宇宙刑事ギャバン全話解説

第10話 人間クラッシャー部隊を撃破せよ!

脚本:上原正三
監督:奥中惇夫
ニジチョウモンスター登場


 冒頭、場面は魔空城で始まった。そこでは人間クラッシャーを生み出す作戦が謀議されていた。人工筋肉を移植することで人間を常人の5倍の強さを持つ兵士に出来るとのことだったが、移植に耐える為には人並外れた身体能力が求められた。
 マクーはその候補者を集め、鍛え、人工筋肉を移植する作戦実行をダブルマン・ゾンビBとダブルガールに命じ、人間態となった ダブルマン・ゾンビB(新井和夫)にハンターキラーが厳選した候補者のリストを渡し、作戦開始を命じた。

 場面は替わって東南大学。
 一人のボクサーの元に元を訪れたダブルマン・ゾンビBとダブルガールは、好調な仕上がりを見せたボクサー・野田に歩み寄り、ダブルマン・ゾンビBが「まだスナップの効かせ方が甘いね。」と声を掛けた。
 いきなり揶揄する様な云い方をする見知らぬ初老の男を訝しがる野田にダブルマン・ゾンビBが渡した名刺には「ワールドスポーツクラブ スポーツドクター 小島俊」と記載してあった。そして自分の科学力をもってすれば野田のパンチ力は2倍にも、3倍にもなる、と持ち掛けた。
 そして小島は同じ要領で剣道選手・アキラを初め、様々な優秀スポーツ選手を自分の元に勧誘した。だが、そんなスポーツ選手の中に、偶然小次郎の甥・ミチルがいたことで、怪しい計画は烈の知るところとなった。

 豪介に命じられて馬の飼料である人参買い出しに出た烈はその途中で遭遇した小次郎から胡散臭いスカウトマンの話を聞かされた。そのスカウトマンは高校生に「時速160キロのボールを投げられるようになる。」と云うのだ。「プロでもせいぜい150キロ」と云って本気にしない烈だったが、勧誘を受けたのは小次郎の甥だという。何だかんだ云って、小次郎は事件解決にギャバンが介入するキーパーソンになることが多いな(笑)。

 ともあれ、小次郎と共にクラブにてスポーツ選手達のトレーニングを観察した烈だったが、驚異的な身体能力を発揮する為のものとは思えない温いトレーニングであることと、指揮する小島にいけ好かないものを感じるのみで、それだけでは介入する理由も無かった。
 そんな烈の視線を気付かぬ振りをしながら選手達を指導するダブルマン・ゾンビBは内心密かに練習生の手でギャバンを殺させんとの意を持ち、側にいたダブルガールが選手たちを魔空ロードに連行すべしと耳打ちした。

 この魔空ロード、どうやら魔空空間同様の疑似的ブラックホールらしく、そこの入り込んだ選手達は通常空間から忽然と姿を消した形になり、そこにはニジチョウモンスターが待ち受けていた。そしてモンスターからは鱗粉が放たれ、その鱗粉には人を洗脳する効果があるようで、体を鍛えて人間クラッシャーとなって忠誠を誓えというドン・ホラーに若者達は唯々諾々と応じたのだった。
 その若者達が忽然と消えたことに驚愕する烈と小次郎。その姿を探し求める二人の元に剣道選手・アキラの妹、ヨシコとアキコが兄を迎えに来た。その兄の行方が分からず首を捻っていたところにアキラが何事も無かった様に現れ、哀れにも烈と小次郎は嘘つき呼ばわりされた。
 更にはミチルが現れたことで小次郎は甥に問うたが、ミチルは普通にロード・ワークに出ていただけだと云う。こうなったらスポーツドクターを問い詰めんとした二人だったが、グランドにいた選手曰く、もう帰ったとのことだった。

 だが、その場で烈と小次郎を誤魔化したものの、異変は起きていた。帰宅した選手達は全員が家庭内暴力を振るうようになっていて、ヨシコとアキコはアバロン乗馬クラブでその異変を訴えていた。
 話を聞いた豪介と当山は食べ物を粗末にするアキラがいけないようなことを口にし、わかばと陽一に促された姉妹は学校に向かったが、兄の変貌に戸惑いを隠せない様子だった。

 どう考えてもスポーツドクターが怪しいと見た烈はその行方を追い、別途探索していたミミーからの知らせで特訓場を突き止めた。その特訓場となっている体育館では選手達が基礎的な筋力を鍛える為の、過剰とも云えるトレーニングに励み、教官に化けたクラッシャー達が竹刀を振るって叱咤してスパルタ教育を施してた。
 その異様さに余程確信があったのか、館内に入り込んだ烈は有無を云わさず小島と秘書に蹴りを入れ、二人はダブルマン・ゾンビBとダブルガールの姿を露わにした。ダブルマン・ゾンビBが号令すると周囲のコーチもクラッシャーの姿を現し、烈を迎撃した。

 途中蒸着したギャバンはしばしの殺陣を展開。やがて花火のような煙幕を発してダブルマン・ゾンビBもクラッシャー達も姿を消した。ふと気づくと館内からは若者達が次々と出て来たのだが、全員呆然自失状態で、とても正気とは思えなかったが、全員家に帰されたのだった。

 だが、こんな状態でその後何もない筈がなく、烈がアキラの家の前を通りかかるとそこではアキコが今にも泣き出しそうな顔で突っ立っていた。宅内から出て来たヨシコによると、アキラはスポーツクラブに行くなと命じる父親を振り切って家出したとのことだった。そりゃいくらスポーツに優れていても未成年である(ボクサーはとても未成年に見えなかったが(苦笑))。クラブから帰る度に呆然自失状態だったり、家庭内で暴力を振るったりするとあっては誰だって怪しむ。
 ともあれ、兄の家出を受けてアキコは喋ることも出来ないほどのショック状態だったが、烈が「きっと元気に帰って来る。」と聞くと笑顔に転じた。まあ、フィクションだからいいけど、現実では根拠のない確約励ましはよそうな。無事に帰って来れなかった時のショックが大き過ぎるので。

 Bパートに入り、ドルギランに戻った烈はミミーにも出動を命じた。アキラだけではなく、他の選手達も全員が家出したと云うのである。そして家出した若者達はとある山中で更なる特訓に励んでいたが、先のグランドでのそれとは異なり、明らかに人を殺害する為の訓練だった。
 剣士であるアキラが人形を斬り付けたり、ボクサーが剣撃を繰り返したりしていたのは普通だったが、陸上選手は槍投げに取り組み、野球選手やサッカー選手までもが鉄球を用いた破壊訓練を行っていた。
 同時にすぐに本拠を変えただけあって、ダブルマン・ゾンビBとダブルガールはギャバンの追跡も警戒していた様で、ダブルガールが南南西10qにドルギランが迫っていることを告げるとダブルマン・ゾンビBは即座に洞窟に隠れることを命じ、改造手術を急いだ方が良いと話し合った。

 そのドルギラン内では烈が山中を目視で、ミミーがレーダーを駆使して捜索していて、やがてミミーは体温反応から月見山5qの地点を指し、「動物かも知れない。」としたのを承知の上で烈は捜索を決意した。
 他に手掛かりが無いなら少しで怪しい場所を探すのは分かるが、そうこうしている内にアキラが手術に掛けられようとしていたのだから、もし見当外れならかなりの痛手であるから、現実に即すとこの判断は難しい。
 とはいえ、フィクションのことでもあってこの的当ては当たることになる(笑)。烈は得意の体術で崖上に登攀したが、待っていたのは三人のクラッシャーに率いられた、マインド・コントロール下にある選手達だった。
 空手家が素手でにじり寄るのはまあ差ほどでもないが、陸上選手がそこそこ大きい槍を持ち、野球選手やサッカー選手が鉄製のボールを携えて10人以上で迫るのは現実にはかなり怖い状況である。しかもボクサー達の嵌めていたグローブはピカレスク・マッチ(棘々の付いたグローブ。詳しくは『魁!!男塾』第3巻参照)用の物だった。
 加えて烈は若者達に危害を加える訳に行かず、正気を取り戻すことを訴えたが、そんなことぐらいで元に戻れば誰も苦労は要らない。その分、クラッシャー達には容赦ない反撃を加えていたが(笑)

 やがてそこにニジチョウモンスターが乱入。蝶型の怪物らしく、滑空しては烈を翻弄するが決定打が出ない。口腔部から噴出した鱗粉は烈の視力を低下させる効果を持つ様で、鱗粉を吹き付けられた烈はクラッシャーにもそこそこ苦戦していたが、程なくギャバンに蒸着すると「そんな鱗粉など知らん!」と云わんばかりに鱗粉の効果は失せていた(苦笑)
 そして滑空攻撃ではそこそこ烈を翻弄したニジチョウモンスターだったが、地上戦では無駄にでかい頭部のせいか動きは鈍重で、逆に口吻部をひっつかんだギャバンにぶん回されて周囲のクラッシャー達を蹴散らす始末だった(苦笑)。
 これを見ていたダブルガールはギャバンが迫っていることをダブルマン・ゾンビBに告げ、執刀しようとしていたダブルマン・ゾンビBはアキラへの施術を急がんとした。
 その間、ギャバンはエレクトロソナーで高次元戦闘車ギャビオンを、そしてその中に格納されていた地中用小型ドリルタンク・スクーパーを召喚した。第4話以来のことである。

 程なくギャバンはスクーパーの空けた穴から手術室に乱入し、間一髪アキラヘの手術は阻止された。手術台周辺からダブルマン・ゾンビB、ダブルガール、クラッシャー達を追っ払ったギャバンはアキラにスタッチックショックを放った。これは静電気によるショックで何者かに操られている者に正気を取り戻すもので…………そんな便利な技があるなら最初から使わんかい(怒笑)!!

 まあ、それはさておき、意識を取り戻したアキラを連れてギャバンは洞窟外に脱出。アキラはギャバンに逆らいこそしないものの、一言も言葉を発さず、促されるままについてくるだけで、追い縋るクラッシャー達を跳ね除けながら退却するのはなかなかに辛かった。
 そしてそこにニジチョウモンスターが滑空攻撃を仕掛けてきた。連続攻撃でギャバンをそこそこ苦しめるも捕まるまでで、ギャバンに組み付かれるやジャイアント・スイングでミスミスミスとぶん回され、投げられたその体はダブルマン・ゾンビBに命中…………何かコイツ、ギャバンよりも仲間にばかりダメージを与えているな(苦笑)。

 かかる体たらくを受けてこのままではいかんと思ったものか、ドン・ホラーは魔空空間を発動。いつも通りサイバリアンを召喚したギャバンはサイバリアンレーザーダブルマン・ゾンビBニジチョウモンスターに連射した。
 先陣切って飛び掛かってきたニジチョウモンスターはサイバリアンに搭乗するギャバンの周囲を飛び回りながら攻撃していたがやがて巨大化。これを受けてギャバンは電子星獣ドルを召喚。巨大化したニジチョウモンスターはドル相手にもそこそこ善戦し、ドルレーザーを素早く躱す身軽さも見せたが、直線に放たれる光線は躱せても、扇状に広がるドルファイヤーは躱せず、やがて焼死したのだった。

 ニジチョウモンスターを討ち取ったギャバンは地上に降り立ってダブルマン・ゾンビBと撃剣を展開。ダブルマン・ゾンビBは強いとも弱いとも云い難かったが、特に友好的な攻撃を見せるでもなく、やがて曲刀を放り出すと、何と降伏を申し出た!
 命だけは助けてくれ、争いは好まない、命は大切に、といった言葉の連発に重みは無く、はっきり云って胡散臭さ満載だったが(苦笑)、無抵抗状態に出られると信用出来ずともそれ以上の攻撃がギャバンには躊躇われた。
 勿論これは偽降である。程なくダブルマン・ゾンビBは捨てた曲刀を拾ってギャバンに斬り掛かったが、もはやただギャバンの怒りを買っただけでレーザーブレードを発動するや即座にギャバン・ダイナミックが放たれ、ダブルマン・ゾンビBは頭部をカチ割られた後に木端微塵となった。

 そして当然の様にと云おうか、お約束と云おうか、ダブルマン・ゾンビBの戦死を受けて若者達は全員が正気を取り戻した訳だが、どうも洗脳中の記憶はない様子だった。ある意味幸いである。強くなりたい一心とはいえ、悪魔の提言に応じた記憶は生涯の恥辱になりかねない、スポーツマンシップが欠片でも保持していれば。
 そしてラストシーン、子犬三頭を散歩させていた烈はアキラ・ヨシコ・アキコが仲良く平和にジョギングする姿に目を細めるのだった。


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令和六(2024)年四月一七日 最終更新