ウルトラマンA全話解説

第8話 太陽の命 エースの命

監督:筧正典
脚本:上原正三
蛾超獣ドラゴリー、幻覚宇宙人メトロン星人、Jr.巨大魚怪獣ムルチ登場
 『ウルトラマンA』初の前後編の後編は勿論、前話にて超獣・怪獣・宇宙人という属性の異なる3体の敵にAが為す術なく翻弄されていた続きから始まった。
 3体から攻められ、青息吐息のA。だが程なくその一角が崩れた。ムルチの突進をジャンプ一番Aがかわすと、ムルチはそのままドラゴリーにぶち当たった。これにブチ切れたドラゴリーはすれ違い時に肩がぶつかった時のやくざ以上の激昂振りで矛先をムルチに転じるや、圧倒的な膂力でこれを叩きのめすとその下顎を引っ掴んで、口から縦にその身を裂いてしまった!(注:前話で同様にメトロン星人Jr.がぶつかった際には、ドラゴリーは何の反応も見せていない)
 断末魔の絶叫と傷口からの大量出血を吹き上げるムルチの体を見る見る間にバラバラに引き裂くドラゴリー。「怪獣を超えた存在」とされる「超獣」と、「怪獣」の格の違いを見せつけたものであると同時に、第2期ウルトラシリーズでも屈指の残酷シーンとして有名なこの場面、その意義はシリーズ的に大きく、よく出来たものだが、それを示す為に犠牲となったのが「ムルチ」と云うのがウルトラファンとしては少々頂けない。
 『帰ってきたウルトラマン』において、「11月の傑作群」と名高い上に、21世紀にまで大きな課題を残した第33話「怪獣使いと少年」に登場したムルチが噛ませ犬的な無残な扱いとなったことに異を唱える声は多い。シリーズの意義として、超獣の噛ませ犬となった怪獣が登場したことに異は唱えないが、その対象はタッコクングやグドンやツインテールでも良かったように思われる。否、キングザウルス3世辺りの方がドラゴリーも格が上がったのではなかろうか?
 余談だが、この時使われたムルチの着ぐるみはあちこちでイベントに使われていたものだったのだが、これを使用不能にした制作陣は大目玉を食らったそうな………。

 ともあれ、ひょんなことから敵の頭数が1つ減った訳だが、依然、苦戦状態に変わりはなかった。ドラゴリーにジャイアントスイングで投げられ、メトロン星人Jr.の発光攻撃を加えられ、青色吐息のAの中で、北斗は危険を承知の上でエースバリアの敢行を承知してくれるよう夕子に呼びかけ、再度エースバリアが発動された。
 技自体は完全に成功し、ドラゴリーも、メトロン星人Jr.も個々に大気の狭間に監禁されて姿を消した。だがAの消耗は前にもまして激しく、立っていられなくなったAもまた姿を消した。
 つまるところ、変身を解除して北斗と夕子に戻った訳だが、夕子は前回以上に消耗して人事不省。脈を取った竜隊長は即座の病院搬送を命じた程だった。そしてこの事態を見届けた竜隊長は、マリア2号の完成を急ぐ為、山中、今野、吉村にドラゴリーメトロン星人Jr.の監視(←何処行ったか分からんのに?!)を命じた。

 地球と妖星ゴランとの衝突まで後3日。勿論、迎撃やその前後の影響を考えればギリギリにマリア2号を発射したって話にならない。竜隊長、美川、梶主任は工場に詰め、山中・今野は空中パトロールを、吉村は通信を担当し、北斗は夕子の搬送された病院で付き添っていた。
 夕子は心臓が極端に衰弱した状態で、この具体性が、エースバリアが如何に危険な技であるかを端的に示していた(ウルトラテレポーテーション、ウルトラダイナマイト、ウルトラ念力等、ウルトラマンの命を危うくする技は多々あるが、それらの多くは極端な疲労ぐらいしか示さない)。
 そのエースバリアの効果持続時間は1日で、マリア2号完成までの時間稼ぎには不充分。それゆえ、夕子がこうなることを承知の上でエースバリアを駆使したことを悔いる北斗だったが、病床の夕子は使命を果たしただけ、として北斗に悔いないよう訴えた。

 程なく、地上パトロールをしていた北斗と吉村は(エースバリアの効果で)透明な球体の中で活動停止して空中に浮かんでいるメトロン星人Jr.を発見した。すぐに攻撃しようと色めきだった吉村を北斗が(ため口で)止めた。珍しい立場の逆転だ(笑)。
 吉村が本部にこの旨を報告したところ、山中は「攻撃すべし!」と主張したが、竜隊長は「眠れぬ獅子を起こすことはない。」として警戒を続けるよう指示すると美川とともに秘密工場に戻った。
 だが、婚約者の仇であるメトロン星人Jr.の映像を目の当たりにして山中は治まらなかった。竜隊長がいなくなると今野にメトロン星人Jr.を爆殺するからついて来い、と命じた。勿論ついさっき隊長から命じられたことと真逆の指示に今野は難色を示したが、山中は超獣と宇宙人のタッグにウルトラマンAでさえ苦戦したゆえ、動けない内に1体だけでも打つべし、と強弁した。
 論としては一理無くもないが、やはり隊長命令に反することで、山中が婚約者の仇を前に好戦的になっていることは明らかなのだが、そのことを指摘しない内に、「腰抜け!メトロン星人が怖いのか!?」と挑発されて「怖くなんかないですよ!」と言って追随する辺り、今野も人が良いと言おうか、挑発に乗り易いと言おうか………。

 機上の人となった山中は、メトロン星人Jr.を攻撃する為、北斗と吉村に星人の近くから退がる様に通信した。勿論北斗も疑問を挟み、「それは隊長命令ですか?」と確認した。
 これに対して、「俺の一存だ。」と即答した山中は正直者とも言えるし、独断専行の人とも言える(苦笑)。メトロン星人Jr.に機銃掃射を加える山中に北斗は隊長命令に従うべし、と呼び掛けたが、脳裏にマヤの笑顔をフラッシュバックさせる山中には聞こえない。
 攻撃しながら思わず亡き婚約者の名を呟く山中に、渋々ついてきた形だった隣席の今野も「もうこれくらいで辞めては?」と耳打ちしたが、これぐらいで止まる山中なら苦労は要らんな(苦笑)。
 だが例によって攻撃はメトロン星人Jr.に致命傷を与えるに至らないどころか、カプセル内のメトロン星人Jr.を覚醒させる逆効果を示し出した。これを見た北斗もTACガンを抜いて駆け出した。それに対し、「止めろ北斗!お前まで隊長命令に背くのか?!」と叫ぶ吉村。う〜ん………やはりTACの男性陣で生真面目と言えるのは吉村だけか(苦笑)。
 だが次の瞬間カプセルは破れ、覚醒したメトロン星人Jr.の発光攻撃でTACスペースとTACパンサーが炎上し、山中と今野はTAC名物・「脱出!」を敢行(苦笑)。これを見届けたメトロン星人Jr.は体全体でTAC隊員達を嘲笑う様な姿勢を見せて虚空に消えたのだった。

 勿論、隊長命令に背いた上にその行為でメトロン星人Jr.に自由を与える形になったのだから、不問になる訳なく、山中、今野、北斗は竜隊長を前に雁首揃えて項垂れることになった(命令に背いていないが、吉村も一緒に並んでいた)。
 もっとも、歴代隊長の中でも屈指の冷静さに秀でた竜隊長、さすがに頭ごなしに怒鳴り付けたりはせず、まずは彼等の命令違反を理解出来ないことを投げ掛けた。さすがに山中も命令違反の非は認めたが、判断ミスは認めなかった。あくまで行動停止中のメトロン星人Jr.を攻撃したのは理に叶った行動だったの強弁したのである。
 だが「戦略」よりも「優先順位」というものをテーマにしたことで山中の論は非と認めざるを得なくなった。竜隊長曰く、
「今我々がしなければならないことは1秒でも早くマリア2号を完成させ、妖星ゴランを撃破することだ。となれば、カプセルの中で冬眠状態にされているメトロン星人の方が都合が良かった……メトロンが眠っている間にこっちはミサイル製作に熱中出来るからだ。だがお前達はわざわざ藪をつついて蛇を出す挙動に出たんだ。」
 とのこと。
 さすがにこの正論には山中はぐうの音も出なかった。山中を庇わんとしたものか、北斗は婚約者を殺された山中の気持ちを代弁してフォローしようとしたが、はっきり言ってこれは「公私混同の追認。」で、フォローになっていなかった(苦笑)。
 案の定、「作戦に私情を挟むなどとは、TACの隊員として一番恥ずべき行為なのだ。」という竜隊長の叱責を買った。北斗は尚も抗弁しようとしたが、さすがにこれは山中が止めた。
 この辺り、山中は江田島平八の台詞を借りるなら、「粗にして野だが卑にあらず。」で(←道場主「また男塾ネタに走る……。」)、自分が私情で起こした行為に他の隊員達を巻き込んだ罪悪感もあったのだろう。山中は自分の過ちを認め、謹慎でも退職でも甘受すると言ったが、竜隊長は更なる怒りを示した。

 このときの竜隊長にとって一番大切なのは「地球を守る為、妖星ゴランは撃破すること。」で、超獣退治も、宇宙人討伐も、ましてや隊内の賞罰など二の次、三の次だった。作品全体を通しても珍しいほどの怒りを見せ、眦を上げた竜隊長は、山中に、
 「甘ったれたこと言うな!貴様ぁ、今我々がどんな使命を負わされているか考えたことがあるのか?南隊員倒れ、猫の手すら借りたいのだ……それを何だ!退職処分にしろとは!?」
 と怒鳴り付けた。
 さすがは歴代隊長の中でも公平さと信賞必罰に厳正な竜隊長である。個人の感情や出処進退よりもTACとして重んじなければならない使命、今本当に大切なこと、それ等を踏まえた上で尚も隊員1人1人を大切にするからこそ冷静に出るところ、厳しく叱責するところを見事に弁えている。
 事の理としても、組織における使命感としても、山中に反論の余地はなく、竜隊長が上司であることを抜きにしても山中は閉口し、項垂れるしかなかった。副隊長格として、他の隊員の兄貴分として厳しい表情を見せることの多い山中のこの時の表情は必見である。念のために断っておくが、ぐうの音も出ない山中に「ザマミロ。」と言いたいのではない。
 組織、使命、軍律、人間の喜怒哀楽その他をひっくるめて、この時の竜隊長と山中のやり取りは現実の組織にも通じる大切なことを押してくれていると思えばこそである。勿論、山中の同情すべき事情もちゃんと見た上でのことである。
 そんな厳粛なシーンは、病院からの電話で中断された。それは夕子が危篤に陥ったことを知らせるものだった。

 病院にて息絶え絶えで人事不省の夕子を前に気が気でない北斗。勿論、周囲の隊員達も北斗ほどでないにしても一様に沈痛な表情を隠せなかった。「猫の手も借りたいほど忙しいのに、全員で見舞に来ていていいのか?」と思い掛けた次の瞬間、今野が肉眼でもはっきり分かるほど迫った妖星ゴランに気付き、竜隊長は美川と共に工場に戻るとして、山中・今野・吉村に引き続きパトロールを強化するよう命じた。
 半分泣きそうな顔で、それでも強い意志を漲らせ、「頑張ります!」と告げる山中に、満面の笑みで頷く竜隊長。戦果や小競り合いの多発から酷評されることの多いTACだが、何だかんだ言って良いチームである。
 そんな竜隊長は北斗に、夕子に付き添うこと命じた。北斗はマリア2号を守ることこそ夕子の意志に沿う、と反論したが、竜隊長は、生死の狭間を彷徨う夕子を呼び戻せるのは北斗しかいない、としてやんわり北斗の反論を退けた。
 だが、竜隊長達が病室を去ると、夕子は酸素マスクを外して自分も連れて行って欲しいと告げた。一応は反対した北斗だが、どうしても守りたい、死んでからでは間に合わない、と夕子に言われるとあっさり了承(苦笑)。勿論医師は止めんとしたが、聞く北斗ではなかった。

 そしてBパートに入り、一夜が明けると、更に接近した妖星ゴランの引力による影響で各地にて暴風雨・竜巻が吹き荒れ、津波も発生し出していた。
 一方、秘密工場内ではマリア2号完成まで後30分ほどの工程にまでこぎつけていた。だが同じ頃、エースバリアの効果時間切れで、ドラゴリーが出現した。北斗の予想よりは時間稼ぎ効果はあったことになる。否、梶主任を初めとする開発技師達の尽力を褒めるべきか?
 ともあれ、何とか後30分の時間稼ぎが出来ればとりあえず地球は救われる。山中は竜隊長に超獣出現を伝えると、今野・吉村を率いて迎撃に出た(さすがに今野・吉村もいつもよりは重装備だった)。勿論、北斗も加わり、一同はドラゴリーの指ミサイルに徐々に押されながらも一定の防衛ラインを保ち、抵抗している間に遂にマリア2号は完成した!
 勿論即座にマリア2号打ち上げ準備に移行し、地下秘密工場から発射台と共にマリア2号は地中からせりあがって来た。一同は見上げる中、北斗も夕子の体を起こして完成を告げた。だが打ち上げを阻止されては前話の二の舞である。ドラゴリーは倒された訳ではなく、マリア2号に突進して来た!
 勿論、それを許す山中ではなく、改めて左右の今野・吉村に超獣の足封じを命じたが、反対方向の地中からメトロン星人Jr.が現れた!報告を受けた竜隊長はメトロン星人Jr.迎撃は自分が引き受けるとして、梶主任に一刻も早い打ち上げを、山中に超獣迎撃を、美川に自分に同行することを命じた。
 発光攻撃にジープを破壊されながらも銃撃しながらメトロン星人Jr.に近寄る竜隊長&美川。それを見てか、山中達もドラゴリーの攻撃をかわしながら前進していった。そしてここが正念場と見た北斗は夕子にその旨を告げた。それに返事する力すらない夕子だったが、そこでウルトラリングが煌めき、両者はウルトラタッチを敢行した。

 地面に降り立つや、メトロン星人Jr.にドロップキックを炸裂させてマリア2号から遠ざけたAは、次にドラゴリーに組み付いてその動きを封じんとした。そしてその間に遂にマリア2号は点火し、その打ち上げに成功した!
 だが、その直後、Aはメトロン星人Jr.ドラゴリーの袋叩きにあった。ナレーションによると、夕子が半死半生であることがAのコンディションにも影響しているのだという。これを見た竜隊長は隊員達にA援護を命じ、TACガンは一斉にドラゴリーを撃ち始めた。そしてドラゴリーの意識がTAC隊員達に向き、メトロン星人Jr.と一騎打ち状態になったAはヴァーチカル・ギロチン(ナレーションでの呼称は「エースギロチン」)を放って、メトロン星人Jr.の体を縦真っ二つにしてこれを倒した。
 しかし、残るはドラゴリーだけとなったものの、Aに体力は残っていなかった。夕子の体調から普段より大幅に劣るコンディションで、消耗度の高いヴァーチカル・ギロチンを放ったためだった。そして点滅していたカラータイマーはついにその動きを止め、眼の光も失ったAはドラゴリーの一撃を受けて大地に倒れ伏したのだった。はっきり言って、カラータイマーが(直接壊されたのを除いて)その動きを止めたシーンが初めて描かれたのである…………。

 だが、次の瞬間、マリア2号が妖星ゴランを撃破。TAC隊員達が当初の目的を果たし、安堵する中、妖星の影響を失ってか、大空は晴れ渡り、眩しいほどの陽光が大地に降り注いだ。
 するとAの頭部にあるウルトラホールが陽光を吸収。ウルトラホールは丁度ウルトラセブンの胸部プロテクターと同じ役割を果たし、太陽エネルギーを吸収すると、光の国の戦士であるAの生体エネルギーにコンバートさせ、Aの眼光を甦らせ、カラータイマーは再度青々とした光を取り戻した!
 こうなるともう勝負は見えた。相手は1体にまで減った上に体調は万全に服したのである。Aは起き上がりざま両足でドラゴリーを蹴り飛ばすと、一方的にこれを叩きのめし、何度も何度も投げ飛ばした。
 かくして完全グロッキーに追い込まれたドラゴリー。その真正面に降り立ったAはウルトラパンチなる強烈な右ストレートでそのドテッ腹をぶち抜いて風穴を空けた!更にはエースブレードなる刀(←ウルトラ念力で作り出した物らしい)を召喚するとドラゴリーの首を刎ね、メタリウム光線を残された胴体に浴びせた。
 かかる三段攻撃を受けてはドラゴリーならずともひとたまりもなく、ドラゴリーの体は爆発四散し、脇に残っていた首もその爆風に巻き込まれて炎上したのだった。

 妖星撃破、宇宙人・超獣退治を終え、晴天の下、ようやく完全な安堵を得て微笑むTAC隊員達。その中で山中は婚約指輪を見つめ、亡き婚約者に地球が平和に復したことを告げ、微笑んだ。そして次の瞬間更にTAC隊員達を笑顔にすることが起きた。
 夕子の復活である。さっきまでAが戦っていた訳だから、同全TAC隊員一同の中に北斗と夕子は居なかった(笑)。北斗の声(←悪戯心を起こし、「大変だー!」と叫んでいた)に呼ばれて一同が駆け寄るとそこには体調も完全に取り戻した夕子が駆け寄って来た。
 死に掛けていた夕子の復活を信じられんとする山中(←いつもの不信ではない)に、「太陽がくれたんですよ、南隊員の命を。」と北斗は説明した………って、アンタ、それAの正体を知る視聴者にしか通じんぞ?と思っていたが、一同はなぜかこれに納得(笑)。サブタイトル重視もここまで行くのは素晴らしい気がした(笑)。
 ともあれ竜隊長は彼女を励まし続けた北斗に礼を言うべし、と告げ、夕子もこれに応じた。柄にもなく照れる北斗を一同がからかいながら、平和が戻ったことを巧みに描写しつつ、第7話・第8話の初の前後編は終結したのだった。


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平成三〇(2018)年七月一〇日 最終更新