ウルトラマンA全話解説

第39話 セブンの命!エースの命!

監督:山際永三
脚本:田口成光
ファイヤー星人、ファイヤーモンス登場
 話の始まり、とある公園にて小学生達が倒立に励んでいた。一同の中でリーダー格と思われる少年は逆立ちに成功した仲間にご褒美を渡す如く、蜜柑を置いていった。彼は八百屋の息子らしく、一同の中でただ1人逆立ちが上手くいかず苦戦するダンをからかい、ダンが逆立ちに成功したら店の蜜柑を全部やる、とした。
 支え無しでの倒立は、小学生には難しいのだが、他の少年は全員成功しており、八百屋の息子は格の違いを見せつける様に側転・バク転を披露して仲間とともに去って行った。確かに大した運動神経である(バク転を可能とする為には体の柔軟性とバランス感覚の両方が欠かせない)。

 1人取り残されたダンが、取り敢えずは滑り台を壁にしての倒立に成功するとそこへ北斗がやって来た。ダンは多忙でクリスマスに付き合ってくれなかった北斗に文句をぶーたれ(←前話のクリスマスパーティーは?)、それに対して北斗はせめて正月は梅津姉弟に付き合うとし、少し遅いクリスマスプレゼントをダンに渡した。
 口では悪態をついていてもダンはかなり嬉しかったようで、先ほど仲間内で散々嘲笑されたのを忘れたかのように今日は良い事ばかり続く、と呟くのだった。北斗以前の良い事とは、死んだものとばかり思われていた梅津姉弟の叔父(父の弟)が帰国するとの報がもたらされていたというものだった。勿論、これはその後の事件への伏線だった訳だが。

 北斗とダンがアパートに帰ると1つの事件が起きていた。
 幼児の1人がアパートの螺旋階段の外側に飛び出したらしく、鉄柵にぶら下がったまま今にも落ちそうになっていたのだった。住人達が大騒ぎする中、幼児は力尽きて転落したのだが、駆け付けた北斗と、居合わせた1人の青年が即興のコンビネーションで幼児の体をキャッチし、幼児は危ういところを無事に救われた。
 見事な救出劇に周囲の人々が幼児の無事を喜び、2人の活躍に喝采を送る中、北斗と青年は互いの助力を褒め合ったのだが、そこへ駆け付けたダンの証言で青年こそが最前噂していた梅津三郎(片岡五郎)であることが判明した。三郎は大きくなったダンに驚き、北斗が甥のダンといつも仲良くしてくれていると聞いて改めて助力に感謝し、握手を求めたのだった。
 直後、梅津家では北斗を交えてすき焼きパーティーとなり、ダンも香代子も叔父との再会を喜び、ダンに至っては自分が兄と慕う人物と、実の叔父が人命救助を為したことを我がことの様に誇らしく感じていた。

 場面は替わってTAC基地本部。そこでは山中が非常警備体制の陣頭指揮を執っていた。
 基地内では竜隊長と吉村が不在だった。と言うのも、TAC念願の対超獣兵器・シルバーシャーク開発の為に秘密研究所に赴いているとのことで、この研究を守る為の特別警備に臨んで山中は気合が入りまくっていた。勿論一個人として責任感の強いキャラクターで、副隊長格としての使命に燃えていたこともあるのだろうけれど、実に山中らしいシーンだ(笑)
 これまでもV7ミサイル、V9と対超獣兵器として期待された武器はいくつか見られたが、今回登場のシルバーシャークは輪を掛けて期待されていたようで、それを証明するかのように非常警備態勢に入った山中&美川が即座に襲われた。
 敵襲はドラム缶数個をもって車輌の進行を妨害し、重火器を掃射して襲撃するというの物で、「TACの秘密兵器」と聞いても超獣を倒せる気がしないのだが(苦笑)、ここまで本格的な襲撃を受けたことから宇宙人・異次元人にとって脅威であることが暗に示された。
 襲撃される山中&美川の元に銃声を聞き付けた北斗&今野も駆け付け、北斗は接近攻撃を申し出た。山中はこれを了承し、突撃する北斗への援護射撃を仲間達に命じた。結果、襲撃者を被弾させた北斗だったが、敵には逃げられてしまった。そして敵が逃げた現場にはブレスレットが残されていたのだったが、それは先日北斗と握手を交わした梅津三郎が装着していた物と同一だった。

 翌朝、北斗は自分が住むアパート近辺の茂みに張り込んでいた。状況確認の為に寄越してきた山中からの通信によると、「心当たりがある。」の一言だけで単独行動に出たらしく、山中にその鉄砲玉振りを叱責されていたから、やはりTAC内部で北斗の言がすぐには信用されないパターンは北斗にも責任がある(苦笑)。
 逆に「もう少しで犯人がつき止められそう。」、「僕のアパートの近く。」を即座に受け入れて救援に向かうことを即決する山中は人を信用する方だとさえ言えた。まあ、こいつは思考が極端なだけと言えるのだが(苦笑)。
 そして張り込む北斗の前に左足を負傷した三郎が現れたのだった。

 北斗はブレスレットを提示し、足の怪我を指摘し、惚けようとした三郎に対してかなりストレートに昨夜TACを襲った張本人である、と詰め寄った。三郎(に化けた敵)は誤魔化しもならず逃走。勿論北斗はこれを追撃し、両者は列車車輌の停車場に辿り着き、そこに山中達も合流した。北斗と山中達に挟撃された三郎もどきは逃げ切れぬと悟ると、長髪を乱れさせた姿になって高笑いするや、火炎超獣ファイヤーモンスを召喚した。
 これを受けて山中は三郎もどきの追撃よりもファイヤーモンスを街に入れない為の迎撃の方を命じた。名前に「ファイヤー」とあるのを示す様にファイヤーモンスは火炎攻撃を得意とし、その執拗な火炎放射には山中が北斗に撤退を命じるほどだった。

 執拗な攻撃を受け、周囲を炎に包まれる中、Bパートに入った北斗はAに変身し、ファイヤーモンスを迎え撃った。火炎攻撃に依存しているためか、格闘戦は完全にAに分があり、ファイヤーモンスは時折火炎を吐いて尚、劣勢に立たされた。
 これを見かねた三郎もどきは剣を取り出すや、これをファイヤーモンスに投げ渡した。すると剣は忽ちファイヤーモンスにぴったりのサイズになっただけでなく、刀身に火炎を帯びさせ、今度はAが劣勢に立たされた。
 炎の剣による攻撃にAは近づくのも容易ならず、そればかりかメタリウム光線さえも炎の剣に弾かれてしまった!
 かくして防戦一方に追いやられたA。相手の攻撃がどんなに稚拙でも逃げてばかりでは勝負に勝てない。躱し続けていたAだったが、足を滑らせて転倒し、起き上がって来たところに左胸を一刺しにされ、ついに燃える剣を胸に咥え込んだまま仰向けに倒れたのだった!!実にヒッポリト星人以来の一騎打ちにおける敗北だった。しかも特殊能力に依存しない白兵戦での敗北は実に稀有であった。

 ファイヤーモンスの勝利を見届けた三郎もどきはシルバーシャーク襲撃に備える為の休息を命じて姿を消した。そして左胸を貫かれたAは意識を薄れさせたのだったが、その意識の中にウルトラセブンが現れた。
 セブンはAに、まだやるべきことが有ること、Aにはウルトラの命が有ることを告げ、やたらと励ましまくった挙句、途切れ途切れに微かな稼働を見せていたAのカラータイマーに額のビームランプから光線を照射した。
 これを受けてAは一命を取り留めたらしく(←こんな助かり方、かなり反則じゃないか?)、意識を取り戻すとそこは病院のベッドの上でダンが必死に北斗に呼び掛けていた。

 意識を取り戻すまでの北斗は仮死状態か、それに準ずるほどの重症だったようで、意識を取り戻した北斗の心音を聴診器で聴いた医師が驚いていたほどで、さすがの山中も北斗に「喋るな。」と命じたほどだった。
 だが、北斗は三郎の正体を一刻も早くダン・香代子に知らせるべきと考えていたようで、空気も読まずに(山中が伏せていた)三郎の正体を姉弟に告げた。勿論死んだと思っていた叔父が生還したのを喜んでいた姉弟には信じ難い、信じたくない話だった。北斗のストレート過ぎる物言いには疑問が残るが、後になればなるほどダメージが大きいことを考えると、はっきりと早目に告げた方が良いとも言えるから一概に言い切るのは難しい。

 番組のパターンとして北斗と梅津姉弟の大論争になるかと思われたが、そこに山中の元に竜隊長からシルバーシャークの完成と、それを基地に搬入するとの通信が入って中断された。
 山中は竜隊長に宇宙人がシルバーシャークを狙って襲撃して来た事実を告げ、隊長を迎えると告げ、自分も行くと縋る北斗に安静を命じて(←当然である)病室を出た。
 TAC隊員達が去ると衝撃が戻って来て香代子が泣き崩れた。さすがにここまで親交を重ねた北斗の言を信じたようで、だからこそ酷い話とも言えた。
 そして嘆く香代子の首にぶら下がるペンダント(←三郎もどき=宇宙人にプレゼントされたもの)を見た北斗は、それが盗聴器であることに気付き、最前のシルバーシャーク警備を巡る会話が宇宙人に筒抜けになったことを山中達に告げんとして(医師が止めるのを振り切って)病室を飛び出した。そしてそれには(北斗が止めるのを聞かず)梅津姉弟も追随した。まあ叔父の名を騙った宇宙人への許し難い気持ちから無理もないと云えよう。

 場面は替わってTAC秘密研究所から基地本部へ向かう途上。TACジープでシルバーシャークを搬送していた途中の竜隊長と吉村がファイヤーモンスの襲撃を受けた。
 シルバーシャークを守らんとしてTACガンで応戦する竜隊長と吉村だったが、勿論超獣がそれで倒せたり、撃退したり出来る相手ならシルバーシャークは要らない(苦笑)。
 竜隊長は援護に駆け付けた山中達にTACファルコンに搭乗しての攻撃を命じ、別ルートで駆け付けた北斗は梅津姉弟をその場に残すと再度Aに変身してファイヤーモンスに立ち向かった。

 AVSファイヤーモンスのリターンマッチは前戦同様Aの優勢に進んだ。ファイヤーモンスは前戦で出さなかった口腔からの弾丸や尻尾を駆使しての攻撃を仕掛けて尚劣勢だったから、徒手空拳の肉弾戦でAに劣るのは明らかだった。
 だが両者が戦っている合間に三郎もどきがひそかにダンと香代子を人質に取り、前戦同様、燃え盛る細剣をファイヤーモンスに投げ寄越した。こうなるとまたもAは劣勢に立たされた。正確には前戦ほどでもなかったのだが、三郎もどきの元にいた梅津姉弟が気に掛かっていたのかも知れない。

 この展開を見ていた竜隊長はシルバーシャークの発動を隊員達に指示した。

 ジープ荷台のシルバーシャークが開梱されると、先端が二股の電極型をした特殊大砲の様なその姿が現れ、吉村が狙いを付け、今野が砲台を支えた。
 そして竜隊長の号令一下、その先端から光線が放射されると、光線はファイヤーモンスの全身を稲妻の様な光で包んだ次の瞬間にはその体を木端微塵に粉砕した!
 何と、シルバーシャークは「本当に」超獣を一発で倒す超秘密兵器だったのだ!!



 このTACの快挙にAも視聴者も(笑)驚愕したが、三郎もどきはもっと驚愕していた(笑)。無理もなかろう、武器を持ってとはいえ、一度はAを破ったファイヤーモンスがTACの攻撃に瞬殺されたのだから…………。
 そして三郎もどきにとって弱り目に祟り目と言おうか、気絶から目覚めたダンの不意打ちを受け、反撃しようとしたところに山中のTACガンで拳銃を撃ち落とされた。立派に活躍しているじゃないか、TACよ(笑)!!

 かくして逃走を余儀なくされたかに見えた三郎もどきだったが、ジャンプ一番巨大化してその正体−火炎人ファイヤー星人の姿を見せ、ファイヤーモンスが残した火炎剣を手にAに襲い掛かった。
 ファイヤー星人の剣術はファイヤーモンスほどもなかったが、Aは火炎剣がよほど苦手だった様で、取っ組み合いやヒット&アウェイに持ち込んだりして応戦したが、剣の間合いでファイヤー星人が火炎剣を振り回す動きに対しては明らかに攻めあぐねていた。まあ、剣道三倍段を考えれば無理もない話だが。
 最終的にはファイヤー星人が壊した鉄塔を剣代わりに応戦し、セブンの励ましに応えるかのように奮戦して火炎剣を奪い取るとファイヤー星人の頭に突き刺し、怯んだところにメタリウム光線で勝利を収めた。火炎剣がなかったらちゃんと効いたのね(笑)。

 戦が終わり、北斗はまたも2人切りの姉弟に戻ったダンと香代子を励まさんとしたが、2人とも自分達には北斗がいるから、としてその心配を振り切るような元気さを示した。
 香代子は叔父に化けたファイヤー星人から贈られたペンダント=盗聴器を河中に投じ、ダンは冒頭で自分をからかった少年達の前で逆立ちを披露し、八百屋の息子は手持ちの蜜柑をすべてダンに渡すと、それ以上は勘弁してくれと云わんばかりに逃走。
周囲の少年達は約束の不履行を詰ろうとしたが、ダンに蜜柑を分けられると機嫌を直したのだから現金な奴等だった(笑)。偽三郎を巡るドラマや、シルバーシャークによる記念すべきTACの初勝利を考えると、逆立ちを巡る子供達の意地の張り合い話はチョット蛇足やったね(苦笑)。

 ストーリーの構成上、ウルトラマンシリーズにおいて正義のチームが噛ませ犬的な役割を振られてしまうのはやむを得ないものがある。
 中でもTACとMACはその様な役割的存在の二大双璧と言える悪しきイメージがある。逆にそんなTACだからこそ、一度はウルトラマンAに勝利したファイヤーモンスを撃破したインパクトは極大だった様で、一度切りの登場でしかなかったシルバーシャークが33年後に『ウルトラマンメビウス』にて、そのデータを元に改良された超兵器・シルバーシャークGとして再登場したのは有名である(←僅かながら戦果も挙げていた)。

 「脱出TAC」と揶揄されることの多いTACだが、シルバーシャークによる勝利は文句の着け様がないだろう。惜しむらくは、この兵器開発の勝利に梶主任の名前が伺えないことと言えようか………。



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平成三〇(2017)年七月二三日 最終更新