ウルトラマンA全話解説

第37話 友情の星よ永遠に

監督:筧正典
脚本:石森史郎
鈍足超獣マッハレス登場
 ストーリーは人類がスピードの限界に挑み続けるも、それが本当に正しことなのか?という疑問を投げ掛けるかの様なナレーションで始まった。
 どこぞのサーキット場と思しき施設ではまさにより速い車の研究・開発・試験が行われており、今しがた出たスピードに研究者達は驚嘆していたが、そのリーダーである主任の加島(まいえ宏満)は眉1つ動かすことなく、猛スピードがドライバーの身体に与える影響について詳細に調べるよう指示していた。
 この加島という人物、研究一筋人間で、感情を露わにしたり、人と付き合ったりするのが苦手な様で、ちやほやするマスコミに対しても「マッハの壁を破ること」と「その実用化」にしか興味が無く、研究成果がもたらす富や名誉にも関心が無いようだった。

 そんな加島はマスコミにも素っ気なかったが、直後に現れた北斗に対しては親し気な笑みを浮かべていた。加島の言によると孤児だったために周囲の人間が自分が親しくしてくれない中(←昭和中期以前は親がいなかったり、片親だったりすると周りから偏見の目で見られる傾向が現代よりも強かったのはシルバータイタンもうっすら感じていた)、彼に分け隔てなく接してくれた北斗に対しては「一番の親友」という認識を持っており、「研究の虫」という風評を覆すような笑みを浮かべた。
 だが、北斗の背後にいた女性(三笠すみれ)に気付いた加島は気まずそうな表情を見せると、所用を理由に北斗の前から去り、背後の女性も北斗に気付くや、やはり気まずそうに無言で会釈だけしてその場を去った。

 怪訝に思う北斗だったが、そこへ超獣出現の報と、本部への帰還指示が寄せられた。現れた超獣は鈍足超獣マッハレスで、名前の通り動きこそ緩慢ながら、新幹線を鉄橋ごと破壊し、旅客機に対しても口から爆発性白色ガスを吐いて墜落せしめ、見た目一発で分かるほど甚大な被害をもたらしていた。
 現場に駆け付けたTAC機は竜隊長下知の下、レーザーガン照射と機銃掃射の波状攻撃を仕掛けたが、然したるダメージをマッハレスに与えた様子は無かった。そんな中、北斗はマッハレスの敵意と暴れ振りから、乗り物が出す機械音を嫌っていると分析して接近飛行を試みた結果、マッハレスは地中に潜って遁走した。

 普段なら撃退に成功したのは一応の戦果と見てもいいところだが、新幹線と旅客機に甚大な被害が出ていることからTACにとって、「討ち漏らし」でしかなかった。竜隊長は市民のTACに対する非難を「当然」と受け止め、次にマッハレスが現れたときこそ、犠牲者への慰霊の為にも、TACの名誉の為にも必ずTACの手で倒さなければならない、とした。
 するとそこへTACのレーダーが地中300mを潜行中のマッハレスの動きを捕捉した。だがその様な深い場所にいる超獣を攻撃する術がTACにはなかった。さてはアリブンタ戦がトラウマになっているのか?(苦笑)。
 TAC一同が手を拱く中、レーダーが示す動きから北斗はマッハレスが静岡県御殿場市にある加島の研究所を襲わないかを懸念した。

 その頃、加島は以前にもまして研究に没頭するのを通り越して、尋常ならざる依存の態を見せていた。マッハを越える設計図は常に自分で持ち歩き、研究所の金庫すら信用しない姿勢は、部下達から技術力を為す一因として尊敬されつつも、人として淋しい人物と見られていた。
 同時に前出の女性も同じ想いでいた。彼女は加島の恋人だが、加島は自分の研究に対してアメリカのある企業が彼個人の研究所を持たせるとまで言って招聘をオファーして来ていることから、自分を売り込み、富や名誉を一気に獲得することしか関心が無かった。意外と俗物だったのね(苦笑)。
 勿論悪い事ではないが、彼女は自信家っぽく振る舞い、研究一筋の自分より求愛している男性の求めに応じて尾道市に帰るよう告げる加島(←一応正論だ)の背中に淋しそうにしている本音を見抜いて、「放っておけない。」としていた。
 だが、加島に邪険にされ、失意のまま彼のアパートを出た彼女は加島の身を案じてやって来た北斗と遭遇し、彼とのことを話す事となった。一通りの話を聞いて、加島に対する彼女の好意を嬉しく思いつつも、北斗は加島よりも自分の幸せを負うべき、と諭したが、彼女の目には加島しか映っていなかった。うーん………ろくでなし男に引っかかる女性に見えなくもない………。ま、北斗自身、直後に対面した加島に彼女の気持ちを踏み躙っていることを詰問していたのだが。
 だが、幼少の頃から孤児であることを蔑まれてきたトラウマが尾を引いているのか、加島は人並みに種々の欲望を持ちつつも、「俺を馬鹿にした奴等を見返す。」を成し得た上での富・名誉・それに相応しい女、という未来像に固執し、彼女の気持ちを意に介してなかった。
 周囲の蔑視を見返す為に頑張ることも、出世がもたらす果報を目指して尽力することもそれ自体は褒められこそすれ、非難するには値しない。だが、現状の自分に向けられる想いを軽んじる姿勢は、出世せず、友や名誉を持ち合わせない人物を(例えそれが自分自身であれ)見下していることに他ならない。勿論同時に彼女を見下していることでもある。「出世するであろう俺にお前は相応しくない。」と言っている様に受け止められても言い返せないだろう。
 ともあれ、まだまだ言いたいことを抱えていた風な北斗だったが、TAC本部からの呼び出しで加島の部屋を辞した。

 本部ではマッハレスに関するデータが揃ったとのことで、緊急会議が開かれたのだが、マッハレスの習性に関してはほぼ北斗が推測した通りのことが追認されていた。もちろん爆音・機械音を嫌って凶暴化することが間違いないとなると北斗にとって案じられるのは加島の研究所で、その心配が的中したかのように研究所にマッハレスが現れ、実験中のマシーンが襲われて炎上した。
 マッハレスは音源であるマシーンを破壊して尚興奮が冷めやらず、次いで研究所にその牙を向けた。所内の人々は慌てて避難に移り、加島も例外ではなかったのだが、その途中で設計図を入れたアタッシュケースを忘れて来たことに気付いた加島はまさにマッハレスの襲撃を受けている研究所に飛び込んだ。
 勿論彼女はそれを止めんとしたのだが、設計図こそが自分の人生そのものと考える加島が聞く耳を持つ筈なく、なし崩し的に彼女もまた加島に続いて研究所内に飛び込んだ。
 既にその頃にはマッハレスによる破壊の手は研究所に到達していた。TACの迎撃は多少はマッハレスの動きを鈍化させていたが、明らかに行動を止めるには能わず、研究所内でアタッシュケースを見つけて脱出を図った加島は崩れ落ちてきた瓦礫に負傷し、彼に替わってアタッシュケースを拾わんとした真弓(←やっと名前が出て来た)も崩落に襲われた。
 何とか2人して研究所の外に出てきて、そこで駆け付けた北斗とも合流。まさにその場をマッハレスに襲われた3人だったが、北斗がウルトラマンAに変身したことで加島と真弓は九死に一生を得た。

 Aとマッハレスが対峙したことで、いつも通りの一騎打ちで終息に向かうと思ったが、ここでTACが意外な活躍を見せた。A相手に体格差(身長差20m、体重差、9000t)で取っ組み合いを有利に展開するマッハレスに対し、TAC機は絶妙のタイミングで至近距離からの機械音や機銃照射でマッハレスの集中力をかき乱し、幾度となくAに体勢を立て直す機会をもたらした。地味だが、これはかなり効果的な援護と言えよう(この間、「TACの歌」がフルコーラスでBGMに流された)。
 『ウルトラマンA』に登場した超獣・宇宙人の中でメジャーとは言い難いマッハレスだが、前述した様に体格を利した接近戦で勝負をやや有利に運び、頃合い良く放たれる爆発性白色ガスや両手から放つ黄色槍型光線を駆使しての戦い振りは決してAに劣っていなかった。むしろTACの援護が無ければ危なかっただろう。
 だが、BGMが「ウルトラマンAの歌」に変わるや、何の脈絡もなしに勝負はA優勢に転じ、鶏冠を剥ぎ取られた後のマッハレスは万事に精彩を欠き、Aはダイヤ光線を頭に浴びせたマッハレスを巴投げ、一本背負い、首投げの柔道殺法でグロッキーに追い込んだ。
 既にこの時点で戦意喪失状態のマッハレスだったが、Aは容赦せず、スター光線で殆ど行動停止に追いやるや、メタリウム光線でとどめを刺し、勝利。これを見届けたTAC隊員達はその背中に敬礼を送ったのだった。

 ラストシーン。命懸けで自分を助けてくれた人々に対し、本当に何が大切かを悟った加島は真弓の眼前で設計図を風に飛ばし、自分にとって本当に大切なのは彼女であることを気付いた旨を告げ、想いの通じた真弓は感泣、それを遠巻きに見ていた北斗も笑みを浮かべて無言でその場を去った。
 友情と愛情が頑なだった1人の男の心を溶かしたいいラストで、「ここまで自分を想ってくれる女性にゃそう簡単にめぐり得ない、大切にしろよ加島。」と声を掛けたくなるワンシーンだが、設計図はチョット勿体なかった気がする(笑)。
 本当の二者択一のシーンなら設計図より彼女を優先するにしても、事後に捨てることは無いと思う。ま、30分足らずの子供番組ではこのような見せ方になるのかも知れないが(苦笑)。


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平成三〇(2018)年七月二三日 最終更新