ウルトラマンA全話解説

第51話 命を吸う音

監督:筧正典
脚本:石堂淑朗
バイオリン超獣ギーゴン登場
 ストーリーは少年野球の場から始まった。選手の1人である少年・北沢春男(田中秀門)はどこか上の空で、取れると思われる大飛球を本気で追わなかったり、走者としてもあっさり挟殺されたり、と本気のプレイをしていると思われなかった。
 理由は程なく分かった。試合の最中にも関わらず母親(蔵悦子)が割って入り、バイオリン教室に通う為、春男を試合から抜けさせたのである。子供達の軽いわざとらしい内容の抗議の声から春男は明らかに野球の方が好き(チームで一番上手いらしい)で、それでも母親は息子をバイオリニストにする一念でいたので、そのことが気に掛かった春男は上の空でプレイしていたのだろう。

 場面は変わって内山バイオリン教室。その門前で明らかに気の入らない春男だったが、1人の(春男より年上と思われる)少女に促されて入室した。講師を務めていたのはウルトラシリーズの音楽を語るにおいて欠かせない存在である御大・冬樹透氏。所謂、カメオ出演だが、ネットも特撮誌も2010年代ほど充実していなかった放映当時はそんなに大騒ぎにはならなかっただろうな(苦笑)。
 ともあれ、バイオリンの練習が始まったのだが、やはり春男にはやる気が無かった、そのことは演奏に現れていたらしいのだが、シルバータイタンは全くと言っていいほど楽才の無い男(歌えば音痴で、音感皆無で、楽器演奏も何1つ物にならなかった)なので、どう悪いのかさっぱり分からなかったが、先生に言わせると「バイオリンは才能と努力」(←何でもそうだと思うが……)で、春男は生徒の中で最も才能がありながら明らかに努力が不足しているとのことだった。
 努力不足の原因が、春男がバイオリンのことが好きでないのは明白で、ついには春男は「お母さんに言いつけますよ。」という先生の制止も振り切って教室を飛び出してしまったのだった。

 恐る恐る帰宅し、窓から自分の部屋に入って野球道具を手にした春男だったが、そこには先生から連絡を受けた母親が待ち構えていた。勿論母親は春男を叱り、亡夫の仏前に春男を連行した。
 遺影に映っていた春男の父はバイオリンを弾く姿で、天才的バイオリニストだった夫の遺言からも母は春男を一流のピアニストに育てることに躍起になっていたことや、春男の才能が父親譲りであることが視聴者に説明するみたいに話された。

 だが、春男は本当にバイオリンが嫌いらしく、そうなると当然努力も生まれず、練習が真剣に積まれることも無かった。野球道具を没収され、真面目にバイオリン教室に通わないと二度と野球をさせない、という母親の脅しに屈する形でしぶしぶバイオリンを手に教室に向かう春男だったが、道中、如何にすればバイオリンを辞めることが出来るか思案していた。
 ただ、その思案には「怒られない。」が必要条件とされていたのが子供らしかったが(笑)、結局春男は「バイオリンを失くした。」ということにすることにして、バイオリンを放置。するとそこに突如、晴天にも関わらず落雷が発生し、バイオリンを直撃したのだった。

 雷撃を食らったバイオリンが空中に浮遊すると、春男がいきなりそのバイオリンを演奏し出した。そこへバイオリン教室の少女が2人通りかかり、路上で演奏する春男を訝しがり、話しかけるも春男はこれをガン無視。
 一頻り演奏を終えた春男は、自分は天才になったと無表情・無抑揚に呟くとその場にへたり込んだ。その瞬間こそ少女達も驚いたが、程なく1人の少女が春男のバイオリンを手に取ると演奏を始め、徐々に表情が失われて行った。
 残された女の子は友達の演奏がこれほど上手い筈が無い、と事態の異常を感じ、春男の母を呼びに駆け出し、それと入れ替わりにTACパンサーが到着した(←少し前にTACのレーダーにはこれらの出来事が異常電波として捉えられていた)。

 駆け付けたのは北斗と美川だが、春男と1人の少女を前にしただけでは2人にも事態が呑み込めなかった。何せ2人とも無表情・無気力状態で、唯一春男が口を開いたのが、「もうバイオリンを弾かなくていい。」という台詞のみで、その頃には件のバイオリンは巨大化して宙を飛び去っているところだった。
 程なく、もう1人の少女が春男の母を伴って連れて来たことで北斗と美川にも少しは事態が見えるようになった。少女の証言で、春男ともう1人の少女の異常化はバイオリンによるものであることが判明。一方で、春男の母は息子の異常を心配しつつも、それと同等以上にバイオリンがその場に無いことを気にしていた。
 巨大化したバイオリンが飛び去るのを直接見た北斗は、春男の異常の原因がバイオリンにあり、そのバイオリンが飛び去ったことを説明するも、母親は一笑に付し、高価なバイオリンがそこに無いことの方を気にかけていた。まあ、『ウルトラマンA』に有り勝ちな、分からず屋ゲストだったが、後2回で終わるとはいえ、これに慣れっこになってしまっている自分が少し嫌な気分に陥ったシルバータイタンだった(苦笑)。
 ま、それを事実であることを伝えんとする北斗の台詞が、「バイオリンに超獣が憑りついている。」というも著しく説得力に欠けていたが(苦笑)。視聴者としては、番組の持つ背景や毎度のパターンから北斗の言が理解出来ないでもないが、ストーリー的に超獣の憑依を示す要因は未登場で、それが事実だとしても根拠は何処にあるのかね?北斗君!

 ともあれ、美川に少女をTACのメディカルセンターに搬送するよう要請し、北斗は春男ともう1人の(異常に冒されていない)少女と春男の母を伴ってバイオリンを追った。
 この時、北斗は1人でバイオリンを追おうとしたのだが、少女がバイオリンの音がすればその存在を察知出来る、として同行を申し出、春男の母は「高いバイオリン」を気にして同行を申し出ていた。
 息子よりも、息子の出世アイテムの方を気にする母(正確には出世した息子に欠かせないものと思い込んで冷静さを欠いており、一流バイオリニストになる筈の息子がバイオリンの為におかしくなることはないと思い込んでいた)に呆れて抗議しかけた美川だったが、北斗が「ここで言い争っても仕方ない。」としてあっさり動向を認めた。北斗もシルバータイタン以上に分からず屋には慣れっこになっていたのね(苦笑)

 程なく、TACパンサーを運転する北斗は空飛ぶ巨大バイオリンを発見。さすがに春男の母も驚きを隠せなかったが、同乗していた少女が件のバイオリンを手にした途端、春男が上手な演奏をしたと聞くと半ば嬉しそうだったから困った女性である。
 その時、美川から無線が入り、メディカルセンターに収容された少女からは筋力と思考能力が吸い取られたように失せていたことが知らされ、北斗と少女はバイオリンが吸い取って巨大化したと推測した。
 やがてバイオリン………というか、サイズ的にはコントラバスと化していたそれはとある公園に舞い降りるとまたも1人の少年に自らを演奏させ、力を抜き取りに掛かった。それを発見した北斗は少年が力を失ってバイオリンから離れた瞬間を攻撃せんとしたが、突如、春男の母が北斗の腰からTACガンを奪ってこれを阻止した………てか、簡単にTACガン奪われんなよ!北斗!!現実の警察官だってこうも簡単には拳銃を奪われんぞ………勿論、試したことないけどさ。

 いずれにせよ、「息子を亡父の様な一流のバイオリニストにする。」という夢(というか親としてのエゴ)に取り憑かれた母は眼前のバイオリンさえあれば春男が一流のバイオリニストになれると思い込み、拳銃を奪うという暴挙も辞さず、春男の無気力状態も顧みず、少女の「弾いているんじゃなくてバイオリンが勝手に音を出している。」という言にも耳を貸さない程冷静さを失くしていた。
 気持ちは分からなくもないが、やはり同作品を象徴するかの様な分からず屋ゲストだったな、このキャラも……。

 そうこうする内に上空に脱したバイオリンは更に巨大化し、独力で演奏を開始すると周囲にいる人々を魅了するとともにその力を吸収し始めた。春男の母もその甘美さにすっかり魅了されTACガンを簡単に奪い返されるほど意識は薄弱なものになっていた(まだ春男の方が、北斗の「耳を塞いで。」の指示に従っていた)。

 その頃、上空にはTACファルコンとTACアローが飛来し、竜隊長の号令一下、巨大バイオリンに機銃掃射が浴びせられたが、これは巨大バイオリンをバイオリン超獣ギーゴンに変化させただけだった(良くあるパターンやね)。
 勿論TACファルコンとTACアローは尚も攻撃を加えたのだが、然したる効果を挙げられぬままTACアローが捕まり、ぶん回された山中も、叩き付ける一撃を食らったTACファルコン内の竜隊長・今野・美川も「脱出!」せざるを得なかった。

 単身TACガンで応戦していた北斗は、茫然自失状態の春男の母がギーゴンに踏み潰されそうになったのを庇って、自分が踏み潰されそうになった途端にAに変身した。
 A対ギーゴンの勝負は序盤から苦戦を強いられた。バイオリンの超獣であるギーゴンは甘美な音だけでなく、不快な音も出せるようで、全身を振るわせて出す不快音にAはジャイ●ンのリサイタルに参加したの●太達の如く耳を塞いで苦しみ出した。
 ギーゴンが鈍重そうな体格をしていたこともあって、肉弾戦では決して引けを取らないAだったが、不快音に加え、時折頭部から発する緑色の光線にAはダメージを受けたり、金縛り状態にされたりし、遂には立っているのもやっとの半気絶状態に追い込まれた。
 しかし、目の端が太陽光線を吸収するや、Aは気力を取り戻し、ギーゴンの体前面にある弦を引き千切ると明らかにギーゴンの戦力は低下し、勝負は決した。再度放たれた緑色光線も一瞬程度の効果しか及ぼさず、最後はAのメタリウム光線を受けてギーゴンの体は蓄えた音から吸収した力に戻って元の持ち主の元に帰って行った(お約束)。

 この間、終始無気力状態だった春男の母は、ギーゴンの弦が千切られた辺りから意識を取り戻し出したが、痛みを訴える一方で、まだ春男に件のバイオリンを弾かせる(ことで一流のバイオリニストにさせる)ことに執着を見せていた。
 やがてギーゴンの死と共に気絶した彼女は春男や少女やTACの面々に解放されてようやく意識を取り戻した(念の為、TACのメディカルセンターに搬送された)。

 ラストシーンは冒頭と同じ野球の試合だった。楽しそうにランニングホームランを放ってホームインする春男を見て、押しつけ教育が間違っていたことを悟った母の表情はどこか寂し気だったが、それは亡父の遺言を守れなかったことへの口惜しさだったのだろうか?それともこれまで春男を押し付けていたことへの罪悪感と後悔によるものだったのだろうか?
 ま、ストーリー的には後者と考えるべきだが、チョット臭い変わり様と思うのは野暮だろうか?


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平成三〇(2018)年七月二九日 最終更新