ウルトラマンA全話解説

第9話 超獣10万匹!奇襲計画

監督:山際永三
脚本:市川森一
忍者超獣ガマス登場
 冒頭はTACが、多摩丘陵一帯に発生した原因不明の怪気流を超獣出現の前兆と捉えてこれに備えていたところから始まった。TACファルコンに新兵器RXミサイルを搭載して迎撃態勢を取っていたが、そこへ珍客が現れた。
 カメラを片手に現れた女性(江夏夕子)が今野に差し出した名刺によると月刊誌のカメラマン・鮫島純子とのことで、超獣出現の決定的瞬間を撮影するのが目的だった。勿論今野はカメラマンとはいえ、戦場に民間人がいるのは好ましくないとして退がる様促すのだが、鮫島は「許可が要るの?」、「報道の自由」などとまくし立てて退かず、終いには北斗の知り合いで、彼から教えられてここに来たとまで言い出した。

 一方、その北斗が夕子と共に待ち伏せ、竜隊長と美川がTACファルコンで偵察飛行する中、暗雲と雷鳴の中から忍者超獣ガマスが出現した。竜隊長は即座にRXミサイルの発射を命じたが、それより先にガマスの手裏剣を食らってTACファルコンは真っ二つに。竜隊長と美川は恒例の脱出を敢行したのだが、純子がそのガマスをカメラに収めた瞬間、ガマスの姿はかき消すように消えてしまった。
 隊員一同が訝しがる中、TAC資料用の超獣写真を取り損ねた今野は鮫島に写真を回して欲しいと懇願したが、独占スクープにこだわる鮫島は笑ってこれを拒否すると今野を小馬鹿にしたような口調でそのまま去って行った。

 場面は替わってTAC基地本部。超獣が現れたことと消えたことの謎が解けず、写真を見ての協議となったが、前述通り今野がそれを取り損ねたため、写真が無い。だが今野はそれを言い出せず、「まだ現像していないのか?」と問われた際に「そうなんだ。」と言ってしまったため、ドツボにはまった。
 一方、竜隊長は北斗に、自分の許可もなく友人のカメラマンに超獣出現情報伝えた訳を説明するよう告げたが、これは北斗には身に覚えのない事だった。では北斗を知る鮫島は何者で、何故に北斗を知っていたのだろうか?

 そしてその頃、その鮫島はガマスの写真を現像していた。赤いライトの下、現像バットの水の中からできた写真を取り上げている辺り時代を感じるが、デジカメが登場するまではこれが当たり前だったんだよなぁ………。
 ともあれ出来た写真を満足そうに見つめ、「彼に電話しなきゃ。」と呟く鮫島。「彼」とは編集長の早瀬(草野大悟)なる人物で、ナレーションによると、「独身で、お金持ちで、親切」な男で、鮫島そんな彼に「痺れていた。」とのことだった。
 そんな早瀬編集長は、甘ったるい声で鮫島を「純子ちゃん」と呼ぶ口調も、髭面も胡散臭そうに見える人物だった(笑)が、超獣の写真を撮ったと聞いた際の返しが、「やったぜ、ベイビー」…………鮫島よ、本当にこんな男が良いのか?(苦笑)

 その純子は写真がTACにもない特ダネで、グラビアに載せるべし、と告げていた。現代人の感覚では「グラビア」と聞けば水着のねーちゃんを思い浮かべるのだが、ここでいう「グラビア」は本来の意味である凹版印刷としての物を差しているのであろう。元々超獣は裸だし、水着着た超獣など見たくないしな(苦笑)。
 ともあれ、編集長の元へ行くべく、一心不乱にめかし込む鮫島だったが、そこへ今野が訪ねて来た。改めて写真を焼き増して譲って欲しいというのが今野の要件だが、勿論応じる気のない鮫島は、先ほど北斗に渡したと言ってこれを誤魔化した。
 あっさり騙される哀れな今野だったが、更に哀れなことに、鮫島に初恋の人に似ているから今度1枚、彼女自身の写真が欲しいと告げた後に、吐き気満載の表情で「デブ」と愚痴られていたのだった……本当、哀れ……。

 だがそんなコミカルなシーンの裏で、件の写真はとんでもない変貌遂げていた。早い話、写真に写っていたガマスは偶像ではなく、本物が潜んだものだった。鮫島はタクシーで編集部に向かう途中、一万円札しかもっていなかったため、これを崩すため、一時下車して売店に行っていたのだが、その間、運転手が客席に残された写真を覗き込んだところ、写真の中のガマスが動き出し、巨大化しながら写真から飛び出すと、タクシーは爆発・炎上してしまった!
 暴れ出したガマスはすぐに通報され、竜隊長は隊員達に出動を下知。直後に帰投した今野も山中に怒られもって出動に掛かった。さすが山中、北斗だけに厳しいんじゃないのね(笑)。ともあれTACファルコンで出撃した一同。機内にて竜隊長は吉村と北斗にTACアローに分乗してガマスの気を引くよう命じ、自分達はその間にガマスの背後に回り、今度こそRXミサイルをぶち込む、とした。
 北斗と吉村が操縦する2機のTACアローは旋回飛行や錐もみ飛行で巧みにガマスの気を引き付け、TACファルコンも巧みに背後に回り込んだ。そしてRXミサイルがガマスの頭部に次々と打ち込まれ、幾許かのダメージも与えたかに見えた。
 だがガマスは体をしゃがませると体色を変えつつ再度姿を消してしまったのだった。だが何故かこれを竜隊長は成功と判断。遺体を確認するということを知らないのか?
 勿論ガマスは死んでおらず、紫の雲とも煙ともつかない存在と化して空中を漂っていたのだが、その様子を異次元空間にてヤプールが不気味に笑っていた。曰く、「種は撒かれた。」とのことで、紫の雲は小さく分散するとあちこちに飛び、内1つが鮫島の撮影したフィルムに潜り込んだのだった。

 そしてその鮫島のアパートを再訪した今野。「また来たの?」と呆れた鮫島だったが、今野の脇には北斗が立っていた。今野は鮫島に、北斗が彼女のことなど知らないと言っているのを告げ、彼女を嘘吐きと詰った。同時に名前を騙られた北斗もそのことを詰問した。気まずそうにしながらも、取材を可能にするための方便だったことを鮫島はあっさり白状した。
 とはいえ、反省の意を全く見せない鮫島に激昂しかけた北斗を今野が止めた。今野の台詞によると、鮫島の部屋を訪れる道中に車中にて怒らないことを約束していたとのことだから、今野も御人好しな男である。
 ともあれ北斗を制した今野は、自分に対しては「過ぎたことは良い」としながら、彼女の嘘のために「規律を破った。」と言う濡れ衣を被った北斗には詫びて欲しい、と告げた。
 だが、ナレーションにもじゃじゃ馬と言われたこの女、今野の言い分に理解を示しつつも自分にも言い分がある、と主張。TACが取材に規制を掛けることに文句をつけ始めた。詰まる所、北斗の名前を騙ったのも、自由な取材を許さないTACが悪いかのような物言いだった。
 最初は努めて冷静に彼女を諭そうとして、市民の安全優先を重んじた処置と説明した北斗だったが、鮫島はあくまで報道の自由を阻害する言い訳としか受け止めず、北斗の論を揶揄したり、自分が今もピンピンしていることを差して安全配慮まで一蹴したりする始末。勿論自分が嘘をついたことに対する謝罪や反省など一切なく、だんだん怒りがエスカレートした北斗は室内に上がり込み、ついにはビンタまで食らわせた。子供には甘いほど優しい北斗だが、意外にも女性に甘くはなかった。

 軽いビンタとはいえ、暴力を振るわれたのは意外だったらしく、しばし呆然とした鮫島だったが、次の瞬間今野に泣きついた。泣きつかれたからという訳じゃないんだろうけれど今野は、さすがに暴力はイカン、として北斗に謝罪を求めた。だが、つい手が出たことを気まずそうにしながらも北斗は謝罪を拒否し、今野が写真撮り損ねを隊長に言えないなら自分が報告する、と告げて帰ってしまった。
 どうやら今野は写真撮り損ねを北斗だけに打ち明けたらしく、北斗を裏切り者呼ばわりし出した。だが北斗が返ると、鮫島は今野に写真の焼き増しを譲ると申し出た。罪悪感を払拭するためか、単に今野を味方につける為かはわからないが、少し顔を赤らめてこれに感謝する今野…………純情な奴である(苦笑)。

 その場で焼き増しされた写真を貰い、TAC基地に戻った今野。幸い、北斗に確認したところ、隊長達には話していないとのこと。それを聞いて安堵したのだが、写真を見た北斗は、写真に写っているガマスが現場で持っていなかった筈の剣を持って映っているのを見て、おかしいと指摘した。
 やっとの思いで入手した写真にケチをつけるなと突っぱねた今野だったが、ガマスが剣を持っていなかったのを見ていたのは北斗だけではなく、竜隊長も、山中もこれをおかしいとした。当たり前か(笑)。
 竜隊長は実験を命じ、梶主任指導の下、紫外線・放射線や各種ガス等が照射されたが写真に反応はなかった。しかし最後にある種の音波を照射したところ、写真の中のガマスが蠢き出し、誰の目にも写真が異常な存在であることが明らかになった。
 竜隊長は即座に写真の焼却を命じ、写真が燃えたことで中にいたガマスも燃え尽きた。竜隊長は次いで今野にネガも焼き捨てるよう命じた。梶主任もネガがあれば焼き増しした分だけ超獣を増やすことになる、と警告。事ここに至って北斗と今野はしょーもないミスを取り繕うために隠し事をしている場合でないことを悟り、写真入手に関する真実を告白することを決心した。

 すべての事情を知った山中、今野、北斗は再々度鮫島の元へ急行。半ば恫喝気味にネガも寄越せ、と彼女に迫った。勿論事情を知らない鮫島に応じる気はなかったが、「議論をしている暇はない!」と北斗に凄まれ、渋々ネガは既に編集部に渡ったことを告げた。
 自分の撮影した写真が10万部の発行部数を誇るグラビア誌の巻頭を飾る、と得意げに話す鮫島。勿論TACの3人は戦慄した。鮫島の言った通りなら、刷られた雑誌の数だけ超獣が音波を号令に世に放たれることになる!しかもその数は10万!!!
 当然、3人は鮫島を捨て置いて編集部に印刷の差し止めをさせようと急行した。だが詳しい事情を語られていない鮫島は自分の写真がグラビアの巻頭を飾ることを邪魔させじ、とタクシーにTACパンサーを追わせた。

 だがTACパンサーやタクシーが到着するより先に編集部の写真からはガマスが飛び出し、編集部は破壊され、炎上していた。編集長の身を案じて飛び込もうとする鮫島を取り押さえる今野。北斗・夕子を指揮してガマスを迎撃する山中。そして基地からはTACファルコンにて竜隊長、吉村、美川がRXミサイルによる空爆を敢行したが、然したるダメージを与えられず、終いにはRXミサイルはガマスに叩き落されて火災を起こし、TACファルコンも手裏剣攻撃を受けて不時着に追いやられる始末だった。
 これを見た北斗と夕子のウルトラリングが光り、2人はウルトラタッチでAに変身した。Aは不時着しようとしていたTACファルコンをキャッチして救出した。直後、最初で最後の戦いに入ったAとガマスガマスは吹き矢、手裏剣、撒き菱、と如何にも忍者超獣らしい武器を駆使したり、ショートテレポートでAを幻惑させたりしたが、取っ組み合い・殴り合いでは明らかにAに分があった。
 どうやら忍者超獣らしく、忍び込んだり、不意を打ったりするのが専門で、直の殴り合いは専門外だったようである。得物の槍を奪われ、姿隠しも通じずに自分の武器で刺され、地面に倒れ伏したところにとどめのパンチレーザースペシャルを受けて爆死したのだった。
 ガマスは強くはなかったが、ある意味、忍者超獣という肩書に対してなかなかに忠実だった超獣といえた。

 そしてラストはTAC基地本部。改めてヤプールの深慮遠謀に舌を巻いていたTACの面々は今野の取り損ねを却って良かったとしていた。超獣10万匹も恐ろしい話だったが、もし今野が撮影に成功していれば、TAC基地が内部から破壊されていた可能性が濃厚だったからである。
 そこへ噂をすればなんとやらで鮫島からネガを回収して来た今野が帰還した。ネガフィルムは山中のTACガンで「処刑」され、事件は完全に解決した。そして北斗はじゃじゃ馬・鮫島があっさりネガを返したことに軽い驚きを示すとともに、もう関わらない方が良い、と今野に話しかけたが、当の今野は妙にニコニコしている(口頭上では彼女のことを怒っているとしていたのにである)。
 直後、今野は食事休憩を隊長に求め、これを許可されたが、にやけ面は誰の目にも明らかだった(←関係ないが、それを指摘する山中の手が何故か夕子の肩を抱いていた)。もう展開上バレバレだったが、今野は鮫島と付き合い出していた。食事休憩は勿論鮫島に会いに行く口実である。
 そしてこの行動は何故かTAC基地でモニタリングされており、一同は一様に今野のデレデレ振りを笑ってみていたが、北斗は今野が鮫島のような女を選んだことを不可解に思い、山中に至っては介入しに外へ出ようとしていた(←まさかとは思うが、婚約者を失ったばかりで、人の幸せが耐えられなかった??)。
 そんな中、竜隊長は山中を止めながら、それなりの年齢でありながら初恋の人の面影を追う今野の純情さを邪魔しないように諭した。もっとも、「目が覚めるまで」としていたから、TACにおける鮫島の評判はやはりよくないのだろう(苦笑)。
 そんな経過を半ば呆れる様に、山中は「恋は盲目。」と呟き(←人のこと言えんぞ、山中)、続けて北斗は「女は魔物。」とした。だが、女性が2人もいるチーム内で掛かる台詞は賢明と言えず、案の定、夕子に足を踏まれて悲鳴を上げるのだった。
 しかし、この時の夕子の無表情が結構不気味だったと思うのはシルバータイタンだけだろうか?


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平成三〇(2018)年七月一〇日 最終更新