ウルトラマンA全話解説

第44話 節分怪談!光る豆

監督:筧正典
脚本:石森史郎
鬼超獣オニデビル登場
 「冬の怪奇シリーズ」を終え、特にこれと言ったシリーズでもない普通の話だったがこの話をきっかけに、『ウルトラマンタロウ』でも、『ウルトラマンレオ』でも節分の鬼をモチーフにした怪獣・宇宙人が登場する作品が作られたかと思うと興味深い。

 本題のストーリーだが、冒頭は敬愛園という施設にて1人の青年が空手の瓦割りを披露していたところから始まった。空手青年・一郎(小池正史)が瓦やレンガを割って子供達の喝采を浴びる中、園の先生(中田喜子)と知り合いである北斗が節分の豆をもってやって来た。
 クリスマスで慰問していた施設以外にも顔見知りの施設があるとは、本当に子供関係の交友が広い男である。だが、その豆が季節外れの落雷に怪しげな光を放ったことが後々の災厄を暗喩していたのだった。

 場所を室内に移し、そこでは北斗と一郎の扮する鬼を相手に豆まきが行われ、定番通り年の数だけ豆を食べることになったのだが、拾う豆の中に赤い豆を見つけた一郎は全国大会優勝を祈願してその豆を口中に放り込んだ。勿論この豆は只の豆ではなく災いの元であることが程なく明らかになった。
 落雷に脅える子供達を元気付けようと自分の力強さを披露せんとした一郎だったが、腕に力が入らないことに気付き、直後に実践した杉板割りにも失敗した。うちの道場主も空手の経験があるから分かるが、板でも瓦でも割れたら痛くもなんともないが、割れなかった時はめちゃくちゃ拳が痛くなるんだよなぁ………。

 場面は替わってTAC基地。そこでは新兵器ゴールデンホークを囲んでTAC隊員達がその性能に期待を寄せていた(←戦果を挙げたシルバーシャークはどうした?)。そこへ孤児院から帰って来た北斗の持ち帰った豆でTAC基地でも豆まきが行われることになった。
 節分を誰よりも楽しみにしていた今野はゴールデンホークを邪魔だとばかりに室内の壁際に押しのけ、その馬鹿力をTAC隊員達が褒めそやすと、今野は頭を使うことは苦手でも、力は自慢できる旨を照れ笑いしながら述べていた。しかし、第1話での紹介によると、今野は確か「ロケット工学のオーソリティ」だった筈では…………?もう少し初期設定は重んじてよね、制作陣………。
 ともあれそんな今野が音頭を取って、豆まきが行われたのだが、豆をぶつけた対象は美川……………こういう節分では成人男性が鬼役にされることが多いのだが、今野が美川を鬼役にしたのは男女同権を訴える為なのか、単に今野がSだったからなのかは定かではない(苦笑)。
 そして例によりここでも豆を年の数だけ食べたのだが、例の赤い豆が混じっていて、北斗と今野がこれを口の中に入れてしまった。北斗は良く見もせずに食べていて、混じっていた赤い豆を食べた訳だが、今野は「縁起がいい。」して口にしていた。
 一郎と言い、今野と言い、小豆のと比べても鮮やか過ぎるその色を変には思わなかったのだろうか?まあ、単に紅白饅頭や紅白幔幕の様に赤を縁起の良い色と見たのだろう。赤い豆は場所によってはかなり卑猥に…………ゴホッ!ゴホッ!ゴホッ!……いかんいかん、ある人から聞いた話によるとこの特撮房は意外と子供も見ているらしいから下ネタは控えないと………………。

 赤い豆の影響はすぐに表れた。TAC基地に超獣出現の報が寄せられ、一同は即座に出動したのだが、今野はいつも装備しているヘルメットを持ち上げるのすら困難な筋力低下に愕然とした。そして雷鳴の夜間に暴れる鬼超獣オニデビルとTACが交戦する中、竜隊長の指示でオニデビルに攻撃せんとした今野は、機銃掃射の発射レバーすら引けなかった。
 結局、発射レバーは美川が引いたのだが、もっとやばい事態に陥っていたのは同じく赤い豆を食した北斗の乗っていたTACスペースの方だった。北斗が握っていたのは操縦桿で、これを操れない程の筋力低下は洒落になっておらず、隣席の山中もいつもなら北斗を叱責するところを、この時ばかりは即座の「脱出!」を指示した。

 脱出後、パラシュートで降下する中、ウルトラタッチで北斗はAに変身したが、赤豆の影響はAになっても尚続き、Aはオニデビルとまともに戦えなかった。オニデビルは角からショック光波を放つ以外にはこれと言った特殊攻撃も為さず、フットワークや体術にさほど秀でている様子は無かったが、何せキックを放ったAの方が逆に倒れる体たらくではオニデビルの強い弱い以前の問題だった。
 勿論Aは退散するしかなかった。

 TAC基地に戻った一行の中で北斗と今野は(文字通り)力なく詫びるしかなかった。勿論他の隊員達は2人の急激な筋力低下が信じられず、山中もいつもの「たるんでいる。」と口にしていたが、2人を責める気持ちよりも、眼前の事態に愕然とする気持ち方が強いようだった。
 確かに冗談や、怠惰で操縦桿をいい加減に操作するなんて誰も考えないだろう。美川の、出動時に今野がヘルメットもろくに持てなかったことへの証言もあって竜隊長は北斗と今野に病院での受診を命じた。
 2人は渋ったが、こんな体で参戦されては他の隊員達の身も危なくなると云われては受診命令に従わざるを得なかった。

 医師(山田禅二)の診察を受け、2人とも筋肉が弾力を失い、細胞が死んだに等しい状態であることだけが分かったが、当然ながら原因はつかめず、有効な治療法が確立出来なかった。
 医師は急にこんな体になったことには原因がある筈だとして、思い当たることが無いか?と尋ねたが、北斗はそれには答えず、今野共々竜隊長には異常なしと報告してくれと懇願した。勿論、医師がそんな虚偽報告を承諾する訳なく(苦笑)、精密検査を進めるのだった。
 正論を前に項垂れるしかない北斗と今野だったが、そこへ他の病院から医師の紹介状を持ってきたという、今までに例のない症例を示す患者が現れた。勿論展開的にバレバレな登場をしたのは一郎だった。

 かくして入院を余儀なくされた北斗・今野・一郎。その中で筋トレによって病(?)を克服せんとして、一郎を励ます様にトレーニングの先頭に立つ北斗だったが、1週間頑張っても症状は丸で改善せず、全国大会まで幾日もなくなった一郎は体が元に戻ることにすら希望が抱けなくなっていった。
 そしてその夜、一郎を叱咤激励していた筈の北斗もどうしても力の出ない我が身に苦悩していたが、その脳裏に兄であるウルトラセブンが話し掛け、M78星雲に戻り、ウルトラカプセルによる治療を受けるよう促した。すると病室の窓から赤い光が飛び出すと、光はそのままM78星雲にいたセブンの元に辿り着いてAの体になるとセブンはAに治療を施した。しかしこうして見ると、第2期ウルトラシリーズで1、2を争う客演回数のウルトラセブンだが、意外に地球人の目には触れていない事に気付かされる。

 ともあれ翌朝、目覚めた北斗は夢かと思ったが、筋力が戻っていることに気付き、元に戻った喜びに様々に体を動かす内に、ベッドの上に体内から排出された赤い豆が有るのに気付いた。どうやらこれが原因らしいと気付いた北斗は一郎にも諦める必要はない、と見舞って告げたが、まだ一郎は失望の中にいた。
 そこにオニデビルが再度現れたとの通信が届き、北斗は病状がどうあれ筋トレを続けるよう告げて出動した。

 TACパンサーで出撃した北斗はオニデビルに踏み潰されんとした瞬間にAに変身し、再戦が始まった。三本角の真ん中の角を赤く発光させて少しAを苦しめた以外にはオニデビルにこれといった攻撃は無く、それさえも真ん中の角が飛び蹴りで折られたことで不可能となった。
かくして再戦はほぼAの優勢に進んだ。モチーフが「鬼」なのだから、少しは怪力に優れたところでも見せて欲しかったが、追い打ちを掛ける様にゴールデンホークから放たれた光線がオニデビルの腹部に命中すると完全にグロッキーに陥り、後は一方的な展開でエースリフターに投げ飛ばされたオニデビルは、一度は立ち上がったが、程なくそのまま仰向けに倒れて絶命したのだった。

 オニデビルが倒れると、オニデビルによって召喚されていた黒雲も晴れ、Aは病院の屋上で様子を見ていた今野と一郎にメディカルレイを両眼から放って照射し、体内から赤い豆を排出された2人は元の力を取り戻したのだった。
 ラストシーンではすっかり力を取り戻した一郎が冒頭同様に空手の技を子供達に披露し、一郎の活躍に貼り合う様に今野も巨岩を持ち上げて子供達の喝采を浴びる中、改めて北斗は一郎の全国大会での健闘を呼びかけ、一郎もそれに力強く応えるのだった。

 全く完全且つ個人的な余談だが、過去において幾度となく視聴したこの第44話、平成29(2016)年6月現在、シルバータイタンにとっては少々見るのが辛い話となっていた。

 というのも、この1年半前にシルバータイタンは父をALS(筋萎縮性側索硬化症)という病で亡くしていたからである。ALSは全身の筋肉が萎縮する重篤な疾患で、頑健な身体を誇っていた父が見る見る内に筋力を衰えさせ、病名判明から半年もしない内に歩くことはおろか、自力で食事も出来ず、固い物を食べることすら危険となり、会話さえもままなら無い程筋力を衰えさせた果てに呼吸筋麻痺で落命した経緯を目の当たりにしていたからである。
 常日頃、当たり前のように使っている筋肉が丸で使えなくなることの恐ろしさを考えると、オニデビルがもたらした赤い豆の惨禍はフィクションとして軽く見ることが出来なくなってしまっていた。



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平成三〇(2018)年七月二八日 最終更新