ウルトラマンA全話解説

第20話 青春の星 ふたりの星

監督:筧正典
脚本:田口成光
大蝉超獣ゼミストラー登場
 話は北斗が駿河湾上空をパトロール飛行していたところから始まった。定時連絡を入れ北上した北斗は行く手から豪華客船が空を飛んでいるのを発見した。
 即座に本部に通報したのだが、何せ見たのが「豪華客船」なものだから、例によって信用されず、山中には「正気か!?」とされる始末(苦笑)。しかもレーダーには映らないものだから普段以上に白眼視されてしまう………。

 基地本部帰投後も北斗の受難は続いた。ただ北斗を責める声も、ふざけているとまでは見られていなかった。さすがに人格までは疑われないようになったか?(苦笑)
 レーダーにTACアローの反応しか見られず、空に豪華客船が浮かぶこと等あり得ないというのがほぼ全員の見解だったが、北斗は掲揚されていた旗のデザインまではっきり見たと主張。これに対し、その日が熱かったこともあって、美川と梶主任は蜃気楼ではないか?と推測(←夜にか?)。一方、山中は「昼の暑さでボケて幻覚を見たんだ。」というひどい意見を展開(苦笑)。ちなみに幻覚を何度か見た経験上分かるが、意識がはっきりしていない時しか見ないか、意識がはっきりしているときには一瞬しか見ないのが幻覚だから、シルバータイタンが北斗の立場だったら、山中に猛反論しただろう(苦笑)。
 最終的に竜隊長は結論を出さず、北斗がまだ夏季休暇を取っていないことを差して、若いからと言って無理をしないよう諭して休養を進める形で論争を沈め、北斗もこれに従った。


 休暇に入った北斗は楽しそうにクルーザーを駆っていたが、そこは駿河湾。自分が目撃した豪華客船が気になっていたのは明白である。そして自分が見た旗を掲げた豪華客船−スカンジナビア号を見つけ、その甲板に上がった。
 旗を降ろして手に取り、やはり自分が見たことに間違いはないと思い直していた北斗は、突然背後から小突かれ、どやされた。怒りの声を向けたのは1人の青年(篠田三郎)。旗を「俺の命」と主張し、その「命」が掲げられたスカンジナビア号が動き出す日を待って、機械室でもう2年も働き続けているという男で、そんな「命」を勝手に触るなと言うのである。
 随分変わった、こだわりの強い男だが、勝手に旗に触ったことを詫びもせず、「そう言えば昨夜、この船が旗を翻して飛んでいた。」と述べる北斗の方がぶっ飛んだ男に映ったことだろう。内容が真実でも、初対面の人間がいきなりそんなこと言われて信じるかどうかを少しは考えろよ、北斗………。
 勿論青年は鼻で笑った。だが、北斗がTAC隊員であることを知り、「スカンジナビア号が北極星から抜け出してここに停泊するのを見たんだ。」と聞かされると態度が少し変わった。青年曰く、「この船の本当の名前は『ステラ・ポラリス』……北極星と言う意味だ。」とのことで、「北極星」の名が出たことで北斗の言を全くのでたらめとは思わなくなったようだった。そして北斗もまた、自分の名前との偶然の一致に何か思うところのある様子だった。

 青年の案内によると船内には北極星を中心とした北天の星座図があり、この船は3年前に日本に来た時点で最後の航海を終え、以来ホテルとして駿河湾に係留されているという。そんな船が動く訳はなく、動かすのは自分自身だと豪語する青年。
 とにかくその想いは半端ない。大学生だった自分に本当の意味での「自由」が世に無いのを悩み、「自由」と「解放」の象徴を、鎖で雁字搦めにされたスカンジナビア号が再び動き出す日に見て、その瞬間に賭ける………それが篠田一郎と言う青年だった。役名(篠田一郎)と芸名(篠田三郎)がここまで近いのも珍しい(笑)。
 ともあれ、篠田は想いが強過ぎるせいか、その考えは誰とも共感出来ないと自覚し、かなり独り善がりや排他性も感じられた。

 そして夜。トランプ占いで不吉な予感を覚えた北斗は船内を散策し、半ば博物館の展示物と化している船内の備品を見て回り、航海日誌にスカンジナビア号の最後の航海が3年前であるのを見て、自分がTACに入隊したころだと思い返していた……………えっ!?リアルタイムでは第1話で入隊してからまだ5ヶ月なのに、作中世界ではもう3年!!??
しかも、第10話で登場した坂田次郎が『帰ってきたウルトラマン』の最終回から全然成長していなかったのを見ると、下手したら第11話〜第20話で2年以上経過したことになるぞ!!??
 第2期ウルトラシリーズは実際の放映年月日に準拠していることが多いのだから、安直に時間を経過させないで欲しい………第14話で迎えた誕生日は何歳の誕生日だったんだろう………。

 まあそんな時系列問題はさておき、北斗が航海日誌に目を通している頃、スカンジナビア号は昨夜同様空に浮かび上がり、北斗は船体の揺れと窓から見える風景で船の上昇を認識した。慌てて篠田を起こし、船が飛んでいるのを認めさせようとした北斗だったが、デッキに出ると船は元の位置に戻っており、北斗は篠田に夢を見ていたことにされてしまった。TAC内と置かれている立場が変わらんな(苦笑)。
 翌朝、北斗はクルーザーでスカンジナビア号の周囲を巡りながらこれを調べた。そして船体の側面に焼けた跡を見つけた北斗は、高速で飛んだ摩擦熱によるものと判断し、篠田にやはり船は飛んだと主張。だが目に見える証拠も、詳しい説明もない中、篠田が信じる筈がなく、船を動かすことプライドを持つ篠田はしつこい北斗に業を煮やし、蹴り掛かったことで遂に2人は殴り合いをおっぱじめた……………代理ウルトラ兄弟喧嘩だな(笑)
 ↑勿論これは約半年後に篠田三郎氏が後番組『ウルトラマンタロウ』の主役を演じたことを差して茶化しているのである(笑)。
 当時プロデューサー・橋本洋二氏はウルトラマンシリーズの新たな主役に篠田氏が相応しいと考え、撮影現場の雰囲気を知って貰う為に篠田氏をこの話に客演させた。
 また篠田氏は撮影現場見学を通じて高峰圭二氏が着用している白いマフラーを気に入り、高峰氏に申し出たことで東光太郎が北斗星司同様に白マフラーを使用することとなるなど、この第20話は背景的に非常に後番組への影響力の多い回となった。

 そんな殴り合いが続く中、ヤプールが不可解な行動に出た。
 北斗に秘密を嗅ぎ付けられたのを悔しそうにしていたが、北斗の言っていることは誰にも信じられていないのだから、放っておけばその内東京を中心としたTACの任務に戻る筈なのに介入を決心したのだから藪蛇以外の何物でもない。
 そんなヤプールが起こした行動は落雷で篠田が大切にする旗を海に落とすという、全く意図の分からないものだった。勿論命とも言える大切な旗が落ちたのを見た篠田は即座に海に飛び込み、海面に浮かぶ旗に向かって泳ぎ出し、北斗もこれに続いた。ついでヤプール大蝉超獣ゼミストラーを断崖の中から召喚して北斗を襲わせんとした………なるほど、泳ぎながら身を守ることは難しいから、北斗を海に誘い出し、ゼミストラーに襲わせようとした意図は分からないでもない。だが、篠田はともかく、北斗には旗が海に落ちたからと言って、飛び込む義務も必然性も無い(クルーザーで取りに行っても全くおかしくないのだ)。
 口吻から火炎を放って港で暴れるゼミストラーだったが、TACに通報されたときには最初に出現した駿河湾から横浜にまで移動していた。もうただ元気に暴れる超獣でしかなかった(苦笑)

 その頃、北斗と篠田は陸に泳ぎ着いたところだった。竜隊長に超獣出現を通報しようとした北斗だったが、竜隊長はもうすぐ到着するとのことで、北斗は人命と街々を守る為、超獣を海に追い落として欲しいと要請した。
 ところがこれに篠田がキレた。超獣を海に向かわせればスカンジナビア号が危機に曝されるからである。だが北斗にしてみれば街と船とどっちが大切かと云う怒りの疑問が湧いて出た。それに対して平然と「船」と答える篠田だったが、そこに北斗のビンタが炸裂した。
 命を軽んじることを非難された篠田は逃げる様にスカンジナビア号に戻り、そのために北斗は竜隊長に超獣追い落とし中止を求めることとなった。

 篠田がスカンジナビア号に戻ったのは、船を動かして超獣の襲撃からその身をかわさせる為だった。船体を拘束する鎖をダイナマイトで破断していった篠田だったが、すべてのマイトを使い果たしても1本残ってしまった。それでも諦めず金鋸でこれを切ろうとする篠田だったが、ゼミストラーは顔面を明滅させて反重力光波を放ってスカンジナビア号を宙に浮かせた。
 これを見て、甲板に北斗がいるのを確認した夕子はTACアローでゼミストラーに接近攻撃を敢行。反重力光波の照射には精神の統一が必要なようで、アローの攻撃を受けてゼミストラーの反重力光波は割とあっさり中断されたが、接近し過ぎたTACアローは火炎を浴びせられて炎上し、夕子は機を捨てて海に飛び込んだ。まあ勿論これでウルトラタッチが可能になった訳だが(苦笑)。
 かくしてウルトラマンA対ゼミストラーの格闘が始まったが、特にこれと言って特徴のない殴り合いの果て、メタリウム光線でもってゼミストラーは討ち取られ、炎上した。

 この間、必死に鎖切断に努め、最後には切断完遂と同時に海に叩き落された篠田。幸い大きな怪我をすることもなく、事件解決後、彼は船を下りる決心をしていた。
 必死にスカンジナビア号を動かそうとしたことで、それまでスカンジナビア号が動き出すのを待とうとしていた自分の姿勢が間違っていたことを悟ったのだった。
 取り敢えずは大学に戻ることになった篠田。そして北斗に対してもまたどこかで会おうと告げ、2人は固い握手を交わし、北斗は去りゆくその背中に向かってその名を叫ぶのだった。確かに半年後、彼は再度船乗りに戻り、そのまた半年後に2人は再会することになるのだが……………あっ、そん時は篠田一郎じゃなくて東光太郎だったっけ(笑)。
 かくしてさわやかな男の友情を残して第20話が終わったのだが、この回におけるヤプールは一体何をしたかったのだろうか?



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平成三〇(2018)年七月一六日 最終更新