ウルトラマンA全話解説

第30話 きみにも見えるウルトラの星

監督:岡村精
脚本:田口成光
黒雲超獣レッドジャック登場
 冒頭、空き缶に紐を付けた竹馬の様な玩具という懐かしい遊びに興じていたダンとその友人達は突如上空に黒雲とも黒煙ともつかない異様な物が現れたことに気付いた。
 ダンはこれを「超獣」(正確には中に潜んでいる)と断じだが、根拠が無い(苦笑)。前回より状況が改善されているためか、友人達も前話ほどには露骨に疑わず、半信半疑と言った感じだったが、「疑うのか?俺はウルトラ6番目の弟だぞ!」とダンに凄まれて、取り敢えず納得したような素振りを見せた。
 まあ少年達の対応は正しいだろう。ダンの言っていることの是非を断じるには判断材料が見当たらないし、露骨に疑えばダンはすぐに凶暴性を発揮するのだから(苦笑)。

 だがこの異変はTACのレーダーにも捕らえられていた。レーダー反応をそのまま鵜呑みにすると、東京K地区(北斗や梅津姉弟の住むアパートの近く)上空に超獣が現れ、その場を動かないという何とも奇妙な反応だった。これに対し、今野は好戦的に即座の攻撃を主張したが、竜隊長は早急な判断を避け、K地区の住民を避難させ、同地区を封鎖することとした。
 そしてこの封鎖を巡って痛ましい事件が起きた。
 封鎖を担当していたのは北斗だったが、そこへ救急車がやってきて通過を要求して来た。中には一刻も早く搬送しなければ命の危うい老婆が乗っているという。一度は断った北斗だったが、運転手と、患者の娘(推定年齢30代後半(嬉々))に懇願され、北斗はこれを許可したのだが、この好意が裏目に出るのは『ウルトラマンA』の悪しきワンパタと言っていい。
 案の定、すぐに山中が来て、北斗の独断を責め、ともに救急車を止めにTACパンサーを走らせたが、救急車は突如現れた黒雲超獣レッドジャックの足に当たって炎上。描写的にも搭乗者の生存は絶望せざるを得なかった。しかもこの直後、1人の少女が自転車で地区に入ろうとして美川に止められていたが、その少女は患者の次女で、北斗に通過を懇願した女性の妹だったから最悪であった…………。

 場面は替わってTAC基地本部。当然の様に山中は痛ましい犠牲を巡って北斗に激昂していたが、これを巡る話し合いが実にTACらしい。故にここはシナリオ形式で表記したい。

 山中「見ろ!お前の甘い判断が人を殺したんだぞ!」
 美川「山中隊員!あの場所に貴方がいたら、きっと北斗隊員と同じ様にしたと思い……」
 山中「立入禁止は立入禁止なんだ!俺は任務を忠実に守る!」
 美川「でも救急車が遠回りをしていたら病人は助からなかったかも知れないわ!」
 山中「しかし……道路工事か何かだったら俺もそうしたかも知れんが、超獣のいる場所にむざむざ飛び込ませるなんてことはやらん!!」
 竜隊長「まあ待て。あの時はまだ超獣がいるということは分かってなかったんだ。北斗の判断も決して間違っていた訳じゃない。」
 山中「しかし……。」
 竜隊長「今野、君だったらどうする?」
 今野「はぁ………(黙って僅かに首を縦に振る)。」
 竜隊長「吉村、君だったら?」
 吉村「僕も北斗隊員と同じようにしたと思います。」
 竜隊長「(頷いて)難しい判断だった訳だな…しかし今あれが超獣だということが分かったんだ。北斗、同じ過ちは繰り返さない様にしろ。」
 北斗「はい。」

 という会話が為され、竜隊長の言う如く締められたのだが、本当に難しいと思う。個人的には7:3の割合ぐらいで山中の方が正しかったように思う。レーダーは超獣の存在を捕らえており、その為の封鎖だったのだから。ただこれも「1人の命を救おうとして3人を死なせてしまった。」と言う結果を知っているからそう言っている可能性は充分にあり、もし迂回している間に手遅れで老婆が亡くなり、超獣も現れていなければ、それはそれで北斗は責められていただろう。
 これが訴訟大国である某合衆国だったり、老婆の身内にモンスター・クレーマーがいたりしたら、いずれの場合でも北斗(並びにTAC)は訴えられていた可能性が高い。それだけ命というものが重いことをすべての人間が重んじれば個人や企業の犯罪も、国家間の紛争も減る様に思われてならないのだが………暗い影を落としている作風も、そのような問題を考えさせてくれる意味では『ウルトラマンA』を名作にする一要因になっているし、それが最終回の名台詞に繋がっているとも思う次第である。

 一応は許された形なったが、それでもトボトボ(作中初めてのブレザーにネクタイ姿で)歩いていた北斗。ダンに声を掛けられ、2人は同じアパートに住んでいることが分かった。直後、自転車に乗った1人の少女が北斗の傍で転倒した。
 女の子は最前の事故で美川に止められた子で、助け起こす北斗に母と姉を返せと詰め寄って来た。洋子と言う名のその少女はダンとは知り合いで、ダンは彼女の母と姉がレッドジャックに殺されたと説明した。
 しかし洋子は母と姉を殺したのはレッドジャックではなく、封鎖していた道に救急車を通した北斗であり、TACだとまくし立てた。うーむ………懸念していた通りのモンスター・クレーマーが出たか………大切な身内を(しかも複数を一度に)悲惨な形で失った遺族が悲しみの余りどこかに責める対象を求めるのはよくある話であるから、本来なら非難に値することではない。多くは一時的な感情の爆発だし、まして相手は子供である。
 だがシルバータイタンが年端も行かぬ洋子を敢えて「モンスター・クレーマー」とするのは、彼女が一連の流れを目にしており、彼女自身美川に止められて難を逃れているのに直に母と姉を殺したレッドジャックではなく、善意による緊急措置として救急車を通した北斗を責めているのだから、「手の届く範囲の相手を攻撃対象として求めているに過ぎない!」と言わざるを得ない。無茶な仮定であることは百も承知の上で述べるが、洋子自身にレッドジャックと戦う力があれば真っ先にレッドジャックに攻撃を仕掛けた筈である。

 ただ、責任論はともかく、人情としては余程責任感の欠如した人間か冷血漢でない限り平然としてはいられない。まして子供に優しい北斗である。ダンが庇ってくれたからと言って平気な顔をしていられなかった。洋子と共に彼女の自転車を押して去るダンを力なく見送った北斗は自宅に帰った後も遣り切れない気持ちで漫然としていたが、そこへK地区にまたも超獣が現れたとの連絡が入った。
 前述した様に北斗の下宿はK地区の近く。故に北斗はK地区に直行し、美川に言われたように住民の避難誘導に掛かろうとした。が、現場では職務熱心な警察官(大泉滉)が住民の避難誘導を概ね終えてくれていた。北斗はこれに感謝し、後(=超獣退治)はTACの出番とばかりに警官とバトンタッチしたのだったが、直後、背後の騒ぎに気付いた。
 見ればダンと洋子が警官に取り押さえられていた。2人が危険地帯にやって来たのは洋子が自転車を取りに来たからだという。本来なら自転車と命など比べるまでもない。当然北斗も警官も立ち入りを禁じたが、洋子の自転車が亡くなった母が誕生日に買ってくれた大切な思い出の品と聞いては、最前のこともあってそのまま聞き捨てには出来なかった。

 北斗は自分が自転車を取りに行くと述べて、警官にダンと洋子を連れての避難を委託。だがダンは「ウルトラ6番目の弟」との立場(←自称だが)を述べて、一緒に行き、自分が自転車を持って逃げるから北斗は超獣と戦って欲しいとした。北斗はダンにウルトラの星が見えるかを確認し、これを肯定したことで同行を許可し、警官には改めて洋子の避難を委託した。
 程なく北斗とダンは洋子の自転車を見つけ、最前の取り決め通りダンに自転車を駆って避難させたが、自分達が来た方向から暴走族(←と書いて「ばかども」と読む)がバイクとサイドカーで乗り入れて来た。勿論TACによって「立入禁止」にされている地区であることを承知の上で、ノリだけで突入してきているのである。
 コイツ等は立入禁止の立札を突破する直前に「俺達に怖いものなんてねえ!」と息巻いていたが「怖いもの知らず」がカッコいい事でも何でもない、「ただの無知」であることがよく分かる。本当の勇気とは「恐怖」を知った上で本当にそれと立ち向かう必要がある際に立ち向かえる気概のことを言う。
 まして毎週超獣が登場し、人命や家屋に甚大な被害が出ている世界で超獣出現地区にノリだけで入るのだから、間違いなく「勇敢」と言う意味の「怖いもの知らず」ではなく、「無知」と言う意味での「怖いもの知らず」と断言出来る。結局コイツ等はTACがレッドジャックを攻撃する機会を掴み辛くする足手まといになっただけで、レッドジャックの吐く炎に巻かれて悲鳴もなくこの世を去った。
こんな奴等の為に後に封鎖ミスを咎められるであろう北斗こそいい面の皮である(現実に即して想像してみよう。例えば、羆が出る危険で道を封鎖した警察が暴走族に強行突破され、そ奴等が羆に食われたとしたら、警察は、同情はされても全く叩かれないという訳にはいかないだろう)。
 ともあれTAC対レッドジャックの交戦は、TACが一方的に攻撃する中、再度レッドジャックが黒煙の中に姿を消して逃げられる形で終わった。

 場面は替わってTAC基地本部。案の定北斗は山中の吊し上げを食った。確かに言い訳の余地はなかったのだが、弁解の余地が無いと激昂するから沈黙しているのに「何とか言ったらどうだ!」と詰め寄り、謝罪したら「スミマセンで済むか!」と怒鳴る山中。どないしたらええねん(苦笑)
 ともあれ竜隊長はK地区パトロールの時間であるとして山中を止め、隊員達に出動の指示を出したが、その中に北斗の名は無かった。自分はどうすればいい?と詰め寄った北斗に竜隊長が告げたのは制服を着ることさえ許されない停職処分(期間は「当分の間」)。竜隊長は北斗の気持ちは分かるとしながらも、事件が起きた以上けじめはつけなければならないと告げた。正論である。、
 しかし「事件」の一言で犠牲が全く悼まれない暴走族も凄いものだ(皮肉)。まあ、あ奴ら、北斗が封鎖に従事していても強行突入してレッドジャックに殺られた可能性は充分だったからなあ………(勿論「可能性」で片付ける訳にはいかないが)。

 Bパートに入るとダンが最前のレッドジャックに肉迫する危険を冒して洋子の自転車を取り戻したときのことを同級生達に自慢げに語っていた。正直、「嘘」ではなかったが、「誇張」と「向こう見ず」が混じっていて、眉を顰めたくなるものだった。
 一応、実際に近場で見ている訳だから、それなりの描写を交えたトークと、洋子の証言で嘘つき呼ばわりまではされず、実際に嘘を吐いてはいなかったのだが、証拠を求められて、次は超獣の爪をぶっ掻いて来ると大言壮語する辺り、後先をしっかり見据えているとは言い難い。
 そんなダンが目の前を北斗が歩いていることに気付き、声を掛けると内心の鎮痛を押し殺し、満面の笑みで挨拶する北斗。どこまでも子供には優しい男である。勿論ヒーローは概して子供に優しいものだが、北斗星司を程その感情がはっきりしている奴も珍しい。
 だがやはり内心は傷ついており、直後に部屋を尋ねて来た香代子の挨拶もどこか上の空で、(謹慎中を知らずしてではあるが)制服姿を褒められたのにも複雑な表情をする北斗であった。

 程なく、三度レッドジャックが現れた。ダンの友人達は超獣の爪を取って来てくれとせがんだ。だがそんな調子に乗った心根でウルトラの星が見える筈はなく、表情を曇らせたダンだったが、「怖いのか?」と問われると引っ込みがつかず、洋子の自転車を借りて、彼女が止めるのも聞かずレッドジャックに向かってしまうのだった。
 洋子は慌てて北斗にこのことを通報。勿論こんなことを聞いて我が身が謹慎中であるとかヘチマを考える男ではない。北斗は香代子にダンを必ず助けると宣言して飛び出した。

 現場にTACファルコンで飛来した竜隊長は、今度こそレッドジャックを逃がさない為に、TACファルコン、TACスペース、TACパンサーにて三方からの攻撃を指示した。TACパンサーで単身行動していたのは山中だったが、その横を自転車に乗ったダンがすり抜けてしまった。
 警備員のバイトを何度かしたことある経験からいうが、道を封鎖するというのは容易ではない。迂回をめんどくさがって隙を突いた強行突入をする奴、何だかんだ理由を付けて禁止に従わない奴は世の中にごまんといるのだよ、山中君(苦笑)。

 勿論ダンを黙って見過ごす山中ではなく、すぐにその後を追ったのだが、レッドジャックが破壊した建物のがれきを食らって負傷。そこへ駆け付けた北斗はダンより負傷している山中の退避を優先した。この間、山中は何も言わなかったのだから、相当怪我が痛んだのだろう。
 北斗は、一応は安全とも思われる場に山中を連れてくると、ダンに戻るよう怒鳴り付けたが、こういう状況で素直に従う奴を見たことが無いのはシルバータイタンだけではあるまい(苦笑)。勿論ダンは爪を取るどころではなく、レッドジャックの火炎を前に地面に伏せるしかなく、山中は苦痛に顔を歪めながら、北斗にダン救出を命じた…………さすがにこんな状況で「お前、謹慎中だろう!?」と言ったりはしなかったな(苦笑)。

 レッドジャックの吐く炎からダンを庇う様にして身を転がせながら、何とか山中のいる避難場所まで戻って来た北斗。何故あんな危険なことをしたのかと問えば、嘘の嫌いなダンらしく馬鹿正直に超獣の爪を取る為と答えた。
 当然のことながらこれには北斗の平手が飛んだ。勿論ここで叱らないようなら「子供に甘い」を通り越して、「ただの馬鹿」だが、さすがにそれは要らぬ心配だった。ホントに子供に優しい男だから、子供の間違いを看過したりはしない。
 そんな北斗に尚も自分はウルトラ6番目の弟と抗弁するダン。だが北斗は多くは語らず、ウルトラの星が見えるかを問うた。ここでBGMは「ゾフィーのバラード」が流れ、ダンは空を見たが勿論見えない。
 「ウルトラの星はな、本当に頑張る奴にしか見えないんだ。」と北斗に諭されたダンは、その一言だけで自分の無謀な行動が誰の為にもならないどころか、意固地で姉や北斗に心配をかけ、TACの足まで引っ張った愚行に過ぎなかったことを悟ったのだろう(←そう口にした訳じゃないが、この際断言してやる(笑))。ダンは素直に謝罪した。
 そして心からの涙を流すダンに安心した様に北斗はダンに山中とともに避難し、その手当てをするよう命じ、自分はどうしてもあの超獣を倒さなければならないと告げた。そしてこれには山中も「頼むぞ。」としたのだった。

 直後、TACファルコンがレッドジャックの吐く火炎に巻かれ、竜隊長達は「脱出!」し、北斗はレッドジャックに走りよるとAに変身した。現れたAを見てその雄姿を喜ぶダンと山中…………状況からすると北斗が変身したのがモロバレな気がするが(苦笑)。

 ともあれ、A対レッドジャックの戦いが始まった。
 はっきり言って、このレッドジャックは強くなかった。中盤で不意を突いた尻尾での殴打とそれに続く両手を合わせての破壊光線で若干Aを苦戦させたシーンを除けば、殴り合いでは完全に一方的にのされており、他に頑張ったとすれば、パンチレーザーフラッシュハンドでの殴打に耐えたぐらいで、最後はその直後に放たれたメタリウム光線を受けて、爆発せずに絶命した。
 前話のギタギタンガよりはマシだったが、レッドジャックもまた強いとは言い難く、明らかにドラゴリーブラックピジョンに比べて見劣りがした。いくら怪獣より強くても、やはり「獣」に分類される者はヤプールメトロン星人Jr.アンチラ星人といった指揮する者がいないとその能力を存分には発揮出来ないということだろうか?

 そしてラストシーン。前線から戻って来た北斗をダンと山中が、それに続いて香代子と洋子が、そして残るTAC隊員達も駆け付けて迎えた。
 まず山中が助けられたことに心からの礼を述べた。当たり前のことだし、山中は恩知らずではないが、それでも普段高圧的な彼が彼の最敬礼で感謝しているのは伝わって来た。
 続けて竜隊長が、怪我が治ったらすぐに戻って来い、と事実上の停職解除を下達した。この言葉に笑みを浮かべた北斗はダンに「まだ超獣の爪が欲しいか?」と半ば意地悪く問いかけたが、さすがにダンは懲り懲りという口調で(笑)、そんなものは要らないとし、それよりも北斗に張り倒されて地に手を突いた際に思わず入手した王冠の方が遥かに良い物だとした。
 そしてその場にいた一同は香代子が見つけた一番星を見上げたのだったが、北斗とダンにだけはその近くで光るウルトラの星が見えていたのだった。
 良い終わり方だったが、贅沢を言えば洋子にも何らかの謝罪(でなくても敵意喪失の意)を示して欲しくはあった。北斗にダン救助を依頼した時点で悪意は消えていたと思うが。


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平成三〇(2018)年七月一七日 最終更新