ウルトラマンA全話解説

第34話 海の虹に超獣が踊る

監督:志村広
脚本:長坂秀佳
虹超獣カイテイガガン登場
 ストーリーは世界各国のタンカーが次々と消息を絶つという切り出しで始まった。どうやらタンカーサイドは連絡を取る暇もなくやられていたようで、TACが現場に駆け付けるのは事件発生から数日後と言った有様だった。
 そんな中、パトロール中の北斗はタンカーの残骸に掴まって波間に漂う少年を発見し、これを救出した。救出された少年は浜ユウジ(佐藤賢司)といい、ダンとも知り合いだった。ダンの話によると船長をしていたユウジの父は一連の海難事故で落命していたとのことで、北斗はダンの案内で気を失っているユウジを浜宅に送り届け、その姉・浜波子(山田圭子)とともに看病した。

 北斗から、ユウジが単身小舟で父の船に向かわんとして遭難したと告げられた波子は、「ユウジがそんな危ないことする筈がない。」と言って北斗の言を信じなかった…………う〜ん、また分からず屋登場かよ……
 勿論、波子がそういってもユウジが小舟と共に波間に漂っていたのは厳然たる事実。反論しようとした北斗は浜姉弟の母の遺影に気付き、急速に矛先を鈍らせた。
 波子の言によると姉弟の母は昨春交通事故死しており、ユウジの船出も、父の遭難死も信じようとしない波子の頑迷さは、悲しい事実を受け入れたがらない感情から来るものの様だった。程なくユウジが意識を取り戻すと、波子は態度こそ丁寧なものの、北斗には「もう大丈夫ですから。」と言って退去を促し、北斗を庇うダン達にも「ユウジと遊ばないでって言ってるでしょ!」と言って邪険に追い払った。

 この浜波子を演じたのは山田圭子さんで、2年後には『ウルトラマンレオ』でヒロイン・山口百子(丘野かおり名義)を演じたのはウルトラシリーズファンには「今更」な補足で、他に『ウルトラマンタロウ』、『仮面ライダー』、『仮面ライダーV3』に客演したのも特撮ファンには有名だろう(『レオ』以外は「山田圭子」名義)。
 山口百子以外は何処か気が強く、言葉悪くいえば排他的な人物にすら見える役所が目立つ丘野さんだが、この第34話は特にその傾向が強かった。『レオ』降板後、一切が不明となっている彼女だが、それゆえに役柄にも暗い影を見てしまうのだろうか?


 いずれにせよ「遊ばないで」という邪険さは如何にも訳アリで、ただでさえ子供好きで、特に孤児に対する同情の強い北斗がこれを放っておく筈が無かった。

 ダン達に聞き込んだところ、浜姉弟は父親の死をきっかけに変わってしまったとのことで、以前は普通に遊び、姉も優しい女性だったが、不幸があって以来、ユウジと遊ぶと波子が烈火の如く怒り、ユウジも袋を持って1人で波打ち際を歩くだけですっかり付き合いが悪くなってしまったとのことだった。

 噂をすればなんとやらで、北斗達は網と袋を持ち、子犬を連れたユウジが波打ち際を歩くのを見つけた。他の子供達はもうユウジと遊ぶことに嫌気が差しており、北斗は1人ユウジに声を掛けた。最初は逃げようとしたユウジだが、すぐに北斗が自分を助けてくれた人と気付き、暗い口調ながらも邪険な態度を収め、貝殻(帆立貝に似ているが真ん中から奇妙な光を放っていた)を大量に集めていることを告げた。
 単純に貝好きと見れば別段おかしい事でもなかったが、ユウジはその貝を1000枚集めたら父親が帰って来るというから何とも奇怪至極だった。だが直後に波子が現れたことでこの謎のみならず、他の謎もすぐに解けた。
 貝殻を1000枚集めたら父が帰って来るというのは波子がユウジに教えた嘘だった。まだ幼いユウジが母に続いて父まで失ったことにとんでもない衝撃を受けると考えた波子は父の死をユウジに教えておらず、友達からユウジに父の死が伝えられることを恐れて遊ばせまいとしていたのだった。何せ父の死を隠すのに必死だったから感情的になり易くなってもいたが、落ち着き、ユウジに余計なことが伝わっていないことを悟ると非礼を詫びるだけの分別を波子はちゃんと持っていた。
 だが女性よりも子供の味方をする北斗は、理由はどうあれ波子がユウジを騙していることに非を唱えた。ユウジは既に984枚の貝殻を集めており、騙し通せなくなるのも時間の問題だった。波子もその非を感じつつも、今更伝えるに伝えられず、もう自分達に構わないでと言って、逃げる様に北斗の元から走り去ったのだった。

 場面は替わってTAC基地本部。浜姉弟を捨て置けない北斗は竜隊長に休暇願を申し出た。その理由が子供の為と知った山中は、連続タンカー遭難事件が解決もしていない内にそれを差し置いて子供に時間を使おうとする北斗を「たるんでいる!」として激昂したが、普段TAC内で立場も弱い北斗も子供の為に行動することに掛けては山中以上に頑固で強弁だった。
 タンカー事件の為には生きる気力を失くす子供をどうでもいいのか?と半ば詰問する様に山中に食って掛かり、竜隊長にも「TACの使命は超獣をやっつけることだけではない筈です。」と問い掛けた。
 これに対して山中は更に激昂し、北斗の胸倉を掴んだ。こうなっては山中の感情負けである。「1人の子供」よりも「大勢の犠牲者を出している連続タンカー遭難事件」を優先すべしとする山中の考えにも一理あるが、優先順位で下位であることと、軽視することは異なる。ましてあくまで意見を述べただけの北斗に激昂して暴力に及びかねない態度を取ったのだから、これには竜隊長がストップをかけた。
 「山中隊員、北斗の言う通りだ。TACは子供の味方だ。1人の子供から生きる勇気を奪ってしまう何かがあるとすれば、それは超獣よりも恐るべきTACの敵だ。」として山中を静に宥めつつ、北斗には1日だけの休暇を許可した。
 如何にも竜隊長と北斗星司らしさに溢れたシーンだが、山中が少し乱暴者に成り下がってしまっているのが珠に瑕だった。

 ともあれ正式に休暇を得た北斗はダンを伴い、ユウジを皆と遊ばせ、子供らしい元気の良さを取り戻させるようにした。勿論これには波子が抗議した。子供達と遊ぶ内に誰かから父の死が漏れるのを恐れてのことだが、北斗は元気よく遊ぶユウジを指し、ユウジの為に良かれと思って閉鎖状態に追い込んでいる波子を「おセンチ」(←「センチメンタル」=感傷のことと思われる)という揶揄すら用いて批判した。
 するとそこへダン達がやって来て、ユウジが行方不明になったと告げて来た。だが状況からその目的と行き先はすぐに分かった。ユウジがその場を去ったきっかけは暖かい風が吹いたからで、暖かい風が吹くと貝殻が海浜に浮上してくることをユウジは経験則として把握していた。
 となるとユウジの行き先ははっきりした訳だが、北斗は突然ユウジが集めていたのは貝殻ではなく「超獣の何か」だと言い出した。貝殻が放っていた光がその根拠と思われるが、いずれにせよ、そんな危ないものにユウジを近寄らせないように手配する方が先だろ、北斗!!

 ともあれ北斗はこのことをTAC基地本部に通報した。北斗は竜隊長に近辺の海域を航行するタンカーの安全を図る様に要請するとボートに乗ってユウジの捜索に駆け出した。やっていることは間違っていないが、順番は間違っている気がする。
 また貝殻を超獣関連物と見て、タンカーへの警戒を促すのは状況証拠から推測してその様に手配要請するのは全くもって正しいが、「タンカーを襲う超獣が現れる。」と言う言い切りには恐れ入った(苦笑)
 時間は掛かったが北斗は貝殻を求めて沖合に出ていたユウジを発見、だが同時に海中から虹超獣カイテイガガンが出現し、TACファルコン&TACスペースも駆け付けたところだった。竜隊長はユウジに配慮してカイテイガガンを攻撃することとタンカーの迂回を命じた。
 一方、北斗は自分のボートにユウジを引き込み、状況から貝殻がカイテイガガンの鱗だったことを確認した。だが姉の急場しのぎの出まかせを妄信していたユウジはこの期に及んでも貝殻収集に夢中になっていた。勿論子供に甘い北斗もこれに耳を貸さず、ボートを発進させてカイテイガガンからの離脱に掛かった。
 幸い脱出は無事完了し、TACの攻撃を受けたカイテイガガンは海中に逃げた。勿論討ち取った訳ではないので、竜隊長はTACスペースに乗る山中&今野にタンカーの護衛を命じ、自分達はTACファルコンで近辺の海域を哨戒するとしてAパートは終わった。

 Bパートが始まるとユウジはすっかり憤慨していた。CMの間にユウジは事の真相を北斗から知らされたらしく、超獣の正体分析に使いたいという北斗の声も無視して貝殻=カイテイガガンの鱗を全部海中に捨て(←北斗も先に1枚ぐらい回収しとけよな)、父の死を伏せていた姉にも対しても心を閉ざし、「大人は皆嘘吐き!」との念に取り憑かれ、1人鍵を掛けて家に閉じこもってしまった。
 北斗がユウジに真相を知らせたと知った波子は北斗に「どうしてそんなひどいことを!」と激昂したが、北斗は「貝殻1000枚集めたら死んだ父親が帰って来る……そんな話を信じさせる方が残酷だ!」と反論した。まあこの問題は実に難しい。いつかは真相を知らさなければならないにしてもタイミングの問題もある。ともあれ、この第34話における北斗の子供想いは徹底していた。北斗の子供想いの前にはフェミニストも上下関係も無かった。ヒーロー番組自体が元々は子供番組ゆえに、すべからくヒーローは子供の味方だが、北斗星司ほど徹底しているキャラクターはそうは見当たらない。
 ともあれ、傷心のユウジだが、部屋の中で様々な品に八つ当たりし出したが、それも父の死に衝撃を受ければこそだろう。途中、父の船長服がハンガーから落ちるのを見るや暴れていたのを停止し、悲しみに暮れだし、そのまま泣き寝入って父の夢の中に落ちた。

 一方、カイテイガガンのその後の行方は不明で、MR海域は航行禁止とし、カイテイガガンの生態と迎撃についてTAC基地本部で激論が交わされた。判明したのはカイテイガガンが当時の社会問題でもあった工場廃液による海洋汚染に怒り、公害の素となった石油を憎むことでタンカーを襲う様になったということだったが、物言わぬ超獣の心理がよくまあ理路整然にまとめられたものである(笑)
 更に山中が、「奴を誘き出すには海をうんと汚せばいいって訳か?下らん!TACに自然破壊が出来ると思うか?!」と正論とも暴論ともつかぬぶっ飛んだことをほざく始末………シルバータイタンは決して山中は嫌いじゃないのだが、この第34話における山中は一般に誤解されている「横暴チンピラ上司・山中一郎」そのものだった………一体、どうしたんだよ、山中………。
 ともあれ、打つ手に無しかに思われたが、竜隊長が囮のタンカーを航行させてカイテイガガンを誘き寄せることを提言し、それが行われることになった。それに対して北斗はカイテイガガンが出現すればまたユウジが海に出るかもしれない、として「作戦開始までには戻ります!」と一方的に告げると竜隊長の返事も待たずに基地を飛び出した。
 この(事の是非や気持ちはともかく)勝手な振る舞いに例によって山中が激昂しかけたが、竜隊長はそれを止める様に出動を命じた。

 竜隊長の読みは半分当たり、半分外れた。囮のタンカーにてカイテイガガンを誘き寄せるのには成功したが、海面上に現れたカイテイガガンは囮タンカーに石油が無いことを感付き、怒って上陸し出した(←何故!?)。追撃をする上では海中に逃げられるよりも上陸してくれた方が良いのだが、勿論市民への被害を考えると上陸される方がまずかった。
 しかも北斗が懸念した様に、海岸には形見となった父親の船長帽をかぶったユウジがいた(北斗が自宅を訪ねたときは面会拒絶していた)。程なく海岸で暴れるカイテイガガンが巻き上げた船や小屋の残骸にユウジは挟まれ、身動きが取れなくなってしまった。正直、この時点でシルバータイタンには海岸に来たユウジが不可解だった。貝殻を集めることに何の意味も無いことを知った筈なのになぜに危険な海岸に来たのか?だが救出に来た北斗にユウジが告げたのは、カイテイガガンの鱗をTACで分析させるための収集が目的だったことが分かった。何かと不可解な言動を取る浜姉弟だったが、ちゃんと話が繋がるように組まれていたのはなかなかに良かった。

 身動きがままならず、波に襲われ、自分に構うなと北斗に言うユウジだったが、勿論見殺しにする北斗ではない。ただ、急迫を感じた北斗はウルトラマンAに変身し、カイテイガガンに飛び掛かった。
 戦いそのものは取り立てて特筆すべきと口調も無いオーソドックスなものだった。普段海中で暮らしているためか、地上戦ではAに分があったようで、カイテイガガンは口による多彩な攻撃(強力水流、ガスニードル光線、ミサイル)を行った以外は特にAを苦しめるでもなく、投げ技や空中からの攻撃を駆使したAが概ね優勢を保ったまま、アロー光線でグロッキーに追い込み、メタリウム光線で勝利したのだった。

 だがユウジは深刻な状態にあった。海中からユウジを抱いて出て来た北斗は即座に人工呼吸に掛かった。後から駆け付けた波子が涙を流しながらこれを見守り、ダン達も火を焚いて濡れた2人を温めている中、夢の中で父親に来るなと言われたユウジは夜半になって意識を取り戻した。その間、ずっと北斗は人工呼吸を続けていたのだが………誰か救急車呼ばんかい!どんな田舎でも昼日中から夜半に至るまでの時間があれば救急車は駆け付けられ、もっと適切な処置が施せるぞ………まあ、ユウジの蘇生を喜ぶ周囲の面々は北斗も波子もダンもその友人達も実にいい笑顔で喜びの感情を演じていたのは良かったが。


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平成三〇(2018)年七月一七日 最終更新