仮面ライダーアマゾン全話解説
第20話 モグラ獣人 最後の活躍!!
監督:塚田正煕
脚本:伊上勝
キノコ獣人登場
サブタイトル「モグラ獣人 最後の活躍!!」か……………思うのだが、この絶望的なラストをいきなり突きつけるサブタイトル、何とかならなかったものだろうか……………それでなくても、「ゲルショッカー全滅!首領の最期」、「デストロン最期の日」、「さようならタックル 最後の活躍」、「ゴルゴム最期の日」等々、サブタイトルの中には「いきなりネタバレするんじゃねぇ!」と云いたくなるものが少なくない。
まあ、最終回は致し方ない面もあるが、それでもモグラ獣人がアマゾンの味方となって活躍する詳細を知る前にこのサブタイトルを見た時には、「ああ、途中でコイツ死ぬのか………。」と肩を落としたものだった…………。
閑話休題。冒頭は新宿副都心から始まった。
都庁前を「山田養豚御一行様」と掲げられたバスが走り、中には典型的なお上りさんが東京見物を楽しんでいた。そしてそのバスに二人の黒ジューシャが乗り込み、窓から何やら車内に投げ込んだことで車中は惨劇の場と化した。
黒ジューシャの放った緑色の粉末状のものは人体に憑りつくや、車内にいた人々は忽ち悶絶死した。恐らく新兵器の実験と思われるが、成功を見届けた黒ジューシャは一人の少女・リサ(下野照美)が一部始終を目撃していたのに気付き、口封じに掛った。
とある公園に逃げ込んだリサだったが、忽ち4人の黒ジューシャに包囲された。「見たな?」という黒ジューシャに「はい、見ました。」という筈もなく、「助けて、私何も見ないわ。」と返したリサだったが、勿論黒ジューシャが「はいそうですか、さいなら。」という筈もなく(苦笑)、包囲を狭めて来た。
ちなみにこのリサを演じた下野照美さんは『仮面ライダーX 』第9話で一村丸ごとGODに洗脳される中、辛うじて一人Xライダーの元に逃げ込んだ少女ミキ役を演じた子役さんである。少し表情が暗めの方なので、悲劇に遭遇する役が似合っているのだろうか?
ともあれ、必死に包囲の隙間を縫って逃げるリサを黒ジューシャが追ったのだが、いきなり先頭の一人がぶっ飛ばされた。
救いの主はモグラ獣人。これまでほぼ通報役でガランダーの獣人はおろか、黒ジューシャ達さえ接敵しようとしなかったモグラ獣人だったが、この時ばかりは悪事は許さんとばかりにリサを手元に庇いつつ、黒ジューシャ達の前に立ちはだかった。
その敢然とした姿勢に気圧されたものか、「も、モグラっ!」と一言狼狽えた声を発しただけで4人とも逃げて行ってしまった。
虎口を脱したリサを介抱しようとしたモグラ獣人だったが、助かったことで緊張の糸が切れたのか、それても本当に異形のモグラ獣人が怖かったのか(苦笑)、リサは「怖い…。」と云って泣き出してしまった。
そこにタイミング悪く駆け付けたアマゾンが誤解とはいえ、「何をいじめてんだ?!」と詰るものだから、何ともモグラ獣人にはトホホなワンシーンだった。確かに人命救助してこれは無いよな(苦笑)。
まあ、すぐにモグラ獣人の釈明を聞き、リサもそれが事実であることを承認したから誤解は解けた、次いでガランダーによるテロが起きたことも知らされたのだった。
場面は替わってガランダー帝国アジト。
そこでは最前の黒ジューシャ達が「東京カビ全滅作戦」なる作戦の為の実験が成功したことを報告したのだが、それに対してゼロ大帝は「報告はそれだけかな?」と冷たく云い放った。
要するに黒ジューシャが伏せた都合の悪い事実−実験を少女に目撃され、その少女を取り逃がした上、アマゾン・モグラ獣人の保護下に入ったことはゼロ大帝の知るところとなっていたのだった。話数の少なさ故か具体的言及は最後までなかったのだが、どうもゼロ大帝は別途の間諜を擁しているようである。少なくとも全話を通じて獣人や黒ジューシャ達がゼロ大帝を欺くのは不可能だった。
この後、具体的描写は無かったが、4人の黒ジューシャは「血の掟」に基づいて処刑されることが宣告されたのだった。
場面は替わってとある団地。
一般ピープルがささやかな幸せを享受する日常が突如ガランダー帝国によって踏み躙られた。ある一室に住む夫婦が異変を察知した時、団地中が冒頭でバスを襲ったのと同じ緑色の粉末上の異物に覆われていた。
そしてそこを闊歩していたキノコ獣人が口から粉末を吐くとそれ等は夫婦を含む団地中の人々を襲い出し、次々と死に至らしめたのだった。
何とも恐ろしく、不気味なテロ行為だが、それを指揮するキノコ獣人もまた、その容姿(体中に生えたキノコ、青黒い色彩、方々から延びる長毛、如何にも毒キノコ的なキノコで象られた両眼)はガランダー獣人の中でも屈指の不気味さだった。既にこのキノコ獣人が如何に憎き出来事をやらかすかを知っているからそう見えてしまうのだろうか?
ともあれ、団地の全住人はバス乗客乗員同様、悶絶死した上、死体も残らなかった。唯一人の赤ん坊を除いて…………。
しばらくしてアマゾンはマサヒコからこの事件を聞いた。同時にモグラ獣人が先のガランダーが絡んだバス蒸発事件と関係あるのかも?とした。そしてそんな中、唯一人赤ん坊だけが助かり、病院に保護されたとマサヒコが述べると、モグラ獣人がそれは危ないとした。
団地の住人が皆いなくなった中、一人助かった存在となると、アマゾン達にとっては事件解決への重要な手掛かりである。だが、同時にガランダー帝国にして見れば作戦失敗の要因を保持する存在で、赤ん坊をガランダー帝国が狙ってくるであろうことは誰の目にも明らかだった。
場面は替わって小野田病院。
助かった赤ん坊をあやしつつ、一人の看護士が何故にこの赤ちゃん一人が助かったのか?と呟いていた。するとそこに「俺もそれを知りたいのだ。」とキノコ獣人が現れた。勿論、一般ピープル、それも女性と来ては看護士さんは悲鳴を上げるしかなかった。
それでも必死に赤ん坊を抱きかかえて庇い、強奪されて尚もキノコ獣人の腕に取り縋るこの看護士さん、職業人としても、人としても立派な方である。力では全然敵ではないながら、必死に抵抗する看護士さんに業を煮やしたはキノコ獣人は彼女をベッドに抑え込んで殺害せんとしたが、そこにタイミングよくアマゾンが入って来た。
勿論赤ん坊を奪い返しにかかるアマゾンだったが、当然の様にキノコ獣人はその身柄をたてに抵抗中止を強要したから勝負にならない。何とか赤ん坊を助けなくては、と考えたアマゾンは仮面ライダーアマゾンに変身。何故か赤ん坊の存在を忘れたかのようにキノコ獣人へ猛攻を仕掛け(苦笑)、慌てたキノコ獣人はジャンプして逃れんとした。
しかし、飛翔能力を持つ生物がモチーフとなった獣人ならともかく、そうでないものがアマゾンライダーと空中でやり合うなど愚の骨頂。キノコ獣人は空中であっさりアマゾンライダーに赤ん坊を奪い返されて、悪態を突きながら撤退した。どうやらコイツも素の戦闘能力ではアマゾンに抗し得ないようだな(苦笑)。
かくして赤ん坊は無事保護され、病室に戻された。だが相変わらず赤ん坊が助かった理由は医師にも謎だった。するとそこへマサヒコとりつ子が駆け込み、高速道路を車で走っていた人が30人もカビによるテロで溶かされたと云う悲劇が知らされた。
厄介なことに人々を溶かしたカビも時間とともに消え失せ、目撃以外の所謂、物的証拠がなかった。それゆえ、団地の人々も当初は「蒸発」と見られていた。ただ姉弟の証言から「カビ」という重要キーワードが掴めた訳で、医師はせめてそのカビが入手出来れば、赤ん坊が助かった理由の判明や解毒剤の精製も見込めるとした。
とにかくカビを手に入れなければ、として出動しようとしたアマゾンだったが、そこに突如現れたモグラ獣人がこれを押し留めた。情報収集を得意とする自分にカビの入手を任せろとするモグラ獣人だったが、マサヒコは「大丈夫かい?」と口にし、アマゾンもやはり自分が良く、としたが、モグラ獣人は執拗に自分に任せろ、と強弁した。
せっかくのやる気に水を差すのも悪いと思ったものか、藤兵衛が行かせてやれと云ったことでカビ入手はモグラ獣人に一任されることとなった。そんなモグラ獣人が退室しようとする際に、「気を付けてね。」と声を掛けるりつ子……………やはりこの後の結末を知っているとアマゾンの不安も、りつ子の心配も切ないよなあ………。
そしてBパートに入ると、モグラ獣人の姿は早くも探し当てたキノコ獣人の前衛基地−芝浦水道門の地下にあった。隠れているモグラ獣人に気付いたキノコ獣人だったが、そのキノコ獣人に対してモグラ獣人は降伏を申し出た。
ガランダーとは戦いたくないとするモグラ獣人に「それでもゲドンの獣人か!?」と詰るキノコ獣人だったが、モグラ獣人は恥も外聞も捨てて、ガランダー帝国のために、キノコ獣人のために尽くすと云う。
情けないまでに下手に出るモグラ獣人を訝しげに見ていたキノコ獣人だったが、まだ味方であると信じている隙を突いてアマゾンに殺人カビを植え付けて殺害すると云うモグラ獣人の提案は魅力的だったようで、アジト内に招じ入れた。勿論、モグラ獣人の申し出が本当なら、なのであるが。
案内されたアジトの一室では殺人カビが大量生産中で、キノコ獣人によると後3日で東京中にばらまけるだけの量が確保出来るとのことだった。その前にアマゾンを倒せれば上々として、キノコ獣人は黒ジューシャにボール状のカプセルに入れたカビを持って来させるとモグラ獣人にこれを託した。
勿論モグラ獣人がキノコ獣人に申し出たことはカビを騙し取る為の狂言である。まんまと騙し取れたことをほくそ笑み、上機嫌でキノコ獣人を揶揄しながら帰途につくモグラ獣人だったが、この台詞を聞かれたものか否か、結局信用されておらず、後一歩のところでキノコ獣人に襲撃された。
カビに巻かれて怯むモグラ獣人を取り押さえつつ、「どうせこんなことだろうと思ったぜ!モグラ、どうやら最期の時のようだな!」と凄むモグラ獣人。これに対して半ば己の運命を悟ったものか、「どうやらそうらしいな。」としつつも、意を決して「だが俺もモグラ獣人だ。只は死なんぞ!」と云い放ち、キノコ獣人に体当たりをかました。
だが悲しいかな、この後にキノコ獣人も口にしていたように、ゲドン獣人とガランダー獣人とでは格が違い、モグラ獣人はキノコ獣人の膝蹴りと手刀打ちに叩きのめされたところを黒ジューシャ二人に取り押さえられ、散々っぱら殴りつけられた。
完全グロッキーとなったモグラ獣人を黒ジューシャが離したところでキノコ獣人は口腔部から殺人カビをモグラ獣人に噴射して植え込み、最後の力を振り絞って地中に逃げるモグラ獣人に対して、「逃げてもそのカビで貴様は終わりだ!」と絶望的な台詞を浴びせたのだった…………。
場面は替わって小野田病院。そこにカビ塗れとなり、息絶え絶え状態でモグラ獣人が戻って来た。心配して駆け寄るアマゾン達に弱々しい声で自分の頭部を指さしながらモグラ獣人は云った、「手に入れたぜ、カビを」………そう、モグラ獣人は自らが申し出た任務を完遂したのである………その身を犠牲にして。初めてこのシーンを見た時、道場主は「こいつ、良い根性している……。」とうなり声をあげたのを昨日のことように覚えている。
すぐにカビを採取するよう藤兵衛が医師に促したが、モグラ獣人はそれを制するとマサヒコに「モグラを尊敬するかい?」と尋ねた。勿論マサヒコはそれを肯定し、続けてりつ子も「立派よ、モグラさん。」と声を掛けた。
これに対し、弱々しい声で「ありがとう、初めて褒めてくれたね。」と返したモグラ獣人。ここまで来ると第19話終了時の次回予告や冒頭でのサブタイトルを見損ねた人でもモグラ獣人の運命は読めたことだろう。さすがに最後の最後に人々の役に立ちたい、人々に認められたい、と念じていたモグラ獣人の想いに涙を禁じ得ない。
勿論、モグラ獣人にも心残りはあったと思われるが、まずは身近な人間である岡村姉弟に認められたことを一つの満足としたものか、モグラ獣人は今度こそ医師に早くカビを採取するよう促した。
採取したカビを顕微鏡で見て、試験管で何らかの検査を試みる医師に瀕死のモグラ獣人は解毒剤の一刻も早い完成を促し続けた。せめてそれを見届けるまでは死ぬに死ねないとするモグラ獣人をアマゾンは体に付着したカビを落としたりしながら介抱し、藤兵衛も「もう少しだ、頑張れ!」と叱咤激励した。
そして程なく、解毒剤は完成した。こんなシリアスなシーンに些か不穏当な解説かも知れんが、冷静に考えて、この医師、物凄い凄腕である。ある毒物に対する解毒剤を精製するにはその毒成分を把握し、それに対抗出来る成分を生成しなくてはならない。医学に関して素人が下手な口を挟むべきではないと思うので簡単に述べるが、蛇毒を元にその毒を直す血清を作る工程と軽く比較しただけでも、光学顕微鏡(←電子顕微鏡ではない)と試験管だけで初見の毒物に対する解毒剤を作った訳だから、世界中の医学研究機関は勿論、悪の組織もこの医師の存在を知れば欲しがることだろう。
だが、アマゾン達を取り巻く事態はそんな想像を巡らしている場合ではなかった。出来たばかりの解毒剤を医師から渡されたアマゾンはモグラ獣人の命を救うべく、これを服用させんとしたが、当のモグラ獣人は「俺には無駄だ。」と云って服用を拒んだ。
それでも飲まさんとしたアマゾンだったが、結局モグラ獣人がこれを飲むことは無かった。恐らくもはや自分の身には手遅れと自覚し、それならばアマゾンに有効活用して欲しいと考えていたのだろう。服用を拒むモグラ獣人から出た言葉は、「もう心残りは無い。」だった。
キノコ獣人の工場が芝浦水門の地下にあることを告げるモグラ獣人は伝えるべきを伝えるとアマゾンに「行ってくれ。」と促して脱力した。恐らく解毒剤が一刻も早く出来ることでモグラ獣人が助かることに一縷の望みを託していたのが、その可能性がなくなったことでマサヒコは堰を切った様に「モグラ!死んじゃ嫌だ!」と泣き叫んだ。
りつ子も「死んじゃ嫌よ、モグラさん!」と続け、最後の最後に自分に向けられた思いに感謝の言葉を返すと、アマゾンとマサヒコの名を口にし、「憎いガランダーを倒してく、頼む、頼むよ……。」と懇願。そしてこれがモグラ獣人最後の言葉となったのだった……。
アマゾン、岡村りつ子・マサヒコ姉弟、立花藤兵衛、医師と看護士の6人に看取られてモグラ獣人はこの世を去った。尚も泣き叫ぶマサヒコとりつ子を残し、託された解毒剤を手に無言で病院屋上に出たアマゾン。涙こそ零さなかったものの、「トモダチ」を失ったその悲しみと怒りは岡村姉弟のそれに劣らず、憤怒と悲哀が入り混じった形相で金網を掴むと「モグラ……。」と彼の名を口にして金網を離すとその場で仮面ライダーアマゾンに変身した。
勿論向かうは芝浦水門地下である。
そこではキノコ獣人が黒ジューシャ達に全員出動を命じ、使用するカビを集めていざ出動せんとしたところにアマゾンライダーが飛び込んで来た。恐らくキノコ獣人側ではモグラ獣人がアマゾンの元に戻る前に落命するか、辿り着いたとしてもそう簡単に反撃出来る体制が整わないと見ていたか、アマゾンライダーの乱入に対して目に見えて驚いていた。
例によってキノコ獣人の前に黒ジューシャ達が立ち向かった訳だが、「トモダチ」モグラ獣人を失った直後とあってか、一人一人の黒ジューシャを打ち倒すのにも、いつも以上に力が入っているように見えた。
次々と黒ジューシャが倒されるの見てキノコ獣人は自分一人ので作戦遂行を決断。だがすぐにアマゾンライダーはこれに追いつき、正面にあった階段上に立ちはだかった。
これに対して、「馬鹿め、キノコの威力を忘れたか!」を叫んでサルノコシカケの欠片の様な物を投げ付けるキノコ獣人………「忘れたか」も何も、そもそもコイツのカビ攻撃は一度もアマゾンライダーに放たれていない(苦笑)。コイツこそ自分の行動を「忘れたか」と云ってやりたい(苦笑)。
ともあれ、サルノコシカケの様な物から凄まじい勢いで件のカビが噴出し、アマゾンライダーの体はカビ塗れとなったのだが、カビの威力は一行に現れなかった。必殺の武器が全く功を奏さず狼狽えるキノコ獣人にアマゾンライダーはモグラ獣人の最後の想いをぶつける様に、「既にそのカビに力は無い。」と云って、キノコ獣人にとっての絶望的な事実をぶつけた。
尚も事態が信じられないキノコ獣人にアマゾンライダーは、「モグラの持ってきたカビで生き残った赤ちゃんの謎が解けたのだ。」、「あの赤ちゃんは風邪を引いていた。つまり、そのカビはビールス菌に弱い。そして解毒剤も出来た。」と視聴者にも分かる様に(笑)すべてを語ってくれた。
ここで一つ野暮な余談を御許し願いたい。
この第20話の初見でこのアマゾンライダーの台詞を聞いとき、道場主は「あの医者、マジ凄ええぇぇぇぇ!!」と思った。よく巷間に「風邪薬が作れたらノーベル賞ものだ。」と本当の意味での風邪薬は開発されていない。風邪を引いたときに医師から処方される薬は発熱・咳・悪寒といった風邪の諸症状に対する対症療法を為すもので、風邪自体の起根治療法は令和6(2024)年2月1日現在も不明である。
だが、殺人カビと風邪の因果関係を解明し、風邪のヴィールスに弱いカビの能力を無効化出来る解毒剤を数時間もせずに精製したこの医師、真の風邪薬を開発する能力を充分に持っている筈である。
モグラ獣人殉職がストーリーの核である以上、話としては目立たないし、シリアスな展開にかかる余談が野暮なの百も承知なのだが、純粋にこの医師一人にスポットライトを当てるとその能力は凄まじいものが有るのを言及せずにはいられないシルバータイタンだった。
閑話休題。殺人カビが無用の長物であることを告げたアマゾンライダーは狼狽するキノコ獣人に対して、「モグラに替わって貴様を倒す!」と締め括って、その無念を晴らすことを宣言した。
「くそぉ〜あのモグラめ……貴様、解毒剤を飲んでいたのか!」とするキノコ獣人の後悔も、事態に対する得心も、今となっては後のカーニバルだった。自棄糞的にアマゾンライダーに突進するキノコ獣人だったが、勿論叶う筈なく、蹴り三発からコンクリートの壁に磔にされるようにボコボコにぶん殴られた。やはり、いつもと気迫が違ったな。
殆んど戦意喪失でその場に半ばヘタレ込んだキノコ獣人だったが、アマゾンライダーは飛び蹴りを入れ、キノコ獣人に背中を向けたかと思うと「モグラ〜〜〜!!!」と「トモダチ」の名を絶叫し、辛うじて立ち上がったキノコ獣人に水平チョップを食らわせた。
為す術なくぶっ飛ばされるキノコ獣人。そしてそこに仮面ライダーアマゾン怒りの大切断が炸裂。植物を素体とした獣人故、その傷口から体液が迸ることは無かったが、ぱっくり開いた傷口はその分グロテスクで、キノコ獣人は呻き声をあげながら絶命したのだった。
そしてラストシーン。
小高い丘の斜面にモグラ獣人の墓が作られた。墓標の代わりにモグラ獣人の頭部を象った石像が置かれ、そこにアマゾンが菊の花を手向け、マサヒコが「勇気の士 モグラ獣人の墓」と書かれたプレートを設置した。
手向けられた花は四本で、恐らく墓前のアマゾン、マサヒコ、りつ子、藤兵衛が個々に手向けたのだろう。一同が悲しみに暮れ、りつ子とマサヒコが涙を浮かべる中、ナレーションがアマゾンの想いを代弁した。
「モグラ獣人はガランダーと戦い立派に死んだ。アマゾンはその死を悲しみつつガランダーに対する激しい怒りに燃えていた。そして来たるべきゼロ大帝との対決の日が近いこのをその肌で感じていた。」と。
個人的な感傷だが、本来シルバータイタンは「立派に死んだ。」という表現は好きではない。どんな崇高な目的があろうとその為に死が強要されることがあってはならないと信じる故に。同時に何かの為に「立派に死ぬ」という事が戦時中の国家の為に死ぬことを強要した軍国主義的な思想を連想してしまうという事への忌避感もある(まあそこまで単純に歴史を見てはいないが)。
だが、あくまで感傷であって、モグラ獣人が「立派に死んだ」はその通りだと思っている。ゲドンによって獣人に改造され、同じ改造人間であってもアマゾンのように人間体で大勢の仲間と共に社会に過ごすことの出来ない身の上だったモグラ獣人はキノコ獣人に狂言した様に、アマゾンを裏切ってガランダー帝国の一員として獣人らしく生きる道もあった(実際、裏切った当初はゲドンへの帰参も少しは考えていた)。
しかし、モグラ獣人はそうはせず、また仲間も視聴者も誰一人彼が裏切るとは考えなかったことだろう。そしてモグラ獣人は致命傷を負って尚カビを仲間の元に持ち帰り、そのサンプルと情報により東京全滅作戦は見事に阻止された。
モグラ獣人が我が身も顧みず行動してくれなければ解毒剤は作られず、作れたとしてもそれまでに大勢の都民が犠牲になったであろうことは想像に難くない。モグラ獣人が命を張ったお陰で救われた命を考えるとその死は「立派」という他は無い。
逆を云えば、失われた命は帰って来ないからこそ、せめてもの慰めに、その死が決して無駄ではなかったことを強調して戦死者とは敢えてその死を賞賛されるのかもしれない。モグラ獣人の死が「立派」であることに微塵の疑問も無いが、やはり後から「立派」と考えなければならない死そのものが願わくば避けられたいものである。
ともあれ、多大な怒りと悲しみを背景に第20話は終結したのだった。
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令和六(2024)年二月三日 最終更新