宇宙刑事ギャバン全話解説

第11話 父は生きているのか?謎のSOS信号

脚本:上原正三
監督:田中秀夫
アルマジロモンスター登場


 冒頭、ハーリー木村の歌う「青い地球は母の星」をBGMに、幼き日の烈(石関健太郎)が夏の夜の花火を母・一条寺民子(久保田民絵)と共に見ていたという夢を烈は見ていた。歌詞の内容は、バード星人である父・ボイザーと地球人である母・民子の間に生まれたギャバン・一条寺烈の素性と想いを唄った、設定そのまんまの内容である。
 だが、そのストレートさと、低めながら想いの込められた曲調が傍目にも胸を揺さぶられるものがあった。

 結論を先に書いてしまうと、この第11話冒頭の回想シーンを最初で最後として民子が作中に現れることはなく、Wikipediaやピクシブ百科事典を見ても、烈が6歳の時に逝去したとしか分からない。夢から醒めた烈が亡き母よりも、未だ生死及び行方が不明な父・ボイザーを案じていたのも、時の流れ故だろうか?
 ともあれ、そんな烈の夢想を妨害するかのようにドルギラン内にSOS信号音が鳴り響いた。だが、烈が出て時には切れていて、こちらからの呼び掛けは通じなかった。だが、その信号は只のSOS信号では無かった。
 コム長官によるとそれを発したのはボイザーかも知れないと云うのである。たった今夢に見てその行方を案じていた父の名を聞いて居たたまれず、即座に飛び出そうとする烈。  だが、ボイサーにしか使えないその  地球地区のシークレット・シグナルを打電出来るのがもう一人いて、それがハンターキラーとあっては、コム長官もマリーンも油断しないよう促さない訳にはいかず、視聴者的にもきな臭さ満載でストーリーは始まるのだった。

 冒頭や、第1話・第3話の解説でも触れているが、ハンターキラーは宇宙警察の裏切り者で、ボイサーが行方を絶ったのも、その裏切りによるものだった。それ故、烈も度々眼前にしたハンターキラーに怒りを露わにしていた。
 とは云え、じっとしてはいられない。例え罠でも、父が生きているかもしれないという手掛かりである可能性も0ではないのである。そんな様々な想い・思念から烈は一人飛び出したが、そこにミミーが方向探知機を手にして、自分が役に立つことを訴えて同道を申し出た。これには烈も苦笑して認める他なかった。

 場面は替わって魔空城。果せるかな、SOS信号は罠だった。ハンターキラーは背後に侍っていたダブルマン・ゾンビCアルマジロモンスターとともに膝を折って、ドン・ホラーに、烈を誘い出した霧吹谷一帯には二重三重の罠を張っていると告げていた。尚、ストーリーには関係ないが、この第11話より、ドン・ホラーの声が、ダロムから創世王…………じゃなかった、飯塚昭三氏から渡部猛氏に替わった。
 そしてその霧吹谷に到着した烈とミミーの耳にはうら若き女性の悲鳴が聞こえてきた。目を転じるとそこにはハイカーと思しき女性・星野月子(立花愛子)がクラッシャー達に追われていた。
 勿論捨て置けず、クラッシャー達を蹴散らした烈は月子をジープに乗せて一先ずその場を離れた。助けられた月子は烈がある人物に喋り方まで似ていると呟くが、烈とミミーはかかるタイミングで現れた月子をマクーのスパイである可能性も考慮し、とある駅で彼女を下ろすと、SOS信号を追って二人だけで再出発した。
 「もっと話したかった。」としつつも、危険を避ける為とあっては月子も逆らえず、烈とミミーがさると改めて烈が似ているとの言を発したのだが、その対象がボイサーであることをはっきりと口にした。勿論これは烈とミミーに聞こえなかったのだが、逆を云えば聞こえない場でボイサーの名が出たのだから、視聴者的には彼女がボイサーと面識があり、しかも味方とも云える立場であることが分かったのだった。

 ともあれ、再度霧吹谷に入った烈とミミーを砲撃が襲った(←烈は「地雷だ!」と云っていたが、走る車の脇で爆発する地雷など、見たことは無い(苦笑))。これに辟易したミミーは車に乗り続けるのをごめんだとしてインコに化けると「お先に」と云って飛び立ってしまった。この辺り彼女はやはりお嬢様である(苦笑)。
 そして単身ジープを走らせた烈だったが、山中を走っていた筈なのに、気が付けば街中にいた。しかも西部劇を思わせる様な町で、さしもの烈もこれには驚かずにはいられなかった。
 既にクラッシャー達を見ており、SOS信号からしてハンターキラーが発したものである可能性が有る上、現物か幻覚かはともかくいきなり街中に誘われたとあっては、マクーによってかなり大掛かりな罠が仕掛けられた場であると見るべきである。普通なら撤収するのが定石と思われるが、烈にはその場がSOS信号発信地かも知れないとあっては、探索しない訳にはいかなかった様であった。

 ジープを降り、西部劇定番の酒場の様な建物に入らんとした烈。妙な物音がしたかと思うとそこに居たのは子犬(多分柴犬)だった。子犬を見て相好を崩す烈を見ると、前話で3頭の子犬を散歩させていたり、第7話で捨て犬をこっそり世話していたりしたシーンが思い出されるのだが、別作品においても、大葉健二氏は『電子戦隊デンジマン』第1話で青梅大五郎として初対面の電子犬IC(犬種はチャウチャウ)を手放しでかわいがろうとしたり、『バトルフィーバーJ』のOP曲映像で曙四郎として子象を引っ張っていたシーンも思い出される。動物を可愛がるヒーローは珍しくないが、その中でも大葉氏が動物を可愛がる姿が印象深く映るのはシルバータイタンだけではあるまい。

 だが、そんな微笑ましいシーンを邪魔するかのように、突如馬に乗った覆面男・2人が襲い掛かってきた。攻撃を外した2人組はそのまま店前を駆け抜けるとかき消すようにその姿を消したのだが、店に入ったら入ったで店内にいたバーテンも、踊りに興じる若者も烈に一切の反応を示さない異様さだった。
 普通、店の扉が開けばマスターかバーテンが「入らっしゃい」の一言ぐらい発しそうだがそれも無い。果せるかな、烈がさっきの様な物を感じると二人の若者がナイフを手に襲い掛かってきた。勿論他の客も敵で、クラッシャーの正体を現すとその内の一人がマシンガンを乱射し、堪らず烈は窓をぶち破って店外に飛び出した。するとそこに投げ縄が飛んできて烈を絡め捕った。
 投げたのは先の覆面男の一人で、こうなると馬で引き摺らる展開が為されるのは常識だった。何とかそれを振りほどいた烈は策を飛び越えて西部市街ゾーンから脱したが、今度はトラックと乗用車二台が烈をひき殺さんと襲い掛かる始末。何とかそれも躱した烈は廃工場の陰に身を潜めると、懐中に避難させていた子犬の無事を確認して大笑いするのだった。良いシーンだが、子犬がベム怪獣の化けたものかも知れない、とは考えないのだろうか?(苦笑)

 だが、烈を罠の中に誘き寄せたマクーの攻撃がこれで終わる筈がなく、助けを求める女性が烈の元に駆け寄ってきた。烈はその女性が最前スナックで見た女性であることを覚えていて、物陰に身を潜めるよう告げると、様子を見て来るとした。ただ、「スナックにいた女性」という段階でどう考えても怪しい。案の定、その正体はダブルガールだった。
 ダブルガールの投げる短剣を躱しつつ、廃工場に入り込んだ烈に尚も落とし穴や銃掃射が襲い、それを躱すと彼が袋のネズミであることを告げるハンターキラーの声が場内に響き渡った。

 ハンターキラーは、ダブルマン・ゾンビC、ダブルガール、そしてバズーカ砲を装備した10名ほどのクラッシャーを率いて烈ににじり寄ると、ここにボイサーはおらず、地獄の苦しみを味わっている、と告げた。この台詞からするとボイサーはマクーに囚われの身であるとの推測が可能である。だが、もしボイサーを捕らえているなら、その身柄をたてに烈に対して脅迫や取引を持ち掛けても不思議ではないが、そんな試みは現時点で皆無である。となると、この時点の烈の立場に立つと、ハンターキラーのハッタリであることも推測出来る。
 ともあれ、普段以上に父への想いを強めている烈に諦めるという言葉は無く、バズーカの一斉砲撃を何とか躱し、工場内のトラックに乗り込むとクラッシャー達を撥ね蹴散らし、壁をぶち破って屋外に逃れた。さすがに感情的になっている分容赦がない(苦笑)。

 そのままトラックに乗って戦線離脱を図る烈。確かにSOS信号自体が烈を罠が満載する場に誘き寄せる為の偽物であったことが分かった以上、長居は無用である。だが、そんな場に放置されていたものはすべてが油断ならない。戦闘途中で逃げた敵が残した武器・道具・車輛は戦利品にして重要な武器だが、あらかじめ置いてあったものは罠であるかの生が高く、トラックの中にはアルマジロモンスターが潜んでいた。
 運転席にて身動きが制限される中、運転中を襲われるのも厄介だが、御丁寧にもトラックのブレーキまで壊されていたとあっては、烈は蒸着して車外に逃れるだけで精一杯だった。

 Bパートに入って川原でミミーから傷の手当てを受けていた烈だったが、そこに満面の笑顔で車のクラクションを鳴らす月子が現れた。「実は車で来ていた。」とする月子に、「金持ちのお嬢様か。」と苦笑いしていた烈だったが、「この人の御蔭よ。」と云いながら提示された写真を見て烈の顔から笑顔が消えた。
 写真に写っていた、月子と一緒に映る「この人」とはボイサー(千葉真一)に他ならなかった。

 勿論、何故月子がボイサーを知っているのかを尋ねる烈とミミー。内容は懇願なのだが、口調はどうしても難詰に近くなる。ただ、「父さん」と聞いては、月子も答えを拒むことは無かった。
 月子によると、ボイサーは月子の父である科学者・星野博士(柄沢英二)と友人同士で、人類の未来に大いに役立つとする何かを研究していたが、ある日その研究成果を狙う何者かによって妻共々射殺された。
 回想シーンに出来てたその加害者はハンターキラーで、うすら笑いを浮かべると銃器の様な物(←ナレーションによるとプラズマエネルギー発生装置)を持ち去った。入れ替わりに入って来て、変わり果てた両親の姿に悲鳴を上げる月子に星野博士は最後の力を振り絞って、今後ボイサーを頼る様告げると息絶えた。

 ナレーションはマクーがプラズマエネルギー発生装置を転用して惑星をも爆破出来るミサイルを開発せんとしているとし、その力を持てば全宇宙を壊滅させることも出来るとしていたのだが…………全宇宙を壊滅させたら犯罪組織としての生業も壊滅するのではないだろうか?(苦笑)
 仮面ライダーシリーズに登場するショッカーを初めとする悪の組織も時々「人類絶滅」を口にするけど、本当に全滅させたら酷使させる労働力がなくなる訳で、戦闘員なんか真っ先に人類絶滅には反対しなければいけないと思うんだがなあ……………。

 閑話休題。月子が父親を通じてボイサーと面識があったことを知った烈は、その彼女が何故に霧吹谷にいたのかを続けて誰何した。月子はボイサーに会いたいと念じており、その手掛かりが霧吹山にあるとしていた。
 こうなるとどんな罠があろうと烈は霧吹山を調べない訳にはいかなかった。程なく、烈はボイサーの宇宙船を発見。ストーリー展開からはこれもハンターキラーの罠ではないか?と疑いたくなるところだが、宇宙船は本当にボイサーのもので、烈にも見覚えのあるものだった。
 ちなみに宇宙船が本物であることを思うと、今回のハンターキラーによる罠の張り方はなかなかのものである。政治的陰謀でも、軍事的謀略でも、詐欺でも、人を騙すには話の中に幾ばくかの真実を交えることが重要である1から100まで虚偽や作り話では余程よく出来た話でない限り却って怪しくなる。

 ただ、リアリティに則するなら少し穴もあった。烈は父の宇宙船がマクーの攻撃を受けてこの場に不時着したものと推測していたが、一人乗り用とはいえ、小型ヘリコプター並みのガタイの有る宇宙船が、船内に蜘蛛の巣が張る程の長期間に渡って、ハイカーにも、マクーにも、銀河連邦警察にも発見されなかったとは考え難い。
 ともあれ、烈が入り込んだ宇宙船内には父のジャケット(←烈が愛用するライダースジャケットと同じ茶色)や、母と幼少の頃の烈の写真が入ったロケットがあった。ここでBGM「父よ」が流された。歌詞内容は自分の能力・性格が父親譲りであることを述べ、行方不明の父との再会を念じたもので、これまたストーリーそのまんまだったが、やはりそのストレートさと、大葉健二氏によって歌われていることで胸を揺さぶられるものがあり、烈も涙ぐまずにはいられない様子だった。

 だが、そんな烈の想いを妨害するかのようにマクーの襲撃が為された。砲撃を受け、物陰に身を潜めた烈は再度姿を現したときにはギャバンに蒸着済みだった。船外に飛び出し、ハンターキラーダブルマン・ゾンビCアルマジロモンスター、クラッシャー達を前に宇宙刑事ギャバンの名乗りを上げるや、「チェイス!ギャバン」をBGMに猛攻撃を開始した。本当にこの第11話は挿入歌の宝庫であった。
 当然ギャバンの戦意は旺盛で、ダブルマン・ゾンビCアルマジロモンスターの2人掛かりをものともせず、逆に両名の方がシルバービーム一発で吹っ飛ばされて赦免を転げ落ちる体たらくで(苦笑)、ドン・ホラーは早くも魔空空間の発動を命じた。

 いつものようにサイバリアンを召喚したギャバン。謂わば、アウェーの不利を機動力で補っている訳だが、マクーにはこのサイバリアンを何とかするという発想は無いのだろうか?それはともかく、ギャバンとアルマジロモンスターの一騎打ちが展開されたのだが、このアルマジロモンスター、アルマジロ系モンスターにしては打たれ強さや堅牢さを見せず、素早い動きや、光線技の方が目立った。
 噴煙や、地形を利用して姿を消すアルマジロモンスターだったが、ギャバンが「出て来い!」と呼び掛けた相手はハンターキラーだった。つまりは歯牙にも掛けられてないのね(苦笑)。まあストーリー展開上、ギャバンが真っ先に頭にくる相手がハンターキラーになるのはよく分かるが。

 そんなギャバンの叫びに応えたものか、ギャバンの視界にボイザーの後ろ姿が映ったのだが、近づくとその正体はダブルマン・ゾンビCだった。不用意に近付いたギャバンは別空間に叩き落され、そこにはアルマジロモンスターが待ち構えていた。
 ダブルマン・ゾンビCも、アルマジロモンスターもホームレンジで少しはマシな戦いを見せてはいたが、それでも基本ギャバンの敵では無かった。
 ギャバンはレーザーZビームを決め、堪りかねたものかアルマジロモンスターは巨大化。これに対してギャバンは電子星獣ドルを召喚し、ドルファイヤースクリューアタックドルレーザーの三点セットで勝負を決した。
 当然、直後にダブルマン・ゾンビCが襲い掛かったのだが、抜剣したギャバンは僅か19秒後にレーザーブレードを発動すると一合交えた次の瞬間にはギャバン・ダイナミックダブルマン・ゾンビCを一刀両断にした。どうやらかなり戦意が有り余っていた様だった。

 だが、勝利の余韻に浸る間も与えないかの様に、ハンターキラーが姿を見せると、「ボイサーはしばらく預かっておく!」と告げて姿を消した。果たしてボイサーはハンターキラーの云う様にマクーに囚われているのか?もしそうなら人質にされるかもしれない。
 ともあれ、烈は父を助けんとの決意を新たにして、その為にマクーを壊滅させなくてはならないことを念じつつ第11話は終結したのだった。


次話へ進む
前話へ戻る
「宇宙刑事ギャバン全話解説」冒頭へ戻る
特撮房『全話解説』の間へ戻る
特撮房へ戻る

令和六(2024)年四月一七日 最終更新