宇宙刑事ギャバン全話解説

第15話 幻?影?魔空都市

脚本:上原正三
監督:小林義明
シャモダブラー登場


 冒頭、魔空城内は異様な盛り上がりの中に在った。
 と云うのも、ドン・ホラーによるとマクーの異名でもある獣星帝国が建国から2万6000年を迎えるとのことで(←皇紀2600年を元にその10倍に設定したのかな?)、獣星の神に特別な供え物をしなくてはならないとのことだった。犯罪組織でありながら宗教色を色濃く出すとは珍しい傾向である。
 特別な供え物とは何か?それはギャバンで、ハンターキラーが応えるように叫ぶとその場にいたダブルマン達がダブルガールを持ち上げたり、妙な回転技に掛けたりしながらけったいな盛り上がりを見せていた。思うに、獣星人達にとって重要な儀式であると同時に、目出度いイベントでもあるのだろう。
 ともあれ、普段は犯罪行為の邪魔者として排除する対象であるギャバンを今回のマクーは純粋な標的としていたのだった。

 そんなマクーの思いを知る由もない烈は牧場で使う飼料用の野菜を買い出しに来て、偶然居合わせた小次郎と軽い挨拶を交わして戻ろうとしたところで一人の少女・森山千代(神田亜矢)が意識朦朧状態で苦しげにしているのに気付いた。
 慌てて駆け寄ったところひどい熱で、烈は即座に彼女を団地に連れ帰った。千代は人事不省で殆ど言葉も発しなかったが、烈が団地まで連れ帰ったという事は、住所を云う力はあったのだろう。だが千代の母(中真千子)が一目見るなり烈を怪しむ間もなくそくベッドに連れ込むほどの重体で、医者を連れてくるという烈に否も応もなく託していたのだから、傍目にもかなり苦しそうだった。

 余談だが、この母親役を演じた中真千子さん、この第15話放映当時は46歳で、この『宇宙刑事ギャバン』以前にも数々の特撮番組にゲスト出演していた。客演子役の母親役を演じることが多かったが、18年後に放映された『仮面ライダークウガ』ではレギュラーキャラである榎田ひかりの母親役で、準レギュラーとして孫のいる役を演じていたから時の流れを感じずにはいられない。
 そして時の流れは残酷で『仮面ライダークウガ』放映から23年を経た令和5(2023)年3月4日にこの世を去られている。享年86歳で、天寿を全うしたと云える年齢ではあったが、客演メインとはいえ、数多くの作品で活躍された方の逝去はやはり惜しまれる。合掌。

 閑話休題。
 千代を母親に託した烈は医師の往診を依頼すべく病院に向かったのだが、烈が離れた団地にはハンターキラーとダブルガールが張り込んでおり、二人はすぐに千代宅に入り込んだ。これにより、この遭遇自体が仕組まれたものであることが視聴者にはすぐにうかがい知れた。そしてこの後、烈を取り巻く空間が丸で異空間になったかの様に異様な展開が続いた。

 病院に駆け付けた烈は看護師や医師に往診を頼もうとするも、彼等がそれを完全に黙殺して烈をベッドに横たえると手術室様な所へ搬送した。普通なら簡単に抵抗出来るところを、烈もまさか病院が丸々異常な支配下に有るとは想像もつかなかったのか、殆んど無抵抗なまま拘束された。
 妙な装置が配備されたその部屋に医師 (平松慎吾)が現れたかと思うとその姿はシャモダブラーとなり、数人のクラッシャー達に囲まれ、頭上からは何十本もの針がついた釣天井が迫ってきた。
 抵抗出来ない烈の顔を妙な工具で小突いて小馬鹿にしていたシャモダブラーだったが、小馬鹿はこいつの方で、烈は一瞬の隙を付いて工具を噛んで奪い、口で投げ付けることで拘束を解くのに成功した。

 さしもの烈も掛かる場で戦うのは不利と見たか、即座に病院を脱し、それをクラッシャー達が執拗に追跡したのだが、道中、全く一般ピープルは現れず、とある小さなトンネルに入ると最前自宅に連れた筈の千代がそこに立っていた。突然現れた彼女を轢くまいとして慌てて急ブレーキをかけた烈が止まった車に安堵するとそこは脱出した筈の病院の前で、そこに七人ミサキならぬ五人の修験者風の怪しい者が現れたのだから、増々異様な状況だった。

 修験者達はさして強くはなかったのだが、烈は異様な雰囲気に呑まれたものか極力戦わいように努め、袋小路に追い詰められたり、街角の方々から新手の修験者が現れた際には抵抗し、遅れを取ることは無かったが、街中にいた一般ピープル達は逃げる烈と追い縋る修験者達に全くの無反応で、異様と云っても云い尽くせない異様さだった。

 次から次へと現れる修験者達に追われた烈はいつしか線路の上を走っていたのだが、そこには和服姿のミミーと月子が現れ、傘型のマシンガンを乱射する始末。ようやく仲間に会えたと思ったところに銃乱射が為され、戸惑いを隠せない烈だったが、次の瞬間偽ミミーと月子はクラッシャーの姿を現し、それまでの異様さは一瞬にして失せた(苦笑)

 だが、敵とは思えない姿のものが襲い掛かって来るのは、下手な敵が襲ってくる以上の不気味さがあり、クラッシャー達を蹴散らしたと思うと、動物の着ぐるみを着た者が楽器を鳴らしながら襲ってきた。
 どうも楽器の音がダメージをもたらすらしく、悶絶する烈が何とか楽器を弾き返すと再度修験者達が襲い掛かり、これを蹴散らすと病床に連れて行った筈の千代が薄ら笑いを浮かべながらブランコに乗ったり、手毬歌を歌いながら毬を突いたりしている。
 勿論千代がこんなところにいることを訝しがる烈だったが、怪しくても千代の姿をした者を攻撃するなど思いもよらず、投げ寄越された毬を笑いながら掴むとそれは爆弾で、辛くも爆撃からの後れたのも束の間、一輪車に乗った三人のピエロが襲ってきた。

 このピエロ達、かなり体術に優れているらしく、3対1とはいえ、連携攻撃で烈を圧倒していた。堪りかねた烈がその場を退避するとジープがあり、少しでもその場から離れんと烈はそれを走らせたが、そこにシャモダブラーがまとわりつき、気が付けばジープは崖を駆け抜け、宙に飛び出しいていた。
 そのまま墜落死するのを免れんとしたものか、烈はギャバンに蒸着。そこをシャモダブラーとクラッシャー達が襲ってきたのだが、いつもの殺陣に戻ってしまい、最前の異様な緊張感がまた失せてしまった(苦笑)。

 ただ、戦っていたその場は魔空空間で、知らぬ間に叩き込まれていたとすればかなり巧妙な罠と云えた。そこにドン・ホラーが現れ、シャモダブラーに獣星帝国の建国記念日の為にギャバンを討ち取るよう命じた。
 そしてそんなシチュエーションを反映してか、シャモダブラーはそれなりに強く、加えて、再生ベム怪獣(シャコモンスターオオマダコモンスターゴートモンスター)や円盤群が次々と波状攻撃を仕掛けたきた。
 再生ベム怪獣達はショートテレポートを駆使し、体術ではギャバンを苦戦させたが、シルバービームで一蹴され、円盤群は例によって電子星獣ドルが蹴散らし、円盤内からもんどり打って飛び出してきたシャモダブラーとギャバンの一騎打ちとなった訳だが、さすがに個々の攻撃が大したことなくても、手を替え、品を替えの波状攻撃は今までとは違った緊張感をもたらしていた。

 そしてこのシャモダブラー、細長い刃を槍の様に、薙刀の様に振るい、丸腰のギャバン相手にはそこそこ互角以上に戦い、得物を弾かれても腕力を利した組打ちでギャバンを苦戦させていた。だが、ギャバンが剣を抜き、撃剣となると決着は早かった。
 ギャバンは早々にレーザーブレードを発動し、シャモダブラーの曲刀を弾くと次の瞬間にはギャバン・ダイナミックを一閃して勝負を決めたのだった。ダブルマンとベム怪獣の長所を兼ね備えたダブルモンスターの強敵感もここまでか………(苦笑)。

 そしてラストシーン。全快した千代を烈が迎え、子供達の笑顔こそがギャバンの力の源であることをナレーションが告げて第15話は終結したのだった。
緊張感と異様さが連綿と続いた展開は良かったが、建国記念日に備え、満を持して挑んできたマクーの気合の入り様が些か消化不良で終わったのは否めなかった。


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令和六(2024)年四月一七日 最終更新