宇宙刑事ギャバン全話解説
第9話 美しい人形スパイ
脚本:上原正三
監督:奥中惇夫
冒頭、舞台は夜の関東第一細菌研究所で始まった。「マクーに襲われます。」と云っているような始まり方で (笑)、案の定、所内には既にダブルマン・ヒドラが潜入していて、それと鉢合わせた警備員は当然の様に殺されてしまった。
この異変は警報音としてドルギラン内に響き渡った。と云うのも、何がしかのセンサーが予め設置されていたらしく、このことから同研究所にはかなりヤバいものが保管されていたことが伺えた。
ともあれ、警報を聞いた烈は即座に研究所にサイバリアンで急行し、ファイルを片手に逃走せんとするダブルマン・ヒドラと鉢合わせたギャバンはサイバリアンレーザーを初め、初手から数々の攻撃を加えた。
たがこのダブルマン・ヒドラ、攻撃力はともかく、防御力には優れている様で、盾を駆使してサイバリアンレーザーを弾き返し、ディメンションボンバーはまともに食らったものの然したるダメージもなかった。
尚もシルバービーム (←設定によるとレーザーZビームより速射性に優れるが、破壊力は弱い)を放ったギャバンだったが、これも盾で弾かれ、反射した光線が研究所の看板を破壊する間隙を縫ってダブルマン・ヒドラには逃げられてしまった。
ドルギランに戻ったギャバンはコム長官にマクーが七年前の培養実験に関するデー資料を盗んだことを報告した。コム長官は七年前というキーワードからマクーの狙いがバシラスX0なる最近にあるのでは、と推測した。
そのバシラスX0とは、七年前に杉本哲也なる若い細菌学者が発見した特異な性質を持つ細菌で、物凄い繁殖力を持つが1週間で死に絶えるというもので、ミミーとマリーンはマクーがそれを使った細菌爆弾を作ろうとしていると断言した。
当然、杉本の行方が気になるところだが、杉本は七年前にバシラスX0の存在を学会にも発表せず、行方を眩ましたとのことだった。つまり公表されていない訳だが、それを把握していた銀河連邦警察とマクーの情報収集能力は大したものである。肝心の杉本の行方を掴めていないのが激しく謎ではあったが(苦笑)。
ともあれ、情報収集能力ではマクーの方が一歩先んじていたようで、マクー基地ではハンターキラーとダブルマン・ヒドラがドン・ホラーに杉本の行方を掴んだので、その杉本にバシラスX0を培養させると宣言していた。つまり資料を盗んだだけでは、自力でバシラスX0の培養は出来なかったのね(笑)。
そしてその杉本の所在だが、彼は現在「塚原哲」と名を変え、中学校で理科の教師をしているとのこと……………偽名で公務員になることが出来るとは、杉本の偽装工作が相当優れているか、文部省傘下の身元確認がザルであるかのどちらかと云える(笑)。
ともかく、マクーの動きは早く、場面が中学校の理科室に変わると、そこで教鞭を執っていた杉本(長沢大)の元に彼を呼び出す電話が職員室に入っていることが伝えられた。その呼び出しだが、名乗りもせずに、「放課後、近くの第三倉庫に来て下さい。とっても大事な用があります。」というもの。普通、人質でも取っていない限り、こんな内容で呼び出せないと思う(苦笑)。
実際、杉本も「誰だ、君は?」と尋ねていた。まあ、それでも呼び出しに応じたのだから、余程後ろ暗いものを抱えている自覚があったかもしれない。
場面は第三倉庫に移り、ダブルガールの手引きで中に入ったその場にはダブルマン・ヒドラがジュラルミンケースを持って待ち受けていた。ダブルマン・ヒドラはバシラスX0を買いたいと持ち掛け、手付金で1億円払うという飴と、シラを切る杉本に「娘がいたな?名前は奈々恵…。」という暗に脅迫を仄めかした鞭を杉本に示し、「よく考えろ。」と云って一先ずその場を去った。掛かる硬軟両面の脅迫交渉は犯罪組織らしくてなかなかに良い(笑)。
表面上惚け倒した杉本も娘の名を出されては気が気ではない。娘の身を案じて急遽帰宅し、妻にその所在を尋ねると、アバロン乗馬クラブだという。偶然わかばの友人だったことでギャバンが絡んでくることが見え見えとなった(笑)。
場面は替わってアバロン乗馬クラブ。バシラスX0を巡る件で難しい顔してクラブに戻って来た烈を珍しく小次郎が難詰した。例によって無断離脱する烈の代わりを豪介が命じられたことをぶー垂れていた訳だが、それでも応じているのがこの小次郎の人の良さだ。
そんな三枚目の多い小次郎以上に三枚目を振られたのが当山。子供達にサッカーを教えんとしていたのだが、わかばは当山達に教えられても上手くなれないと決め付け、烈に教えを乞うたのだが、その中に七恵がいた。
早速教授に入らんとした烈だったが、そこの杉本が現れ、奈々恵に「急用だ。」としてともに帰宅することを命じた。一応、日常生活では教師として振舞う杉本の帰宅促しは自然なもので、眼前の人物が杉本と知る由の無い烈は普通に奈々恵に帰宅を促した。全く怪しい所のない展開だったが、一人だけ違和感を抱き、怪訝な表情を浮かべていた人物がいた。
小次郎である。
というのも、小次郎は偶然杉本と同郷で、杉本は地元では大天才と云われていた人物だった。つまり杉本哲也を知っていた訳で、小次郎は杉本を呼び止め、「杉本さんでしょう?」と問い掛けたが、偽名での潜伏生活を送る杉本が認める筈もなく、顔色一つ変えず「人違いでしょう。」とスルーした。
だが、「杉本」と聞いて今度は烈が顔色を変えた。小次郎に尋ねるとフルネームは杉本哲也で、細菌学者にまでなったのが突如姿を消したと云うのだから、コム長官から聞いた話と合致しまくりで、即座に馬の世話を小次郎に押し付けて杉本を追ったのだった。
烈は塚原邸に先回りし、これに気付いた杉本は逃げきれないと思ったものか、一先ず奈々恵を家の中に入らせ、烈と対面したが、やはり杉本であることを否定した。度々の沈黙から彼が虚偽を云っているのは見え見えだったが、辛い過去から必死に逃げようとしている姿に同情した烈はそれ以上追及出来なかった。
せめて塚原邸周辺を夜も巡回し、以上に備える烈だったが、ダブルマン・ヒドラは既に内部に入り込んでいた。奈々恵が大切にしているフランス人形に憑依していたダブルマン・ヒドラは杉本にバシラスX0の純粋培養を行うよう強要。杉本は木刀を振るって必死に抵抗し、ダブルマン・ヒドラが人形の中に潜り込むと妻と共にこれを庭に埋めて封じんとしたが、人形自体が問題ではなく、翌朝奈々恵が起きて来るとその腕には埋めた筈のフランス人形が抱かれていた。
狼狽した杉本が娘から人形を強奪するとそれを床に叩きつけた。勿論奈々恵は父に抗議したのだが、人形破壊光線を発して杉本を脅し、恐怖におびえる娘を目の当たりにした杉本は遂に敵に屈した。
とはいえ、簡単に割り切れる話では無かった。人形に潜り込んだダブルマン・ヒドラに見張られた状態で顕微鏡と向かい合う杉本だったが、彼はバシラスX0に危険性を「水爆以上」と見ており、それがもたらす惨禍を懸念して細菌学者・杉本哲也の存在とともにバシラスX0を葬ったとしていた。
「私には出来ない!」と苦悩する杉本にダブルマン・ヒドラは「何を今更!」と詰り、そこにダブルガールが奈々恵と主に部屋に入って来て娘の身柄をたてに杉本を脅迫した。これをセキセイインコに化けたミミーが見張っていて、最初は杉本が何をしているのか分からないミミーだったが、ダブルマン・ヒドラが姿を現し、ダブルガールが入って行ことで状況を悟り、子供に酷いことをするなと詰った。
声の主を求めて窓を開いたダブルマン・ヒドラだったが、当然そこにミミーの姿も、セキセイインコの姿も無い。ただ、ダブルガールが「場所を変えた方が良い。」としたので、マクーの本拠を追う効果はあった。
杉本一家は廃工場に地下に密かに設けられた研究室に連行され、そこでバシラスX0を培養するよう強要された。研究室にはハンターキラーや白衣のクラッシャー達が待ち受けており、ダブルマン・ヒドラは「ゆっくり」と培養することを命じていたが、普通作戦は悠長に行うものではない。基本は巧遅よりも拙速なのである。これは恐らく大量培養の為に長期間の拘束を暗に命じたものだろう。
だが、その廃工場にはインコ姿のミミーの先導で烈が向かっていた。恐らく見られていることに気付き、不安を抱いたダブルマン・ヒドラ達をミミーが尾行して、突き止めたのだろう。
程なく、烈が来たことに気付いたダブルマン・ヒドラはクラッシャーと共に烈を迎撃し……………………阿呆だ……烈に「ここがアジトです。」と云っているに等しい。
まあ、ミミーに地下室のことまで突き止められていたのが確定していたのであれば、貴重な研究資料を守る為にも迎撃は止むを得ないが、そこまで突き止められていないのなら、地下室がバレないことを期待して静観するのも大切な筈である。実際のところ、迎撃に力を入れたものか、ダブルマン・ヒドラ率いるクラッシャー達は、通常の戦闘員に比べればまだ善戦した方だったが、それでも蒸着したギャバンがディメンションボンバーを敢行すると数人のクラッシャー達と共にダブルマン・ヒドラまでもがぶっ飛ばされてしまう体たらく(苦笑)。
次のシーンでギャバンはあっさり地下に入り、パンチ一発で扉を砕くと研究室に乱入した。
ダブルマン・ヒドラに続いて研究室内にいたハンターキラー達も情けなく、まず杉本の妻と奈々恵が人質に取る間もなくあっさりギャバンに解放された。まあ、乱入して即母子の間に割って入ったギャバンの行動が優れていたと云えなくも無いが、それを見たハンターキラーが杉本を連行しようとしたのをあっさり奪い返されたのには開いた口が塞がらなかった。
ともあれギャバンはレーザーZビームで所内を攻撃。これにより杉本に強要して得た資料や研究成果は灰燼に帰した。奈々恵を抱えながら杉本夫妻を率いて地上に出たギャバンは自分のジープで逃げるよう促し、マクー一味を迎撃した。
伊達に過去から逃げていなかった様で過ぎ共はすぐにジープを運転してその場を離脱。ギャバンは迎撃を続け、クラッシャー達を蹴散らすとダブルマン・ヒドラとの一騎打ちに入った。
このダブルマン・ヒドラ、格闘能力そのものはそこそこあるようだったが、周辺状況を活かした戦闘では明らかにギャバンに劣り、大量の廃タイヤが置かれた場で、タイヤに隠れてヒット&アウェーを続けるギャバンに手も足も出ず、自分がタイヤの中にぶっ込まれる始末で、見かねたドン・ホラーは魔空空間の発動を命じた。
例によってギャバンはサイバリアンを、そして敵が円盤群を放つとドルギランを召喚し、中に戻ると次々と円盤群を打ち落とし、円盤から地面に転落したダブルマン・ヒドラを追って、ギャバンも地面に降り立った。
ここに一騎打ちが展開された訳だが、上述した様に、ダブルマン・ヒドラの白兵戦能力は決して低いものでは無かった。ギャバンと互角に撃剣・殺陣を展開し、鏡面仕立ての殺陣でもってレーザーZビームを弾き返しもした。だが、スパイラルキックで盾の鏡面を割られると善戦もそこまでだった。
ギャバンはレーザーブレードを発動し、最初の一太刀こそ互角に打ち合ったものの、次いで放たれたギャバン・ダイナミックには抗し得ず、木っ端微塵に粉砕されたのだった。
かくして杉本一家に平和が戻った。奈々恵は腕に抱いた新しい人形をギャバンに買ってもらったとし、身に覚えのない烈は怪訝な顔をしたが、実査には杉本が自分で勝ったものを、ギャバンのことを忘れない為に、娘には「ギャバンが買ってくれたもの」と偽って渡したのが真相だった。
そして杉本は烈を「ギャバンでしょう?」と問うた。勿論烈は惚けたが、目は完全に泳いでいた(笑)。どうやら長年身元を隠し続けていた男に同じ嘘は通じなかったようだったが、杉本は惚ける烈をそれ以上問い詰めるでもなく、笑ってごまかす烈と一緒に笑い、取り戻した平和を享受しつつ、第9話は終結したのだった。
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令和六(2024)年四月一七日 最終更新