ウルトラマンA全話解説

第22話 復讐鬼ヤプール

監督:山際永三
脚本:上原正三
銀星人宇宙仮面、暗黒超獣ブラックサタン登場
 冒頭はTACスペースで夜間パトロールに北斗と夕子が従事しているところから始まった。仕事中に「デートにも誘ってくれない。」という愚痴をこぼす夕子に北斗は仕事の忙しさを言い訳していたが、夕子の意識は眼前に現れた隕石に向かっていた。
 宇宙から飛来した隕石は地面に衝突し、大量の白煙を上げていたが、これに近づいた北斗と夕子は特に変わった存在でもないとして、帰投後に報告することで合意し、基地に引き返した。
 だが、煙の中では学生服を着た1人の青年(富川澈夫)が立っていた。勿論隕石と共にやって来たそやつが地球人であろう筈はなく、次の瞬間には顔面を銀色の凸凹面に覆われた異形の姿に変化した。その正体はヤプールが地球侵略の為に「最後の手段」として送り込んで来た宇宙エージェントだった。

 翌朝、白煙がくすぶる中、青年は瀕死の重症状態で担架に乗せられていた。誰にそんな目に遭わされた?と北斗に尋ねられ、「人間が宇宙人になった……隕石から出て来た。」と告げて気絶した。
 山中に昨夜の調査・確認が甘かったと指摘された北斗は、さすがに今回は殊勝に反省していた。目撃内容を信じる信じないの内容ではなかったからな(苦笑)。

 ともあれ、TACでは怪我人が語るところの宇宙人(ナレーションでは「インベーダー」と呼称)に備えての特別警戒態勢に入った。そしてその夜には宇宙服を怪人っぽくデザインした銀星人宇宙仮面が現れ、TAC基地への潜入を試みた。
 金網を破られ、ライフルで発砲して応戦したにもかかわらずいきなり2人の警備員が殺された。哀れな警備員達は誰かに連絡する間もなく火花を挙げて絶命したが、この侵入は本部のモニターにて察知されていた。
 竜隊長の指示で、今野、吉村、北斗、夕子はその場でTACガンを抜いて各々指示されたブロックに向かった。やがて竜隊長、今野、吉村は時限爆弾を仕掛けていた宇宙仮面を発見し、これに発砲。しかし宇宙仮面は遮蔽物を利して巧みに逃げ回り、北斗・夕子組の追撃もかわして危地の外に逃走した。

 このことはTACパンサーにてパトロール中だった山中・美川組に通報され、直後に2人はバイクで逃走する宇宙仮面を発見してこれを追跡した。だが途中で停車した宇宙仮面が曲がり角で両腕を右に振るとそれが念動力になっていたらしく、TACパンサーは右折する所を左折してしまい、ガードレールを突っ切って崖下に転落してしまった!
 山中と美川は車外へ放り出され、TACパンサーは炎上。何とか受け身を取って起き上がった山中は必死に美川の姿を求め、草むらに倒れ伏す彼女を見つけた。山中は美川の名を呼びながら抱き上げ、体をゆすったが何の反応も見せない彼女に山中は「死んでる……。」と呟いた。周章狼狽した山中は何としても美川を助けなくてはと考え、彼女をその場に横たえると救助を呼びに駆け出し、その背後に宇宙仮面がいることに気付かなかった。

 その頃、TAC基地から宇宙仮面追跡にTACパンサーを駆っていた竜隊長達は崖下から必死こいて登りあがってきた山中を発見。ところが山中の案内で転落現場に駆け付けると美川の姿は消えていた。
 「死んだ」と言われた筈の美川がいないことを受け、竜隊長は「死んだ者がどうしていなくなる?」と彼にしては珍しく懐疑的な口を挟んだ。普段こういう台詞は山中が北斗に吐くことが多いのだが(笑)、いざ自分が言われる立場に立つと首を傾げるしか出来ない山中だった(笑)
 そして北斗も(まあ普段の報復という訳じゃないのは分かるのだが)「気を失ってただけじゃないんですか?」と見解を疑う意見を述べた。それに対して間違いなく死んでいたと言い張る山中だが、視聴者としては「脈も取らず、瞳孔を見てもいないのに?」とツッコみたくなる(苦笑)。
 まあ珍しく立場の逆転した山中叩きもこれ以上はえげつないだけなので真面目に解説するが、山中にとっても蘇生処置を施す為に一刻を争う状況で肝心の美川の姿が見当たらないのは気が気でなかったことだろう。
 するとそこへ竜隊長に今野からの通信が入った。救急病院から美川が搬送されたとの連絡が入ったというものだった。

 救急病院に駆け付けると、丸で何事も無かった様に笑顔で椅子に座す美川が待っていて、その背後には人間体の宇宙仮面が立っていた(勿論現時点で視聴者しかその正体を知らない)。美川の説明によると背後の青年・坂井次郎(と名乗る宇宙仮面)が応急手当てをして助けてくれたとのこと。
 隊員の危ない所を救われたことに丁重な御礼を述べる竜隊長に「当たり前のことをしたまでです。」と返す坂井。本来なら「謙虚」として褒められる態度だが、無表情で抑揚のない声が何とも怪しい(まあ、視聴者は正体を先刻承知だからと言うのもあるが)。だがもっと文句を付けたくなるのはこの期に及んでも美川が無事な姿を見せたことを訝し続ける山中の方。ここまで来ると「そんなに美川を殺したいのか?」と言いたくなる(冒頭で自身が北斗にしたのと同様に、竜隊長から応急処置に対する怠慢を叱られていた)。
 まあ、そこは事故そのものが山中のせいじゃないこともあって、美川が庇った。勿論、直情的で怒りっぽくても山中は潔い男だから、当の美川にそう言われてはそれ以上の言葉もなく、美川への謝罪、坂井への御礼を述べ、一先ず美川の危機は去ったのだった。

 1週間後、パトロール中の北斗と夕子は巨大な超獣の彫刻に群がる子供達を見かけた。しかも彫刻の方に目をやると浴衣姿の美川(嬉々)と坂井がいた。
 美川救出時に「彫刻を学んでいる。」と紹介されていた坂井は、「子供好き」との評判で、子供達にせがまれて超獣の彫刻を作っており、美川とも良い雰囲気で、プレゼントまで貰う仲になっていたが、終始無表情な対応で不思議な奴だ(笑)。
 だが、子供好きでは北斗も負けてはいない(彼の良い所であり、悪い所でもある)。彫刻でしかない超獣・ブラックサタンがウルトラマンAより強いかどうかを尋ねる子供達が超獣派とA派で口論を始めれば、「この超獣ならウルトラマンAも苦戦しそうだ。」と言って、どちらの面子も潰さない様に答えたり、(仕事中にもかかわらず(笑))彫刻作りを手伝い始めたりした。坂井(=宇宙仮面)の「子供好き」は腹に一物あっての演技だが、北斗のそれは「本物」やからなあ(笑)。

 だが、坂井の腕輪を見た途端、北斗の笑顔は貼り付いた。TAC基地で交戦した宇宙仮面の腕輪と同一であることを思い出したからである。それゆえ美川と坂井を引き離した方が良いと考えたものか、彼女に「隊長が顔を出すように言ってましたよ。」と偽りのメッセージを伝えた。
 しかし宇宙仮面の方でも何かに気付いたのか、念動力でドッヂボールを操るとそれを美川にぶつけ、転倒した美川が北斗の乗っていた脚立を倒す事故を装うことで北斗を負傷させた。

 場面は替わってTAC基地本部。そこで北斗は美川に坂井を疑っていることを告げた。勿論美川は驚き、信じようとしない。北斗が腕輪の一致を証拠として述べても、美川は坂井の人格を挙げ、「腕輪なんてみんなしている。」と言って受け入れなかった。否、昭和47年当時、まだまだブレスレットの様な派手なアクセサリーをする男は(チャラ男系を除いて)少なかったと思うが(苦笑)。
 北斗は自分が脚立から落ちた事故も偶然じゃないとし、山中がこれに同調した、実に珍しいことだが(笑)。山中に言わせると事故現場に坂井がいたことが偶然と思えないとのことだった。
 竜隊長も断言は避けたものの、坂井を調べるべしとして、梶主任に特殊ペンダントを取り出させた。これは細胞体や血液型、体温などを測定する機械が内蔵され、その結果を電波で送信するという優れ物だった。だが検知対象者の首から掛けさせて初めて効果を発揮するという使い勝手の悪さが難点で、そのままでは「如何に猫の首に鈴を付けるか?」的な問題(苦笑)が残った。
 これに対し、美川は自分が坂井に着けさせると申し出た。自分がやるとしたのは坂井の潔白証明の為である。些か飛躍した表現を用いると、「惚れた弱味」だろうか?だが、TAC基地本部でのこの一連の会話は、プレゼントである犬のぬいぐるみに偽装した盗聴機によって宇宙仮面に筒抜けとなっていたのだった。

 Bパートに入ると美川は超獣彫刻を制作中の坂井の元に来ていた。ミニスカートで(嬉々)。早速美川は先日の御礼として特殊ペンダントを坂井にプレゼントし、恐らくはそれが何であるかを知っているであろう坂田だったが、意外にあっさり着用を了承した。
 するとそこへ山中がやって来た。子供達に囲まれて物凄くにこやかに現れた彼は普段とは別人みたいで、そのなり切り様を見ていると沖田駿一氏が俳優さんみたいだった(笑)。
 北斗同様、自分も制作を手伝うという山中。一時は美川を死なせたと思ったときのことを彼なりに責任を感じていたのだろう。TAC隊員としての心構えに厳しく他の隊員達に説く分、自らにも厳しくあるのは立派なことである。

 ともあれ、程なく彫刻は完成し、子供達が歓声を上げたブラックサタンなる超獣は独角、大耳、単眼の鬼の様な風貌で、バッテリーでその眼を光らせていた。そしてその頃、TAC基地には特殊ペンダントを通じて送られてきたデータの分析が完了し、坂井の体が特殊金属と合成樹脂でできていることが判明した。勿論そんな人類など存在しない。竜隊長は即座に出動を命じたが、足を負傷している北斗には梶主任と共に待機することを命じた。
 竜隊長達が到着すると坂井はスイッチを入れてブラックサタンの腕を動かしていた。彫刻言わんな、これ(笑)。竜隊長、今野、吉村、夕子が揃ってやって来たことに分析結果が如何なるものかを概ね察知した山中・美川だったが、それより先に坂井はペンダントを手にして「僕の分析結果は出ましたか?」と尋ねて来た。
 どうやら正体が探り当てられたとしても次の手は打てると踏んでいたようで、その台詞に「やはり貴様…。」と身構える竜隊長に「このチャンスを待っていたんだ!」と言い放った。だがただ1人、美川だけが隊長達を押し留め、坂井に潔白の証明を訴えたが、坂井が見せたのは身の潔白ではなく、正体である宇宙仮面の姿だった………。第4話に続き、男運の悪い美川のり子、哀れ也…………。

 宇宙仮面に対して、隊員達に攻撃を命じた竜隊長だったが、宇宙仮面は彫刻から放たれる火炎を子供達に向けて威嚇し、TACに武器を捨てるよう要求。竜隊長はこれに応じるよう隊員達に命じるとTACガンを眼前に捨てた。そして宇宙仮面ブラックサタンの名を呼びながら腕を振るうと、彫刻は巨大化し、暗黒超獣ブラックサタンとして完全な超獣形態となった。

 宇宙仮面に指示されて、周囲を破壊しながら暴れるブラックサタン。だがこれを1人現場に現れていなかった夕子がTACアローにて迎撃した。だがブラックサタンは指ミサイルで応戦し、TACアローは被弾してしまった。
 勿論夕子は「脱出!」し、これを基地のモニターで見ていた北斗は出撃しようとした。しかし彼の怪我を懸念した梶主任が、普段は「○○隊員」と役職付きで呼ぶところを呼び捨てで呼ぶほど必死に押し留めた。このことが偶然、犬のぬいぐるみが弾丸を吐く暗器であったことを気付くきっかけとなった。
 TACガンでこれを破壊した北斗はその騒ぎに紛れるように出撃。まあ梶主任も最後には「気を付けろよ…。」と声掛けしていたから、誰かが出撃しなければ行けないのは認識していたのだろう。
 かくして機中の人となった北斗はTACアローの機銃掃射をブラックサタンに浴びせ、指ミサイルも巧みにかわしていたが、ブラックサタンが口から吐いたガスを浴びた途端、TACアローは炎上。次の瞬間ウルトラリングが光り、墜落する北斗と、上空目掛けてジャンプした夕子が合体するようにウルトラタッチが為され、2人はAに変身した。

 例によって殴り合いから始まった両者のバトル。ほぼほぼ互角だったが、軽い投げ技を駆使する分、Aの方が若干優勢だったが、ブラックサタンは指ミサイルに加えて、尻尾からの槍型ミサイル、更には単眼からの破壊光線、と言った多彩な攻めでAを苦戦させた。
 だが光線や技の多彩さではウルトラ兄弟随一とも言えるAも負けてはおらず、側転を多用して数々のミサイル攻撃をかわし、単眼からの破壊光線はサークルバリアなる、文字通り円形のバリアでもって逆に弾き返してブラックサタンにダメージを与えた。
 この返し技はブラックサタンをグロッキーに追い込み、Aは俄然優位に立ったが、ダウンしたブラックサタン宇宙仮面から腕輪によるエネルギー補充を受けると何事も無かったかのように起き上がり、殴り合いでも優勢に立ってAを攻め立てた。頭に家屋をぶつけて被せられ、ボコボコにされるA。だが、宇宙仮面からの指示とエネルギーで戦うということは、ブラックサタンにとって長所であり、短所でもあった。
 ブラックサタンがTACアロー、Aと戦っている間、TACは銃火器を整えており、美川はマンション屋上からブラックサタンを指示する宇宙仮面に至近距離まで接近し、グラネードランチャー型の銃でこれを銃撃し、地面に転落せしめて討ち取った(TACの手によるインベーダー射殺の2例目)。

 宇宙仮面戦死の直後、ブラックサタンの動きは目に見えて緩慢なものとなった。Aは最前家屋で頭をどやかされた報復とばかりに石油タンクを地面が引っぺがしてブラックサタンのどたまに打ち付けた…………って正義の味方がそんな攻撃していいんか!?!?製油会社の人々に謝れ!ウルトラマンA!!

 倫理的に大いに疑問の残るAの行為だが、攻撃手段としては念の入ったもので、石油まみれになったブラックサタンにAは、カラータイマーから空に電撃エネルギーを放射し、敵に雷を落とすと云うタイマーボルトなる技を駆使してブラックサタンを火達磨にした上で、とどめのメタリウム光線を放って、その体を木端微塵に粉砕したのだった。

 男性隊員が負傷の身を押して戦った北斗の無事を確認して喜ぶ中、黒焦げになった宇宙仮面の死体を見下ろし、偽りだった恋に対して何とも言えない表情の美川を同じ女性隊員である夕子が軽く励まし、隊員一同は帰還の途について第22話は終結した。
 傷心の美川にちったぁ精神的なフォローがあっても良かったんじゃないの?

 さて、多くの特撮マニアが言われずとも認識していることと思うが、この第22話に登場した超獣・ブラックサタンは、『仮面ライダーストロンガー』の敵役として登場した悪の組織と同名である。
 勿論名前が一致したからと言っていちいち触れる必然性が両作品にある訳ではないのだが、『ストロンガー』におけるブラックサタンの大幹部・一つ目タイタンをモチーフにしたキャラクターを自らの名乗りとしているシルバータイタンとしては触れずにはいられなかった(苦笑)。おまけにブラックサタン一つ目だし(笑)
 ちなみにこの『ウルトラマンA』第22話の放映は昭和47(1972)年9月1日で、『仮面ライダーストロンガー』第1話にて悪の組織・ブラックサタンが登場したのは昭和50(1975)年4月5日。同話の超獣ブラックサタンの方が先である。まあだからと言って、『ストロンガー』制作陣がパクったとは思いませんが。


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平成三〇(2018)年七月一六日 最終更新