ウルトラマンA全話解説

第25話 ピラミットは超獣の巣だ!

監督:筧正典
脚本:斎藤正夫
古代星人オリオン星人、古代超獣スフィンクス登場
 冒頭はとある小学校の体育の授業での異変から始まった。突然児童達が倒れ出し、教諭は元気な児童達に校舎内への避難と倒れた児童の搬送を指示した。
 この異常事態を受けて児童達は教諭に「玉葱の腐った匂いがする。」、「花壇の方から赤い煙が出ていた。」等と告げ、公的機関が花壇を掘り返して調査した。
 だが何も出て来ず、「子供の証言が信用されないいつものワンパタか……。」とシルバータイタンが溜息をつきかけたら、赤い煙が出て来たから意外だった(苦笑)。

 即座に教師達が児童達を退避させ、北斗と夕子が逃げ遅れた1人の少年を助け、介抱する背後では、ガスの噴出して来た位置からピラミッドの様な物がせり上がっていた。だが北斗と夕子が気にしていたのは意識を取り戻さない少年と、こんな状況下で赤いガスの方に向かっていく18〜20歳ぐらいの1人の女性(田所陽子)だった。
 気絶者を続出させているガスに向かう女性を止める北斗と夕子だったが、女の色香に惑わされない分、捜査員としては夕子の方が厳格らしく(笑)、明らかにその女性を怪しんだ。一方で北斗は抵抗する女性に自分達がTAC隊員であることを告げて安心させようとしたが、そう告げられた女性は只でさえきつそうな目付きを更に険しくした。
 だが更にせり上がるピラミッドは頭頂部から赤いガスを放出し続けると思に激しい地震をもたらし、周辺は更なるパニックに陥った………。

 場面は替わって多くの児童が横たわる病院。医師(北川陽一郎)の見立てでは、児童達の容態は白血球が異常に増えているという、普通に考えたら深刻極まりないもの(素人的には急性白血病を疑ってしまう)だが、医師は輸血すれば大丈夫と言う。現実にこれと該当する病気ってあるのだろうか?
 勿論北斗と夕子は輸血に協力する姿勢を見せ、医師もそれに感謝した。するとそこへ1人の看護師が現れ、最前北斗と夕子が取り押さえた女性が血液検査を断固として拒否し、困っていることを告げた。女は自分の体は自分で把握しており、治療など大きなお世話だという態度を取っており、北斗が赤い煙の中にいたことを懸念した上での検査と治療を勧めたところ、「貴方の血なんか輸血したら私、死んじゃう。」と妙に引っ掛かる言い方をした。
 突っかかりにしてもおかしな言い分である。
 輸血が必要か否かはそれこそ検査しないと分からないし(不要と言うこともあり得る)、輸血が必要だとしても血液型次第では北斗の血を貰うとは限らない(ちなみに北斗はB型なので、B型・AB型以外だと輸血出来ない)。
 そんな彼女に対し、いつになく夕子が厳しい姿勢を見せた。北斗の血を拒否したことに対して、風邪1つ引いたことのない北斗の血に対してその様な無礼な言い方をする訳を説明しろ、と迫った……………あの〜夕子さん……、もし彼女の血液型がA型かO型だった場合、B型の北斗の血を輸血したら本当に死んじゃうんですけど………(苦笑)
 勿論現実・フィクションを問わず、かかる態度で生きている奴がそのように言われて態度を改めることなど皆無と言って良く、案の定、この女も「大きなお世話と言ってるでしょ!!」との態度を崩さなかった。

 場面は替わってTAC基地本部。化学班のスペクトル分析によると地上に現れたピラミッドは地球上には存在しない高密度な金属か合金で出来ているとのことで、当然宇宙から来たものと考えるのが筋だが、梶主任は断言を避けた。
 もっとも、梶主任自身、ここ数日オリオン座に原因不明の変化があることを把握しており、それと関連があるのではないかとの推測を持っていた。これに対して今野はピラミッドの1つや2つ、V9で簡単に潰せると笑いながら述べたが、山中に楽観するなとたしなめられた(正論である)。
 少しだけ結論を先に書くと、今野が口にしたV9は結局登場しなかった。それゆえそれこそ推測でしかないのだが、第17話でホタルンガを戦闘不能にまで追い込んだV7ミサイルの改良版兵器なのだろうか?だとすれば未登場に終わったことは大いに惜しまれる。
 ともあれ、竜隊長はV9の組み立てを突貫作業で急がせることと、化学班からの連絡待ちを指示した。

 場面は替わってとある郊外。そこでは晴天の中、啖呵切って病院を飛び出した例の女が、最前の強がりとは丸で正反対に苦しそうにしながら歩いていた。嫌な女ながら、その苦しみ振りを見ていられないと思ったら、彼女は突如芝生に座り込み、ポシェットから袋を取り出した。
 その透明袋にはあの赤いガスが充満していて、それを吸うや落ち着きを取り戻した………………って、おいっ!!子供番組で当時メチャクチャ社会問題になっていたシンナー遊びやガスパン遊びとしか思えない行動を放映していいのか!!!???

 『帰ってきたウルトラマン』までは隊員達の喫煙シーンもそこそこ出て来たのが、この頃には格段に減り、後の時代ほど皆無に近づく等、煙草でさえ色々気遣われていたというのに、「第2の覚醒剤」とさえ言われ、本来は塗装等に使うことから入手も麻薬より遥かに容易で、社会に深刻な害をもたらしていた非行行為を演出したことには大いに疑問が残る………はっきりいって平成29年現在、大人の立場で、「この第25話は子供達に見せたくない……。」と真剣に思うのである。

 勿論家庭教育がなってなければ、酒・麻薬・シンナー・ライターガス・危険ドラッグ以外にもクソガキは八方手を尽くしてラリることを考える………逆に家庭教育がしっかりしていればそんなものに手を出すことがどれほど恐ろしく危険なことかが伝えられることで、手を出すのは未然に防がれるだろう。
 だが、好奇心や、仲間内の暴走で、薬物に限らず危険な物に子供達が手を出す例や可能性は枚挙に暇がない。
 麻薬や危険ドラッグよりも入手が容易な分、昨今では姿を見せなくなったシンナー遊びやガスパン遊びは子供達に見せることのないまま、認識されずに済ましたいものである。


 そんな女のアブナイ行動を見て、チンピラ風の男2人が現れ、自分達にも吸わせろ、と言ってきた(益々危ない回だ…)。女はTACのV9について教えてくれたらガスをやると持ち掛けた。チンピラ2人はTACの名を聞いてもすぐには思い出せないような馬鹿面を晒していたが、それでもTAC自体がこの世界では超有名組織であることもあって、「V7と似たようなもの」、「恐らくTAC基地内にある。」、「(基地の所在は)富士山麓」との証言を得てガス袋を残すと立ち去った。
 残されたチンピラ達は貪るようにガスを吸ったが、一口吸っただけで昏倒してしまった。その生死並びに言動への悪影響は不明だが、本当にこんなシーン流してよかったのか??

 早速TAC基地本部に向かうべく、ゴルフのツアーバスに潜り込んだその女・ミチルだったが、その途中でまたも禁断症状に襲われ、例の赤いガスを吸った(←くどいが本当に危ないシーンだ)。だが偶然(………でもないか、TAC基地に向かっていたのだから……)TACパンサーでこのバスとすれ違った北斗が車内に赤いガスが充満していたのを目撃した。
 Uターンしてバスを追うと、その車内では赤い煙を吸って乗客達が次々に昏倒。運転手も意識を混濁させ、運転不能に陥り、ミチルは悲鳴を上げていたから阿呆としか言いようが無かった(笑)
 勿論蛇行運転する危険なバスを捨て置けず、北斗は夕子にTACパンサーの運転を託し、バスに飛び移ってブレーキを掛けてこれを停車させた。勿論車内にいたミチルとも顔を合わすこととなり、北斗がその名を叫ぶと、驚いたような表情を見せたミチルは北斗の胸に倒れ込むように昏倒した………。

 場面は替わってTAC基地本部。そこでは最前からミチルに厳しい詰問的な言動を取っていた夕子が更に強い疑念を呈して北斗に詰め寄っていた。赤いガスのある所に必ずミチルがいて、更には人に害をなすガスに彼女が入って行こうとするのを指してミチルのことを怪しむのは誠、理に叶った意見なのだが、夕子にしては珍しく感情的になっていた。
 北斗は同じ人間が二度被害に遭ったからと言って怪しむ理由にはならないと反論していたが、行動面でも、態度的にも明確な論拠を持って怪しいとする夕子の論に軍配が上がる、と山中も追随した。自分が口論する時は凄い強面になる山中なのに、第3者的に聞いているときは随分フレンドリーな笑顔をするものである(笑)。
 ともあれ、山中はメディカルセンターに運ばれたミチルを再度調べた方が良い、としたが、北斗は納得せず、夕子に対して何故ミチルを色眼鏡で見るのか?と詰問した。それに対する夕子の回答は前述の通り論理的で、ここまで来ると北斗のミチルへの庇い方の方が変に映った。
 今野が普段から北斗が女に甘いことを挙げ(←そうか?子供には甘いが)、軽いからかい口調でミチルのことを「そんなにかわい子ちゃん?」と問い掛けたのに対し、「馬鹿なこと言うな!」と激昂する始末。独断専行が多い意味では隊の一員として問題も多少みられる北斗だが、先輩・年長の今野(北斗より4歳年上の設定)に暴言口調で怒鳴り付けた例は極めて珍しく、それだけに異常に映った。
 実際、吉村にも「何故にそこまでムキになって肩を持つんだ?」と投げ掛けられていた。
 それでも軽率に人を疑うことを戒めているだけと主張する北斗。言葉自体は正論だが、夕子の呈する疑問が、的を得ていることを思えば、どうしても北斗の肩の持ち様はおかしく映る。結局、竜隊長はミチルを「懐に入った窮鳥」に例え、穏やかに、静かに、しかし警戒を怠らずに様子を見るべし、として双方の顔を立てる様に纏めた。

 場面は替わってTAC基地内にあるメディカルセンター。夕子がそこを訪れるとミチルは散歩を理由に離室中だという。部屋に入って様子見を見てみると、印の付いた地図が見つかった。
 それを頼りに夕子が地図の印の場所に駆け付けると、赤い煙に巻かれた警備員が倒れる中、ミチルはとある扉に向かって何か細工をしている様だった。そして夕子に目撃されたことに気付いたミチルは発煙筒の様なものを取り出し、赤い煙を出して抵抗した。
 その煙に巻かれて気を失った夕子は、しばらくしてから何とか意識を取り戻すと、扉―V9の格納庫らしい―に仕掛けられた時限爆弾に気付き、辛うじてこれを解除するとバイクで逃げるミチルをTACパンサーで追跡した。

 そしてピラミッドまで逃げて来たミチルは自分の正体を問う夕子に、「地球人の敵・オリオン星人」と名乗った。明らかな敵と聞いて夕子はTACガンを突きつけて時限装置は自分が解除し、V9は健在だと告げた。これに驚き激昂したミチルが合図すると、夕子の体は忽ちピラミッド内に取り込まれ、監禁された。
 監禁された夕子には古代星人オリオン星人の声が響き、「捕虜第1号」とした彼女にかつてオリオン星人は地球を植民地支配したことがあり、大洪水(←ノアの箱舟伝説か?)をきっかけにピラミッド内に立て籠り、冷凍睡眠で1万3000年待ち続けていたことを告げた。
 その間、彼等がいう「猿同然」だった人類が多少の進化を遂げたことを認めながらも、今こそ自分達が地球を奪還する時、と告げたのだから随分地球人を睥睨しているものである。
 1万3000年の時を経て、本国(母星)からの指令を受け、行動を開始せんとしている訳で、「勝利は目前である!」と息巻いていたが、それだけ長期間放置されていた奴等が母星からその存在が重視されているとは思えん(笑)。眠りが長かった分、寝惚けから覚めていないのだろうか?(笑)

 そしてオリオン星人が仲間同士を大切にするような種族でないことはBパートに入ってすぐに判明した。ミチルが自分をピラミッド内に入れて欲しいと言っても、中に居て夕子に話しかけていたライオン●みたいな容姿の奴(←便宜上、以下「ボス」と表記)はこれを拒否した。理由は彼女がV9の破壊に失敗した上、内心で地球人に好意を抱いているからとのことだった。
 その見立てをミチルがいくら否定してもボスは聞く耳を持たず、ミチルが赤いガス=オリオンガスが無いと死んでしまう(それ故助けて欲しい)と訴えても「死ぬがいい!」と返し、彼女が用済みであることを繰り返すのみだった。
 やがてボスは行動開始を宣言。その号令でピラミッドが揺れ出し、それにミチルはふっ飛ばされた。そこに駆け付けた北斗がミチルを介抱し、夕子が一緒じゃなかったのか?V9ミサイルを破壊しようとしたのは彼女自身なのか?を詰問した。しかし同胞から見放されて自暴自棄になったからか、ミチルは惚け倒し、遂には北斗のビンタが飛んだ。やっぱり女に甘い訳じゃないんだよね、この男。
 そんな北斗の突飛な行動に呆然として黙りこくるミチルだったが、静寂はピラミッドの更なる振動で破られた。真っ二つに割れたピラミッドから現れたのは古代超獣スフィンクスだった。

 ツタンカーメンの黄金マスクをかぶった様な風貌のスフィンクスは額のコブラから火炎を吐いて大暴れし出した。即座にTACファルコンが出撃したが、スフィンクスは丸で堪えず、竜隊長は今野にTACアローでの攻撃を、他の隊員には地上からの攻撃を命じた。だがやはりそんな攻撃で倒せる相手ではなく、竜隊長もV9の完成に期待して、梶主任に問い合わせるよう美川に命じていた状態だった。
 勿論その間もスフィンクスは暴れ続け、今野の乗るTACアローも撃墜された。そしてその頃、北斗は逃げ惑う人々を避難誘導しながらTACガンで応戦していたが、スフィンクスの火炎攻撃を受けて昏倒。これを見たミチルは思わず駆け寄り、北斗の身を案じ、自分がオリオン星人であることを隠していたことを詫び、許しを請うた。

 そんな2人の元にTACの面々が駆け付け、V9も完成し、1時間後には発射可能であるところを竜隊長は30分以内に発射準備を整えるよう梶主任に命じた。
 ようやく反撃開始かと思われたがが、次の瞬間、ピラミッドの頭頂部に十字架が掲げられ、そこには南夕子が架けられていた。勿論これを指咥えて見ているような北斗ではない。TACパンサーに乗り込んだ北斗は竜隊長が止めるのも聞かず基地に戻ってTACアローで出撃した。
 TACアローに搭乗してピラミッドに迫る北斗だったが、ピラミッドが不気味な光を放つとTACアローは炎上。北斗は脱出に託けて十字架上の夕子とウルトラタッチを交わし、Aに変身した。
 殴り合いは完全にAに分があった。やはりスフィンクスのあのファラオマスクと酷似した頭の重さでは肉弾戦は不利と見える(笑)。だがスフィンクスも額のコブラからの炎、怪光戦を駆使したトリッキーな攻撃で巧みにAの死角を突いた。
 しかし多彩な攻撃手段を持つAはトリッキー攻撃でも負けてはない。エースファイヤーで熱エネルギーを炎に変えて噴射し、目には目を、炎には炎で対抗した。それでもスフィンクスも尻尾の先の鎌首でAに噛み付いて抵抗。だがここに意外な助っ人が現れた。

 ミチルである。
 ミチルが葦笛を吹くとスフィンクスは大人しくなり、ゆらりゆらりとミチルに近づき、ミチルもまた子供をあやす様にスフィンクスを宥めた。だがこの行為を見たボスはミチルを「裏切り者」と罵って、ピラミッドから何がしかの力を発動してミチルを抹殺した。否、裏切られたのも思いきり自業自得と思うが
 いずれにせよスフィンクスは再度暴れ出したが、さすがにAの怒りの方が勝ったようで、Aはドラゴリー戦で用いたエースブレードを召喚し、瞬殺で首ちょんぱ。残された胴体は盲滅法に暴れたが、タイマーショットで粉砕されて炎上した。
 跳ね飛ばされた首は逃げる様にピラミッド内に収められたが、Aはピラミッドを抱えて空中に放擲し、メタリウム光線でこれらを丸々粉砕した。

 勝利したAはミチルの亡骸を拾い上げるとそのままオリオン星に向かって飛び、TAC隊員達はこれに敬礼を送った。そしてその夜、TAC隊員達はオリオン座に星が増えているのに気付き、それをミチルの星と捉え、その生まれ変わった命に幸せあらんことを祈るのだった。
 それなりに悲しくも美しい終わり方だったのは良かったが、何故に彼女に甘かった訳でもない北斗が不自然なまでにミチルの肩を持ったのが何故だったのかは謎のままに終わったな。


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平成三〇(2018)年七月一六日 最終更新