に辛い事。北斗は三郎にそんなことはしていないと訴え、信用しない少年に対し、行方不明になった場所は分かっているから、そこで鳩笛を吹いて欲しいと要請した。

 小次郎の無事な姿を確認したい気持ちを北斗以上に持っている三郎はこれを了承し、現地に同行した。必死に笛を吹く三郎と脇に立つ北斗を遠巻きに見ながら、「あんなもんで鳩が帰るのかねぇ……。」と呟く山中。聞こえない場所で言っているとはいえ、お前、鬼か………
 そしてその小次郎はこの次元の、巣箱に帰って来たが、ヤプールによって脳髄を改造されていた小次郎は忽ちその姿を大鳩超獣ブラックピジョンに変化させた。ちなみい名前は「ブラック」でも黒いのは羽根だけで、頭に至っては真っ白だった(苦笑)。

 即座に山中の通報を受けて竜隊長以下の面々がTACファルコンとTACスペースで駆け付けたが、ブラックピジョンは大鳩超獣というだけあって、強い羽根の力でマンションを壊すだけでなく、羽ばたきの力でTACスペースの航行を狂わせたり、北斗と三郎をまとめて吹き飛ばしたりするほどの力を示した(注:実際、鳩は翼の力が強い鳥で、翼を押さえるのと同じ力で頭を押さえたら頭や首の骨が折れかねない程である。愛鳥家の方々はご注意を)。  だが、このブラックピジョンの大暴れはヤプールの指令を無視したものだった。ヤプールは怒って帰還命令を出し、ブラックピジョンは姿を消した。
 この一連の成り行きを北斗と見ていた三郎は、何故かブラックピジョンを小次郎と確信していて(←正しいのだが、そう確信した根拠は全くの不明)、TACが攻撃したから小次郎が姿を消したと言って、北斗に駄々っ子パンチを始める始末だった。
 北斗不信連発のストーリー構成にも呆れるが、ガキの八つ当たりにも呆れる………。

 場面は替わってTAC基地本部。そこでは1人北斗が考え込んでいた。不信のダブルパンチで落ち込んでいるかと思えば、さに非ず。ブラックピジョンの正体を模索していたのである。そんな北斗を心配して声を掛けて来た夕子に、北斗はブラックピジョンが鳩の声を発していたと認識していたが、TACファルコン内にいた夕子は「超獣の声」と認識していた。
 同じ超獣が鳩と超獣の声を出していると知った北斗は、ブラックピジョンヤプールが鳩=小次郎を改造したものではないか?と推測・断定。その根拠はブラックピジョンが、三郎が鳩笛を吹いたことで出現したことにある、と夕子に述べた。
 ここまで聞いて、「そう言えばあの超獣、鳩に似てたわ。」という夕子のボケ振りもひどかったが、三郎がまた鳩笛を吹けば現れるかもしれない、と夕子に告げられて「大変だ!」と狼狽えた北斗のボケ振りはもっとひどかった
 ともあれ、この様な危険可能性を放置出来ない北斗は即座に三郎の元に向かわんとした。それを見て、「待って、隊長に報告しなくちゃ。」と夕子は通信マイクに向かったのだが、それを受けた北斗の台詞は、「こんなことを言っても、誰も信じてくれないさ!」というもの…………悲しい!悲し過ぎるぞ、北斗!TAC!
 決して悪いチームでも、不仲なチームでもないのに、歴代チームに比べて誤解され易いのもかかる展開が多いからなんだろうなあ………(遠い目)。

 まあ、事は一刻を争うので信用されない報告よりも行動を優先する北斗の考えも分からないでもない(後先の隊内での信頼関係を考えなければだが)。結局夕子も報告せずこれに追随し、三郎宅に向かった。
 三郎宅で母親から、小次郎が晴海埠頭で拾った雛から育てたものであることを知った北斗と夕子は晴海埠頭で三郎を発見。鳩笛を吹く三郎に最前の超獣が小次郎で、鳩笛を吹くと超獣が現れることになるからと告げてこれを止めんとしたが、三郎は「お兄さんの言っていることは全部嘘だ!」というひどい不信振りだった。
 だが北斗と夕子が懸念した様に、鳩笛を聞いてブラックピジョンが出現。それを見た三郎は「あっ!小次郎だ!」…………自分の言っていることが矛盾しまくっているのに気付かんのか!?小僧!!
 ともあれ、これを見て夕子が超獣出現を通報し、TACの攻撃が始まった。北斗の言を否定しておきながらブラックピジョンを小次郎と確信する三郎は半狂乱。だが、この鳩笛によるブラックピジョン出現は最前同様ヤプールの指示ではなかった。異次元空間のヤプールブラックピジョンのことを「少年の笛にお前は狂わされているのか……。」と分析………「最初に小次郎の脳髄をいじって狂わせたお前が言うな!」というものである。
 ともあれ、ヤプールはTAC全滅を優先すべしとして、光線による攻撃を命じた。これを受けてブラックピジョンは口から火炎や毒液・バードホワイトバブルを吐いてTACに応戦(←どこが「光線による攻撃」やねん?)火炎を受けてTACファルコンが、突風攻撃を受けてTACスペースが「脱出!」に追いやられ、ヤプールはTACパンサーの傍にいた北斗と夕子の攻撃も命じた。あの〜ヤプールさん……そんなピンポイントな確認能力が有るなら、パラシュートで降下するTAC隊員達を攻撃したら如何です?TAC機を「全滅」させても、TAC隊員を「全滅」させないと「TAC全滅」にはならないんですけど………(例:第二次世界大戦中期におけるナチス・ドイツとイギリスの空軍戦)。
 勿論悪に味方する気はないが、ヤプールの考えと指示があまりにもおかしいのでツッコまずにはいられなかった(苦笑)。

 ともあれこの直後、ウルトラリングが光り、北斗と夕子はウルトラタッチでAに変身した。だが、戦いは序盤からブラックピジョン優勢で、強力な翼による突風攻撃、嘴攻撃、火炎放射、飛翔しての上段からの蹴爪攻撃、腹部の大針攻撃といった多彩な攻撃に翻弄されたAは地面に倒れたところに毒液・バードホワイトバブルを顔………ゴホゴホ……顔面に放射された上、崩壊したマンションまで顔に落とされて気絶した。圧倒的なパワーや特別な武器や奸智に長けた計略ではなく、多彩な技の連発でウルトラマンをここまで一方的に押した奴も珍しい。
 前話での気絶時同様、TACが必死に応戦する間に辛うじて目覚めたAはこの隙に三郎を避難させ、再度ブラックピジョンに向かった。今度はがっぷり四つに組んで、右手で嘴を押さえ込むという各種の武器を封じた頭脳的な戦い方だったが、ブラックピジョンは格闘にも優れていた。Aも、業を煮やして腹部から発射された大針をかわし、メタリウム光線を浴びせたまでは良かったが、ブラックピジョンはしばし動きを止めただけで逆に腹部で吸収した光線をAに浴びせ、忽ちグロッキーに追い込んだ。

 ボコボコにされるAの劣勢に、TAC隊員達も本気でその死を心配するほどだったが、ここで三郎少年が鳩笛を吹き出すとブラックピジョンの動きが止まった。するとグロッキー状態だったAは立ち上がると、放心状態のブラックピジョンに背後からダイヤ光線を浴びせてこれを倒した。
 Aのこの行動に関する是非は様々な見方があるだろうからここでは敢えて触れないが、インパクトが強かった事だけは否めない。地面に倒れ、弱弱しくのたうち回り、やがて動かなくなったブラックピジョンを見て、Aに救われた恩義もある三郎は何も言えず涙を流すだけだった………。

 そしてラストシーン。小次郎の遺体を見つけ滂沱に暮れる三郎と、それに優しく白布を掛ける北斗。三郎は無言・無表情で北斗を見つめると昇天した三郎の魂を鎮魂するかのように空に向けて鳩笛を吹き出した。
 それを少し離れた場所から見つめ、三郎に同情しつつヤプールの悪辣さに静かな怒りを滾らせるTACの面々。かくして第18話は終結したが、「あり得ない程の不信と矛盾」、「救いのないラスト」にツッコミどころ満載ながらも、暗く後味の悪い回だった………。ブラックピジョンの一超獣としての造形や生態が秀逸だっただけに、余計にそう思われてならなかった。

 時にはそんな嫌なストーリーも必要であることは理解してはいるのだが。


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平成三〇(2018)年七月一六日 最終更新