ウルトラマンA全話解説

第31話 セブンからエースの手に

監督:岡村精
脚本:山田正弘
獏超獣バクタリ登場
 冒頭、北斗とダンは早朝ランニングに励んでいた。そして帰宅直前ダンは上空に黒い彗星が現れたのを見つけ、超獣が現れる兆しと告げたが、北斗は軽く相手にしただけだった。まあ毎週超獣が現れる世界だから、普段と少しでも変わったものを見つければすべて超獣出現の前触れに出来てしまうとは思う(苦笑)。

 その彗星は3日後に姿を消したのだが、TAC本部では梶主任がこれを我々が知る彗星とは異なるものとして、重さも形も色も無いと述べていた。最前ナレーションでも「黒い」とされていたのに梶主任が無色と述べていることに今野がツッコミを入れたが、梶主任はスペクトル分析を初めとする種々の分析があらゆる数値を0としていると指摘した。
 そんな話し合いをしている中、突然本部内に1人の少女(小学2年生ぐらい)が座っていたのに今野が気付き、驚きの声を上げた。少女・ミオ(戸川京子)は北斗に話があって来たというのだが、北斗は彼女を知らない。
 明らかに怪しい事態なのだが、相手がまだ小学校に行く前後くらいの女児とあってか、TAC隊員達は彼女を「北斗のガールフレンド」と半ばからかいながら呼んで、子供との約束を忘れるなんてTAC隊員としてどうなのかを問う美川の表情と口調も完全にからかっているそれで、ともあれ竜隊長が用件を尋ねると、帰ってきたのは「バクちゃんと獏おじさんを助けて欲しい。」というもの………二代目格さんの弟…………は関係ないか(苦笑)。

 次に竜隊長が気にしたのは少女がどうやってTAC基地本部にまで入ってこられたのか?という問題。少女の答えはTACの食堂に食材を運ぶトラックの荷台に乗って簡単に入れたというもの。これを聞いて「ゲートのチェックはどうなってるんでしょうねぇ?」と訝しがる山中に、「後で厳重注意」と口にする竜隊長。誰に対しても公平な2人だ(笑)。

 ともあれ、北斗は竜隊長の取り計らいで、「休暇」として少女を自宅まで送り届けることとなった。北斗は少女を家に送るつもりだったが、勿論少女は(バクとバクのおじさんがいる)動物園に誘導した。
 その動物園ではバクおじさんこと貘山(本郷淳)が手ずから餌をあげ、何やら会話をしていた。現代ならアブない親父と見做されるな(苦笑)。ちなみに「バク」と聞けばシルバータイタンはマレーバク(東南アジア原産)を連想するが、登場したのはベアードバク(中南米原産)だった。
 見たところ飼育係でもない一般人が勝手に餌をやっていいのか?と思っていたら、案の定、飼育係(樋浦勉)に怒られていた。どうも度々言われているようで、飼育係もいい加減呆れ果てているのか少し注意しただけで、なるべく早く帰るように言って清掃に戻った。
 つまるところ、連れて来られた北斗が見たバクは、ミオや貘山は互いに慣れた仲で、別におかしい所もなく、周囲で見ていた、バクをからかったり、カッコいいと言ったりするガキどもの反応の方がよく分からなかった(苦笑)。

 ところが次の瞬間、突如そのバクがその場から消え、街中に獏超獣バクタリとしてその巨体を現したのだった。
 動物園では飼育係が半狂乱になって貘山に詰め寄っていた。毎日毎日ここに来てバクを隠すためのトリックを仕込んでいたんだろう?と詰め寄る飼育係に北斗とミオが貘山の潔白を証言。ミオと貘山は「バクが隠れている。」と考え、貘山がバクに呼びかけたが、やはりその姿はアブない親父だった(苦笑)。
 その頃、バクタリはTACの攻撃を受けていた。竜隊長はTACファルコンとTACスペースによる「十文字攻撃」なる左右二方向からの波状攻撃を食らわせるとバクタリは即座に姿を消した。
 と同時に動物園にはバクが姿を現し、貘山も飼育係も突然帰ってきたバクが今までどこにいたのか?何故肩に火傷など負っているのか?を訝しがった。勿論視聴者にはバクタリとしてTACの十文字攻撃を受けたからだというのは分かるのだが、貘山と飼育係には知る由もなかった。

 貘山を自宅まで送った北斗は、ミオの言っていた貘山の困りごとを尋ねた。幼少の頃、夜寝る度に悪夢に悩まされていた貘山はある日、バクが夢を食べる動物と聞いて、バクに悪夢を食べて欲しいと願ったら、ぴたりと悪夢を見なくなり、それ以来筋金入りのバクマニアになって、バクと会話が出来るようになったと云う(一々言及するのもなんだが、「夢を食べる。」という伝説の「獏」と、奇蹄目バク科の動物である「バク」は全く異なる存在である)。
 話す相手が山中ならその瞬間に帰ろうとしかねない内容(苦笑)で、実際、貘山は近所の主婦達から変人扱いされていた。だが自分も悪夢に悩み、貘山のアドバイスで悪夢から解放されたミオは貘山を慕い、彼を悪くいう主婦達にあかんべえをする始末だった。
 その貘山は3日前からバクが、「自分が自分でなくなる。」ということを苦しそうに訴えるのを聞くようになったといい、それがミオの求めていた、「助けて欲しいこと。」だった。同時に北斗は「3日前」というキーワードに「黒い彗星が現れた日」を連想したのだった。

 Bパートに入り、場面は替わってTAC基地本部。そこでは梶主任がTACの交戦した超獣をその観測データから「ただの動物」と竜隊長に説明していた。山中ならずとも信じ難い発言だが、梶主任の説明によると質量もエネルギーも0の黒い彗星によって運ばれた異次元からのエネルギーが動物に取り憑いたものと考えられるとのことだった。
 故にTACはいつまた動物と異次元エネルギーの融合体が超獣として現れるか分からないと考え、厳重な警戒体制に入った。

 仲間達には告げなかったが、これだけの状況証拠が揃うと北斗には例のバクが気に掛かった。それゆえ北斗は「動物に注意。」という梶主任の助言を口実にTACパンサーで動物園に向かった。肝心な事は同乗の美川にも告げず………。
 その頃動物園ではバクが異常を示していた。貘山とミオに背を向け、呼び掛けに応じず、言葉が通じないことに狼狽える貘山とミオの眼前で突如その姿を消した。
 勿論超獣バクタリとして街中に現れることになったのだが、最前TACの攻撃を受けて負傷した左肩には御丁寧にも漫画みたいな絆創膏が貼ってあった(笑)。飼育係もそれを指摘していた。

 一度目よりは二度目の方が憑りつかれ方がひどいのか、今度のバクタリは激しく暴れ、頭部の突起物から溶解霧を噴霧して建造物を破壊して回った。TACの攻撃にも痛そうにしてはいたが、怯んだ様子を見せなかった。
 北斗と美川もその場に停車してTACガンを撃っていたが、そこに貘山、ミオ、飼育係が現れ、貘山はバクタリが本当は大人しい存在であることを訴えて攻撃中止を懇願した。だが尚も暴れて建造物を破壊し続けるバクタリを捨て置ける筈もない。北斗は貘山にバクタリに大人しくするよう呼び掛けさせた。
 初めは聞こえない風だったが、ミオに励まされ、飼育係も無言で託すような目で貘山を見る中、呼び掛けを繰り返す内に徐々にバクタリは暴れ振りを鈍化させた。
 呼び掛け効果あり、と見た北斗は竜隊長に攻撃中止を要請し、竜隊長もこれを容れた。周囲が静かになると貘山の呼び掛けは強く伝わり、バクタリはその姿を消してバクに戻った。

 だが勿論これで元凶が断たれた訳ではない。TACではTAC本部最高指令官(増田順二)、警視総監、動物学者立ち合いの元、バク対策会議が持たれた。そーか、そーか、もはや高倉長官の姿は無しか(笑)。
 と自己満足なツッコミを入れたのも束の間、最高司令官はバクの銃殺を命じた。勿論それに反対したのは北斗星司。バクと話せる貘山に管理を任せれば超獣化から戻せるので殺すまでもない、と主張したのだが、さすがにこれは信用されず、都民の安全を優先するという最高司令官の主張に一蹴された。言っている内容が正しくても説得力が無さ過ぎるし、おまけに貘山は超獣化から呼び戻せても、超獣化は防げていないから北斗の主張は厳密には正しくすらない(苦笑)。
 結局、翌日正午をもってバクは射殺されることになった。

 そして翌日。白布の覆いを被せられた檻で連行されるバクとその後を尾行するミオ………………バクを「危険な超獣」として処分する場所に子供に簡単に入られててどうすんねん?!武器持っている奴だっているんだろう!?
 そのミオは処刑の実況中継をしていたテレビレポーター(辻しげる)にバクを殺す非を訴え、駆け付けた北斗のことも「大嫌い。」と言って詰った。まあ年齢的にも気持ち的にもそうなるのは分からないでもない。
 一方、茫然自失状態で園内を歩いていた貘山も処刑執行直前に中止を求めて執行場に駆け付けたが(←だから警備どないなってんねん!?)、ライフルは一斉に火を噴いた………。

 勿論これで超獣が殺せる筈もなく、バクは忽ちバクタリとなり、瞬殺で処刑係がまとめて溶解霧の餌食となった。いざという事態に備えていたTACだったが、溶解霧はTACスペースの機体をボロボロに腐食させるほど強烈なものになっていた。
 貘山とミオはもう誰も信じられず、自分達がバクタリに元のバクに戻る様話しかけるしかないと見て、北斗と美川の制止も振り切ってバクタリを止めようとしたが、バクタリは一瞬動きを止めただけで、両手から炎を噴出して暴れ続けた。
 北斗は美川に2人の避難を託し、自分は単身バクタリに向かい、Aに変身してこれを迎撃した。

 戦いは一方的なものだった。元のバクとしての性格が大人しかったためか、バクタリはさほど戦意も高くなく、少しは溶解霧を噴いて応戦したが、簡単に避けられ、格闘もAに劣り、ハンドビームを浴びると殆ど戦意喪失状態と言って良かった。
 だが、とどめのメタリウム光線が放たれようとしたとき、天空よりそれを押し留める声とウルトラサインが現れた。Aはそれに頷くと倒れているバクタリエースリフターで宇宙に放擲した。
 宇宙空間でこれを受け止めた、サイン・声の主はウルトラセブンで、セブンはエメリウム還元光線でバクタリを元のバクに戻すと、Aにこれを託した(兄弟が顔を合わすシーンも無い程、セブンの出番は短かった)。

 かくしてバクは平和な動物園の在住者に戻り、貘山とは意思疎通が再度可能となり、飼育係も少し貘山とバクの関係を羨ましそうに見つめるも、文句を挟まず笑顔で見守っていた。
 とまあ、ストーリー的には不明な点をいくつも残した消化不良なラストだった。ミオが何故隊員達に気付かれることなくTAC基地に入り込めていたのか、何故北斗の存在を知り、以前からの知り合いの様に振る舞ったのか、様々な数値が0という黒い彗星の謎も、殆どが謎のまま終わったのである。何とも消化不良な話だった。

 余談だが、この第31話をもって梶洋一主任は最後の出番を終えた。第27話で志願して対ヒッポリト星人の前線に立ち、第28〜30話には登場していなかったが、それ等を含め、明確な説明も、後日譚もない。
 殉職したとする派生作品もあるが、北斗並びにTACに冷たい論調が目立つ『怪獣VOW』シリーズ(宝島社)では、梶主任の開発能力を酷評し、「使えない奴と見られていたのか、番組後半、梶の姿は消えていた。」としていたが、シルバータイタンは度々触れて来た梶主任の有能さをもって、これに反論する次第である。
 むしろ梶主任を出し続ければ、どこかで、それこそ第1話で豪語していたように「超獣を一発でやっつける兵器」を出し続けざるを得なくなっていただろう。梶洋一と言う貴重なキャラクターを使いこなせなかった故の悲劇と捉えている。
 誠に勿体ない話である。


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平成三〇(2018)年八月二四日 最終更新