ウルトラマンA全話解説

第36話 この超獣10,000ホーン?

監督:筧正典
脚本:長坂秀佳
騒音超獣サウンドギラー登場
 冒頭、各地から超獣出現の報が寄せられたとのナレーションからストーリーは始まったのだが、奇妙なことに超獣は現れもすぐに消えてしまうのだった。ただ次第にその通報される地点は絞られて行っていた。
 その現象推移により、TAC基地でも超獣反応が察知され、北斗と美川がK地区に向かうとそこに超獣の姿が無く、いたのは暴走族だった(作中では「雷族」と呼ばれていた)。

 暴走を繰り広げるチンピラどもは息がっているだけの屑で、人の迷惑を考えない馬鹿騒ぎを咎める北斗にもせせら笑っていたが、北斗が腕っぷしに訴えかけると(←美川が止めた)TACは丸腰の人間相手には強いと嘯き、馬鹿笑いしながらトンズラした。
 実際、美川がいなくて北斗が手を出していたら公僕が暴力を働いたことを罵りながら逃げる可能性は充分だったろう。
 そんな屑どもは翌日、馬鹿騒ぎを咎めた香代子に絡んでいたが、口頭では幼稚園児(女児)に「あまり大きな音を出さない方がカッコいいよ。」とたしなめられて閉口する知能程度で、最も声高に咎めていた梅津姉弟を標的にバイクで追い回したが、通り掛かった北斗が止めに入り、ダンが北斗を「兄ちゃん。」と呼んだのを見て、ダンがTAC隊員の兄貴がいるから強がっていたと解釈し、憎まれ口を叩きながら走り去った。

 場面は替わってTAC基地。一連の騒ぎを受け、族を超獣以上に許せないとする美川に対し、意外にも北斗は族に同情的な意見を口にした。北斗曰く、彼等は「寂しいんだよ。」と。多くは語られなかったが、どうやら北斗にも寂しさからグレ掛けたことがあったらしい。もっとも、それで本格的にグレるようなら孤立する頻度の高いTAC内では何度グレてもきりがないことになるが(苦笑)。
 ともあれ自分の年頃を見出したのか、北斗はチンピラ達の説得を試みた。それも頭ごなしに叱り付けるのではなく、彼等のバイク好きを尊重した上で、「本当に好かれるライダーになれ。」と諭すものだった。
 意外にもチンピラ達のリーダー・俊平(小沢直平)は北斗の言に素直に従ったが、それは完全なその場しのぎ。恥知らずにもこいつ等は香代子に報復しようとしていたので(さすがにメンバーでただ1人の女・マチコ(佐伯美奈子)は恥じていたようだったが)、北斗の説教をかわすのが目的だった。

 北斗の説教をかわしたチンピラどもは嬌声を上げながら香代子を追い回したが、すぐに北斗がTACパンサーで駆け付けた。さすがに北斗も頭に来て彼等を追い詰め、逃げ切れなくなったチンピラどもは暴力的抵抗に出た。一方的に殴られているかに見えた北斗だったが、すぐに反撃に出た。そこはさすがにTAC隊員だけあって数人を1人で相手にしても引けを取っていなかったが、場面が変わると北斗は山中に叱責されていた。
 山中によると、北斗がチンピラどもとやり合っている間に工場地帯に騒音超獣サウンドギラーが出現していたとのことで、超獣そっちのけで暴走族に構っていた北斗を「たるんでいる!」としたのだった。
 幸い、サウンドギラーはすぐに姿を消したので被害は無かったが、近くには幼稚園もあり、サウンドギラーが暴れ出していれば大きな犠牲が出ていたことは有り得た話で、竜隊長は遠回しに優先順位を守るよう告げた。しかし、まあ竜隊長のように諭してくれれば分からないでもないが、超獣が出現していなかったら婦女子に暴力を加えかねない暴走族を相手にするのも治安を守る職務になる者の大切な役割な訳で、それに対する「ぶったるんでいる!」という山中の責め方は解せない。だが、この第36話における山中の分からず屋ぶりはまだまだ序の口だった。

 その後、チンピラ達の暴走する場にサウンドギラーが出現(すぐに消えた)。
程なく、超獣の出現状況をまとめた結果、北斗はサウンドギラーが暴走族の出るところに出現していることを突き止め、竜隊長に伝えたが、竜隊長は北斗がチンピラどもとやり合っている時には離れた工場地帯に出現した例外を指して北斗の指摘に穴があるとした。
 まあ、これは分からないでもないのだが、その前に口にした山中の、「暴走族が超獣の共犯者だというのか?馬鹿馬鹿しい!それは漫画的発想だよ。」という意見は恐ろしくぶっ飛んでいた。北斗は因果関係が考えられると言っただけなのに恐ろしい決めつけだった……………。
 ともあれ、普段は北斗に限らず広く隊員達の意見に耳を傾ける竜隊長もこの時は暴走族に関わることを禁じた。超獣の出現時間が拡大していることを懸念して、因果のはっきりしない暴走族よりも超獣出現に備えるべきという考えによるものなのは分かるが、流石にいつもの竜隊長らしくないのを感じずにはいられず、その為という訳ではないのだろうけれど、結果として北斗は隊長命令に従わなかった。

 翌日、北斗はチンピラ達に対して公然と尾行する旨を伝えた。サウンドギラーが暴走族について現れるゆえ、TAC隊員としてサウンドギラーから彼等を守る為、としたのだが、勿論そう言われて「はい、そうですか。」という筈もなく、「これ以上つけたら承知しねえぞ。」と凄んだが、北斗は笑って受け流し、公然と追随した。
 それを忌々しく思う俊平だったが、意外にも他のメンバーはまともだった。マチコは超獣が自分達の後に現れる事実を指摘し、北斗にいて貰った方が良いのじゃないか?とし、袋叩きにしようとした自分達の為に動いてくれる北斗を信用する気配を見せた(さすがにマスカーワールド違って、万民が怪獣・超獣・宇宙人の存在を認識しているだけのことはある(笑))。
だが、どこか意固地になっていた俊平は、超獣出現を「偶然」とし、北斗の好意も信じようとしなかった。北斗の尾行も「報復の機会を狙っている。」、「親切な振りをする大人のずるいやり方。」と捉えていた。
 俊平が北斗を信じられなかったのは、「俺達が誰かに一度でも親切にされたことがあるか?」「子供達もいつも俺達を白い眼で見て……。」という想いによるものだったが、これにはメンバーの1人が視聴者の代わりに突っ込むかのように(笑)、「俺達にも多少原因があるのじゃないか?」と遠慮がちながら至極まともな意見を口にした。なんだ俊平以外はまともじゃねぇか(笑)
 俊平にしたところで彼等の意見に多少は思うところも合ったようだったが、すっかり意固地になり、「どうせ俺達は嫌われ者さ…嫌われ者は嫌われ者らしく。」として、暴走で園児達を威嚇するという恥知らずな行為に出た。
 これには再々度北斗がキレかけたが、そこにサウンドギラーが出現した。勿論北斗は園児と暴走族の双方を庇って単身これに応戦した。

 ところがそんな中、転倒し、気を失った園児が出て、それを庇った北斗は1人で数人の園児達を背後に隠して戦い続けた。これを見て居ても立っても居られなくなったマチコは1人北斗に走り寄り、これを見てバイクで逃げるつもりでいた俊平達も逃げるに逃げられず、バイクのエンジンを切った。
 するとこれによって音源を絶たれたことでサウンドギラーは姿を消した。この展開を見届けた北斗は、子供達に「もう大丈夫よ。」と告げるマチコを指して、「このお兄ちゃん達が超獣を追っ払ってくれた。」という大嘘をぶっこいた(笑)。
 この大嘘にコロッと騙された園児達は「TACの隊員じゃないのに凄ーい!」と感嘆の声を挙げて口々に礼を言いながら俊平達に駆け寄った。これを受けて戸惑う俊平達だったが、北斗は更に工場近くの幼稚園で広い場所に遊んだことのない園児達に「このお兄ちゃん達がバイクでいいところに連れて行ってくれるぞぉ。」とした。
 なし崩し的に園児達と遊んであげることになり、何を言い出すんだ?とばかりに戸惑いまくる俊平達だったが、いざ遊び出すと園児達の楽しそうに慕う声を受けて満面の笑顔でこれに応じていた…………キミタチ、本当に寂しくてグレていたんだな(苦笑)。

 いずれに、初めて好かれたことが相当嬉しかったと見えて(笑)俊平達は密かに改造マフラーを本来のマフラーに付け替えるようにバイク修理工場の親父に頼み込んでいた。
 そこに現れた北斗に「今日は俺達をつけ回さないのか?」という皮肉を言うように多少素直になり切れていないところはあったが、既に彼等が更生に近づいているのは人相的にも明らかで、そんな彼等に北斗は仕事で来るのが遅れただけで、「今から尾行させてもらう。」と笑いながら応えていた。
 するとそこへ本部の竜隊長から工場地帯にサウンドギラーが現れたことが告げられた。これを受けて北斗がようやくサウンドギラーが音をエネルギー源としていて、それを求めて出現していたことに思い至った。あのなあ……サウンドギラーという名前が決まっていながら今の今まで分からなかったのか?

 ともあれ、俊平達は工場にサウンドギラーが現れたと聞いて、近くの幼稚園に通う園児達を案じて、自分達も北斗について行く、と告げた。自分達を慕ってくれた園児達がよほど大切だったらしい。悪い事じゃないけどね(笑)
 現場到着後、俊平達と共に園児の避難誘導を行った北斗は工場の操業音を止めるよう促したが、既に充分なエネルギーを貯め込んだものか、サウンドギラーは音が止んで尚、姿を消さなかった。そしてそんなサウンドギラーの攻撃は執拗で、北斗は園児達とサウンドギラーを引き離す為、バイクの空ぶかしでサウンドギラーの注意を引き付けんとし、俊平達もこれに続いた(マチコだけ園児の避難誘導の為にその場に残った)。

 エンジン空ぶかしに気を取られたサウンドギラーは北斗を襲撃。指ミサイルに掃射された北斗は全身火達磨となったが、そこに姿を消す様に変身するという、些か新マンじみた展開でAに変身した(笑)
 A対サウンドギラーの戦闘は寸胴気味の体格が災いしてか、肉弾戦では概ねAの有利に展開した。主題歌の1番・2番のフルコーラスをBGMとした戦闘は初めこそどちらが有利ともつかない互角なものだったが、フルコーラス終了後、物体停止エネルギー光線(頭部から出す虹色のリング状金縛り光線)、手からのショック光波、ロケット弾で多少Aを苦戦させたものの、それ以上のものはなく、間合いを取ったAがアロー光線を放つと後は一方的で、最後はメタリウム光線でフィニッシュとなった。

 ラストシーンは幼稚園。園に現れた北斗に対して、すっかり改心し、園児達と遊んでいた俊平(←学校は?とツッコむのは野暮か?)は「TACってカッコいいだろう?」としたが、園児達に「お兄さんたちの方がカッコいい。」とされると凄く照れくさそうにするところに、北斗も彼等の方がカッコいいと捕捉した。
 多少臭い更生劇と言えなくもなかったが、そこに不自然さを感じさせない良い笑顔をしていた、それなりにいいラストだったことを付け加えておきたい。


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平成三〇(2018)年 七月一九日 最終更新