ウルトラマンA全話解説

第23話 逆転!ゾフィー只今参上

監督:真船禎
脚本:真船禎
異次元人巨大ヤプール登場
 冒頭のナレーションにて、改めて目的の為に手段を選ばない悪辣な侵略者であることが述べられたヤプールは、汚くて見るからに怪しげな風体の老人(大木正志)の姿で大勢の子供達を率いて登場した。
 その言動は末世による終末思想を説く新興宗教の教祖で、腐り切った世が終わりを迎えていると辻説法し、「お前はお〜れを信じなさい ほれ信じなさい ほれ信じなさい」と歌って踊り狂った(歌は故ハナ肇氏とクレージーキャッツの『学生節』の替え歌らしい)。
 この老人を道行く大人達は変人を見るような目で嘲笑していたが、子供達は一緒になって踊り狂い、ハルメンの笛吹きの如く、大勢の子供達を連れてはあちこちを練り歩いて去って行っていた。

 更にこの老人は全国各地に現れては同様の行動を展開した。1人の老人があちこちに現れているのか?それとも同じ格好の老人が大勢いるのか?も謎で、異次元に潜むヤプールは愚かな地球人がその実態に気付く訳ない、と侮りながら嘲笑していた。
 そして老人は子供達に「海は青いか?」、「山は緑か?」、「花は咲いたか?」と尋ね、子供達がYesと答えると、即座にそれを否定して、「海=真っ黄色」、「山=茶色」、「花=死んだ」と叫ぶと子供達も即座にそれに同調した。

 この様子を双眼鏡で遠くから見ていたのは北斗。何故か定時連絡でも「異常なし」と報告したが、再度覗き込んだ双眼鏡の向こう側で踊り狂っていた老人と子供達が忽然と姿を消したのを見て、大慌てで老人と子供達がいた筈の海岸に駆け付けた。
 だがそこには何の痕跡も残っておらず、訝しがる北斗に真夏だというのに吹雪が襲い、この異常をいくら通報しようとしても何かに封じられたかのように通信は途絶されていた。そして前方に老人の姿を確認した北斗はこれを追ったが、老人はその顔を猿のような顔に変化させ、炎を吐いて北斗に襲い掛かって来た。TACガンを駆使して応戦した北斗だったが、結局は断崖絶壁から追い落とされて、負傷したのだった。

 場面は替わってTAC基地本部。異常な天候を報告した北斗だったが、北斗のいたXYZ地点の異常はどの機関でも確認されておらず、例によってワンパタの北斗不信が囁かれていた。

 しかし今回の北斗不信は明らかに異常だった。 

 崖から落とされて怪我したことを「寝惚けていての転落。」とした山中も相当ひどかったが、メディカルセンターが「明らかに火傷。」と診断したのを無視して北斗の言を信じない今野はもっとひどかった。雪や気象を信じないだけならまだしも、普通の海岸パトロールで負う筈の無い火傷を負っているという異常があって尚北斗の言を認めない様は、「何か怨みでも?」と言いたくなるほど、リアリティも、正論も無かった。
 ただ1人、現場で北斗が負傷した際に自分の名前を呼んだことを感じ取っていた夕子だけが北斗を信じて庇ったが、周囲を信用させる材料とはなり得ず、山中は「どうも科学的でない。」とした。
 そこへ吉村がXYZ地点の地図を持ってきて、崖の下は海で、北斗の話に出てくる砂浜自体が存在しないと証言した。自分の言っていることが、目撃した事件・現象・気候はおろか、現場の地形まで次々と否定された北斗は可哀想なぐらい半狂乱となり、今野や梶主任の肩を乱暴に掴んでまで他の隊員達に自分が見たことを一から十まで叩きつけるように語り、子供達が消える際に各地で老人によって歌われている歌が歌われていたとして、自らもその歌を歌い出す始末だった。

 その悲しいまでの必死振りを見ていられず止める夕子。尚も北斗は山中の肩まで掴んで自分が見たことは間違いじゃないことを訴えんとしたが、山中は「分かった分かった。」と無言で言っているような目で北斗を睥睨するだけだった。
 結局この口論を止めたのはやはり竜隊長だった。最初竜隊長に「疲れている。」と言われ、普段意見的に孤立する自分を公正公平に庇い、時には上官に暴力を振るうことまで辞さなかった竜隊長にまで信じて貰えないと思って、絶望感を漂わせた北斗だった………。
 だが、竜隊長は山中・今野にXYZ地点の調査を、吉村に謎の老人の捜索を、美川に行方不明になっている子供がいないかの調査を命じ、北斗には改めて休養を命じ(←実際にひどい怪我だった)、夕子にその付き添いを命じた。その時の北斗の表情は、笑顔ならずとも砂漠で渇きに苦しみ抜いた遭難者がオアシスに遭遇したかのような救われた者の表情だった。
 北斗星司が目撃した内容を信じて貰えず、意見的に孤立し、竜隊長に救われた例はめちゃくちゃ多いが、その中でもこの第23話は悪い意味でその典型だったと言えた。

 隊員達が指令と休養で本部から出ると、梶主任が竜隊長に北斗の言を信じているのかを尋ねると、竜隊長は笑いながら首を横に振った(本当に信じていなければ山中達には空命令を出していることになるが)。
 だが、意外にも梶主任は北斗の言ったことを信じている、正確には信じられる気がする、と述べたのだった。職務的にも山中・今野以上に科学的な物の見方を重んじなければならない梶主任は果たして何を根拠に信じられる気がするとしているのだろうか?

 一方、散々不信の目を向けられた北斗は、かなりのショックをまだ引きずっており、彼を信じているとする夕子にまで「もういいんだ。」とぼやく始末だった。
 だが夕子はそれには答えず、自分の幼い頃の目撃談とそれに対する周囲の不信の例を話した。5,6歳の頃の夕子がある夜、人魂を見たのだが、家族は誰もそれを信じなかった。だが翌朝、夕子が人魂を見た頃に隣のお爺さんが亡くなっていたことが判明し、夕子の目撃は正しかったことが分かったというのがその内容だった。
 実体験と云う実例を持っての信頼を寄せた夕子の話に力なく、それでも本当に感謝した北斗。かくして互いの信頼を確認した2人はXYZ地点に向かい、そこにいた山中も「やはり来たな。」と言って笑いかけた(←こういう人格や職務に対する熱心さは信頼されているんだけどなあ………)。
 そしてXYZ地点に砂浜があることに山中達も同意したが、北斗が転落した崖の下はやはり海と僅かな岩場だけで、再度北斗は愕然とした。今度は周囲の不信ではなく、自分が確かに見たものが今は異なっていることに。さすがに哀れに思ったのか、山中も信用問題は口にせず、夕子に今度こそ北斗を休ませるよう促した。

 だが、「幸い」とはとても言えないのだが、世界中で北斗が報告したのと同様の子供達の集団蒸発が発生しているとの通報がTACにもたらされた。ニューヨークで、パリで、マドリードで………。

 勿論、被害は日本でも同様だった。Bパートに移るや、まず鹿児島での集団蒸発が伝えられ、秋田県仙北郡、東京都杉並区のプールでも同じことが起きたことが伝えられた。
 更には通信の背景には例の歌が聞こえ、その後も夜毎に子供達が消え続け、それに反比例して夜空には星の数が増え続けたのだった。そしてついにその犠牲者の中に竜隊長の2人の甥(姉の子)もカウントされるに及んだ。
 竜隊長からそのことを聞かされる直前、北斗はまたも子供達が海岸で大量に消えるのを目撃しながら、子供達の体を掴めないまま阻止出来なかった無力感に打ちひしがれていた。手応えが無かったのは、北斗がありもしないものを目にしたのは、異次元にあるものを見せられたからで、北斗にも竜隊長にもそんなことが出来る相手はヤプールしか考えられなかった。
 いずれにせよ、このままでは子供達が異次元に拉致され、消え続け、地球は無人の星になりかねず、事態の解決は緊急を要した。北斗は居ても立ってもいられなくなり、異次元への攻撃を進言したが、その異次元にどうやって行けばいいのか?その方法を人類が持っていないことを苦悩した竜隊長だったが、1つだけ方法があると述べる男がいた。
 勿論台詞の主は梶洋一主任だった。

 それは「メビウスの輪」の応用で、ひねりを加えて繋げた帯状の紙に表も裏もなくなる現象を人体に応用した異次元突入装置を用いるというものだが、紙ほど単純でない人体への応用は死へのリスクすら伴うという。
 その危険な任務に間髪入れず志願したのは勿論我等が北斗星司。等身大のカプセルの様な装置に入り、コードがいっぱいついたヘッドギアを被った梶主任の操作でカプセルは高速回転を始め、隊員一同はこの作動に北斗が耐え切れるかどうか固唾を呑んで見守っていた。
 見た目には特に苦しそうな様子もなく回転に身を委ねるだけの北斗だったが、ナレーションによると相当過酷な試練の様で、それに北斗が耐えられたのは子供達を救いたいとの一念だったと云う。そして一際回転が加速し、効果音を聞き付けた竜隊長が不安そうに尋ねたところ、梶主任は成功を告げ、一同には安堵による満面の笑みがこぼれた。それは良いのだが、何をもって成功と確認したのかは謎だった(苦笑)。単純に北斗の身が滅びただけなどとは間違っても考えないのがTACらしいと言えようか……余談だが、海中・宇宙・地中に進出した特撮は数多くあれど、異次元にまで突入した人類の例は殆どない。この事からしても、開発した兵器が超獣をなかなか倒せない梶主任を無能呼ばわりする特撮物の書籍には改めて猛省を促したい

 かくして異次元空間に潜入した北斗は、泳ぐようにして未知の世界にヤプールの姿を探していた。そしてそのとき、北斗と夕子の脳裏にはM78星雲からの指令が届き、ウルトラリングが光った。これを受けた夕子は気合を挙げてジャンプ(←ど、どこに向かって?)、するとのその身は異次元空間に立つゾフィーの掌の上にあった。
 ウルトラ兄弟の長兄・ゾフィーから直に指令を受け、更にジャンプを敢行した夕子はゾフィーの力で北斗が泳ぐ近辺の空間に移送され、ゾフィーはテレポートでその場を去った……………サブタイトルに「逆転! ゾフィー只今参上!」とまで謳われながらこれでゾフィーの出番もう終わり!!??

 ともあれ、北斗と夕子は無事巡り合い、ウルトラタッチを敢行してAに変身すると、ヤプールもまた数体が合体し、巨大ヤプールとなって両者は対峙した。かくして宿命の対決の火蓋は切って落とされた訳だが、さすがに異次元空間がホームレンジとあってか勝負は巨大ヤプール優勢に展開した。
 光、火炎、空間を利用して一方的に押しまくる巨大ヤプールだったが、歴戦の経験が活きたか、やがてAは場に慣れ、様々な投げ技(巴投げ、一本背負い、小手返し、etc)を駆使して勝負を互角に運び出した。
 そしてクライマックス。巨大ヤプールが光線を放てばAはこれをかわし、受け止め、ムーン光線(三日月形の小さな光弾)を放った。だが巨大ヤプールも負けずにこれを弾き返した。ついで巨大ヤプールが直線状の光線を放てばAは両腕を外へ広げる様にして広げて弾くと、その広げた両手から巨大ヤプールの胸一点に光線を照射するストレート光線を放った。そしてしばし対峙した果てに三度光線を放った巨大ヤプールだったが、Aはこれも弾き飛ばし、メタリウム光線を発すると、遂にこれが決定打となった。
 巨大ヤプールは苦しみながら、「地球の奴等め覚えていろ……ヤプール死すとも超獣死なず……怨念となって必ず復讐せん……。」と告げて倒れ伏した。

 同じ頃、現世空間でも謎の老人が断末魔の叫びをあげて海中に倒れ伏した。Aも帰還し、同時に空中に花びらの様な物が大量に浮かんだかと思うとそれ等は拉致されていた子供達の姿となっていった。
 かくして事件は解決し、巨大ヤプールは死んだ。だが、異次元人ヤプールが今尚、謎が多い上にしぶとい存在として後々もウルトラ兄弟や人類の厄介な敵として度々襲来しているのは有名な話。そのことについてはここでは触れず、各作品の解説に譲るが、ナレーションは以下のように語っていた。

 「しかし、死んだ異次元人ヤプールの体は、我々の知らない間に粉々になってやはり地球に舞い降りていたのだ。やがて地球に何が起こるのか……だーれも知らない……恐るべきヤプールの復讐……君達、危機はまさに迫っているのだ。」

 そしていつかまた現れるかも知れないヤプールへの対抗を決意するように、北斗と夕子が夜空を見上げつつ、半年近く続いたA・TAC・地球人とヤプールの戦いは「一先ず」終結したのだった。


次話へ進む
前話に戻る
『ウルトラマンA全話解説」冒頭へ戻る
特撮房『全話解説』の間へ戻る
特撮房へ戻る

平成三〇(2018)年七月一六日 最終更新