ウルトラマンA全話解説

第28話 さようなら夕子よ、月の妹よ

監督:山際永三
脚本:石堂淑朗
満月超獣ルナチクス登場
 冒頭、いきなりストーリーの核である「月」というものにとかく注目する描写が目立つスタートが切られた。煌々と輝く満月を話題にパトロール中のTAC隊員達は思い思いに美しい月を愛でていた。
 ところがそんな中、満月に何かを見た夕子が突如北斗に停車を求めた。その口調はウルトラタッチ時の雄叫びほどではないが、普段の口調とは比べ物にならない語気に満ちたものだった。

 北斗が車を止めると、崖の上まで走って行った夕子は、丸で天空に浮かぶウルトラサインを読むウルトラ兄弟(人間体時)の如く、満月表面上の小さな光に何かを読み取っていて、「分かりました…今夜…今夜こそルナチクスが姿を現すんですね……。」と確認するように呟いた。一体それが何を意味するのか?直後の台詞から辛うじて推測出来たのは、夕子がルナチクスなる存在に打倒の念を抱いていることぐらいだったが、追いついた北斗にも答えることはなかった。

 場面は替わってTAC基地本部。そこでは美川が地殻変動計に異常があるのを確認しており、即座に火山爆発の可能性があることを竜隊長に通告した。直後、神山の北側斜面に超獣出現との報も入り、TAC隊員達は各々神山に急行することになった。
 その途中、夕子はTACパンサーを運転する北斗にもっとスピードを出せないのかと急かす等、最前同様普段とは様子の異なる姿を見せていた。

 その頃、神山では火山活動が急激に活発化して、山の至る所から蒸気が噴出し、のんびり温泉浴を楽しんでいた老人4人が急激な湯温上昇に慌てて湯から飛び出す始末だった。
 そして夜空を背景に現れた満月超獣ルナチクス。日本での「月の兎」をモチーフにしてか、頭から長い耳とも、触覚ともつかない器官を垂れ下げ、ウサギの様に飛び跳ねていたが、その面相はかなり凶悪なものだった。
 口から白いガスを吐き、強羅温泉街がパニックに陥る中、TAC機が到着し、攻撃が始まった。それに少し遅れてTACパンサーにて現場近くまで来た北斗と夕子にも超獣の姿が見えたのだが、その超獣を夕子は「あいつ」と称していた。もはや画面上の超獣の名がルナチクスで、夕子にとって先刻承知の存在であることは明らかだった。
 その間も続いていたTAC機対ルナチクスの戦いは一時ルナチクスが山間部に体を埋め、怯んだかのようにも見えたが、これはTAC機を近付ける策略で、頃合いを見たルナチクス眼球を弾丸として飛ばすという離れ技でTACスペースを撃墜した。目から怪光線を放つ怪獣や宇宙人は何体もいたが、眼球そのものを飛ばす例は極めて稀である。
 ともあれ、撃墜されたTACスペースからは山中と吉村が「脱出!」し、TACパンサーはまだ参戦しておらず、夕子は尚も北斗を急かしていた。だが結局ルナチクスは竜隊長機の至近距離からの攻撃を受けると火山を掘って地中に逃げてしまった。討ち取るに至らずとも、撃退に成功したとはなかなかの戦果である。

 勿論、討ち漏らしたことに変わりはないから油断は出来ない。竜隊長機は着陸すると脱出していた山中達と合流したが、その頃には強羅温泉はかなりの熱波に包まれ、それもルナチクスがマグマと関係の深い超獣故と見られていた。
 そして地面に潜ること30kmの遥か下(つまり地殻を突っ切った先)ではルナチクスがマグマを吸引し、エネルギー補給を行っていた。
 そこへようやく強羅温泉に到着したTACパンサー。すぐにみんなと合流しようという北斗を無視して夕子は車を出て駆け出し、林を抜け、丈の高い草原に出た。勝手な行動は規律違反と言って止めるのも聞かない夕子を追いかけて来た北斗は夕子に普段と異なることを問い詰めたが、夕子は唐突に変身すると言い出した。
 北斗は驚いて「あの超獣の正体を掴んでから…。」と言おうとしたが、夕子はそれを遮る様に「超獣は年に1度地球の表面に近づいてくるのよ!10月の満月の夜!」と半ば金切り声を挙げた。これを聞き、北斗はそれまでの夕子の様子と合わせて、超獣の正体を知っているのか?と問うたところ、夕子は頷いた。
 そして「このままでは地球のマグマはみんなあの超獣に吸収され、遠からず月の様になるわ!」とした。「月の様に」とは、遠目には美しくても、その実態は水も空気も無い死の砂漠であることを差したもので、夕子は地球をその様な世界にしてはならないと北斗に告げた。そしてここまで聞いた北斗も、おおよそのことを理解したように頷くと両者はウルトラタッチを交わしてウルトラマンAに変身した。
 これが最後のウルトラタッチになることはこの時の北斗には知る由もなかったが………。

 変身したAは体を高速回転させ、エースドリルで地下に潜り込んだ。そしてあっという間に地殻を抜けたAは、背後に立つAに丸で気付かず一心不乱にマグマを呑み続けるルナチクスに飛びついて攻撃を仕掛けた。
 両者の格闘は地殻の更に下の、狭い空間の中で戦ったためか地味な展開だった。しばらくしてから何とか間合いを取ったルナチクスは口からの火炎と眼球弾(←発射したらすぐに次の眼球弾が補充される)を駆使してAに抵抗した。
 そしてしばらくすると両者の戦いは地殻変動を呼び、地表に立つ竜隊長達は危険を感じた程だった。そしてAとルナチクスの戦いも地表に舞台を移すのだった。

 開けた空間に出たためかルナチクスは毒ガスを吐いて抵抗し始めた(地下で吐くと酸欠を起こしてやばかったからか?)。どちらが優勢とも劣勢ともつかない取っ組み合いが続き、やがて毒ガス・眼球弾・火炎を駆使するルナチクス優勢に傾いていった。だがAは眼から透視光線を発して噴煙に隠れるルナチクスの姿を捕らえ、投げ技を多用して翻弄すると最後にはエースリフターでその体を溶岩の海に向かって投擲、ルナチクスは火炎に包まれて絶命した。
 かくしてルナチクスが倒れたことで温泉の湯温も戻り、地球が死の砂漠となる危機も回避された。だが夕子は寂しそうに1人月を見上げていた。皆のところに戻ろうと促す北斗にも顔を背ける夕子は泣いていた。それは「別れの時」が来たからだった………。

 勿論いきなりそんなことを言われても北斗には訳が分からない。だが事ここに至り夕子はすべてを話し始めた。
 それは夕子の素性に関する話で、彼女は自らを「宇宙人」、正確には「月星人」だと告げた。勿論北斗の全く知らなかったことである(実際、南夕子降板の為に急遽作られた設定だった)。
 驚く北斗に夕子は、かつて月は地球と同じく川も自然もある星だったこと、ルナチクスによってマグマエネルギーを吸い尽されて月星人の殆どが死に絶えたこと、生き残った月星人達が冥王星にいること、夕子がその1人であることが語られた。
 つまるところ、南夕子とは、月を滅ぼして地球に移住したルナチクスを討つ為に月星人代表として地球に派遣されたエージェントで、夕子はこの度のルナチクス打倒成功を「月の兄である地球を救うこととなった。」と表現した。
 初めて知る驚愕の事実に愕然としていた北斗は、これまで素性を隠していたことを詫びる夕子に、「俺達地球人の妹」と呼び掛けた。そしてそう呼ばれた夕子は目的を果たしたことで「仲間達の喜びの合唱」が聞こえるとし、その声と音楽は北斗にも、TAC隊員達にも聞こえていた。

 そして夕子は別れを、二度と会うこともないであろうことを告げ(実際には後に再会を果たしたのだが、リアルタイムで考えても遥かな未来となった)、それまで填めていたウルトラリングを北斗に託し、今後は北斗1人でAに変身するのだとした。
 果たして1人で出来るのか?と戸惑い、訝しがる北斗だったが、夕子は可能であることを力説し、もう後僅かにしか地球にはいられない身である故、隊長達に別れを告げるとして北斗の元を離れようとした。そんな夕子に対し、北斗は「俺は1人で見送る。長い間一緒に戦ってくれた妹を俺はここから見送る。」と宣言した。

 そして今度こそ北斗の元を離れた夕子は月星人の正装と思われる白い羽衣の様な衣装を身にまとうと、舞う様にTAC隊員達の前に現れ、ルナチクスの滅亡により、月から来た自分の任務が終わったので、今宵限りで自分は月に帰ると告げた。
 勿論TAC隊員達にとってもいきなり且つ驚きの告白で、同じ女性隊員とあってか、美川の反応が一番強い様に見えた。そして一同を代表するように竜隊長は目の当たりにした不思議な現象をもって、夕子の言ったことはそのまま信用出来るとした。
 それを受けて夕子は隊員1人1人の名前を挙げて礼を言い、名前を呼ばれた隊員達は旅立つ夕子を励ます笑顔と、突然の別れを悲しむ涙のない交ぜになった表情で敬礼を返した。
 そして夕子は月もいつの日か地球同様の環境を取り戻す、その日まで自分は月で努力すると告げると大空に飛翔し、北斗は両手に1つずつ填めたウルトラリングを合わせて単独でウルトラマンAに変身、夕子はその周りを名残惜しそうに旋回飛行した後、宇宙へと還って行ったのだった…………。

 そしてラストシーン。夕子の残した隊員服とマフラーを薪の上に乗せ、これに火を放つと竜隊長は皆で「TACの歌」を歌ってTAC式に夕子に別れを告げようと音頭を取った。
 「TACの歌」はそれまでも幾度となく挿入歌としてワンダバコーラスで流されていたが、ここで初めてその歌詞が披露された(ラストの歌詞が「北斗を乗せて」となっていたためか、最後までは歌われなかったが(苦笑))。
 そしてその曲が流れる中、今後1人でウルトラマンAに変身しなくてはならなくなった北斗星司は新たな闘いの日々に思いを馳せるのだった。

 かくして、南夕子は仲間の待つ冥王星へと去り、第28話と言うTV番組制作では何とも不自然な時期(普通はクールの終わりである13の倍数の話が多い)をもって南夕子役の星光子さんは降板した。
 降板理由は様々なメディアで諸説囁かれているが、星さんの娘・紫子さんのブログを読む限り、星さん自身にも降板の理由は今も尚制作者サイドから語られておらず、突然のものだったらしい(北斗星司役の高峰圭二氏は事前にちゃんと説明がされているものと当時思っていらしい)。
 いずれにせよ降板を突き付けられた当時の星さんのショックは一生心に残る傷となった。
 勿論個人であれ、組織であれ、国家であれ、企業であれ、すべての考えがオープンにされることはありえないし、誰しも生涯口を閉ざす要因の1つや2つは持っているものである。恐らくこの件が完全にオープンになることはないだろうとシルバータイタンは思う。それゆえ、降板についてはこれ以上触れない。

 ただ、かかる想いを歴史に刻むほど南夕子の役に真剣に取り組んだ星光子さんの奮闘に敬意を表するとともに、TV番組であれ、企業の雇用であれ、男女の仲であれ、理由を告げない別れというものの罪深さは万人が認識し、可能な限りそれを避けることが願われてならない。
 何も世にオープンにする必要はない(出来ない事情はあるだろうし)が、当の本人にも明かされないのはある意味無惨過ぎると思うのである。


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平成三〇(2018)年七月一七日 最終更新