ウルトラマンA全話解説

第48話 ベロクロンの復讐

監督:菊池昭康
脚本:市川森一
異次元人女ヤプール、ミサイル超獣ベロクロン二世登
 ある夜、北斗は夢を見ていた。TACスペースにて宇宙空間を走行中、周囲に降り注ぐ球体を流星群やシャボン玉と誤認していた大ボケ振りは夢だから許せるとして(笑)、北斗の心に引っかかったのは球体に浮かぶベロクロン二世の姿と、それにウルトラマンAへの復讐を呼びかける謎の女(高毬子)の声だった。
 描写や大ボケ振りから途中で夢と分かるような内容だったが(苦笑)、果たせるかな、目覚めた北斗がいたのは夢と同様TACスペースの中だった。「操縦は大丈夫か?」とツッコみたくなったが、2人乗りであるTACスペースの隣席には山中がいた。
 つまり北斗はパトロール中に機内で居眠りをしていた訳で、山中の雷が落ちるのかと思いきや、北斗のうなされ様に山中は意外にも優しい言葉を掛け、帰投するまで寝ていていいとも言ってくれた。

 そんな山中の気遣いに答えんとしたものか、北斗はうなされていたのはベロクロンの夢を見たからと告げた。その名を聞いて「あいつは手強かった。」と言った山中の台詞に、「「あいつ」だってぇ?!「あいつ」だろ?!」と失笑しそうになったが、チョット考えれば分からないでもない。
ベロクロンはTACが最初に戦った超獣として、山中にとっても印象深い超獣だったであろうことは想像に難くないし、当時にベロクロンは地球防衛軍を全滅させた存在でもあったのだから。
勿論、北斗にとっても印象深い超獣で、脳内で「俺は奴に一度殺されている。」として、幾許かのトラウマも滲ませていた。

 だがしばらくすると、北斗の関心はベロクロンから彼を悩ます虫歯に移った。美川に言わせると相当大きな虫歯らしく、任務の忙しさから薬で痛みを止めるしかないとぼやく北斗だったが、周囲はちゃんとした治療を勧め、それを知った竜隊長もパトロールを中断しても構わないので最寄りの歯科医に向かうよう許可した。
 真面目な話、虫歯菌による痛みは神経を直接攻撃されるものなので、0か100しかない神経信号の前には我慢強いも弱いも無い。北斗も渡りに船とばかりに歯科医に向かったのは無理も無い話だった。

 程なく、Q歯科医院という歯科医を見つけ、そこに向かった北斗だったが、えらく人の気配が感じられないビルの中にあるわ、戦前に作られたみたいなエレベーターがあるわ、しかも院内に入ると受け付けも待合室もなく、治療用の椅子が1台あるだけだわ、何故か殺風景な部屋に不気味な能面が飾られているわ。といった、見るからに怪しい病院だった(勿論、他の患者や事務員の気配も無かった)。
 それに特に疑問や危機感を抱くでもない北斗は何気なしに椅子に腰かけると突然女医(高毬子)が現れ、視聴者には最前の夢でベロクロン二世に復讐を促していた女であることが分かるのだが、北斗は気付かない風だった(まあ、夢の内容を画像的に克明に覚えていることは稀だし)。

 ともあれ、すぐに詰め物が為され、治療は終わったのだが、果たせるかな、「治療」と称して奥歯に埋められた詰め物は女ヤプールの仕掛けた罠だった。

 屋外に出た直後こそ、痛みが治まったことにご機嫌だった北斗はすぐにパトロール任務に戻ったのだが、すぐに視界がぼやけるという異常に襲われた。だがそれをおかしいと思う間もなく、北斗の眼前にはベロクロン二世が現れ、驚いた北斗はTACにベロクロン出現を報告すると自身は単身TACガンでベロクロン二世を銃撃し始めた。
 だが、北斗に見えるベロクロン二世の姿とその背景はどこか揺蕩う水面を見ているようで、視聴者には実像っぽく見えなかった。当然、TACのレーダーには何の反応もなく、周囲の人間にもベロクロン二世の姿は見えておらず、北斗は銃乱射の危ない奴として警察に通報される有様だった。

 北斗自身はあくまで真剣なのだが、当然の様に機動隊に包囲され、TACガンを捨てる様に呼び掛けられた。いきなり強硬手段に出なかったのもTAC隊員という北斗の社会的地位に遠慮していたと見え、北斗も最初「一体誰に向かって言っているんだ?!」と激昂していた。
 北斗は機動隊員達が街を襲っている(と北斗には見える)ベロクロン二世への攻撃に加勢しないことを訝しがり、何故一緒に攻撃せずに邪魔をするのか?!と怒りを露わにし、しまいには「さては貴様等も宇宙人……。」と疑って銃口を向ける始末だった。

 勿論、展開的に北斗が女ヤプールに巧妙に嵌められたものであることは丸分かりである。周囲の人間も北斗に悪意があってそんなことをやっているのではないことを察知しているからこそ、竜隊長も北斗のTACガンは撃ち落としてその動きを止めたり、機動隊員達も包囲はしたりしても直接攻撃には出なかったのだろう。
 だが、冷静に考えると北斗の落ち度は否めない。いくら目の前で暴れるベロクロン二世の姿が北斗にとって実在が疑えない程よく出来たものだったとしても、周囲の建造物には何の被害も出ず、ミサイル超獣がまったくミサイルを発していないのである。勿論TACガンから打ち出された弾丸が被弾する様子も見えない。
 つまりはベロクロン二世の姿が幻影や幻覚であると推測する余地は充分にあったのである。過去のトラウマを考慮してもこれはいくら何でも冷静さを欠き過ぎである。この作品では北斗が信用されないケースにおいて周囲の分からず屋ぶりに眉を顰めたくなることも多いが、今回ばかりは周囲の判断は妥当で、北斗の落ち度の方が責められるべきと言えた。
 山中の「しっかりしろ!」の台詞からも、北斗個人への不信というよりは、北斗の平常心の方が疑われていたと云えよう。

 ともあれ、場面は変わってTAC本部。
 例によって山中の雷が落ちた(苦笑)。「人騒がせもいい加減にしろ!」という山中の台詞に、「いつもの北斗不信か?」と思い掛けたが、怪我人が出なかったことや、もし怪我人が出ていたらTAC隊員と言えどもブタ箱行きになることを言及していたので、どちらかと言えば北斗の立場や周囲の安全を慮っての叱責と取れた。
 竜隊長も北斗の様子からそのまま任務に就かせるのは問題があると見て、北斗に謹慎(「歯の治療に専念しろ。」と言っていたのが彼らしかった)を命じ、北斗もいつになく素直にこれに従った。正確には「素直」というより、「見る影もない程の気落ち」で反論する気力すら失っていた風でもあった。

 北斗が本部を後にすると、竜隊長は周囲に北斗の異常に対する意見を求めた。美川は精神鑑定の結果は正常だったと証言し、山中は「ベロクロン」というキーワードから、先日のパトロールでベロクロンの夢を見た北斗に「明け方の夢は正夢になるというぞ。」といってからかったことを気にしていた。
 そんな数々の証言から北斗が連日の勤務による疲れからノイローゼになっているのではないか?とも考えたが、それに対しては今野が、「奴がそんな玉かよ。」と斬り捨てた。う〜ん……『ウルトラマンA』全編を通じて見てみると、意外にも北斗不信は山中よりも今野の方が酷いかも………。
 ただ、「歯痛で幻覚を見たんだよ。」という今野の捨て鉢な台詞から竜隊長は北斗が異常行動直前に訪れたQ歯科医院が怪しいと見て今野を向かわせた。だが、北斗が報告したB地区にQ歯科医院はなく、竜隊長はすぐに北斗を呼び戻しにかかった。だが、北斗は謹慎になったからといってじっとしている性格ではなかった。
 そしてそこへTAC基地内にベロクロン出現の報がもたらされ、一同はその真偽を巡って戸惑うのだった。

 一方、もう一度Q歯科医院を調べんとした北斗はその途上、再度眼前に現れたベロクロン二世を見てTACガンを抜かんとしたが、物は謹慎に服する際に竜隊長に預けていて、腰にはなかった。
 そしてそのことが気を取り直させたものか、北斗は今度も「幻覚」または「自分を陥れんとする何者かが見せる罠」と捉えた。眼前のベロクロン二世は視聴者的にも実像っぽく見え、ビルの一部も破壊していたのだが、どうやら北斗は自分に自信を失くしていたたようだった………う〜ん……お前は晩年のヨシフ・スターリンかよぉ………。

 だが、北斗は実在を疑いつつも目に見えるベロクロン二世に向かわずにはおれなかった様だ。丸腰のまま、ベロクロン二世ににじり寄り、「さあ、撃て。俺はここにいるぞ。」と迫り、本当に撃たれていた……(唖然)
 もんどり打って倒れる北斗だったが、そこにTACスペースが2機駆け付けた。TAC隊員達は過去のベロクロンが地球防衛軍やAと交戦した際の映像を参考に、ミサイルを撃ち尽くした後に口腔内からミサイルを発射するタイミングを狙って口腔内を攻撃し、高圧電気胃袋(←知っているということは誰か解剖したのか?)を突いてダメージを与える作戦を立てていた。
 だが、狙い通りの攻撃には成功したものの、ベロクロン二世に致命傷を与えるには至らず、逆に頭頂部からの電撃という新たな攻撃を受けて「脱出!」を余儀なくされた。

 その間、意識を取り戻した北斗は、周囲の荒廃状況から、何より奥歯から落ちたカプセルを見つけたことからようやく事態を呑み込めた。が、直後にベロクロン二世が至近距離にまで迫っており、火炎を浴びせられるとそれから逃れるようにウルトラマンAに変身した。
 かくしてAとベロクロン二世の一騎打ちとなったのだが、殴り合いでは明らかにAが優勢で、ベロクロン二世はミサイル乱射能力をもってしても優位に立つことは能わなかった。
その後、何故かボクシング、相撲、キャッチボールと言った展開が為され、自分が投げたボールを口に食らう間抜け振りを見せたベロクロン二世だったが、次の瞬間、胃袋からベロクロ液なる毒液の泡を吹き出し、Aを苦しめた。
苦しむAを見て高笑いして悦に入るベロクロン二世だったが、特にこれが致命傷になるでもなく、逆にその油断を突く様にAは鼻角をへし折るや、それが腹部に突き刺されたことでベロクロン二世は絶命した。

 ベロクロン二世を倒したAはその遺骸を宇宙いずこかへ運びつつ飛び去ると、北斗の姿に戻って再度Q歯科医院に向かった。既に謹慎は解けているらしく、TACガンを抜身のままQ歯科医院をノックする北斗。
 入室を促されるとそこには前回同様女医が1人いて、「また痛みまして?」と普通の対応をしてきた。それに「肝心なところでカプセルが外れてね。お陰で命拾いしましたよ。」と皮肉っぽく応じた北斗は女医の正体を詰問した。否、追認を求めたと言った方が正確だろう。ベロクロン二世(北斗自身は「ベロクロンそっくりの超獣」としていたが)を起用して北斗への復讐を歌う以上、その正体はヤプールしか考えられなかった。
 北斗は女ヤプールに対して勝敗は既についており、復讐心など捨てて立ち去ることを促したが、性格破綻を絵に描いた様なヤプールに通じる訳が無かった(苦笑)。女ヤプールは敗北こそあっさり認めたものの、勝者は常に敗者の怨念を背負い続けるという言葉を丸で呪詛の様に浴びせた。
 結局、女ヤプールはTACガンを2発浴びて絶命。程なく、事の顛末をTAC本部に報告する北斗の眼前でその死体は消え失せ、同時にQ歯科医院もその姿を消したのだった。肝心なところで消え、生死不明を漂わせて舞台を去るところは如何にもヤプールらしかったと言えよう。


次話へ進む
前話に戻る
『ウルトラマンA全話解説」冒頭へ戻る
特撮房『全話解説』の間へ戻る
特撮房へ戻る

平成三〇(2018)年七月二八日 最終更新